第159話 「ワルガーの目論見」
それはアクレイの後継者となると目されていた少年。
僕の甥っ子であるワルガーだった。
「俺は認めねぇぞ! そんな落伍者のオッサンが、オッサツイホ家を継ぐ何ぞ! あと一歩のところで後継者に選ばれていた、このエリート様が次期当主に相応しいんだ!!!」
「いや僕も継ぐ気はないよ」
「なら当主様からすぐ離れろ! そして証文を書け! この俺をオッサツイホ家飲次期当主に据えるとなぁ!!! そしてマノワールとかいう男を追放しろ!!!!!」
どうやら彼は僕の両親とは違って反対派のようだ。
いい加減に慣れてきたが、ここでも追放を願われるんだね僕は。
しかしやはりというべきか……本性は醜悪なものだったらしい。
この僕がアクレイと結婚したのだとしたら、彼は冷や飯食らいとなる。
そして次の盤石な代となれば、自分が養子となり自由に振る舞えなくとでも危惧したのだろう。
「あ、もうボクは当主辞めるから。そういうことで」
「…………はぁ!?!?!? いきなりやめるとかなに考えてんだお前!? 引継ぎはどうするんだよ! 社会人としての自覚を持て! そんな無責任が許されるとでも思ってんのか!?!?!?」
「はぁ? 引継ぎしなきゃいけない法律とかあるんですかぁ~? 勝手に死ねカス無能」
「グギギギギ!?!?!?」
歯を食いしばるが、言い返さないところを見るに、この子も負けを認めているんだろう。
強烈な実力主義の結果だ。
難儀な家だな。
しかしアクレイは当主をやめる?
どういった心境の変化だろうか?
「どうしたんだ急に? 当主をやめるって、なんでまた」
「あの子が死んだのなら、もうこの領は救える見込みがないね。最初から押し付けられたもので、執着などないんだよ。この生意気なガキはなりたいようだが、勝手にしろと言う話だ。コイツは嫌いだが、もう誰が成ろうが大して変わりはないだろう」
心底興味がなさそうに、当主の座を捨てると言うアクレイ。
ずば抜けて優秀だった彼女からしてみれば、半ば既定路線でつまらない業務だったのだろう。
それでも引き受けたのは、当主就任時点で他の人物が軒並みクズばかりだったから。
そして地獄のような領地を変える光明であったのが、彼女の養子だったからであろう。
実際この汚物の集合体のような領地を、彼女一代で意識改革できるとはとても思えない、
そこには寂寥感と、諦観があった。
あそらく先ほど葬式をしたアクレイの養子は、この領を変えられると期待していたのだろう。
しかし彼は死んでしまった。
もう投げやりというか、実際に遅かれ早かれこの領地は酷いことになると、彼女の頭脳は確信したのだろう。
「まぁ頑張りたまえよ! 万が一の時のために、大体の資産はボクの個人名義になっているが、全部持っていくから。んじゃ」
「んじゃ。じゃねぇぞクゾババアーーーーー!?!?!?!?!?」
震えながらワルガーは口汚く罵る。
女性に対して何て言い草だ。
大体って言うけど、ほとんどすべて自分の名義にしたりしているんだろうなぁ。
この子のことだから、さらに何か仕込んでいそうだけど……
「お兄様助けてくれ! 可愛い妹分が虐められているよ!」
「そこで他人頼み!?」
「ぶりっ子してんじゃねぇぞババァ! 気色悪いんだよ! 年を考えろ! それを可愛いって言うバカもいるが、どう考えてもマジでウザいんだよ!!!」
「お兄様アイツ殺して」
「無理だよ!?」
底冷えする声で、殺人教唆してくる妹分。
隣で控えているコックロも呆れている。
年齢よりももっと大事なことはあるし、子どもの悪口なんて気にするほどじゃないと思うんだけど。
アクレイはまだ若いし、こんなに綺麗なのに。
まぁ女性は年齢に敏感だからな。触れないでおく。
「よっと」
「ほぎょっ!?」
念のため気絶させておく。
でも僕は達人ではないので、鳩尾を殴って意識を奪う。
加減ミスったかな。
泡拭いて吐瀉物も撒き散らしているけど、息はしているしいいか。
「ザマぁみやがれガキが! 早くボクの部屋に行ってくれたまえ! 色々とって来るから! ほらおんぶして! 早くするのだよ!」
「まったく……注文が多い子だな…...」
僕は両手を差し出してくる従妹の美女。
身長は同じくらいだが、体重はとても軽い。
しかし大層なものをお持ちで……いやいや!
妹分に何を考えているんだ僕は。
こんな時なのだから、集中しなければ。
妹分たちは僕が守らなくてはならないのだから。
これからは絶対にアクレイも守るんだ。
「それでは発進だ!」
「はいはい……しっかり捕まってなさい」
「は~~~い! えへへ♪」
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