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赤ずきんは童話の世界で今日も征く  作者: 柿の種


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Episode 21


矢が弾かれた事が問題ではない。

それを弾いたものが見えなかったのが問題だ。

一撃喰らってしまったら負けのこのルールで、相手の攻撃・防御手段が分からないというのはかなり不味い。


今もこちらへと向かって走ってきている姿は、やはり戦闘慣れしているとは言い難い足運び。

接近戦を行うために近づくというよりは、接近すること(・・・・・・)自体が目的のような。


「チッ……ジョン!何か無いのか!?」

((生憎とよーいドンでの決闘で使えるようなものは……腰の辺りの煙幕程度だろうか))

「十分ッ!」


見えない攻撃に対してとることが出来る策、というのはあまり多くない。

それでも相手の視覚を潰す、というのは中々にアリではある選択肢だろう。

そう思いながら、腰のベルトに付いていた煙幕を投げ、煙をその場から発生させ。


「ふふ、ごめんねぇ。それじゃあダメなんだ」


声が響く。

瞬間、風が吹き煙が晴れていき。今もなお煙を吐き出し続ける煙幕は語り部によって野次馬の方へと蹴られてしまう。


……何でもありかよ、クソッ。

矢を一気に何本か射る。

【憑依】中だからか、もしくはゲームの補正か。

力任せに射った3本の矢は目標である語り部へと真っ直ぐ進んでいき、


「【浮遊霊(アモラ・)の恋慕(アニマ)】」

「そんなんアリか!?」

「出来るからアリなのさ」


その全てが彼女の目の前でピタッと止まった。

そしてそのままくるりと周り、鏃がこちらに向いたかと思えば。


「いっておいで」


語り部の優しい声と共に、それらが俺に向かって最発進し始めた。


「クッソ!まだ切る気なかったのによ!【頭上は(アイム・)狙えずとも(ウィリアム)】ッ!」


俺がスキルの発動を意識したと共に、手に持つ大弓が緑色に光りだす。

再度矢をつがえ、こちらへ向かってきている弓矢へ向かって3本の矢を射れば、何かに導かれたかのように矢同士でぶつかり合い空中で砕け散った。


【頭上は狙えずとも】。ジョンと【憑依】することによって使えるようになったスキルの1つ。

効果としては単純に、次射る矢がただ狙った(・・・・・)所に命中する(・・・・・・)というだけの効果。

頭判定となる部位に対しては狙えないものの、有用なスキルだ。


「おや、ホーミング系のスキルかな?ずるいなぁ」

「見えねぇ攻撃手段持ってる君が言うのか!?」

「あは、それはそれって奴だよ。……さて、行くよ」


語り部がそう呟いた瞬間、彼女はこちらへと近づくために動かしていた足の動きを緩めた。

追いつけないと思ったからか、それ以外の事情からか。

追いついてこないならば好機、そう思い再び大弓に矢をつがえようとした瞬間、それは襲ってきた。


((スキニットッ!前から何か(・・)来ている!))

「は?……ッ!」


突如、焦ったような声を頭の中に響かせたジョンに従い、出来る限り早くそして遠く跳ねた。

瞬間、じゃりじゃりじゃりという何かが地面を抉るような音と共に、俺が元居た位置の地面が掘り起こされたかのように抉れてしまっているのが見え、語り部が何か攻撃を仕掛けてきているのだと気づいたものの。

対策が練れるようなものではないと即座に判断し、弓を構える。


「うへぇ、ちょっと威力出すぎてる。もうちょい抑えていこうか」


そんな語り部の声が聞こえると同時、先程までは感じなかった背筋が凍るような嫌な予感が走る。

このままこの場に居たら不味い、そう本能が語り掛けてくるのを感じた。

それに従い、構えていた弓を下ろし再度現在位置から離れるように跳ねれば、先程とは違いズドッという音が聞こえてきた。


見れば、大き目の刃物を突き刺したかのような穴がそこには開いていて。

それに対し、満足そうに笑顔で頷いている語り部が見えてしまったからか、俺は笑う事しかできなかった。


「ははっ……おい、ジョン。ここからアレを出し抜ける何かってのはお前のスキルにあったりするのか?」

((非常に言いにくいが……))

「いや、いい。それで分かった。成程な……最後まで抗ってみせようかァ!」


声を無理やり張り上げ、こちらを興味深そうに観察している語り部へと視線を向ける。

……矢を射っても、途中で何かしらに止められてダメ。煙幕も何かに……アモラ・アニマとかいうスキルで風を起こされた。ってぇ事は……。


そこまで考え、嫌な予感を感じると共に身体を動かしその場から離脱する。

直後、また俺が居た位置の地面に穴が開いた。


(これで声出さずとも聞こえるか?ジョン)

((聞こえることには聞こえるが……なんだ?何が欲しい?))

(罠だ。トラばさみでも落とし穴でも何でもいい。とにかく罠が欲しい)


はっきり言って、回避に自分のリソースの大部分を割いている現状、勝ち目があるかと言われたらほぼないと答える以外にないだろう。

決闘、それも命の取り合いとかではない力試しのようなもの。そう考えれば、別に勝ち目がなくとも良いとは思えるのだが……それは自身のちっぽけなプライドが許さない。


どうせやるならとことん、やれるところまで。

今まで経験してきたゲームでも、勝てない勝負というのはいくつもあった。

しかしそこで諦めたことは一度もない。

今もそれと同じ。出来る限りの事をしようと考えた場合……一矢報いるには、何かしらの罠……それも相手の意識がそちらに一瞬でも捉われるような罠が必要だった。


((簡易的な落とし穴ならすぐにでも作れるが))

(条件は!?)

((特にはない。罠を出現させたい位置さえ指定してくれたらそこへと配置しよう))


今は頭の中に響く、この厄介事を持ってきてくれた男の声が頼もしく感じる。

俺は出現させたい位置をジョンへと伝え、そのまま罠の発動を語り部の攻撃を避けながら待ちに待ち。

彼女が一歩踏み出した瞬間、地面が沈み込んだ。


「おっと!?」


深さにして、おおよそ20センチ。

落とし穴にしては浅い部類だろう。しかしながら、それ以上の深さは必要ない。


語り部の視線がそちらに向いた瞬間、素早く大弓を構え矢をつがえ。

弦を引こうとした瞬間に、


((スキニットッ!))


俺の左腕が宙を舞った。


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