第124話 「適当極まりない叙爵式」
それから半年近く経ち、僕は41歳になった。
魔物たちが攻めてくる兆候はない。
僕たちは要塞線をある程度完成させた。
戦争準備も侯爵の下で出来ているが、まぁそれ以外の領地ではお察しだ。
芳しくないことばかりが続いていて、きな臭い。
「あ~はいはい叙爵ね。しといたから、もう帰っていいよ」
「この度は誠にありがとうございました。陛下には何卒よろしくお伝えください」
「はいはい。それでは失礼」
それがこの叙爵式のはずの、只の書類手続きと小さな部屋での形式的説明会である。
同席しているのは、まるで興味なさげな法衣貴族くらいしかいない。
それも若くて、下っ端にしか見えない者たちばかりだ。
あくびまでしている。
完全に適当だ。
「……」
完全に怒気が噴出しているヴェンリノーブル侯爵。
そりゃそうだ。
彼の肝入りで僕は貴族となり、後押しを受けている羞恥さえrているはずなのにこの待遇なのだから。
慣例では王が自ら出るはずなのに、まさか王族すら出てこないとは。
セインセス様は学園生なのに、あちこちの領地を飛び回る程多忙だし。
この国も魔物がいなくとも、中々に終わっているな。
実家にいた時に、散々思い知らされたけど。
その帰りに馬車の中で相談する。
「適当過ぎましたね。練習は無駄にはならないですが、拍子抜けです。マイナスの意味で」
「完全に儂らを舐めておる。マノワールを派閥の一員としていると目される、儂の面目すら潰しているのだから」
「心中お察しいたします。侯爵はこんなにも精力的に働かれておられるのに……魔物たちの大侵攻のことも、彼らはまだ放置をしているのでしょうか?」
それとなく話題を変えておく。
だが非常に気になる事柄だ。
魔物たちと戦争になれば、国境線の僕たちは当然負担は重い。
そして大事なあの子も……
領地が遠いのもあって、まだ会えていない。
アクレイは当主だから多忙だと、今回の叙爵式にも来なかった。
その代わり多くの祝儀を、コックロと共に贈ってもらったが。
だがオッサツイホ侯爵領も多く魔物が出る土地だった。
だからこそ強烈なまでの実力主義であり、僕は迫害され出奔し、あの子は当主となったのだ。
きっと彼女は今も大変な思いをしているだろう。
「王国には伝えたが、返答は芳しくない。情報源が怪しいからな」
「そうですか……」
「ナルシオのバカたれが貴族社会に利権をばら撒いたせいで、政治闘争が激しさを増している。だからこそマノワールを貴族に捻じ込めたのもあるが……」
ヴェンリノーブル侯爵は鋭い視線で、馬車の小窓を睨みつける。
忌々しいという気持ちは僕も同じだ。
人の命が、自分の命が懸かっているかもしれないのに、何という怠惰なのか。
馬車の外にはオーエラさんのようなOL姿の女性が、石畳の上を闊歩している。
僕達とは無縁の彼女たちは、こんな政争にも距離を置いていられるのが羨ましい。
前までは僕もあちら側だったんだけれどな。
「儂は確信している。明らかに異常だ。軍部の者たちは危機感を覚えているが、大体のバカ貴族は、目先のことしか見えておらん。そもそもこの事態を知らないか、忘れている者すらそれなりにいる」
「子ども時代から思っておりましたが、とことん腐ってますね」
侯爵は腕を組んで黙り込んで瞠目した。
彼に嫌味を言ってしまったかな。失敗した。
彼の部下たちは中々に多く汚職をしており、多くが奴隷となった。
僕に皮肉を言われたのかと勘違いされたのかもしれない。
気を害してしまったかと、冷や汗が背中に伝う。
「耳が痛い話だ。だが出来る限りは尽くす。前にも話したが要塞線を全力で作ってほしい。マノワールたちが報告してくれた大戦争が起こるとなれば、足手纏いになる領民は要らない。避難させる時間すら惜しくなる」
「わかりました。すでに大半は完成しております。職人たちも慣れてきたので、もう私がいなくとも進むでしょう。あとは私の領だけですので」
「ありがたい。マノワールのような有能な人材を得られたことは、我が人生の誇りだ。引き続き頼みたい」
「恐れ入ります。微力を尽くします」
今のところ要塞線はヴェンリノーブル侯爵領と、コックロの領地まで引き延ばされている。
現在着手している段階は、僕の同僚である侯爵傘下の貴族たちの領地だ。
好感度を稼ぐためといえば聞こえは悪いが、彼らを優先して要塞線を作った。
これで成り上り者の僕に対して、好意的になってくれるといいな。
帰ったら建築作業だな。
楽しい仕事だからいいけど。
もちろんお金は貰えるし、趣味と仕事を両立できるようになって感慨深い。
「王女殿下だけは信じて下さり、外交に赴かれているが……あの無気力な王と、殿下たちではな……王女殿下だけでは何とかなると思えん」
「それは……」
返答は求めていなかったのだろう。
彼は瞠目して、腕を組んだ。
黙考する時の合図だ。
僕は無言で頭を下げた。
魔物だけではない。
近頃は王国政治も不安定だ。
僕たちの行く末はどうなってしまうのだろうか。
空には未来を示すかのような、暗雲が広がっていた。
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