第179話 「悲嘆にくれるエルマージ」
頭に血が上っているエルリフォムさん達を窘めながら、僕たちは王都へ向かって馬車に乗っていた。
アクレイの資金力によって、馬匹も馬車もまだまだ余裕がある。
僕たちは戦慣れしているコックロ達の意見を聞いて。
皆で相談した結果、エルフの里を脱出することに決めた。
「エルマージ……」
「……私のことはもう気にするな。自分で決めたことだ」
エルマージを心配し彼女の名を呼ぶが、力なく微笑むだけ。
彼女の両親はとうの昔に故人であった。
しかし里には多くの親族や知人がいた。
それらすべてを救う事が出来なかった彼女の心情は、如何程のものか。
励ませる言葉も見つからない。
本当に僕はダメなオッサンだ。
「私はこの里の代り映えのない毎日が嫌で、好奇心の行くままに人里に赴いた。若かったんだ。自分ならば御伽噺に出てくるエルフのような、大冒険をできると安易に信じ込んでいた。実際それなりには才覚に自信があったから、相応には楽しくやれたよ」
「エルマージ」
「でも……でもあまりにも多くの出会いと別れがあった。いいことばかりじゃなかった。むしろお前と出会った頃は最悪で、しがらみに雁字搦めで。自分は何をしているのかと自己嫌悪していた。その程度の女なんだよマノワール」
大粒の涙が零れ落ちて、彼女は内心を吐露した。
いつも余裕があるように見える彼女にも、弱さがある。
わかっていたことだけれど、でもショックだった。
彼女がそんな様子を見せる程に、追い込まれていたことも。
自分が何もできないことも。
「エルフの里の変わらない毎日こそが尊かったんだ。今ようやく、それに気づいた。失って初めて価値がわかったんだ。私はバカな女だよ。お前に頼りにされると、いつも不安なんだ。凄いエルフなんかじゃないんだ。お前と比べたら、私は本当に大したことない、矮小な凡人なんだよ」
「……君が追い込まれた時は、僕が支える。心を病んでいた僕を、君が支えてくれたように……傍にいるよ。君が嫌がったとしても、ずっと」
苦しんでいる彼女の背中をさする。
仲間がしゃくりあげる振動が、手に伝わるがそれを止めることが出来ないこの身が恨めしかった。
仲間の窮状を救えない力などに、意味はない。
でも苦節40年で得た力で成し遂げられないならば、どうしろというのか。
まったく力が足りていなかったんだ。
最後に防備を整えようと要塞線を築き上げたが、どこまで通用するものか。
あの戦闘と、これまでの戦いで僕もレベルアップした。
半日もかからず、今までで最高の要塞を築き上げることができたが。
でも長老たちはどうなるのだろうか?
僕には最悪の予想しか浮かばなかった。
「売り言葉に買い言葉、見苦しいところをお見せしました。」
「いえ。どちらも同胞を想ってのこと。多くの仲間がいる私にとっても、身につまされる想いです」
意気消沈しているエルマージの様子を見かねたのか。
里を出ても押し黙っていたエルリフォムさんは僕に話しかけてきた。
しかし僕の言葉に、沈黙する彼。
そして緩慢と口を開いては閉じ、苦悩する様子が見て取れた。
仲間たちもとても声をかけられない。
僕が言葉を口にできているのも、彼に話しかけれられているからにすぎない。
「……あの魔王たちを前にして、結局は長老に従って特攻した私には、何が正しかったのかわかりません。目先の危険から逃げたいだけだったのかもしれない。リスクを回避し続けることは不可能です。どこかで戦わなければならない時が来ることは、わかっているのです」
「……」
「我々エルフが真にエルフとして生きることができるのは、里のみです。恩人であるマノワール殿に前で言う事ではないが、人間たちと接してきた我々にはわかる。人間の欲望の果てしなさを…………長老の言っていることは正しい。正しすぎる」
歯を食いしばって語る、僕よりもずっと年上のエルフの青年。
彼のような経験豊富な人物すら、わからない事。
そんな複雑な問題は僕なんかには、正しい答えなんて出せなかった。
僕は力も知恵も、言葉も心も何もかもが足りていなかった。
わかっていたけど、突きつけられると胸が張り裂けそうに苦悶した。
努力が足りなかったから、今こんな思いをしている。
後悔した時にはもう遅かった。
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