表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

152/241

第152話 「オッサツイホ侯爵領を襲う悲劇」




 時を置いてそれなりに要塞線が形になってきた頃、僕はオキャルンさんと歓談していた。

 吉報だからいい気分で話を聞ける。




「要塞線付近の土地を融通してもらえました~今は子どもたちと家を作っております~」



「オキャルンさん。それは何よりです。これで住居問題は解決ですね」



「アクレイさんはいい人ですね~」



「ええ。本当に」



 土地まで提供してくれるとは。

 もちろん有償だが、破格の値段だ。


 これならば領民になることができたオキャルンさんたちは、農業で返せていけるだろう。

 コックロが彼らの経緯をアクレイに説明したら、特例で戸籍まで作ってもらえるとのことだ。

 本当に彼女には頭が上がらない。




 後は彼女たちを守れる要塞線を作ればいい。

 ここからが正念場だ






「大変ですマノワールさん!」


「どうしたんだいオーエラさん」


 泡を食って部屋に飛び込んできた眼鏡姿の彼女。

 今は諸々の事務手続きなどに忙殺されているのに、こんなところに来るとは。


 何かあったのではないか。

 猛烈に嫌な予感がした。




「アクレイさんのお子さんである、次期当主の方が身罷られました!!! 魔物による襲撃によって!」



「なんだって!?!?!?」



 ようやく安寧を手にできたと思いきや、唐突の悲劇がオッサツイホ領を襲った。

 それが混乱の始まりだったのだ。






「――――――なぜだ。ボクより先に死んでしまうとは」



「謹んでご冥福をお祈り申し上げます」



 喪服のアクレイ。

 見るからに憔悴して、我が子の死に涙する。


 棺に納められた少年は、穏やかに眠るが。

 彼女はそれに縋りついたまま離れない。




 夫のいない彼女は余程に可愛がっていたのだろう。

 一言しか挨拶をできなかった。

 彼女は無反応で、茫然と涙を流している。




「うぅぅ……」


「……」


 よほどに慕われていたのだろう。

 参列者は誰もが涙していた。

 こんな奴らでも泣くほどに、愛される子だったのだろう。


 話を聞くに、非常に優秀な才児だったらしい。

 それが魔物に襲われ、無残な死を遂げたとのこと。

 棺の窓から見える彼の顔は綺麗だが、下半身は貪り食われたようだ。




 もちろん護衛も多くいたらしいが、奮戦虚しくすべて殺されたらしい。

 そこに彼の実兄が駆け付け、何とか遺体だけは取り戻せたようだ。

 僕の血の繋がった甥でもあり、その早すぎる死には悲嘆を隠せない。






「弟が死んで、まだ実感は湧いておりません……ですが参列してくださった皆様には、心から感謝を」



「グスッ……」



「ワルガー様。お労しや……」



 自分も辛いだろうに、礼儀正しく挨拶をする故人の兄。

 暗い面持ちだが、とても立派だと思う。


 アクレイは真っ赤に目を晴らしながらも、気丈に立ち上がって深くお辞儀をした。

 とても痛ましくて見ていられない。




 故人の実兄だというワルガー、少年期を抜けるかどうかという年齢の貴族の一員。

 アクレイの養子だった子は、僕の兄貴の子どもらしい。


 確かに彼の面影がある。

 アクレイの養子の子はかなり人格者だったようで、意地悪だった僕の兄の印象など見受けられないが。

 話したこともないが甥っ子ができていたことは、過ぎ去りし年月の重みを感じさせた。




「……この度はご参列下さり、誠にありがとうございました……故人も喜んでいることでしょう。それでは最後に献花を執り行います」



 涙声でアクレイは喪主としての務めを果たそうと、緩慢と動き出した。

 しかしフラフラとしている様子は、とても痛ましい。


 コックロたち親族がサポートしながら、恙なく終えた。

 それでも傷ついた彼女たちの心は、晴れることはない。

 その日は僕達の心を映し出しているような、暗い雲が立ち込める日だった。










面白い、または続きが読みたいと思った方は、


広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価


またはレビュー、ブックマークしていただけると、モチベーションに繋がりますので執筆の励みになります!!!!!!!!!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


旧作も読んでくださると嬉しいです!

 『異世界神様チート貴族転生したら、女装して女学園に通って悪役令嬢を誑かして婚約破棄させるように言われた。クラス転生していた悪役令嬢に男バレして追放されたがもう遅い。聖女(?)として復讐だざまぁ!』

テンプレ末期戦異世界チート転生女学園潜入もの書いてます。
こんなタイトルですが、神々の争いに主人公が巻き込まれるシリアス戦記です
 

 『追放ザマぁジャンルの研鑽について、また個人的対策案の成否に関する所感』

初エッセイです。本作品を基に書きました。
また初創作論です。
追放ザマぁジャンルを執筆する作者として、自分なりに反省点を交えた考察。
追放ザマぁの構造的問題への解決につながるかもしれないアプローチ。
新追放ザマぁシステム『連続追放』を通して分析することで、違和感なく楽しみながら完読できる小説を目指すという、ジャンル全体における質の向上を目標とする文章です。
皆さんの目で、お確かめ頂ければともいます。


一日一回投票いただけると励みになります!(クリックだけでOK)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 住居問題の解決を喜んでいたかと思ったら、悲しい事件が起きてしまいましたね(´;ω;`) アクレイさんの養子が亡くなってしまうとは、前回から一変衝撃展開で大きな悲しみが伝わってきました。気…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