Epilogue
■狼谷 赤奈
「っていう話さ。どうだい?薦めた側としては満足かい?」
「あぁ!とても満足した!」
私にFantasia Onlineを勧めた友人……黒咲 蓮を家に招き、始めてからボスを討伐するまでの話を多少端折りながら話していた。
当初は彼も一緒にプレイする予定ではあったものの、別の予定が被ってしまったために私のプレイ状況を聞いて満足しているらしい。
「しっかし、君からこういう話を振ってくるとは思ってなかったぜ」
「そうかい?!でもそうだねぇ……少しはあの頃から大人になったってことさ」
「むしろこういうのは童心に戻ったっていうべきだとは思うけどね」
元々はそこまで話す仲ではなかったとは言え、こうやってゲームの話で盛り上がることなどなかった。
何というか、生きている世界が違うといっても過言ではない立ち位置にいたのが彼なのだ。
「いやぁー……でもいいね!ボスも仲間に出来るなんて!」
「あぁそこは私も驚いた。他のボスも仲間に出来るといいんだけど」
「ん?何かしらの条件がありそうってことかな?!」
「そういうこと。今回でいうなら……スーちゃんの存在かもねぇ……」
掲示板にはあぁ書いたものの、もしかしたら何かしらの条件があったのかもしれない。
今回の古ノ狼ならば、私の【契約】している『小さな赤頭巾ちゃんの生と死』の赤頭巾……スーちゃんがいたからこそかもしれないし、そうじゃないかもしれない。
かもしれないでしか語れないために、考えても仕方ないことなのだが……それでも自分で情報発信した手前考えてしまう。
「成程、特殊条件があるパターン……!いやまぁ当然じゃないかい?!」
「まぁね。ボスを仲間に出来るって時点で破格ではあるだろうし」
「俺だったらそうするし、どうせ運営もそうしてるだろうさ!あとで検証自体は必要だろうけど!」
彼特有の喋り方に少しだけ顔を顰めつつ。
私は席を立つ。
「そういえば家に招いたというのに何も出してなかったね。紅茶でもいいかい?」
「あぁ!出来ればお茶請けはクッキーだとありがたいな!」
「オーケィ。じゃあ少しだけ待ってて」
手早くお湯とコップに注ぎティーパックを入れ。
市販のクッキーを皿に移し、蓮の待つリビングへと戻った。
「そういえば、今君は何やってるんだい?学生時代は割と失踪というか……いなくなってたけど」
「今?!今はそこまで活動的には動いてないさ!探偵みたいな事しかしてないぜ!」
「あぁー探偵……似合いそうだねぇ。声の大きさ以外」
他愛のない、そんな雑談のような会話を交わしながら。
適当にFantasia Onlineに纏わる話なんかもだらだらとしていた。
久しく交わしていなかった人との交流だ。苦手でもある程度は味わうべきだろう。
「失礼な!……とと、何やらFantasia Onlineの公式から発表があるみたいだぜ?!」
「ほう?サービス開始から特に動きなかったから今更なんだろう?」
蓮に言われ、私は自分の端末でFantasia Onlineの公式サイトを開き何か最新の情報がないかと探そうとする……が、それをする必要もなく。
大きく表示された文字が確認できた。
「おぉ、一回目のイベント開催」
「いいね!サバイバルらしいぜ?!」
「サバイバル系の知識は全くないけどね。……君はどうするんだい?やるの?」
「あー……一応時間は取れたからやろうとは思ってる!」
「じゃあもしかしたらゲーム内で会う事もありそうだねぇ」
もしそうなったら、彼と一緒に冒険することもあるのだろうなと思い……少しだけ、その未来が楽しみな自分がいることに気が付いた。
「ちなみに、プレイヤーネームはどうするんだい?」
「んんー……候補はたくさんあるんだが……!あの名前にするとするよ」
「ほう?というと昔から使ってる?」
「そう、『ガビーロール』さ!分かりやすいだろう?!」
その答えを聞いた私は苦笑いを返してしまう。
私と同じようなものだからだ。
「あは、いいけれど……多分名前決める時にAIから色々言われるぜ?」
「というと……君も言われた口だね!?」
「そうだねぇ。私なんか『赤ずきん』だから。そりゃ言われるさ」
お互い、昔からハンドルネームとして使っている名前だ。
童話が溢れている世界ならばなじむだろうが、それは登場人物だからこその話。
プレイヤーとして考えるならば……まぁ、変な奴だと思われるくらいだろう。
元々私達は変な奴なのだから、そこまで関係ないのだが。
「じゃあイベント前までには合流しようか。私は当分最初の街から出る気ないからさ」
「おや、本当かい!?でもどうして!」
「あぁ、言ったろう?【木工】スキルをもっと使っていきたいんだよ。元より私は戦闘メインなプレイヤーじゃないからね」
「成程!」
そう、暫く私は街から出ない。
……と、言っても、材料が足りなくなればルプス森林から採ってくる程度の事はするだろうが、それくらいだ。
それにあんまり1人で外を歩きたくないという考えもある。
「まぁ、君と合流した時にはある程度の装備は融通するぜ。……とと、時間は大丈夫?」
「おぉ!もうこんな時間か!お邪魔して申し訳ないな!ではここらで失礼しよう!」
「はいはい、じゃあインするときに連絡頂戴ね。端末とアカウント紐づけしてあるからゲーム内にいても受け取れるから」
「了解!」
そんな会話を交わし、蓮は去っていった。
相も変わらず元気な男だ、そう思いつつ私は自室のVR機器を頭に被り起動する。
今日も今日とて童話の世界でやることがあるのだ。
意識がスゥ……とどこか深いところへと落ちていく。
眠りよりも深く深く何処かへと落ちていく。
この感覚は、まぁなんだかんだ言って嫌いじゃない。
いや、どちらかと言えば……好きになってきたかもしれない。
この感覚の先に、私を待っててくれる人たちがいるのだから。
というわけで、ここで一旦の完結とさせていただきます。
ここまで読んでくださりありがとうございました!




