第157話 「悪役令嬢の本性」
僕は彼女を抱きしめた。
ふわふわのピンク色の髪は昔から変わらず、触れるととても気持ちいい。
ようやく心から繋がれた気がする。
アクレイは僕の胸に顔を押し付けて、静かに泣いていた。
彼女もずっと辛かったんだ。
僕達は同じだったんだ。
「お兄様……あの……抱きしめられるの……」
「あっ……ゴメン!?」
顔をおずおずと上げて、僕を上目遣いで見上げるアクレイ。
美人そのものといった顔立ちだが、昔の面影は確かにあって可愛らしく感じる。
一方で彼女の豊かに実った二つの果実は、弾力がありながらも熟した柔らかさに育っていて……
……じゃない!?
妹分をそんな目ではいけない。
彼女の信頼を裏切ることになってしまう。
「べっ別に嫌とは言ってないだろう!?!?!? ふんっ! 昔はよく頭を撫でてきたくせに、今はボクの身体目当てというわけかい!!!」
「ええっ!? そんなつもりじゃなかったんだよ!」
「そんなつもりじゃないって、ボクが魅力がないとでも言うのかい! どっどうせ女性と手も繋いだこともないんだろう!? 余りにも可哀そうだから、ボクが練習台になってあげても――――――」
「え? 流石に手を握ってもらったことくらいはあるけど……なか―――――――」
仲間に看病してもらった時とかに。
魔法学園追放されたときに、精神的要因から少し体調を崩したからな。
普通の社会生活を送っていれば、そのくらい普通だ。
女性がいない職場なんて、今時有り得ないだろう。
その瞬間、アクレイが絶望的な表情を浮かべ、畳み掛けるように語り出した。
歯をしきりに震わせながら、凄まじい早口でよくわからない言葉を並べ立てる。
「――――――え……まさかさっき言っていた人と付き合っていたのかい……? 手を握ったって、どこでどこまで…………あ、やっぱりいい。聞きたくない聞きたくない!?!?!? こんなの寝取られだ!? だからもう会いたくなかったんだ!? いい年してるんだから子どもだっているとか、そんな脳破壊報告聞きたくなかったんだ!?!?!?」
「……?」
「もっと早く会いに行けばよかったのにボクのバカバカバカ!?!?!? 幼少時代、最初に結婚の約束をしたのは僕だったんだぞ!? 家出したお兄様が苦しそうな時は、すかさず食べ物を食べさせに、ボクの手勢を派遣してあげたんだ! ずっとお兄様を見守っていたのはボクだったんだぞ!? 家督継承と政治闘争で忙しい時は、うちの暗部は泣く泣く監視業務から回収してできなかったけれど! その後は期間が空いてしまったから、どんな生活をしているのか怖くて見れなかったけど!!!」
「黙って聞いていたが……みっともない真似をするなアクレイ。お兄ちゃんだっていい年をした男だ。今まで恋愛経験の一つや二つしているはず。私も嫌な気持ちになるが、お前もいい年だからそれくらい受け入れてやれ。だから喪女なんだぞ」
「脳が破壊されるぅぅぅぅぅ!?!?!? お兄様は一番最初にボクが好きだったはずなのにぃぃぃぃぃ!?!?!? 幼馴染は負けフラグだなんて認めないぞぉぉぉぉぉ!?!?!? ボク寝取られだけはマジで無理なんだよぉぉぉぉぉ!?!?!?!?!?」
えっ? じゃあ僕が飢えで死にそうになった時、恵んでくれた人たちはアクレイが連れてきてくれていたの?
僕は衝撃的事実に思考がフリーズした。
床に蹲って腕に顔を埋めてジタバタ藻掻いている、妙齢の貴族家当主女性。
気に入らないことがあった時、昔ベッドでよくやっていたな。
現実逃避から、そんなことを想起していた。
「って今の聞いてないよね!? うわぁぁぁぁ!!!!! 意地なんかはらなきゃよかったぁぁぁぁぁ!?!?!? だから泥棒猫たちに奪われるんだ! 絶対セックスばっかりしてるよ!? ハーレムパーティなんて、そういう事じゃん!? 世間の荒波に揉まれて、荒んだ性生活を送った結果の不埒な価値観が浸透しているぅぅぅ!!?!?!? あんな陽キャたちと一緒に行動してるんだから、もはや確定しているまであるぅぅぅ!?!?!?」
「いやお兄ちゃんは同僚には手を出さない主義だと思う。今は彼女いないみたいだけど、でも商売女くらいは買ってるんじゃないかな? わたしも知りたくないし、わからないけど男だもんな。男があんなに性欲ないはずがないよ。私の同僚だった奴らのほぼすべては、そうしてたし。アクレイもいい加減に拗らせてないで、現実見た方がいいぞ?」
「時間よ二十年前にもどれぇぇぇ!!! お兄様が穢れを知らなかった青春時代に戻してくれぇぇぇぇ!!!!! やだやだやだやだこんな当主としての役割なんて捨てて、お兄ちゃんと幸せな結婚生活を送らせてくれぇぇぇぇぇ!?!?!?!?!?」
頭をベッドに打ち付けている轟音が聞こえる。
ハッ……! 僕は何を……!
これまでの人生観が衝撃的事実を着いた気がするが、何も思い出せない。
凄まじい音が響き渡り、何故かアクレイの額には赤い痣が生じていた。
「ハッ……! ってなにやってるのアクレイ!? 怪我しちゃうでしょ!?」
「記憶から辛い思い出を消し飛ばしているんだ!!! 邪魔をしないでくれたまえ!?」
「意味わかんないんだけど!? 救急箱とって来るから! いつもの場所にあるよね」
急いでアクレイの化粧台の下を覗き込む。
昔と同じ、でもすこしだけ古びた思い出の品。
でもピカピカだ。埃一つない。
大切にしていたのだろう。
きっと丁寧に掃除していてくれていたのだ。
温かい気持ちになった。
「大事にしてくれてたんだな。」
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