第153話 「揺れる後継者問題」
大貴族オッサツイホの唯一の後継者がいなくなるという、非常事態。
もちろん責任の追及など議論は紛糾したが、すべてアクレイが押さえつけた。
彼女は歴代でも屈指の能力を持った、史上最高と謳われる領主。
悪役令嬢という最高峰の強職業を得た、万能の天才である。
その辣腕を振るい、家臣たちの統制を完全に図った。
そんな彼女でも判断しづらいことが一つある。
彼女の子どもの代わりに、次代後継者となる人物について。
「時代の後継者にはワルガー様が相応しい!!! 同じ血を継ぐ者なのだから!」
「ここは安定を取るべきだ! 今既に多大な実績を上げているお方がいるであろうが!」
「現当主様より年上の後継者があるか!」
「実力もない若造に何ができる!?」
こんな罵声が、そこら中で聞こえる始末で。
とても喪中とは思えない有様である。
この家は、よく言えば自由闊達。
悪く言うならば、完全実力主義の血も涙もない組織である。
能力のある人間の声は、どんなに身分が低くとも取り上げられる。
しかし能力がなければ、僕のように迫害され放逐される。
あらゆる分野で無能を発揮した僕は、当主の息子だというのに誰からも相手にされなかった。
それを理由に平民出身であっても出世を遂げる者たちは、コンプレックスを晴らすように僕を虐めていた。
実の兄弟たちすら、それに加担していたんだ。
誰も味方がいないあの頃は、地獄だった。
「―――――――誰に許されて、後継者問題を口を挟んでいる? 口は慎みたまえよ」
「当主様! 大変なご無礼をいたしました」
それを救ってくれたのが、この家のトップたるアクレイ。
彼女は僕のことを、常にそれとなく守ってくれていた。
彼女が頭角を現すに連れて苛めは緩やかになり、初めて心穏やかに暮らすことができた。
次第に僕は青春を送れるようになったんだ。
あの頃の経験があったからこそ、僕は真人間に慣れた気がする。
だからこそ彼女が本当は優しい人間なんだって知っているんだ。
「不愉快だね。今後の査定に響かせたくないなら、その身の丈に合った言動をとるように」
「ハッ! ご厚情に熱く感謝を申し上げます!」
恭しく頭を垂れる家中の者たち。
能力主義のこの家はトップダウン型の指揮系統を有し、有能な上司には絶対服従。
そしてアクレイは無言で答えた。
一瞬だけ僕に視線を向けるが、すぐに彼女は踵を返して自室へと戻っていった。
僕とニンメイちゃんは黙って頭を下げながら、それを見送った。
ドアが閉まる音と共に、僕たちは再起動する。
そして先ほど口論していた二人の貴族たちはあるものを見つけると、一転して表情を変えた。
予想はしていたが、ここまで露骨とは……
「おおマノワール殿! 覚えておられますかな? 私は昔学友であった者です!」
「私はアクレイ様の右腕でございます! お見知りおきください! ダンジョンボスを倒し、魔王幹部を倒した英雄! 素晴らしい!」
「何を不遜な僭称をしている! 身の程を知れ!」
「貴様こそどの面を下げて、マノワール様と顔を合わせている愚物が!」
アクレイだけは、こんなクズどもとは違うんだ。
僕を虐めてきてなお、今になって力関係が逆転したと思えば、何でもないかのように近寄って来る。
互いに押しのけ合いながら、下劣な笑みを送り付けてきて。
蹴落とし合って、何が何でも権力を得ようとする承認欲求の亡者たち。
ニンメイちゃんは目を白黒させて、この光景を眺めていた。
対して自分は冷たい目で見ながら、見物する。
問題を起こすわけにはいかないから。
過去の恨みはある。
だがみんなに迷惑をかけるわけにはいかない。
それでも心には暗い感情がうねる。
「マノワールよ!」
「マノワールちゃん!」
「父上。母上――――――――――」
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