第154話 「実の父母」
懐かしい顔ぶれ。
大分老けたが、面影は残っている。
向こうも同じに思っていたのだろうか。
優し気な笑みを浮かべて、懐かしんでいるようだ。
いやそんなはずはない。
今まで連絡すら寄越さなかったのは、きっと興味を失っていたからだろう。
「おお! 立派になって! 今まで時間を取れなくてすまなかった。このような痛ましい事件があって、王都から急遽戻ってきたものだったからな。葬儀の後になってしまったが、会えて嬉しいと思うよ」
「もう会えないかと思っていたの。マノワールちゃん。凄い子に成長したわね。聞いたわよ。魔法学院では英雄ナルシオすら倒したって。さっきまではとても悲しいことがあったけれど、人生はわからないもの。こんなに嬉しいことがあったんだもの!」
「……」
涙ながらに言い訳ばかりを呈する、恥知らずたち。
今となっては異常だとわかる、子どもとの接し方。
心配していたならば、なぜ今まで探そうともしなかった。
僕の名前が国中に知れ渡ってから、ようやく認識したのだろうに。
白々しく僕を誇りに思うと嘯く、利益主義者達。
「ここではどうしている? 不便をしていないだろうか? お前がヴェンリノーブル侯爵領の愚か者共から、追放されたことは知っている。罪のない大事な息子が、不当に追放されたなど許せん!!! 儂はお前の味方だからなマノワール」
「マノワールちゃんの実力を知っていたのに、追放するあんな無能! 絶対に許せませんわ!? オッサツイホ侯爵家から正式に抗議させて頂きましょう。マノワールちゃんはこの家で、これからも暮らすのよ! そして地位も名誉も思いのままに生きるの! あぁ! なんて素敵なんでしょう!!!」
僕の反応が鈍いことを察したのか、素早く話題を変える。
これが彼らの常套手段。
何としてでも自分が不利になることは言うのは避ける。
自分たちが悪いのだとは、極力しない。
そうしたとしても、ポーズだけ。
本心では自分を謝らせたと、屈辱に感じるのだ。
「黙って聞いていれば……マノワールさんがどれだけ苦しんできたか知らないんですか!」
「なんだお前は。平民如きが口を挟むとは何を考えている」
「使用人ごときが。身の程を知りなさい」
僕のために抗議してくれるメイド服のニンメイちゃん。
こんな冴えないオッサンのお世話をするため、そして身の安全を確保してくれるために控えていてくれたのだ。
彼女が言葉を発してから、急に豹変する両親たち。
冷たい視線で、彼女を見下す。
これが本性なのだ。
「わたしはマノワールさんのパーティメンバーです! マノワールさんとはずっと一緒に居たんです! あなたたちとは違って!!!」
「黒髪のメイド服のパーティメンバー……おお! 君があの上級職業の忍者であるニンメイくんか! 噂は聞いているよ! なんでも素晴らしい斥候であるとか! 隠密と気配察知は神がかり的なものだと!」
「失礼をいたしましたニンメイさん! なんて素敵な女の子なんでしょう! 私たちはマノワールちゃんの親なんですの。今までこの子を支えてくれて、ありがとうね。是非仲良くしてちょうだい」
「な……なんなんですかこの人たちは」
ニンメイちゃんは気味が悪そうに、目を見開いて両親の態度の変貌に、表情を不快そうに歪めた。
これが普通の人間の反応なのだ。
僕は子ども時代そんなこともわからずに洗脳されて、彼らに認められようと無駄なあがきをしていた。
この領地の実態とは、まさに今の行動が象徴している。
能力がある者には、とことん優遇する。
しかしそうでない者には差別をして、人間扱いなどしない。
利用価値があるものは、何が何でも使うのだ。
自分のために。
それができない者は精神すら律せない、クズだと嘲笑われる。
そうした蟲毒の果てに頂点に立った者が、こいつらなのだ。
弱者や心優しい人を蹴落とし踏みつけ、他人の尊厳を凌辱してきた最悪級の下衆どもなのだ。
「マノワール!!! すまなかった! お前には実力があった! アクレイと結婚して、当主を継ぐんだ! お前なら大帝国すら作れる!!! あらゆる名誉が手に入るんだぞ!? 究極の王者として、その名を世界に轟かせるんだ! 我らがオッサツイホ侯爵家の名と共に!!!!!」
父は杖を取り落として跪き、僕の足に縋りついた。
泣き落としまで使う。
しかしその瞳はヘドロのように濁っていた。
歪んだ自己愛が潜んでいることが、僕には見ただけでわかる。
自分の子どもですら、どうでもいいのだ。
自分の優秀性を証明するための、道具に過ぎない。
「そうすれば私たちの名は永遠に語り継がれる!!! 一からこれだけの経済力と組織力を築き上げるのは、並大抵のことではない!? お前だって実感しただろう! 愚劣の極みだが、この国は成り上がりに厳しい!?」
「「「「「「「「「我ら一同、マノワール様に命を捧げる所存!!!!!」」」」」」」」」
「見ろ!? ここにいる誰もが、お前の力を認めているぞ!!! お前が最もアクレイの伴侶に相応しい!!! 賢明な判断をするんだ!!! オッサツイホの名を、己の優秀性を証明しろマノワール!!!!!」
そういうことか。
こいつらが僕の元に来た理由は。
僕の力が目当てなんだな。
いつだって僕のことなんて見ちゃいない。
ここにいるほぼすべてが、僕を利用することしか考えていない。
命を捨てるという奴らも、結局は死んで忠誠を果たしたという名誉が欲しいから。
承認欲求の塊のような奴らなのだ。
誰もが壊れた、歪んだ領地。
ここがマノワール・オッサツイホの生まれ育った場所。
面白い、または続きが読みたいと思った方は、
広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価
またはレビュー、ブックマークしていただけると、モチベーションに繋がりますので執筆の励みになります!!!!!!!!!!




