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第156話 「アクレイの本心」




「はぁ……お前がこんな女だったとは、夢にも思わなかったぞ。考えが変わったら、謝罪にに来い。どうあれお前の査定は下げるがな」



「アクレイがこんな失敗作の考えに染まっていたなんて。ああいやだわ。どうして私たちをそんなに困らせるの? そんな子だとは思わなかった」



 見下しきった目で捨て台詞を吐いて、彼らは去って行った。

 対照的にボクはアクレイに近づく。






「アクレイ」



「……」



 俯いている従妹。

 おずおずと声をかける。


 言葉を選ぼうとするも、混乱からなんと口にすればいいかわからない。

 20年の年月の断絶は重い。


 もう僕たちはあの頃とは全く違う人間になっている。

 優しい彼女でも、その他が同じとは限らないのだから。






「ゴメンなアクレイ。僕は―――――――」



「―――――――お兄様ごめんなさい。今まであんな風に辛く当たって」



 ぽつりと呟かれた、後悔のセリフ。

 違う。

 違うんだ。


 それを言うのは僕の方なんだ。

 何が何でも絞り出さなければいけなかったんだ。

 あの時に僕はやらなければいけない事だったんだ。




「僕こそゴメン、許してくれなんて言えない。あの頃の僕より小さな君を傷つけて、そんなこと言えない」



「ボクもゴメン。お兄様の気持ちなんて、考えているようで考えてなかった。僕はいつもそうだ。今だって他人の気持ちなんてわからない。僕は人と一緒に居るだけで、嫌な気持ちにさせる女なんだ。」



 僕の身体に縋りついて、涙を流すアクレイ。

 あの頃と変わらない、子どもがいた。




「ボクは小さい頃から一人ぼっちだった。何をしても褒められて敬われて、媚びを売られるだけ。そうでない奴らからは、嫉妬と憎しみしか向けられていなかった。だからそうしないお兄様のことが自然と気になってた」


「それは……反骨心と敵愾心の塊だったから、当時の僕は。もちろん君と一緒に居るうちに、大好きになっていたけれど」


「嬉しいよ……能力しか取り柄のない、性格の悪い捻くれたボクと、どんな形でも真面目に向き合ってくれたたんだから。でもお兄様と別れた時、わからなくなってしまった。ボクは他人をの心を慮るという事に、致命的に向いていないらしい」


 似合わない卑屈な笑みを浮かべるアクレイ。

 大領主を若き身で納めている才媛であるはずなのに。

 その体は弱弱しく、小さく見えた。






「今だってそうなんだ!!! お兄様はボクを許してくれたのかい!? 口ではそう言っているけど、本心ではどうなんだ!? 私にはわからないよ! 唯一信じられていたはずのコックロだって、もうわからないんだ!!!!!」




 初めて心の内を吐露したアクレイ。

 子どもの頃から聡明だった彼女は、こんな風に泣き叫んだ覚えがない。


 いつも悠々と何でもこなし、飄々としていたピンクの髪をした女の子。

 そんな余裕が消え去って、剥き出しの彼女がいた。




「なんで時折、理由もわからないのに悪意を向けられるのかがわからない!? なんで他人同士が能力差はあっても、信頼関係を結べるのかがわからない!? わからないんだ!?!?!? 好意と悪意が易々と入れ替わり、それでも生きていける人間の心が!?!?!?」




 彼女もこの歪んだ領地の犠牲者だった。

 先祖から累々と受け継がれる悪しき伝統に、ずっと心を傷つけられてきたんだ。






「もうわからなくなっちゃったよ……お兄様……」



「僕もわからない。自分のことすら。だからいつも一人で生きていたんだ。君たちと一緒に居た時以外はずっと」



 彼女と同じで、僕は歪んだまま生きてきた。

 40年近く孤独な人生だった。


 人とのつながりが怖くて、深く付き合う事をしなかった。

 また裏切られるのが恐ろしくて、だから人を拒絶してきた。




「僕も一人だった。ずっと結婚しなかったんだ。僕みたいな人を好きっていってくれる人はいた。結婚したいって言ってくれる人はいた。実を言えば嬉しかったよ」



 過去を思い出せば、様々な出会いがあった。

 ニンメイちゃん達と出会う前も、絆を結べるチャンスはあったんだ。


 でも僕には信じきれえず、自ら離れて行ってしまったんだ。

 幼少時代から刷り込まれた呪いが、人生を通して蝕んでいた。






「でも僕は優秀じゃなかった。優秀じゃなければ見捨てられる世界で、優秀じゃない僕は何を信じろと言うんだ。だから僕のような幼稚な化け物が生まれてしまった。だからあの女性もお付き合いできなかった。こんな僕じゃまともな家庭は築けないよ。だから一人でいることが一番だと、思い込み続けてきた」



 がむしゃらに一人孤独に生き抜いて、そんな僕を心配してくれた人たち。

 その中でハリネズミのように他者と触れ合っていた中で、そんなどうしようもない僕を心から慕ってくれた人もいた。


 でも受け入れることはできなかった。

 僕は他人の優しさすらが怖かった。


 次第に牙も棘も年齢と共に抜け落ちて、無気力となっていった。

 加齢とともに、自分の限界というものが把握できるようになっていたからだ。




 若い頃の無鉄砲さが消えた瞬間、心の中の意地が消え失せた。

 だがそれこそが僕に必要なもので、それまでの自分を省みさせる原因となったのは痛すぎる皮肉だった。




「でもようやくわかった気がする。誰だって他人のことなんかわからない。家族や親友、恋人ですら……だから言葉と行動を尽くすんだ。少しでも理解できるように。気持ちを共有できるように」



「お兄様」



「他者と触れ合って、心が繋がれる。これから変わろう。僕たちは一緒に」









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 『追放ザマぁジャンルの研鑽について、また個人的対策案の成否に関する所感』

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― 新着の感想 ―
人の心がわからないと、こんなふうに泣くアクレイさん、そうとういろいろとため込んでいたんでしょうね。 そしてそれはマノワールさんも同じで、そのために人と深くかかわることを避けて生きてきた。 だけどわ…
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