第145話 「セインセス王女の思惑」
その頃王都の侯爵家屋敷において、急報が齎された。
伝令を聞いた貴族は、肩が震え始めた。
そしてそのままソファーに座り、項垂れる。
大汗を掻いているヴェンリノーブル侯爵。
かなり飛ばしてここまでやってきたのだろう。
使用人に水を勧められると、彼はあっという間に3杯も飲み干した。
そして退出を促され、大貴族は喋り出した。
「なんということだ」
「どうかなさいましたか? 相当な大事のように見受けられますが」
「マノワールが私の部下たちに追放されました。彼は計画の要であるのに、何という失態!?!?!?」
侯爵は俯きながら、悲鳴のように上ずった声色で叫ぶ。
自ららが最も目をかけていた有望株が、こんなことで失われてしまったのだ。
その失意や相当のものだろう。
何故か同席しているセインセス王女も険しい表情だ。
計画という単語、彼女にとってもこの件は都合が悪かっただろう。
「もっと早くに奴らを粛清するか、マノワールに権力を与えておくべきだった!?!?!?」
「ヴェンリノーブル侯爵」
「まさかチギュドー達が、あそこまで嫉妬深いとは…….」
想定外の事柄だったのだろう。
マノワールは元貴族だという事は説明していた。
しかしそれは部下を納得させるための方便だと、チギュドーたちは思い込んでいたのかもしれない。
それに気が付けば聡明な侯爵は、最初から余りにも望みが断たれていたことに気が付いた。
「だがあの者らを粛正していれば、領地はまわらなかった。儂が軍務官僚として王都にいなければ国軍は腐敗で崩壊し。国家自体が成り立たなくなっていた。あのままでは貴族たちに国軍が吸収され、凄惨な内戦になりかねなかった。国軍だけは中立にしなければならなかったのだ」
「おっしゃる通りです。あなたの責任ではありません」
「汚職していた部下の貴族は有能だったのだ! 汚職していても領が回るくらいには! だがあそこまで露骨にしていなければ、もっと軽い罰で済んだものを! 儂が統制しきれなかったのは、自身の責任にすぎないが……それでも……!」
王女の目の前にいると忘れているかのように、錯乱している壮年の貴族男性。
声をかけられたことにも気が付いていないようだ。
体を丸めて蹲り、沈痛に彼は語る。
殺人的な業務量に常に忙殺されていたヴェンリノーブル侯爵。
周りに恵まれないせいで、こんな状況に追い込まれてしまった。
「なぜ儂の元にはまともな部下がいなかったのだ。もっと早くに病弱で政務が取れなかった兄上を謀殺して、儂が当主になるべきだったとでも!? 愛する家族を殺してでも権力を奪取し、領のために人生を尽くせばよかったのか!?!?!?」
血を吐くように己の心情を吐露する。
聞く限り、都合が悪い事ばかりが続いた彼の人生。
彼は前当主であった兄の死により、急遽後を継いだ貴族位。
ずっと王都で軍務官僚として彼は勤めていたが、それに伴い殆ど地盤もなく爵位継承するしかなかった。
それであるのにほとんど一から家臣たちの把握と、統制に図らねばならなかった。
「コックロがあと一人でもいれば、あんなことにはならなかったものを……」
自身の手勢が少ないからこそ、マノワールを招致した。
コックロという女性騎士を、周囲の反感を押してまで採用したのも支持基盤を得るためだ。
マノワールを招いたのは、善意からではなく、打算からであったのだ。
彼も彼でかなり追い込まれていたのが現実だった。
「この期に及んで、貴族たちは碌に軍備を備えようとしておりません。あろうことか王族もそれに便乗している始末です」
「儂は王女殿下に従います。もうこれしか方法はない」
彼が貴族として生き残る道。
もう一つしかなかった。
以前から王女に誘いはかけられていた。
しかしその苛烈なる方策に及び腰であった。
マノワールという手札があることから、もっと利益を引き出そうとする魂胆もあった。
しかしもう時間を待っていられるような余裕はない。
自領を守るため、彼女の目論見に運命共同体として乗るしかなかった。
「準備には最低でも数年。私が学園を卒業してからも、かなりの時間がかかるでしょうが……強硬手段も辞さない所存です。国王陛下を含め反対勢力をすべて排除し、救国新政権を作ります」
王女はその頭脳により、説得は間に合わないと看破した。
政治的根回しも時間がかかる。
ならば残された手は一つしかない。
魔王とどちらが早いか、チキンレースだ。
合理的思考の彼女は、それに乗り出すことを宣言した。
そのための戦力集めであり、マノワールを取り込むメリットの第一目的である。
「クーデターです」
タイトル「 『追放ザマぁジャンルの研鑽について、また個人的対策案の成否に関する所感』」 投稿いたしました。
初エッセイです。本作品を基に書きました。
また初創作論です。
追放ザマぁジャンルを執筆する作者として、自分なりに反省点を交えた考察。
追放ザマぁの構造的問題への解決につながるかもしれないアプローチ。
新追放ザマぁシステム『連続追放』を通して分析することで、違和感なく楽しみながら完読できる小説を目指すという、ジャンル全体における質の向上を目標とする文章です。
皆さんの目で、お確かめ頂ければともいます。
第6章終了となります。
ここまでお読み頂きありがとうございました。
引き続き毎日更新で、気分がのった分だけ投稿してまいりますが、明日からは原則一日一回更新とさせていただきます。
約250話35万字分ほどに加筆修正しましたので、よろしくお願いいたします。
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