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第7話 帰るにゃ!

「スゴいな? クズイくんって。あの『うさぴょん』を瞬殺してしまうなんて……、今日、初ログインだってにわかには信じられないよ!」

「俺、他のゲームもしてるから、倒し方のコツというか、経験則っていうの?」

「そっか。私は、このゲームが初めてだから、そこの違いなのかなぁ……」

「……初めて?」


 街への帰り道、リオンは興奮気味に俺に話しかけてくる。その瞳には、さっきまで戦っていた俺を意識していた鋭いものと、心底感心したような感情が混ざり合ったようなものを感じた。

 忙しなく動き回る俺の戦い方を見て、リオンなりに戦いの中で感じたこと、初見であったはずなのにどういうふうに戦うつもりだったのかと戦術を聞いてきた。

『デカ物うさぴょん』にエンカウントする前に『うさぴょん』狩りもかなりの数をこなしていたため、行動パターンがある程度読めたため、そこまで慌てることもなかった。

『うさぴょん』狩りは、数もこなしたおかげか、レベルの低いモンスターだったにも関わらず、思ったより多くの経験値が入ってきていたし、何よりシラタマからチュートリアル特典でもらった『経験値〇倍』のおかげで、よくわらないほどの速度でレベルが上がっていく。リオンが考えているより、ずっと楽に戦えたのが本音だ。


 ……無駄な動きも多くて、反省点も多いな。


「リオンは、最初、どこのフィールドで戦ったんだ?」

「知り合いから狩場の話を聞いていたから、同じところだよ。そのころは、アバターの操作も慣れてなくて、体の動きもあやしかったな。1回死んだかな? あの『デカ物うさぴょん』に踏みつぶされて……」

「……踏み」


「うぅ……思い出したくもない!」と言いながら、リオンは頭を抱えた。それから、しばらくは、憂さ晴らしに『うさぴょん』狩りをしていたらしい。大体、千匹を狩ったとかで、変な称号がついたと言っていた。


「今回の『うさぴょん』狩り、どれくらいの経験値が入った?」

「……えっと、ちょっとバグってるのかなぁ? だいたいこんなもん」


 三と指を出せば、「なるほど、三千か」と呟いている。


 いやいや、もっと上ですよ? 三千って。三万五千は、経験値として入ってきてるけど……。


「リオンは、どれくらいだったんだ?」

「狩場を狩りつくして、三千二百くらいだったかなぁ? それが、ここの相場だって。それでも、数日通えば、レベル5くらいにはなる」

「……レベル5ね」

「ん? どうかした? 引きつった顔して」

「……なんでも」


 リオンに指摘されたが、にこやかに話しを逸らしておく。もう、会うこともない彼女に、今の俺の状況を話すわけにもいかなだろう。一般的な成長速度とは、明らかに違うのだから。


「それより、アイテムってどうしてるんだ? どこかで換金とかできるのか?」

「もちろん。ギルドでも買い取りをしてくれるけど、もう少し割のいい感じだと、それぞれの店に持っていったりするよ。素材屋だったり、食堂だったり。『うさぴょん』の肉は、食堂に持っていくと、そこそこ高値で買い取ってくれるし、食べてもおいしい。おすすめは、焼きやシチューなんかもいいかなぁ?」

「……作る系?」

「そう。料理人のスキルを取れれば、まぁ、簡単においしいものができるし、発明もできるようになるよ。元の世界のあれこれを想像しながら、作ることもできるから便利だよ。まぁ、私は……あれだけどね?」


 そっぽを向いて頬を搔いているあたり、料理は苦手なのだろうか? リオンって、単独での行動が多いだから、食べ物とかはちゃんとしてそうだけどな。

 この世界、現実と同じで、腹減ったりするんだよな……。料理スキルか。


「さっきの店の話を聞いてもいいか?」

「いいよ。どんなことが聞きたい?」

「リオンが持っている武具とか、やっぱりかっこいいと思うんだ。そういう特別なものがほしいんだけど、どうすれば手に入る? 一般的には買うか、ドロップだと思ってるけど」

「これは、ネームドと言って、ボスモンスターを倒したときにドロップしたものだよ」

「やっぱりそうなんだ。サイトの攻略見てて、武器とかのスクショがあったけど、そういういかにもっていうものは、売り物の中にはなかったからさ」


 リオンが佩いている大太刀は、レアなものなんだろうとは思っていた。それこそ、どこかのモンスターのものなんだろうと。その煌々と主張している姿を見ていれば、吸い込まれそうになる。


「今度、連れて行ってあげるよ。お目当てのものが出るかはわからないけど……私だって、この『大蛇の大太刀』は、欲しかったものではなかったんだ」


 リオンが撫でる『大蛇の大太刀』は、反抗するように黒光りをする。


「普段は、片手剣だよな?」

「うん、これだよ」


 収納袋から取り出したそれは、スクショで見るより大きく感じる。全体的に白い剣は、『クリスタルソード』と名付けられていた。


「これもモンスターからのドロップ品。壊れても自己修復してくれるし、より強固になる。抜くとね……こう」

「わっ、すげぇーオーラのようなものを感じる!」


 両刃剣の真ん中に黒い線がビッとひかれているような装飾があった。光を当てると、名がクリスタルというだけあって、きらりと七色に光ってとても幻想的な剣だ。


「これと、出会った場所へ明日一緒に行こう。お目当てのものがとれるかはわからないけど……ボス部屋までの間は一緒に行動して、ボス部屋は一人で攻略したら、もしかして……」

