第6話　初めての……にゃ！

　リオンに連れて行かれたのは、街の中心にあるギルドであった。扉を無遠慮に開け、ズンズン入って行くリオンの後ろを俺はキョロキョロと周りを確認しながらついていく。

　ギルドってこんな感じなのか。雰囲気あるなぁ。

　図書館みたいなカウンターに、冒険者の個別相談用ブース数か所、談笑できるようなテーブル席が何席かあった。奥には、ギルドです！　と主張するかのように、依頼用の大きな掲示板があり、何人もの冒険者たちが次なる依頼に向けて、吟味しているようだった。

「エレン！」

　カウンターにいる受付嬢へ手を振り、駆け寄るリオン。視界の端に捉えたので、周囲から視線を外し、俺も足早に受付カウンターへと向かった。

「リオンさん、お久しぶりです！」

　ペコリと頭を下げてから、ニッコリと笑顔のエレンがリオンに挨拶した。後ろにいたのだが、どうやら俺のことは眼中になく、誰か別の受付嬢が、俺の相手するようにと目配せをしている。

　格闘家のおかげか、細かい視線の動きがよく捉えられるな。

　隣にサッと別の受付嬢が来て、「こちらへ」と言う前に、リオンが俺をエレンに紹介してくれた。

「さっき、出会ったばっかりの初ログインのプレイヤーだよ！　連れてきたから、エレンがいろいろと教えてあげて。そのあと、一緒にでかけるから……えぇーっと……」

　チラッとこちらを見て確認している。そういえば、まだ、俺は『魔剣姫リオン』のことを知っていたけど、俺の自己紹介をリオンへしていないことに気がつき、慌ててリオンの隣に並んだ。

「初めまして、『クズイ』です。これで、冒険者カードが作れるとモフ猫……、ナビゲーターが言っていたんですけど、できますか？」

「えぇ、できますよ。クズイ様、手続きしますので、少々お待ちください」

　何やらカタカタと準備をしながら、リオンと話をしているエレン。その様子を見ていると、二人がとても仲良さそうに見える。

　受付嬢って……確かジョブじゃなくてNPCだったような……？

「二人って、仲がいいんですか？」

「えぇ、もちろん！　ここだけの話、エレンはNPCだけど、バグなのよ。世界で初めてのバグとこうして友人になれたことは、とても嬉しいわ！」

　えっ？　今、バグって言った？　確かにNPCにしては、リオンととても親し気に話しているなと思っていたんだけど、AI搭載とはいえ……バグって。

　無機質なNPCの言葉ではなく、本当に友人を迎え入れるような受付嬢のエレンをもう一度見た。クスクス笑いながら、リオンと談笑している。それも、とても自然に。

「できました。クズイ様」

「ありがとう」

「初期装備ですが、こちらになります。双剣ですので、こちらの防具と採集用のアイテムボックスです。このアイテムボックスには、２０のアイテムが格納できるようになっています」

「２０か……、意外と少ないんだな？」

「冒険の先で、新たにアイテム収納ができる装備もありますし、少し行ったところにある日用品店でも、もしかしたら、もう少し収納できるアイテムボックスが売られているかもしれません」

「クズイくん、とりあえず、そんなにアイテム収納数は多くなくて大丈夫だと思うよ。同じものは、かける何ってなるから」

「私なんて、未だに使ってるよ」なんて、笑いながらリオンは初期装備のアイテムボックスを見せてくれる。

「最後になりますが、こちらの回復薬を進呈いたします。１０本ありますので、ご自由にお使いください」

「じゃあねっ！　エレン」

　受付嬢のエレンに手を振り、リオンはギルドから出ていこうとする。俺はもらったアイテムボックスの中に、シラタマからもらったもの全てを押し込んだ。

「さて、冒険の始まりだ。フィールドに出るだけでもテンション上がるのに、リオンと一緒って……まじで最高。今年の運、全部使い切ったかも」

　装備を整え、リオンについてギルドを出た。「さて、行きますか！」と気合十分のリオンは、まだ、普通のお嬢様のような格好で、そのまま、フィールドへと出かけるようだった。

「あの、リオンさん？」

「何かな？　クズイくん」

「その恰好で、狩場へ向かうんですか？」

「……あぁ、これね？　一見、町娘っぽいけど、これも立派な防具だよ！　ここじゃ、フル装備にすると目立つっていうのもあるから、なるべく目立たないようにと思って、変装？　しているの」

