第161話 「弟殺しの末路 間に合わなかった王女」
「遅かったようですね」
オッサツイホ家から当主アクレイが出ていったから、数刻後。
カース王国王女は到着していた。
しかし彼女の目的は達せられなかった。
鋭い視線を持って、この地にて次善策を果たそうとしてはいるが。
「アクレイさんは私と志を同じくできる、同志だと睨んでいたのですが……この事実を共有する前に片がついてしまうとは」
普段冷静な態度を微塵も崩さない彼女。
この場では悔しように拳を握り締めていた。
彼女の意図とは何だったのか。
それがこれからわかることとなる。
「王女殿下! ご機嫌麗しゅうございます。長旅でお疲れのことでしょう。どうぞ―――――――」
「―――――――ワルガー・オッサツイホ。あなたを実弟殺害容疑にて、また魔物との共謀罪、外患誘致罪などの諸々の罪状によって連行します」
挨拶も煩わしいとばかりに遮って、一刀両断する。
ワルガーは鳩に豆鉄砲を食らったように、面食らった表情を浮かべた。
そして王女は身振り手振りで兵士たちに命を下し、その罪を指摘した。
魔物との繋がりを指摘したことから、既に調べはついているのだろう。
「なっ!? 俺は当主になる男! いくら王家でもそれに介入しようなど言語道断―――――」
「―――――勝手に貴族が当主を辞められるとでも? マノワール男爵もオッサツイホ侯爵も、コックロ男爵も、すべて貴族位に留まっております。この王国で与えられた爵位なのに、勝手に当主を交代させられては、王の権威も何もないでしょう? 常識で考えてください」
「あと少しで……あと少しで俺が当主の座を手にいれられたのにぃぃぃ!?!?!?」
「あなた方の言葉を借りれば、悪事が露見した無能なご自分が悪いのですよ。直にあなたのお仲間も、同じ末路を辿ることでしょう」
ワルガーの目論見としては、逐電したアクレイが貴族位を無責任に放棄したとして。
魔物防衛の危険を楯に、当主交代の政治工作を時間をかけて仕掛けようとしていたのだろう。
しかしその前に王女によって看破されてしまった。
これでは自分が侯爵家当主として居座ることはできなくなる。
魔物たちが人類に浸透しているという情報が、すでに王女たちに伝わったことが明らかとなった。
だからこそ軍事官僚であるヴェンリノーブル侯爵も伴い、大勢の兵たちと共にこのオッサツイホ侯爵家を訪れているのである。
「離せぇぇぇぇぇ!?!?!? 俺はこんなところで終わる器じゃないぃぃぃぃぃ」
「ヴェンリノーブル侯爵。先代オッサツイホ侯爵とその妻も、この件に関わっている可能性が高いです。マノワール様を後継者に据えるならば、ワルガーの亡くなった弟は邪魔になる。そうでなくとも彼らはこの国において邪魔です。あんな弱肉強食の論理が国内に広まれば、目も当てられません。適当に政治権力を奪い、隠居させましょう」
「かしこまりましたセインセス王女殿下」
「はぁ……これで意図的に魔物たちを、王国に侵入させた貴族家は4つ目。果てには大臣にまで化けて成り代わっていたのですから、口を割らせてみれば共犯者が何人も……この国は本格的に乗っ取られようとしていますね」
「なんという事でございましょう。マノワールがいなければ、強い魔物がこの国に忍び込んだ時点で……ナルシオはもう使い物にならないし、どうしろというのだ」
ナルシオがあれだけ傍若無人に振る舞い許されていたのは、ひとえにその戦闘能力あってのこと。
貴族がいる学園で、あんなに暴れ放題していては、流れ弾が当たって貴族子女が死にかねない。
それでも誰も文句を言えなかったのだ。
しかし彼はマザコンの職業の発動条件を、満たせなくなった。
用済みとなった英雄は、朽ちていくが定めであった。
「コックロがいなくなったのも痛いし、サンシータを裁かねばならなかったのも居たかった。王国を代表する戦力が軒並み吹き飛んだ現状で、どうしろというのだ」
「ヴェンリノーブル侯爵領とオッサツイホ侯爵領をはじめとする大領地には、マノワール男爵が敷いた要塞線があります。それだけでも助かりますが……しかしそれを動かせるアクレイ侯爵がいなければ、無用の長物となりかねない。彼女の行方を探り、なんとかして連れ戻しましょう。彼女の行方不明は政治の玩具にされないように内密に、私自ら調査に赴きます」
間が悪いことに、多くの戦力が軒並み行方不明となっていた。
数少ないAランク冒険者も貴族たちからの勧誘を嫌い、他国に流れた者も多い。
八方塞がりに想える状況下で、セインセスが固い面持ちで目標を定めた。
そしてマノワールたちの行方を追うべく、学生の彼女が連れ戻しに戻るらしい。
「王国、いや世界の危機が差し迫っている中で。何としてでもマノワール男爵を御頼りするしかないでしょう。どんな手段を使ってでも、どんなものを渡してでも助力を願いましょう」
第7章終了となります。
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