第128話 「仕事を押し付けられるマノワールたち」
「マノワールか。うむ。そういえば聞いたぞ? なんでも書類仕事がまるでできないとか」
「ヴェンリノーブル侯爵様に迷惑をかけるのはねぇ」
同じく同僚である、チギュドー男爵より幾分か年若い青年貴族。
彼は僕たちの姿を見ると、ふと名案を思いついたように口角を歪めた。
その取巻きである女貴族も、同様に小馬鹿にするような口調で嘲っている。
僕が事務処理ができないことは、もう広まっているようだ。
おそらくはチギュドー男爵が愚痴っているのだろう。
「まぁそう落ち込むな。お前が戦いに優れていることは知っている。だから我々の分も、戦働きで取り返せばいい。国境線の哨戒も頼むぞ」
「なっ!? 我々二人だけで、ヴェンリノーブル侯爵領をすべて見回るなど、物理的に不可能です!?」
「サンシータのバカたちがいなくなって、僕達は書類仕事が倍以上に増えたんだぞ! 同じ領に住む仲間同士、協力もできないのか!?」
チギュドーも意地悪く、彼らの主張に便乗する。
それに対してコックロは激しい言葉で抵抗した。
彼らの業務に対して、僕たちの場合は命がけだ。
釣り合うとはとても思えないし、何より失敗すれば多くの命が犠牲となる。
生憎ヴェンリノーブル侯爵も、今は軍務官僚の仕事のために王都にいる。
彼のとりなしは見込めない。
「俺も鬼じゃないさ。別に領内全部を見回れとは言っていない。だから作業担当している、要塞線周辺だけでいいだろう。それだけで負担が軽減されるんだ。適材適所だと思わないか?」
「我々は命がけです。とても労力に安全性が見合っているとは思えません。どうかご協力を戴きたく」
「まぁやらないというのなら、お前たちの担当である要塞線建築自体が危険になるだけだが」
そう。偵察を怠り魔物が来れば、僕達の部下であるジュクレンコさんたち土木作業員が真っ先に犠牲となる。
だとすれば僕たちは絶対に守らなければならない。
彼らに足元を見られても、職務を果たさなければならないことに変わりはないのだ。
集団ぐるみで僕たち新参者貴族に、仕事を押し付ける貴族たち。
彼らは自分たちの身の安全が担保されているわけではないと、この人魔の境目である地に住んでいてわかっているのだろうか?
一通り僕たちを虐めて溜息を下げたのか、満足げに息を吐くチギュドー達。
「ヴェンリノーブル侯爵様がお前たちをどう思っているのかは存じ上げないが、僕たちは適切な評価を下す。主君のためにだ」
「それが真の忠義というものですわねぇ」
主のためとは言うが、自分より後輩が評価されていることが気に食わないだけだ。
嫉妬深い人物は、他人からの評価を非常に気にする。
他者からどう思われているか、上司に自分はどう扱われているかなどばかりを気を遣うのだ。
こうやってマウントをとって、僕たちをこき使おうとするのも、自分が優位に立っていることをアピールしたいがため。
由緒正しい貴族の自分が風下に立っていると思われたくないから、プライドを守るために事務仕事という有利な土俵で僕たちを貶めているのだ。
怒りを何とか腹の底に収め、神妙な表情を取り繕う。
「そういうことだマノワール。もういい。行け」
「わかりましたチギュドー男爵」
劣等感を刺激されたことを、僕たちの無能と転嫁する。
コンプレックスの塊のような人だな。
そして去り際に嫌味を言ってきた。
女性に絡めた、本当に最低なものを。
「マノワール男爵。くれぐれも業務中に逢引などしないように」
「いつもどこでもコックロと仲良くしているものですから、デートと勘違いされないか心配ですわ。噂はこちらまで届いておりますからね」
どうやら根拠不明の悪評などを、ばら撒かれていたらしい。
そもそも恋愛になんて縁がないのに、彼らはわかっていて皮肉を言っているのかも。
何よりコックロみたいな綺麗な女の子が、僕みたいな冴えないオッサンを相手にするわけないだろう。
「昔もいたんですよ。誰かさんのように恋愛にかまけて、仕事がおろそかになる貴族。それが理由で魔物たちに襲われてしまうなど、堪ったものではないですわ」
「そうそう。色恋沙汰に気を取られて仕事が手につかないようでは、我らすべてが迷惑なのだよ。貴族となったからには、平民時代とは違う事を肝に銘じてほしいものだ」
「気を付けます。失礼いたします」
同僚の異性と話しているだけで、男女の仲であるなどの妄想をはじめ、噂話に興じることが好きな人種たち。
そうすることで政敵の名を貶めて、自分たちが優位であるかのように振る舞うのだ。
相手にすること自体が時間の無駄なので、早々にチギュドー男爵の執務室を辞して廊下を無言で歩く。
どこに耳があるかわからないので、ここで下手なことは言えない。
本当に雰囲気悪い職場だなぁ~
だが僕は昔を思い出し、こんなものだと納得もしていた。
これが貴族社会。
味方などほとんどいない、誰もが蹴落とし合い利己主義に邁進する、下水道の中のような環境なのだ。
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