第127話 「嫉妬深き者」
どうしても業務報告の際には、貴族たちと会わなければならない。
正装して堅苦しい挨拶をするだけで、気が滅入るというもの。
それに加えてお叱りを受けるとなれば、こんな地位に立ちたくなかったと切に実感する。
目の前にいるのはヴェンリノーブル侯爵傘下の貴族である、チギュドー男爵。
度数の高い分厚い眼鏡を付けた、体格の小さい神経質な方だ。
いかにも官僚然とした方で、見た目通りに事務を担っている。
糸目と出っ歯が特徴的で、何というかどことなく見た目が幼い印象を受ける同僚である。
若々しいわけではないんだけれどね。
僕より少し下くらいの年齢だろう。
「書式が違う!!! 平民たちの雑な紙っぺら書いているんじゃないんだぞ! 貴族の作法に則った、誰に見せても恥ずかしくない公文書を書かなくてはならない自覚がないのか!?」
「申し訳ございませんチギュドー男爵。修正してまいります」
「ったく女に現を抜かして、やるべきことをやらないやつは困るんだよ。特にコックロと交わしている書類なんて、信用できるか。大事な仕事がなぁなぁになりかねない。それは領地全体でどれだけ不利益を被るかわからないのか? 仕事のやり方がなってないんだよ」
「はぁ……」
なんか勘違いしているみたいだが、僕はコックロと別に恋愛関係じゃないんだけれど……
いくら親しくても仕事はきっちりやるつもりだし、彼女と組んで汚職だなんて以ての外だ。
親戚だったってヴェンリノーブル侯爵から言ってくれたんだけれどな……
このようにネチネチと言われるが、僕が仕事ができないだけなので仕方ないことだ。
まったく違う業界に飛び込んだのは、結局自分。
それで迷惑をかけているのだから、年齢や能力を言い訳にしてはいけない。
「ちゃんと聞いているのか? ったくこれだから冒険者あがりは……野蛮に剣でも振っているだけで済む世界じゃないんだからな。この世界は領民を養い、貴族社会の荒波を凌いで、領地の最大利益をもたらすことが責務だとわかっているのか?」
「おっしゃる通りです。私の力不足が招いた結果です」
「わかっているなら、なぜ全力を尽くさない? 責任感がないからじゃないか? まさか事務仕事なんか役に立たないと、思いあがっているんじゃないだろうな?」
圧をかけてくるチギュドー男爵。
そう言われたところで、別に仕事が出来るようになるわけじゃない。
責任感はあるつもりだから、自分にできる要塞建築を精一杯やっているんだけれど……
「そんなことは露にも……私も全力を尽くしてはいるのですが……」
「フンッ! どうだか。全くそうは見えないな。冒険者あがりを騎士として雇うと、どうなるかくらい嫌と言うほどに聞いているんだよ」
僕はずっとショワジ組で裏方仕事をやってきた。
その重要性は嫌と言うほどに知っている。
でも今のチギュドー男爵に何を言っても、言い訳を言うなと逆上されそうだ……
大人しく嵐が過ぎるのを待つしかなさそう。
隣で一緒に怒られているコックロも、無表情だが内心怒りが渦巻いているだろうが。
彼女もこってり絞られて、気の毒だ。
「ゴマすりが巧いから、ヴェンリノーブル侯爵様に贔屓されているんだろうが……目に余るぞ。後輩のくせに、でしゃばるな」
「チギュドー男爵! マノワール男爵はそのような卑怯な手口で地位を得たわけではありません! 撤回してください!!!」
「コックロ。お前の書類ミスの尻拭いを、僕が何回やってやったと思っているんだ? 魔法学園で学んできたことは、言い訳の仕方なのか?」
「いいんだコックロ。申し訳ございません男爵。すべて私の不徳が為したことです」
強烈な縦社会の極致たる貴族付き合い。
だから嫌だったんだ。
ここまでネチネチ言われる彼女が可哀そうだ。
それぞれ役割があって、彼女は誰よりも任務を全うしているのに。
「もういい。忌々しい。次やったらただじゃ置かないぞ」
「申し訳ございませんでした。失礼いたします」
「……失礼いたします」
妹分も不承不承といった様子だが、納得してくれたようだ。
この場は早々に退散するのが無難だろう。
その時にドアがノックされた。
そこから出てきた人物に気づき、僕は先んじて恭しく挨拶をした。
「子爵。ご無沙汰しております」
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