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契約の姫魔女  作者: 尾花となみ
契約の姫魔女
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エピローグ

二話同時投稿しています。こちらは二話目。

 準備の終わったレイスと二人、逃げるようにティバーを後にした。今日出て行くと言う事は皆に伝えてあったし、今のティバーは出て行くのも自由なのでコソコソする必要はないのだが、二人との再会と別れに泣きすぎ感情が高ぶっていたので、これ以上他の人と別れを繰り返したら顔がとんでもない事になりそうで、内緒で旅立った。

 後でブレイムとリンダとリートには怒られそうだなと思いながら、湿っぽいのはもう勘弁だ。今度はいつでも帰る事が出来るのだから大丈夫、永遠の別れじゃない。


 今のティバーに私はともかくレイスは必要だと思ったが、私を一人旅に行かせる訳もなく、一緒に行くことになった。

 旅に出ようと思った理由は何個かあるが、一番の理由は……ファンタを探す為だ。

 あの時、アントが消えたあの時、ファンタは何も言わずティバーから出て行った。てっきりアストール先生の下へ向かったと思ったが、メアリーは来てないと言っていた。そしてそのまま依然行方は分からない。

 アントの最後からファンタも異生化している事は間違いないだろう。暴走してはいなかったが、その状態で自由の身でいるのは危険すぎる。ファンタも異生を倒すことを一番にしていたが、この先どうなっていくのか分からない。

 魔石の歪んだ魔力は、どうしても人を狂わせる……。

 だから探すべきだと思ったのだ。エンプのお陰で魔力増殖装置を無力化させる事も出来る。だが、その命の事を思うと……心が苦しい。しかしこれは私がすべき事だ。アストール先生を止めることが出来なかった私は、せめてファンタを止めたい。例えそれがファンタの命を奪うことになったとしても。


 どこか活気溢れる施設を後にしながら、レイスを見上げる。当然のように付いてくると言ったレイス、嬉しかった。昔より色々と学んで強くなったとは思うが、正直不安だった。

 漠然と「ファンタを探す旅に出る」と言ったはいいが何をすればいいのか分からず行動に移せないでいた私とは違い、レイスはあっという間にカイサル先生やウィンドルフを納得させ準備を進めてくれた。

 ブレイムとは……また喧嘩しているみたいだが、もうこれはしょうがないのだろう。


「二人っきりですね」


 凄く嬉しそうに言われ、何故だか寒気がする。いい笑顔だったはずだが身の危険を感じ、半歩離れると一歩近づかれた。


「ち、近い」

「いいではないですか、二人っきりなのですから」


 あっという間にお姫様抱っこされ唇が近付いて来る。とてもじゃないが恥ずかしくて気が付いたら頬を平手打ちしていた。まさか殴られると思っていなかったのか、見事に食らったレイスは、よろめくと恨みがましい視線を私に送ってくる。


「……ロリア様……」

「だ、だって! レイスがいきなりそんな事するからだろ!」

「チッ」

「今お前舌打ちしたなっ!?」

「いえいえ気のせいですよ」


 強引にレイスの腕から降りた私は距離を置くと睨み付けた。そんな私の視線を物ともせずレイスはまた嬉しそうに笑った。

 最近レイスは良く笑う。そして少し態度も悪くなった。それは二人でいた時にはなかった態度で、昔のレイスみたいで嬉しく思う。悪い態度を喜ぶなんて変だが、そのレイスを見ると無理をしてない自然なレイスなのだと分かるからだ。

 口が悪くて態度も悪いそんなレイスと、優しくて何もかも面倒を見てくれるレイスと。その両方が合わさって今のレイスは私と一緒にいてくれて……好きだと思う。そんな事、本人にはとても言えないけどな。 


「ん?」

「ロリア様、どうなさいました?」


 視線を感じた気がして立ち止まったが、よく分からず首をかしげた私に、レイスが不思議そうに聞いてくる。


「うん……なんか誰かに見られた気がしたのだが……」


 そこまで言いかけて既視感を覚え止まる。昔に、こんな事があったような気がするのだが。あれは確か……。

 思い出そうと頭を悩ませた瞬間、熱風を感じて結界を張った。だがその熱は私には届かず隣のレイスへ向かう。張った結界に熱風は吸収され、氷点下まで機嫌の下がったレイスが攻撃してきた相手を氷の檻に閉じ込めていた。


「………………リート」

「ロリア様~」


 案の定そこにはティバーにいるはずのリートがいた。昔とは違い自分で氷の檻を溶かすと、私に抱きついてきた。


「ロリア様! 俺も一緒に行きますからね! ダメって言っても遅いですよ! それにリンダもブレイムさんも賛成してくれましたから!」


 早口でまくし立てると、リートは無表情のレイスに向かって不敵な笑みを浮かべる。


「見てください、俺の左手を! こんなにはっきりとした契約印」


 うっとりと自分の左手の甲に頬ずりするリートにドン引きする。

 ちょ、お前、その顔はどうかと思うぞ。最初に会った時より成長し男らしくなったとは言え、まだ美少女と言っても語弊のない顔でやめろ、悲しくなってくる。


「凍・結」

「熱くなれ!」


 無表情のまま凍らせようとしたレイスは、だが防がれる。成長したなーと思いながら二人のやり取りを見ていると、レイスの顔がピクリと引きつった。

 そうなのだ、実はレイスの過剰適合魔法は、リートの過剰適合魔法に分が悪い。ティバー内で師事する相手を見つけた為か、ここ半年のリートの魔法の上達具合は半端ではなく、簡単に凍らされていたのが今では防いでしまう。

 今日の気温は暖かいはずなのに……どんどん周辺の温度が下がっている気がするのは私の気のせいだろうか……。いや気のせいの訳ない、レイスの足元の草がパキッと凍りついた。


「甘いですよ、レイス! 俺は成長したんだ! もうやられるだけの俺じゃない! 俺がロリア様を守るんだっ!」

「甘いですね、リート。ロリア様にあなたは必要ありません。私一人で十分です」


 凍って、溶けて。凍って溶けていく周辺の木々や草花を視界に納めながら、溜め息をつく。


「森を、破壊するなよ……」


 ああ、何かこんな事、前にも言ったような……。

 激しくなって行く戦いを眺めながら、自身に結界をめぐらせると、その場に寝転んだ。雲一つない青空が目に飛び込んでくる。旅は前途多難だが、上手くいくような楽しくなりそうな気がした。


「ロリア様ー」


 二人の呼ぶ声が聞こえて、私は起き上がると笑顔で返事する。契約者二人を引き連れて、これから私は依頼をこなしていくのだろう。

 ファンタの行方を追ったり見知らぬ誰かを助けたり。異生を倒したりたまにはティバーに帰ったりしながら生きていく。


 契約の姫魔女として――。




終わり


長らくお付き合いありがとうございました。

これにて『契約の姫魔女』完結です。まだまだロリアの旅は続きますが、それはまた別の話かも知れません。

ここまで続けてこれたのも、読んでくださった皆様のおかげです。ありがとうございました。

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