第152話 「オッサツイホ侯爵領を襲う悲劇」
時を置いてそれなりに要塞線が形になってきた頃、僕はオキャルンさんと歓談していた。
吉報だからいい気分で話を聞ける。
「要塞線付近の土地を融通してもらえました~今は子どもたちと家を作っております~」
「オキャルンさん。それは何よりです。これで住居問題は解決ですね」
「アクレイさんはいい人ですね~」
「ええ。本当に」
土地まで提供してくれるとは。
もちろん有償だが、破格の値段だ。
これならば領民になることができたオキャルンさんたちは、農業で返せていけるだろう。
コックロが彼らの経緯をアクレイに説明したら、特例で戸籍まで作ってもらえるとのことだ。
本当に彼女には頭が上がらない。
後は彼女たちを守れる要塞線を作ればいい。
ここからが正念場だ
「大変ですマノワールさん!」
「どうしたんだいオーエラさん」
泡を食って部屋に飛び込んできた眼鏡姿の彼女。
今は諸々の事務手続きなどに忙殺されているのに、こんなところに来るとは。
何かあったのではないか。
猛烈に嫌な予感がした。
「アクレイさんのお子さんである、次期当主の方が身罷られました!!! 魔物による襲撃によって!」
「なんだって!?!?!?」
ようやく安寧を手にできたと思いきや、唐突の悲劇がオッサツイホ領を襲った。
それが混乱の始まりだったのだ。
「――――――なぜだ。ボクより先に死んでしまうとは」
「謹んでご冥福をお祈り申し上げます」
喪服のアクレイ。
見るからに憔悴して、我が子の死に涙する。
棺に納められた少年は、穏やかに眠るが。
彼女はそれに縋りついたまま離れない。
夫のいない彼女は余程に可愛がっていたのだろう。
一言しか挨拶をできなかった。
彼女は無反応で、茫然と涙を流している。
「うぅぅ……」
「……」
よほどに慕われていたのだろう。
参列者は誰もが涙していた。
こんな奴らでも泣くほどに、愛される子だったのだろう。
話を聞くに、非常に優秀な才児だったらしい。
それが魔物に襲われ、無残な死を遂げたとのこと。
棺の窓から見える彼の顔は綺麗だが、下半身は貪り食われたようだ。
もちろん護衛も多くいたらしいが、奮戦虚しくすべて殺されたらしい。
そこに彼の実兄が駆け付け、何とか遺体だけは取り戻せたようだ。
僕の血の繋がった甥でもあり、その早すぎる死には悲嘆を隠せない。
「弟が死んで、まだ実感は湧いておりません……ですが参列してくださった皆様には、心から感謝を」
「グスッ……」
「ワルガー様。お労しや……」
自分も辛いだろうに、礼儀正しく挨拶をする故人の兄。
暗い面持ちだが、とても立派だと思う。
アクレイは真っ赤に目を晴らしながらも、気丈に立ち上がって深くお辞儀をした。
とても痛ましくて見ていられない。
故人の実兄だというワルガー、少年期を抜けるかどうかという年齢の貴族の一員。
アクレイの養子だった子は、僕の兄貴の子どもらしい。
確かに彼の面影がある。
アクレイの養子の子はかなり人格者だったようで、意地悪だった僕の兄の印象など見受けられないが。
話したこともないが甥っ子ができていたことは、過ぎ去りし年月の重みを感じさせた。
「……この度はご参列下さり、誠にありがとうございました……故人も喜んでいることでしょう。それでは最後に献花を執り行います」
涙声でアクレイは喪主としての務めを果たそうと、緩慢と動き出した。
しかしフラフラとしている様子は、とても痛ましい。
コックロたち親族がサポートしながら、恙なく終えた。
それでも傷ついた彼女たちの心は、晴れることはない。
その日は僕達の心を映し出しているような、暗い雲が立ち込める日だった。
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