第3話 特典にゃー!!!
うっすらと目を開ける。さっきまでいた白い空間ではなく、コロッセオのような場所の真ん中に俺は立っていた。
「にゃっにゃっにゃっ! よく来たにゃ! ここを支配している……」
「早くしてくれ!」
「せっかくの雰囲気が台無しにゃ……にゃーにとって、初めてのご案内だし、チュートリアルをしてくれたにゃ……もっと、クズイは、もっと、今を楽しむにゃ!」
にゃーにゃーにゃーと言うシラタマの抗議を無視し、始めようの代わりに双剣を構えた。
リオンに憧れたんだ。剣士であるリオンと肩を並べたいと思う反面、憧れであり続けてほしい気持ちもあるけど……。
両手に握っている剣の柄にぐっと力を籠める。
こっちの方が、俺には手に馴染む。
双剣を構えたら、シラタマがやれやれというように足を二回打ち鳴らす。すると1匹の小鬼が出てきた。
「にゃーが、指示するにゃ?」
「いや、いい。自分の感覚でやってみたい!」
「わかったにゃ! 小鬼は動かないにゃ。好きに動いてみるにゃ!」
シラタマに言われたときには、駆け出していた。
すっげぇーっ! 思ってたより、ずっと早く走れる! 何といっても、思ったとおり、それ以上に動きが滑らかだ。それに、さっき経験値を振り分けたおかげか、自在に双剣も上手く扱える。
下から殴りあげるように小鬼を切りつけ、続けざまに横凪にしてみる。縦に切りおろしてから、中段蹴り。少し動いただけで、だんだん、体と感覚が合ってきているように感じた。
「カッコいいにゃ! 縦スラからの中段蹴り? 体術は……何かやってたにゃ? ここの世界は、冒険者……つまり、クズイが、現実世界で習得している技術は、一度発動すれば、スキルとして使えるようになるにゃ!」
「えっ? 本当?」
「にゃっ!」と親指を立てているような仕草をするが、いかんせん猫だ。肉球を見せられただけにしか、見えなかった。
「どんどん、使ってみるにゃ!」
『中段蹴りを獲得しました。中段蹴りの威力を超えたため、中段蹴り中を獲得しました。中段蹴り中の威力を超えたため、中段蹴り上を獲得しました』
「なんか、中段蹴りが上になったけど?」
「熟練度を上げれば、ただの蹴りでも驚くほどの威力がでるにゃ!」
「へぇーそれは、おもしろいなっ!」
動かない小鬼を今度は上段蹴りしたり、正拳突きをしてみたり試してみる。そのたびに、アナウンスが鳴っていく。
『格闘家を取得しました』
「すごいにゃ! もう、ジョブを覚えたにゃ? リオンとお揃いにゃ」
「……ジョブ……リオンとお揃い……」
ふぅ……と息を吐き、整えたあと、シラタマに向き直る。先ほどより、さらに感覚が馴染んでいるように思え、体がすごく軽い。
「チュートリアルは、まだまだ、続くにゃ! 次は動く小鬼に対しての練習だけど、必要なさそうにゃ……」
「いや、入れてくれ。体の感覚が馴染んできたような気がする」
「格闘技やってるにゃ?」
「昔、空手を少しな。あと、調子に乗ってたときに喧嘩も、すこぉーし」
「にゃ!」と驚くシラタマとの会話も終わり、次なる小鬼が現れる。単純に動くそれを軽くいなして撃破した。
「簡単すぎるにゃ……」
「そんなことはないぞ?」
「チュートリアルをしなくても、充分戦えるにゃっ! あとは、体で覚えるにゃ!」
手をパチンと叩いた瞬間、100匹はいるだろう小鬼が現れる。数の多さにも驚いたが、シラタマが何か企んでいるようだ。あまり、いい傾向ではない気がするが、まぁ、いいだろう。チュートリアルで死ぬことは、……たぶん、ない。ない、はずだ。いや、シラタマのことだから……。チラッとシラタマの方を見たら、毛づくろいをしている。不安になりながらも、迷っていても仕方がないと、腹を括った。
「特別に経験値が入るようにするにゃ! この数だから、すぐにレベルアップにゃ!」
……『特別に』がさらに不安を煽るんだが……。
嬉しそうに浮遊するゴンドラのようなものに乗り込み、上から楽しそうに見下ろしているシラタマ。尻尾をゆらゆらと揺らしているあたり、楽しくて仕方がないのだろう。
「ふざけろよ……」
「特典、先にいるにゃ? とっても、お得にゃ」
呟きが聞こえて慌てたのか、気遣いをしてくれているのか、ゴンドラから下にいる俺を覗き込んできた。
「くれるなら、最後までやりきるぞ?」
「にゃら、あげるにゃ!」
手を打ち鳴らずと光の粒が降りそそぐ。
なんだ? これ。ふわふわと粉雪のようなものなのに、何も感じない。
触ってみても温度も感触も感じない光の粒は、目を瞑ると染み込んでいくように体へ入り込んできた。体中の組織が、息をするように蠢いた。急な変化に目を瞑ってしまう。慣れない感覚に頭と体がチグハグになりながら、ひたすら、体内の流れを感じ取りながら、全身の感覚が馴染むことに集中した。
そのとき、シラタマが叫ぶ。
「にゃあーっ!」と。
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