第104話 「カース王国王女によるヒント」
次の日僕は図書室に籠っていた。
ナルシオはクラスにいるみたいで、鉢合わせしたくない。
少し冷却期間を置こうと思った。
喧嘩を吹っ掛けられても困るしね。
だからこうして資料を見つめているわけだ。
「職業大全、ステータスについての諸見解、伝説の職業……う~んこれだけ読破しても、全然見えてこないな」
学園図書館には多くの資料があり、どれも貴重なものだ。
ここの史書さんに聞いて、権威ある学術誌を総ざらいして調べた。
あらゆる職業を網羅した本には、その対策なども書いてあり。
しかし肝心の調査事項2つについては、何の情報もない。
「マザコン対策に、自宅警備員の真価か……でも僕以外にそんな職業についていた人なんて、聞いたこともない。ここにも書いていないなら、お手上げかもな……」
「マノワールさん。ごきげんよう」
「これはセインセス様。ご機嫌麗しゅうございます」
そんな折に、通りかかったのが王女殿下。
僕は椅子から立ち上がって、腰を折り曲げて礼を取った。
今は授業時間だ。
僕に何か用があって、彼女はここにいるのだろう。
つまりこの場には司書さんしかいないのだから、学内で密談するために赴いてきたのだ。
一体何を要求されるのかと、緊張感で体は強張る。
「怪我をしておられますね。回復をいたしましょう」
「ありがとうございます。セインセス様のお手数を煩わせてしまい、申し訳ない限りです」
「学友ですもの。気になさらないでください」
優しく微笑む、卓越した回復魔法の使い手。
これが彼女が学内で慕われる所以であろう。
彼女の声望は、友人の少ない自分にまで届くほどだ。
聞けばファンクラブがある程に、優秀かつ人気があるらしい。
実際にファンたちの様子を見ると、とんでもない熱狂ぶりだとわかる。
「先日の一件は遠くからでしたが、多くの者が見ておりました。わたしもマノワールさんを応援していたのですが、残念でしたわね」
「これは情けない姿をお見せいたしました。僕では止めきれなかったようで」
落ち込みながら、ナルシオとの戦いについて僕は答えた。
この言葉を聞くに、彼女もナナルシオには辟易しているのだろう。
彼女も困らされているのかもな。
もしかしたら口説かれていたりして。
仲間だけでなく迷惑をかけられているとなれば、あのナルシオを更に食い止めようとしなければ。
「あそこまでナルシオ様に対抗した方を、私は見たことがございません。誇るべきですわ」
「ありがとうございます。しかし私はまだまだ未熟の身。自身の職業の真価すら把握していない中で、誇ることなどはとても」
「自宅警備員の真価ですか。私も初めて耳にする職業です。しかし考察をすることはできるかと」
「それは真でしょうか! 少しでも教えて頂ければ嬉しい限りです」
話題がてらに先日の課題を振ってみたら、思わぬ返答が。
せめてヒントになればいい。
僕は王女殿下に願い出た。
「ええもちろんです。そもそも自宅とは、どういった概念なのでしょうか? 自宅警備員は自宅に対して、何をどの程度までできるのでしょうか?」
「確かに……ある程度は調べましたが、最近は深く考えてもみませんでした。確かに自宅の出来ることについて、全て試しているとは言えない」
自宅警備員は何ができるのか。
今まではステータスのごり押しで、敵を倒していたにすぎない。
だが自宅を警備するとは、どういう事なのか。
巨大な剣の形をした構築物すら、自宅と認識された。
しかし自分名義で住んでいた賃貸住宅でも、実家でも自宅とは認識されなかった。
それを追求することで、何かわかるかもしれない。
自宅警備とは、いったいどういうことなのだろうか?
「自らの出来ることを把握し、敵を知る事。それが戦の鉄則だと、浅学ながら念を押したく」
「いえ。王女殿下の深いご見識、御見それいたしました」
「特に何かをしたつもりはございませんが、お役に立てたのならば何よりです」
すごくためになった会話だった。
学内で屈指の才媛といわれるだけはある。
魔法や政務、学問のみならず尋常ではない人だな。
感謝はするが、同時に警戒心も比例する。
柔らかく微笑むこの女性は、油断してはならない弁舌力を有している。
「そしてもう一つ。職業マザコンには明確な弱点がございますわ。マザコン自体が抱える弱点。それを突けばいいのです。国家戦力を削るような真似はしたくありませんが、多大なる貢献をしてくれたあなたならば、それすら上回る働きをしてくれることでしょう」
「マザコンの弱点……?」
何か重大なことを聞いたかもしれない。
弱点があるとは、その内容までは聞けるかな?
いややめておこう。何を請求されるか、わかったもんじゃない。
しかしなぜこんなに肩入れしてくるのだろうか?
事の次第によっては、多大なる恩を売りつけられたかもしれない。
最悪は逃げてもいいナルシオとの問題で、型に嵌められるような話を続けてしまったのは悪手だったか。
気軽に聞いたのは失敗だったかと、冷や汗をかく。
「世間話に付き合って下さり、ありがとうございました。またよろしければお願いいたします」
「こちらこそ貴重なお話をありがとうございました。何か掴めた気がします!」
「それは何よりでございます。それでは失礼」
本当に彼女は何故このようなことを教えてくれたんだろう?
僕に何を求めているのか。
世間話とは言うが、楽し気な雰囲気すらほとんどせず、
まるで取引染みた事務的なやり取りに終始していた。
後姿すら美しい彼女の姿を、僕は食い入るように観察しながら見送った。
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