「いいのか? 俺なんかと約束して」

「別にいいよ?」

「孤高のリオンじゃないのか?」

「孤高? 何それ。最近は、誰かとの行動が煩わしくて、一人で動き回っていただけなのに。それに、別に一人がいいっていうわけではないから。クズイくんとは、フレンド登録もしたことだし、嫌じゃなければ……、だけど?」


「喜んで!」というと、明日の予定を話していく。お互い学生で、どの時間ならログインできるか確認をしていく。


「よかった、学生だったんだ」

「まぁ、学生って言っても、まだ、高校生だから、それほど長い時間のダイブは出来ないけど」

「……私も、高校生なんだけど?」

「リオンって高校生なのか?」

「そうだけど……?」


 何か問題でも? というふうにこちらを見てくる。このゲームの開始日から考えて、高校生でリオンほどのダイブ時間を持っているものはいないだろう。普通に考えれば、6時限の授業があるし、最近ならテスト期間もあったはずだ。


「……引きこもりだったりする?」

「むっ、私は引きこもりじゃない!」

「私は?」

「弟が引きこもり。このリオンの容姿全般は弟が作ったんだよ」

「そうなんだ。作りこみがすごいなって思っていたんだ。唯一無二で恐ろしく綺麗で……そのうえ、強いって」

「き、きれいって……」


 あわあわしているリオン。今は、町娘風のドレスに着替えているため、可愛いお嬢さんにしか見えない。


「強さの秘訣は?」

「強さとは何だ? ただひたすらにこの世界を楽しむってだけかな?」

「この世界を楽しむか」

「楽しくない? 現実の私という殻から出て、別の人生を歩んでいるようで……。初めてログインした日の感動は、ずっと胸にある」

「感動って……リオンはなかなか乙女だよな」

「そんなことないっ! 私は、今までゲームというものをしてこなかったから。弟に勧められて、渋々始めてみたんだ。昔のゲームと違って、オープンワールドの広い世界を走り回ったり、私を知らない人の中で、おもいっきり自分を出せるんだよ? 最高じゃない! 初めてこんな世界を知って、毎日、ワクワクしている。もちろん、本業が疎かにならないように、勉強もしてはいるけど、終業のベルがなるのと同時に、飛び出していきたいって毎日思っている」


「すごいな」と感心したら、「当たり前よ!」と当然のように返ってくる。余程、この世界が気に入ったのだろう。他のゲームの世界を知らないリオンの初めての世界は、寝食を削ってでもダイブしたいのだろう。


 俺にもそんな時代があったよなぁ。兄貴に初めて連れて行ってもらった冒険。夢中になりすぎて、よく母ちゃんに叱られたっけ?


 思い出し笑いをしそうになって止めた。楽しそうにしているリオンには悪いが、忠告も必要だろう。


「ほどほどにしないと、体壊すぞ?」

「そうだね。最近、ちょっと寝不足なんだよね……。今日は、クズイくんと別れてからも少しレベリングしようかと思ったけど、やめておくよ」

「それがいい。明日も一緒に冒険するんだし、十分な休養を取って、万全で望みたい!」

「わかった。そうだ!」


 何かを思い出したように、リオンが腰のあたりにある鞄に手を入れ始めた。


「装備品は、ボスモンスター以外にも生産職に頼めば作れるから。既製品だとそれほど威力は出ないけど、作ってもらう武具は、素材の材質と生産職の腕前だから、明日はそっちの紹介もしよう。腕利きを知っているわ」

「材料を集めたらいいのか?」


 頷くリオンが短剣を見せてくれる。とても綺麗な刀身を見ながら、思わずほぅっと息がもれた。


「見事な造りだな」

「でっしょ? ここに来て、初めて取得できたレアアイテムを使って、造ってもらったんだ。種族はドワーフのほうを推してるな、あの子。明日、クズイくんと会わせるのが楽しみ!」


 今日取得したアイテムは、明日売りさばくことにしたので、ギルド前でログアウトすることにした。手を振っているリオンが目の前から消えた。


 目を開けたとき、時計が目に入った。


 ……0時過ぎてる。どんだけもぐってたんだ?


 ベッドから起き上がって伸びをした。そぉーっと、階段を下りていくと、ラップで包まれた夕飯が置いてあった。手紙付きのそれに手をかけ、「いただきます」と食べる。


 ……夕飯時間は、一回戻ってきた方がいいな。母ちゃんの小言が増えそうだ。


 手紙を読みながら、ご飯を掻っ込んでいく。機嫌をとるためにペンを取り、『うまい夕飯ありがとう』と手紙に返事を書いておく。


 初日から、シラタマに踊らされ散々だと思っていたけど、憧れのリオンに会えたのは、日頃の行いか? 明日も一緒に回れるなんて願ったり叶ったりだし。


 食器を片し、風呂に入る。今日のことを思い出しながらベッドに倒れこめば、あっという間に朝だった。


 今日も一日、約束のためにと、本業を疎かにしないために学校へ向かった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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