第117話 「学園長の謝罪」
僕たちは暗い面持ちで行く当てもなく歩いていたところ、何者かが馬を駆って近づいてくる。
緩慢と首をあげて、何者かを把握した。
学園長だ。
あの場にいなかったが、出張か何かでどこかに行っていたのだろう。
タキシードとシルクハットを被ったフォーマルな出で立ちだが、砂埃に塗れている。
余程に急いで来たようだ。
「マノワール殿ぉぉぉぉぉ!!!!!」
「学園長……わざわざご挨拶に着てくださり、誠にありがとうございました。お世話になったのに挨拶もできず申し訳ございませんでした」
もう終わったことだ。
学園長といえど、今更覆せるはずもない。
あれだけ貴族たちが束になれば敵うはずもないと、政治に疎い僕でもわかる。
つまり僕たちの追放はまたしても確定した。
貴族たちにも睨まれて、これからどう生きていくべきか。
「何をおっしゃるのですマノワール殿!?!?!? 謝らなければならないのは私の方です! 本当に申し訳ない! まさか儂の出張中にあなたの追放を、理事のほぼすべてが賛成するとは!?」
「いえ。お気になさらず。ここでの経験は得難い物でした」
僕は虚ろな目で何とか言葉を口にする。
あそこまで体を張って頑張ったはずなのに、何だこの仕打ちは。
痛い思いをして、あんな奴と接してまで、得たものは追放。
もう人生を色々諦めていた。
精神が非常に乱されて、何もする気が起きない。
「このお詫びは。取り急ぎ金銭ですがお納めください。しばらくの間の路銀にくらいはなるかと。このお詫びは改めてさせて頂きます! どうかご容赦を!」
「いえ。受け取れませんよ」
「大恩人に対してこの仕打ち! 断られては私はこの社会で生きておられません!? どうか私のためと思って、もちろんこれで恩が返せたとは思っておりませんので、どうか何卒!!!」
荒く息をしながら、必死に頭を下げる学園長。
どう見ても貴人のこの人に、街中で頭を下げられると所在なさすぎる。
5人の仲間たちも居心地悪そうに、野次馬からの視線に耐えている。
困ったな。
これ以上政治のあれこれに巻き込まれるのは、とにかく避けたいんだけれど。
「それと兄のところに秘密裏に避難をしてください。この学園を含めて、他の領地は危険です。マノワール殿たちを狙っているかもしれない! ヴェンリノーブル領であればすでに悪徳貴族共は処分されましたので、ご安心して暮らすことができるかと」
「やはり……」
「そんな……でも確かに今の状況はマズいかもしれません!」
「ニンメイさんの言う通りです! 私たちは今大変追い込められております!」
ニンメイちゃんとオーエラさんが泡を食ったように騒いでいる。
確かにマズいのかもしれないと、僕は言われるがままに無気力に流れに身を任せる。
もう考えることを放棄していた。
ここで学園長にまで裏切られたら、でもそうなったら仕方ないか。
それほどまでに今の自分は、半ば自暴自棄に陥っていた。
「手配した馬車がやってきました! 急ぎこちらへ!」
「はい。色々ありがとうございました……」
安住の地をやっと得たと思っていたのに、
もう皆のことを守って綺麗に死ねるなら、そんな感じでいいや。
適当に考えながら、死んだ目で馬車に乗り込む。
「ナルシオ。どんな手を使ったんだ……理で動く貴族たちが、まさかお願いしただけで動くとも思えぬし。あのセインセス様の目を掻い潜って、短時間で事を運べるとは思いもしなかった。何が起きているんだ……」
学園長は様々な感情が入り混じった、辛酸をこれでもかと舐めたような表情をする。
彼はナルシオが自身を切り売りするような手を使って、マノワールに復讐しようとしたとは考えられないようだ。
当然であるが、狂人の思考というのは、誰にも読めないもの。
そしてヴェンリノーブル侯爵の弟は空を見上げて、力なく言葉を口にした。
「出来ることをしなければ。この国は問題が多すぎて、もう終わりかもしれないが」
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