Episode 26
■赤ずきん
「オラァ!」
「ヒュー、やるじゃん」
「目が慣れたらこれくらいはッ!なァ!」
スキニットの振るった剣が、近くまで来ていた劣等人狼の身体を空中に浮かせる。
空中に浮いたことで逃げ場が無くなった劣等人狼は、どこか逃げる場所を探すように手足をバタバタと動かしていたものの。
私が準備していた【その脅威は這い寄るように】の刃を突き刺したことにより、光になって消えていく。
討伐ログが流れたものの、それを気にしている余裕はない。
というのも、現在私達の周囲には数十体の人狼がこちらを囲う様に襲い掛かってきているからだ。
中層だからか、それとも他の何かによる意思か。
兎に角、私達は現在人狼たちに襲われていて。それが始まった際に、私とスキニット、サーちゃんの3人、その他登場人物たちの2グループに分断されてしまっている。
……いや、【憑依】したままだから、こっちには一応スーちゃんもいるのか。
「アーちゃん!」
『こっちは平気!それよりもサーは?!』
「サーちゃんはこっちにいる!」
『了ッ解!』
少し離れた位置で、こちらよりも早く、そして確実に人狼達を屠っていくアーちゃんは、まだまだ余裕はあるみたいで。
時折こちらの援護として銃弾が飛んでくることも多々あった。
そしてこういった場合で一番頼りにしたいと思っている登場人物……サーちゃんはと言えば。
『アッハハハハハッ!』
「こっちが平気なの、確実にあの子のおかげだもんなぁ」
今も自らが血に濡れることを躊躇わず、人狼達をモーニングスターで砕きながら迎撃している。
戦闘が始まってからずっと笑い続けているものの。理性自体は残っているのか、無闇に突っ込んでいくことはなく。
私達の近くで、私達が対応できない敵を優先して屠っていた。
【憑依】をしていないスキニット、【憑依】をしているもののスキルの制御をまだ慣れていない私という2人の足手まといがまだ死んでいないのは、ひとえに彼女のおかげだ。
(スーちゃん、索敵はどうなってる!?)
((まだ集まってきてますね。一方向……丁度アーちゃんがいる方向から来てるので、そっちに何かがあるかと))
「アーちゃん!そっちにコレの原因があるみたい!いっぱい追加来てるっぽいから一発デカいの撃ったげて!」
『へーぇ、了解!3人とも援護よろしく』
『『『了解』』』
スーちゃんに教えてもらった報告を、ある程度かみ砕きつつアーちゃんへと伝える。
その言葉に対し、彼女は突然手に持っていた銃を光へと変えたかと思えば。
バスケットから自分の身長ほどもある銃を取り出した。
……おいおい。中々ゴツゴツしてる銃をだしたなぁ。
一見すると猟銃と狙撃銃を足して割ったような見た目の銃だ。
私が示した方向へ彼女が銃を構えると、その銃身に青白い光がチラついていく。
「うっわ、アレやばいな。スキニットくん!衝撃に耐えられるように頑張って!」
「は?おいおいおい、なんだアレ!?」
スキニットに声を掛けると、彼もアーちゃんの持つ銃に気が付いたのか、あの銃を撃った時に来るであろう衝撃に耐えられるように身をかがめた。
私達の周囲に居た人狼達はといえば、そんな危ない光を放っている銃を撃たせないために、登場人物たちの方へと襲い掛かっていっていた。
『ふふ、まだ楽ね』
『アナ、油断していると死ぬぞ』
『ジョンじゃないんだから油断はしないわ』
『……』
『あら。ごめんなさいね』
手に持った骸骨のランタンから火を放ち、アーちゃんに襲い掛かる人狼たちを焼き払うアナ……バーバ・ヤーガに対し。
狩人であるジョンの普段の戦い方は、対多数には向いていない。
というのも、彼のメインの武器は大弓だ。
矢をつがえ、そして射る。
だからこそ、複数の敵と同時に戦うには工夫がいる。
そして、彼はその工夫をスキルという形で加えていた。
『【頭上は狙えずとも】。スキニットは標準的な使い方をしていたが……これはこうやって使うスキルだ』
彼が1本の矢を射った。
瞬間、それを好機とみてジョンに対し襲い掛かった人狼達が、突如横から衝撃を受けたように吹き飛んだ。
見れば、人狼たちの腹には何かが貫通したような穴が開いていて。
ズドッという音と共に頭上からジョンの足元に、先程彼が射った矢が降ってきた。
『通り道を決めてやるスキル。だからこそ、こういう無茶も出来る。見てたか?スキニット』
「……あぁ、無茶を見せられた気持ちだよ」
スキニットは苦笑いで答えているものの、目だけは真剣にその話を、光景を見て聞いていた。
そして私はと言えば、【浮遊霊の恋慕】を発動させ私とサーちゃんの身体を固定する。
スキニットの方も固定しようか迷ったものの、彼は彼で何かのスキルを使っているようで、地面に穴を掘っていたためそのままにしておいた。
『撃つわよー!』
元気よく叫ぶように声をあげたアーちゃんの声に対し、反応出来る者全員が反応した後。
彼女は引き金を引いた。




