第166話 「エルフの種族問題」
神妙に頭を下げて、エルリフォムさんは玄関口で願い出てきた。
プライドの高いエルフがそこまでして、僕に聞きたいこととはないか。
おそらくは先ほどの1件についてであると、直感できたし確信した。
「ええ。構いませんよ。こちらにどうぞ」
「ありがたい。失礼する」
男女別れた部屋なので、僕は一人部屋だ。
密談するには丁度いい。
だから彼も僕に当たりをつけたのだろう。
彼を暖炉の前の椅子へと案内する。
時期的に火はついていないが、魔道具照明を点灯した。
「改めてお時間を取って頂き感謝する。まず先ほどはお客人の前で、大変な無礼をしてすまなかった」
「いえ。お気になさらず。お話というのは、やはり先程の一件についてでしょうか」
こくりと頷いたエルフの青年。
彼の表情は固い。
あんなことがあれば誰でもわかるようなものだ。
しかしそこまで重く受け止めているようだな。
昨今の不穏な情勢に、彼も不安感を抱いているのだろう。
「その通りだ。私たちエルフの若い世代は皆、あなたのことは聞き及んでいる。エルマージのパーティメンバーでもあるからな。マノワール殿はA級冒険者としての実力がある、英雄であるとのこと。そして貴族の身でありながら、とても厳しい人生を送っていたことも知っている。人生経験が豊富で戦いにも長けたあなたの視点から、エルフの事情に対して率直な意見を聞きたく」
「私ごときに何が務まるかはわかりませんが、お答えいたしましょう」
「感謝する」
べた褒め過ぎだ。
こうして実績を並べ立てられるが、それは仲間がいてこその結果。
僕自身はそう大した男ではない。
だがこれから得意先になるかもしれない、取引相手だから無下にはできない。
「マノワール殿の行動を聞く限り、魔物の事情は知っていると感じるが」
「ええ。魔物たちは人類侵攻を目論み、多くの策謀を弄していることは存じております」
「流石だな。人間の貴族たちの一部も、それを見越して対策している。セインセスという人間の姫。彼女が中心となって、凄まじい勢いで魔物を排除している」
「それも極一部で、大多数は見るに堪えない惨状ですが……同族としてお恥ずかしい限りです」
「何を言うか。我らエルフよりずっとマシだ。世界情勢が混沌と化しているにもかかわらず、まるで対策を打っていないのだから。ここは何百年もなんら変わっていない」
自嘲するが、その瞳には激しい怒りが宿っている。
彼は今まで何を経験してきて、何を思ったのだろうか?
「長命種は長命種ならではの悩みがある。それこそが問題の端を発しているのだ」
「長命種ならではの悩みですか」
彼は無言で緩慢と頷いた。
自分のその一員として、筆舌に尽くしがたい感情を抱いているのだろう。
「エルフの里は長寿すぎて、新陳代謝がない。だから上の世代がボケ始めても、権力を握られ続けて、若い優秀な者の意見が上にいかない。つまり無能なものが上に着けば、それだけ悲惨な時代が長くなる」
「……」
「長命種だからこそ知識が深く、冷静に判断をする。だからこそ間違っていたとしても類似した先例を持ち出せるから、容易に自己否定できない。年月とともに培った賢明な自分に、比例した誇りを抱いているのだから」
難しいものだ。
僕達もそのような問題はあるが、エルフはその比ではない。
硬直した支配体制は、一歩間違えれば皆が地獄行となる可能性を秘めているのだ。
若い人材が導き出した答えは、時代の実情に即したもの。
移り変わる歴史の中で、現在直面している実情に一番接しているのは若者なのだから。
「これでは人間と魔物たちに、いずれは脅かされてしまう!?!?!? この数百年で人間たちはどれだけ発展し、数を増やしたか! 一方で我らはほとんど変わっていない! 破滅を座視することに繋がりかねないのではないかと、私は憂慮しているのだ!!!!!」
彼の危惧は生物として自然なもの。
だが優れた種族であるエルフは、その能力に胡坐をかいているように彼の目には映るのだ。
だからこそ変革を求める。
それが老いた世代には受け入れられないと、内心ではわかっているのかもしれないが。
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