「……十分目立っていると思いますけど。プラチナシルバーの髪にピンクのメッシュって……リオンさんだけですし」

「そう？」と言いながら、白銀の毛先を指でクルクルとしながら「うーん」と唸っている。その様子をみれば、孤高の戦士だなんて思えない普通の女の子だ。

「あっ、そうだ。その『リオンさん』っていうのやめよう。敬語もダメ。リアルのことを聞き出すのは、ご法度って知り合いに教えてもらったから……ここは、年齢とか何も考えないでいいと思うんだ。私とクズイくんは対等で！」

「……そんなわけには」と零すと、鼻をくいっとつままれる。視線を落としていたので驚いてしまい、変な声が出た。

「ほら、それ。私がいいって言ってるんだからいいの。それより、行こう！　クズイくんの初めての冒険へ！」

　リオンは、軽装備のまま、テクテクと山に向かって歩き出す。その間に、パーティを組んだほうがいいということになり、フレンド登録とパーティー登録を済ませた。

　憧れのリオンと臨時とはいえパーティーを組めただけでなく、フレンド登録ができたことは、嬉しくて仕方がない。

「そうだ。リーダーの方が、経験値を多くもらえるらしいから、クズイくんがリーダーでいいよ！　私はサポートってことで」

「そんな……サポートだなんて」

「サポートと言っても、私、超攻撃的だから、クズイくんが危なくなったら、スイッチくらいしかできないけど。あとは、頃合いをみて、回復薬を使うとか」

「それだけでも、とてもありがたい話だよ」

　少し行った森の中に入ったとき、リオンの緩い雰囲気がピリッとする。歴戦の戦士を思わせるような重い空気を纏った。

「そろそろ、モンスターが出てくるよ！　戦い方を見せてもらえる？　サポートの仕方を考えるから！」

　リオンが少し離れたとき、初めてのモンスターが出てきた。ウサギ型の可愛いやつだが、視線は殺気だっていて、紅い目をぎらつかせていた。

「うさぴょんだね。レベルは１だから、焦らずに戦えれば大丈夫だよ！」

「はいっ！」

　飛びついてきた『うさぴょん』……は、たぶん、本当のモンスター名は違うだろうが、うさぴょんを双剣で切り付ける。エフェクトが飛び、うさぴょんは一瞬で消えた。

『キラーラビット』討伐完了とアナウンスが流れた。

　……『キラーラビット』っていうのか。リオンのいう『うさぴょん』は。それにしても、意外と簡単に対応ができたな。

シラタマのチュートリアルのおかげか、あっさり『うさぴょん』を倒すことができた。

「すごいね？　クズイくん。初めてなのに一発で」

「チュートリアルで、そこそこ動けるようにしてきたので……」

「そっか。チュートリアルを受けたんだね！　私も受けたんだ。そうすると、結構やれるってことでいいのかな？

「どうかな？　それは、何とも言えないかもしれない」

「戦闘を見る限り、余裕があったから、大丈夫だと思うわ！　落ちた魔石だけ拾っておいて。あとは、この辺りの敵をボチボチと倒して、経験値をつもう！」

　ゲームをやりなれている俺でも、さすがに実践となると難しい。時々、リオンがアドバイスをくれる。森の中の『うさぴょん』は狩りつくしたのではないか……、そう思ったとき、近くで咆哮が聞こえた。

　つい、1時間ほど前のことを思い出す。

　……これって、大鬼のパターンだったりする？

　声には出さずに、チラッとリオンの方をみると、狙っていた展開が思ったように成り立ったようで、口元には笑みがあった。

　……リオンは、意外と戦闘狂なのかもしれないな。

「待っていました！　『デカ物うさぴょん』！」

「『デカ物うさぴょん？』」

「『うさぴょん』を一定数狩ると、『デカ物うさぴょん』が出てくるよ。この辺の狩場の中では、結構いいものをドロップすることがあるから……頑張って！」

　ガサガサという音とともに、１０体の『うさぴょん』と、その後ろに何倍もある『大きなうさぴょん』が出てきた。ボスらしいそれを睨み対峙する。

「見ている」と言っていたリオンは、後ろで待機して、静かにこの戦いの結末を見守ってくれた。