第119話 「マノワール男爵誕生」
ヴェンリノーブル侯爵は厳かに頷く。
いったい何を考えて、こんな有り得ない大出世をさせたのだろうか?
「マノワール殿は貴族から狙われている。ここで地位がなければ、良いことにはならんだろう。客観的視点から身の安全を図るためにも、受け入れるべきだ」
政治的に押し潰されてしまい、四方八方を敵に囲まれてしまえば仲間たちを護れない。
苦渋の決断だが、貴族社会に飛び込まなければならない。
因果なことだ。
今になってまた貴族になるとは。
「安心してくれ。必要なものは全て儂が用意する。すでにセインセス王女殿下の後押しを受けて、内示は頂いている。そしてあなたの従姉だと名乗り出た、オッサツイホ侯爵家当主にも。これであれば他の貴族たちも手出しはできんはずだ。しかし領民がいないので募集することになるが……汚職貴族によるマノワール殿の追放事件があって、領主など信用できないと他領へ移ってしまったのだ」
「承知いたしました。謹んで受けさせていただきます。私がアクレイ侯爵様の従兄であるのは事実です。それにしても王女殿下が? それはなぜ……ここまで追い詰められた僕が、縋ったつもりではありませんでしたが」
アクレイが僕を助けてくれたのか……
今は無理だが、礼に行かなくてはな。
僕のことをどこかで知って、動いてくれたのだ。
あの情けなく別れた、どうしようもない男を。
これまでに精神的に追い込まれていたのもあって、思わず涙が溢れそうになった。
しかし王女が僕に貸しを作るように、支援してきたとは。
悪い人ではないし国のために身を粉にして働くお方だが、何を企んでいるのだろう?
「やはりあなたは元貴族であったか……節々に垣間見える洗練された所作から、薄々は所縁の者であるとは気づいていた。それはさておき王女殿下の狙いは、恐らくは政敵である者たちへの対抗措置だろう」
「政敵への対抗措置ですか」
「うむ。彼女は魔法に優れてはいるが、個人で動かせる軍事力がない。武力に優れるマノワール殿を取り込んで、自派閥を補強したいのだろう。あのナルシオを倒し、ダンジョンボスや魔王幹部を倒した英雄であるのだしな。お前の名は王国中で売れ、民から圧倒的な支持を受けている」
「それは……恐縮です」
「だが成り上がりは疎まれる。儂の言えることではないが、多くの人間が敵愾心をマノワール殿に抱くだろう。それを利用しようとしているのかもしれん。王女殿下は」
怖いお方だ。
だが渡りに船なのだろう。
ありがたく利用させてもらうとしよう。
本当はこれも嫌だが、背に腹は代えられない。
僕は仲間たちの命を預かる、責任ある大人なのだから。
僕ももういい年だ。
いやだいやだと逃げ続け、仲間たちに不自由な生活を送らせるのは本意ではない。
嫌であっても妥協をすべきところだろう。
「叙爵式は延長させてもらった。色々準備もあるだろうしな。しばらくは休んでほしい。相当に追い込まれていると聞いたのでな。負担はかけたくない」
「お言葉に甘えさせていただきます。よろしくお願いいたします」
「うむ。よろしく頼む。あとはコックロと協力して、領地運営をしてくれ。文官は儂から出すが、諸々の意味で予行演習だと思ってくれればいい! なっ!!!!!!」
「なっ!? 当主様! お兄ちゃんと私を何だと思っていらっしゃるのですか!?」
「「「「…………」」」」
何故かウィンクする侯爵。
それに対してコックロは赤面しておろおろしている。
何のことだ?
女性陣は急に無表情になったし。
僕以外はわかっているのかな?
後で聞いてみよう……
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