第15話 「元職場の顛末」
誰の事かと思い問いかければ、思いもよらない人物についての話が飛び出てきた。
悲鳴のような怒鳴り声のような口調で、ショワジ親方を非難している。
穏やかな性格のこの人らしくない言動。
「私が辞めてから、何かあったのですか?」
おずおずと聞いてみると、僕の考え通りだったようで。
嫌な予感が当たったらしい。
取引先から、ここまでの苦情が出る。
それ程の事件があったのだろう。
「営業担当者が突然変わって、本当に対応が悪いのです。社会人としての最低限のマナーどころか、人間として当たり前の礼儀すらなってない! マノワールさんをなんで営業にだしてくれないんだ。あの礼儀なしは変えてくれと抗議しても、あの親方さんは取り合ってくれず」
「長らく大変お世話になりましたのに、ご迷惑をおかけしまして申し訳ございません」
「すでに退職されたマノワールさんが謝る事ではありませんよ! それにしてもあなたのような有能な人を辞めさせるだなんて! おかしいにも程がある!? なんでもあなたが他人の仕事を盗んだとか、わけのわからないことを客先の私に愚痴る始末で! 契約書もろくに書けないくせに謝罪もないとは、何なんだあの若造は!? 腹が立つ!!!」
そう言って取引を打ち切られる。
契約書も誰も書けないのか……?
親方はできると思うが、何をしているんだあの人は?
間接部門をバカにする人だったが、その必要性を知らないとは思えないが。
だが営業能力などに関しては、何年もぬるま湯生活をしてきた者たちにあるはずもない。
お客さんが大事と言っていたショワジ親方が、適当な奴を配置するとは思えないが、何が起こっているんだろう?
「あの会社とはもう取引をしません。幾ら腕がよくても納期にも間に合わないなど御免こうむります! こちらはモノを売っているんです!」
怒髪天を衝く勢いで文句を言っているな。
僕が抜けたことで、彼にも迷惑をかけてしまったか。
「申し訳ございません。この謝罪は後ほどに! 新しい契約先を探さないとならないのです! このままでは違約金が発生して、我らが商会の名前にも大きな傷がついてしまう」
「心中お察しいたします。どうぞお早めに向かってください」
「重ね重ね申し訳ない。それでは失礼を」
改めて時計の針を見ると、足早に去る元取引先。
僕たち退職者仲間はそれを見送り、二人揃って顔を見合わせた。
「あの職場……凄いことになってますね。」
「こうなるかもしれないとは思っていたけど、ここまで早く、それも斜め下を行くとは」
だが昔の事。
僕たちは前を向いて生きていかなければ。
「あそこのことは忘れよう。僕たちは今の生活維持をやらなくちゃならない」
「そうですね! 前向きに二人で頑張りましょう!」
大体のフロントオフィスから、全てのバックオフィス業務までをほとんど一人で担っていたからか。
同僚達からは金にならない事しかできない、雑用係と馬鹿にされていた。
でもそれがないと会社も回らない。
退職して改めて冷静に考えると、なんであの会社は僕をクビにして。
そして仕事ができる人も用意できないのかと、内心呆れる。
その時だった。
もう一つ懐かしい声がしたのは。
「――――――マノワールさん! こんなところにいたなんて」
昔の同僚。
何故か僕の上長であった役員クラスの人間が、冒険者ギルドにいた。
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