第118話 「ヴェンリノーブル侯爵との再会」
学園長が手配した馬車に揺られて、僕たちは澱んだ空気で目的地へと向かう。
僕はもう辛すぎて、食事も喉を通らない。
仲間から気遣われるたびに、心が痛む。
僕は昔から何も変わらない、ダメな奴だ。
「はぁ……いい加減鬱になりそうだ。どれだけ追放されるんだ僕は。そういう星の元に生まれてきたのだろうか」
「マノワールさん……」
「マノワール。私をパラフィリオから救ってくれた時にも言ったはずだ。追い込まれた時は私が支える。大丈夫だ。金はあるから養ってやるからな」
「いやそれは……流石に何かしらで働くよ」
何かしていないと気が滅入る。
今まで仕事人間だったから、ここで折れたらもう何もできない気がする。
でも気力が復活する気配はない。
あれだけ夢だった建築職に転職することも、もう意気込みを失くしていた。
新たな人間関係を築くことすら、心が拒んでいた。
どれだけ人の醜い部分を見せつけられるというのだ。
僕はもう他人に期待するのをやめ始めていた。
「もう隠居しよう。ここが人生のゴールでいいや。静かに暮らそう。何もしないでいれば何にも巻き込まれないはず」
「お兄ちゃん……」
「マノワールさんがそうしたいなら、隣でずっと応援するニャ。それが妻としての役目ですニャ」
温かく受け入れてくれる、大切な仲間たち。
ダメだ。ミーニャが妻になるとかいう幻聴まで聞こえ始めた。
精神を病み始めているのだろうと、今になって自覚できた。
彼女たちが立派に現状を受け入れているのを見ると、自分が嫌になるばかりで。
仲間たちから体ごと視線を逸らした。
そうして馬車に揺られながら、長い旅をする。
自然の中でゆったりとした時間を過ごしたことで、少しはリフレッシュにもなった。
そうして数週間の旅を終え、懐かしき風景にたどり着いた。
馬車から出た途端、ヴェンリノーブル侯爵から出迎えられる。
「マノワール殿。長旅ご苦労だった。そして済まなかった。この通りだ」
「そのようなことをされないでくださいヴェンリノーブル侯爵!? 頭をお上げください!」
貴族が頭を下げるという事は、完全に自分が悪いと認めたという事。
衝撃から久しぶりに大声を出した気がする。
こんなところを誰かほかの人に見られたら、ただ事ではなくなる。
しかしここには使用人どころか、護衛の騎士すらいない様子で、
僕たちの糾弾を、彼は全面的に受け入れるという言外の意思表示なのだろう。
「我々がした仕打ちを、許してももらおうとは思わん。部下の失態は、私の失態。我が身の不明を恥じるばかりだ。何も言わないで謝罪を受け取ってほしい。そうでなければ儂は男としても無様に生き続けることになる」
「それは……いえ。わかりました。謝罪を受け取りましょう」
貴族の端くれであった僕にはわかる。
彼が真摯に謝罪し、どんな罵倒も受け入れる覚悟だという事を。
それが貴族のプライドを著しく傷つけることだという事を。
「ありがとう…………コックロ。お前の働きは、見事であった。そして申し訳なかった。コックロを騎士爵から男爵に引き上げ、国境地帯に領地を与える手筈になっている。受けとってほしい」
「私ですか!? 私など敵に一撃でやられただけで」
「それが時間稼ぎになったと聞いている。お前がいなければ、領地はとんでもない事になっていただろう。もちろんこれは褒美であり、謝罪の品は別に用意させる。希望があれば言って欲しい」
「ありがたき幸せでございます」
何とコックロは男爵位を得た。
久しぶりのいいニュースだ。
後でお祝いしてやろう。
彼女の頑張りが浮かばれてよかった。
妹分の出世に、心が癒されるのを感じる。
「マノワール殿。あなたにも爵位を叙したい。コックロと同じ男爵位であなたを迎えたい」
「爵位!? 私にですか!?!?!?」
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