Episode 34
ここで1つ、昨今のVRゲームにおける問題を挙げておく。
それはどこまで行っても現実の素質が付き纏うことだ。
現実の素質。
頭の回転でも、運動神経でも、とにかくその個人が持つ能力のことだ。
勿論、その素質は経験によって伸ばすことができる。
人間は成長し考えることができる生き物だ。
では、この問題が何故広く『問題』として捉えられているのか。
簡単な話だ。
プレイヤーがそれらを理由に、最大限サポートしているゲーム側を批判するためだ。
『アレが出来ないのは、ゲームのせい』
『私は悪くない。しっかりサポートしない運営が悪い』
そんな意見がお約束のように噴出する。
当たり前だ。個人の素質が関わってくるのなら、いくらゲーム側がサポートしても意味がない。
スキニットが良い例だろう。
聞けば、彼は別のゲーム内で触れるまで現実でも弓というものに全く縁のない生活を送っていた。
勿論初めは何とか弦を引き、矢を射るものの、それが狙った場所とは見当違いの場所へと行ってしまうこともしばしばあったらしい。
しかしそこで彼は練習した。
練習し、安定して的に当てられるようになったために……私との決闘でも弓を武器として使うことが出来た。
さて。
ここまで長い事話したものの、何が言いたいかと言えば。
私は、どのゲームでも『銃』という武器種を使ったことがないということだ。
長ったらしく語ってはみたものの、結局の話はそれだけ。
狙いをつけ、引き金を引く。
この程度の知識しかない。
「だからちょっと頼んだ、アーちゃん」
((長ったらしく考えてると思ったら……撃つのはこっちで代行するわ。思った以上に……))
アーちゃんの呆れたような声が頭に響くと同時、私の周囲の空中に波紋のようなモノが複数出現した。
((自由に出来るみたいだしね))
波紋から少しずつ棒状の何かが出てきたと思えば。
それは私が持つマスケット銃の銃身と同じものだった。
合計4丁分の銃身は、今もなおスーちゃんに攻撃を仕掛ける古ノ狼の方へとその銃口を向けていた。
「オーケィ、特攻隊長。撃てるのかい?」
((撃てるわ。でも同時展開数はこれが最大。レベル的な意味でね))
「ならよし。マニュアル操作なのは誤射も少なそうだし良い事だねぇ」
そんなことを言いながら、私は駆け出した。
どんなに誤射を少なく出来るといっても、スキニットやスーちゃん、サーちゃんのように近距離、中距離をメインに戦うメンツがいるのだ。
出来る限り近付いて撃ってもらったほうが、その確率も低く出来る。
しかしながら、私の被弾する確率もまた増えるのだが。
『お、おい!君!』
『馬鹿ねジョン。あぁいうのは言っても止まらないわ。勿論力づくでも。なら……』
何やらスキニット側の登場人物たちに言われているものの。
今それを気にしている暇はない。
彼我の距離は凡そ30メートル。
戦闘の余波がこちらまで届く距離感。
だからこそ、今の今までターゲットとして立ち回りながら攻撃を仕掛けているスーちゃんに驚愕する。
古ノ狼の拳を、蹴りを、タックルを、フェイントを、その他全ての肉体を使った攻撃を、彼女はスキルによって捌いていく。
【浮遊霊の恋慕】によって相手の攻撃の減速と、その狙いをずらし。
【その脅威は這い寄るように】による不可視の刃を盾のように使い、身体に当たるギリギリの位置で避けていく。
私がスキルに慣れていないからこそ出来ていなかった防御方法を見せられ、感心すると同時。
これだけやっても攻撃の手を緩めない古ノ狼のスペックに苦笑する。
「スキニットくん!」
「おぉ来たか!また奇妙なもんつけやがって」
「その話は後で。聞きたいんだけど【飢餓】って状態異常に聞き覚えは?」
「ない、が。今フレンドから返答があった。所謂防御ダウンと移動速度低下の複合異常らしい。……少なくとももう少し後のフィールドから出るであろう異常だとよ」
聞いたフレンドの顔が1人思い当たるものの、それは一旦置いておく。
思った以上に厄介だったその効果に、どうにか解除法はないかと考えるものの。
1つ、あることに思い当たった。
「ねぇ、スキニットくんさ」
「なんだ?」
「【鑑定】取ってる?」
「そりゃ勿論……って、もしかしてそういうことか?」
「そゆこと。試してみようぜ」
システムログのことだ。
あの時、システムログには<全ての紡手、及び登場人物は【飢餓】の状態異常を強制付与されました>という一文が存在していた。
そして言動的に、古ノ狼自身も登場人物という……敵対しているものの、ルール上はこちらと同じ立ち位置なのではないかと考えたのだ。
そして実際に【鑑定】してみれば、
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【餓狼】古ノ狼 BOSS
HP:???/???
MP:???/???
ステータス:【興奮】、【飢餓】
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しっかりと、入っていた。
HPやMPの詳細量は見えないものの、状態異常が入っていることが確認できた。
それは隣にいるスキニットも同じだったらしく、こちらを見て縦に頷いた。
こちらからデバフを掛ける必要なく、向こうが勝手にデバフに掛かっている。
効果は分からないものの、あまり良い効果ではないだろう【興奮】というものも付いていた。
攻めるなら今だろう。
「よっしゃ、いくぜぃアーちゃん」
悪漢に襲われる少女を色々な意味で救う。
そんな戦闘が今改めて開始した。
……まぁ、私がそんな状況に見えるような感じにはしたんだけど。
心のうちで思ったものの、声には出さないことにした。




