表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/241

第124話 「適当極まりない叙爵式」




それから半年近く経ち、僕は41歳になった。

魔物たちが攻めてくる兆候はない。


 僕たちは要塞線をある程度完成させた。

 戦争準備も侯爵の下で出来ているが、まぁそれ以外の領地ではお察しだ。

 芳しくないことばかりが続いていて、きな臭い。




「あ~はいはい叙爵ね。しといたから、もう帰っていいよ」


「この度は誠にありがとうございました。陛下には何卒よろしくお伝えください」


「はいはい。それでは失礼」


 それがこの叙爵式のはずの、只の書類手続きと小さな部屋での形式的説明会である。

 同席しているのは、まるで興味なさげな法衣貴族くらいしかいない。

 それも若くて、下っ端にしか見えない者たちばかりだ。


 あくびまでしている。

 完全に適当だ。




「……」



 完全に怒気が噴出しているヴェンリノーブル侯爵。

 そりゃそうだ。

 彼の肝入りで僕は貴族となり、後押しを受けている羞恥さえrているはずなのにこの待遇なのだから。


 慣例では王が自ら出るはずなのに、まさか王族すら出てこないとは。

 セインセス様は学園生なのに、あちこちの領地を飛び回る程多忙だし。

 



 この国も魔物がいなくとも、中々に終わっているな。

 実家にいた時に、散々思い知らされたけど。

その帰りに馬車の中で相談する。






「適当過ぎましたね。練習は無駄にはならないですが、拍子抜けです。マイナスの意味で」


「完全に儂らを舐めておる。マノワールを派閥の一員としていると目される、儂の面目すら潰しているのだから」


「心中お察しいたします。侯爵はこんなにも精力的に働かれておられるのに……魔物たちの大侵攻のことも、彼らはまだ放置をしているのでしょうか?」


 それとなく話題を変えておく。

 だが非常に気になる事柄だ。

 魔物たちと戦争になれば、国境線の僕たちは当然負担は重い。


 そして大事なあの子も……

 領地が遠いのもあって、まだ会えていない。

 アクレイは当主だから多忙だと、今回の叙爵式にも来なかった。

 その代わり多くの祝儀を、コックロと共に贈ってもらったが。


 だがオッサツイホ侯爵領も多く魔物が出る土地だった。

 だからこそ強烈なまでの実力主義であり、僕は迫害され出奔し、あの子は当主となったのだ。

 きっと彼女は今も大変な思いをしているだろう。






「王国には伝えたが、返答は芳しくない。情報源が怪しいからな」


「そうですか……」


「ナルシオのバカたれが貴族社会に利権をばら撒いたせいで、政治闘争が激しさを増している。だからこそマノワールを貴族に捻じ込めたのもあるが……」


 ヴェンリノーブル侯爵は鋭い視線で、馬車の小窓を睨みつける。

 忌々しいという気持ちは僕も同じだ。

 人の命が、自分の命が懸かっているかもしれないのに、何という怠惰なのか。


 馬車の外にはオーエラさんのようなOL姿の女性が、石畳の上を闊歩している。

 僕達とは無縁の彼女たちは、こんな政争にも距離を置いていられるのが羨ましい。

 前までは僕もあちら側だったんだけれどな。




「儂は確信している。明らかに異常だ。軍部の者たちは危機感を覚えているが、大体のバカ貴族は、目先のことしか見えておらん。そもそもこの事態を知らないか、忘れている者すらそれなりにいる」



「子ども時代から思っておりましたが、とことん腐ってますね」



 侯爵は腕を組んで黙り込んで瞠目した。

 彼に嫌味を言ってしまったかな。失敗した。


 彼の部下たちは中々に多く汚職をしており、多くが奴隷となった。

 僕に皮肉を言われたのかと勘違いされたのかもしれない。

 気を害してしまったかと、冷や汗が背中に伝う。






「耳が痛い話だ。だが出来る限りは尽くす。前にも話したが要塞線を全力で作ってほしい。マノワールたちが報告してくれた大戦争が起こるとなれば、足手纏いになる領民は要らない。避難させる時間すら惜しくなる」



「わかりました。すでに大半は完成しております。職人たちも慣れてきたので、もう私がいなくとも進むでしょう。あとは私の領だけですので」



「ありがたい。マノワールのような有能な人材を得られたことは、我が人生の誇りだ。引き続き頼みたい」



「恐れ入ります。微力を尽くします」



 今のところ要塞線はヴェンリノーブル侯爵領と、コックロの領地まで引き延ばされている。

 現在着手している段階は、僕の同僚である侯爵傘下の貴族たちの領地だ。


 好感度を稼ぐためといえば聞こえは悪いが、彼らを優先して要塞線を作った。

 これで成り上り者の僕に対して、好意的になってくれるといいな。



 

 帰ったら建築作業だな。

 楽しい仕事だからいいけど。

 もちろんお金は貰えるし、趣味と仕事を両立できるようになって感慨深い。




「王女殿下だけは信じて下さり、外交に赴かれているが……あの無気力な王と、殿下たちではな……王女殿下だけでは何とかなると思えん」


「それは……」


 返答は求めていなかったのだろう。

 彼は瞠目して、腕を組んだ。

 黙考する時の合図だ。


 僕は無言で頭を下げた。

 魔物だけではない。

 近頃は王国政治も不安定だ。




 僕たちの行く末はどうなってしまうのだろうか。

 空には未来を示すかのような、暗雲が広がっていた。










面白い、または続きが読みたいと思った方は、


広告下↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓の☆☆☆☆☆から評価


またはレビュー、ブックマークしていただけると、モチベーションに繋がりますので執筆の励みになります!!!!!!!!!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


旧作も読んでくださると嬉しいです!

 『異世界神様チート貴族転生したら、女装して女学園に通って悪役令嬢を誑かして婚約破棄させるように言われた。クラス転生していた悪役令嬢に男バレして追放されたがもう遅い。聖女(?)として復讐だざまぁ!』

テンプレ末期戦異世界チート転生女学園潜入もの書いてます。
こんなタイトルですが、神々の争いに主人公が巻き込まれるシリアス戦記です
 

 『追放ザマぁジャンルの研鑽について、また個人的対策案の成否に関する所感』

初エッセイです。本作品を基に書きました。
また初創作論です。
追放ザマぁジャンルを執筆する作者として、自分なりに反省点を交えた考察。
追放ザマぁの構造的問題への解決につながるかもしれないアプローチ。
新追放ザマぁシステム『連続追放』を通して分析することで、違和感なく楽しみながら完読できる小説を目指すという、ジャンル全体における質の向上を目標とする文章です。
皆さんの目で、お確かめ頂ければともいます。


一日一回投票いただけると励みになります!(クリックだけでOK)

小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
[良い点] 魔王軍が侵攻してくるかもしれない事態なのに、貴族たちは呑気なものですね。懸命に動いているヴェンリノーブル侯爵対しても、失礼すぎる態度で先が思いやられます。 そんななか着々と防衛線を張るマ…
[良い点]  思った以上の腐りよう……これは王国全体がざまあ対象か!?  マノワール領はノアの方舟になるのかも……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