表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/28

おまけ おはよう! にゃ

 昨日のことがあったおかげで、俺とリオンはそれぞれ身バレをしたわけだが、それをココミにも話した。リアルのことをゲーム内に持ち込むのはとも思ったが、リオンと相談した結果、会話からいずれ、ココミにはわかることだということで、新しくできた家で、階層主を倒したあとに話したのだ。


「ふーん、リオンとクズにゃんは、同じ高校のそれも隣の席……。すごい巡り合わせだね? ある意味、運命だ」

「……運命って、ココミ。それは、いくらなんでも盛りすぎじゃないか?」

「何言ってるの、クズにゃん。このゲームって、海外展開もされてるわけだから、誰がもぐっててもおかしくないわけじゃない? サービスが始まってまだ4ヶ月も経っていないけど、イベントでのリオンとクズにゃんの活躍を見て、これから始める人もいるわけだし」


「大げさではないよね?」と、覗き込むように無遠慮に視線を向けてくるココミ。ニヤニヤしているあたり、何を考えているのか……想像はついたが、知らないふりをする。


「そーんな運命な二人に、質問」

「……それ答えないとダメか? 嫌な予感しかしない」

「なんでぇー! いいじゃん! あたいなんて、ある意味、蚊帳の外でしょ? 恋愛なんて、もう、忘れたくらいしてないんだし、こんなチャンス……。あっ、シラタマがいるか」

「今、チャンスって言わなかったか?」


 忘れては困るといいそうなシラタマは、お店のベルが鳴ったので、今は店番に戻っている。二対一ではあるはずなのに、ココミの圧はすごい。


「いいよね。これは、特別に知りたい!」

「……ひとつだけな?」

「嫌よ! 聞きたいだけ聞く! これあたいのモットーです」

「……なぁ、リオンも何か言ってくれよ?」

「クズイくん、諦めた方がいいと思う。ココは、こういう話が、すごい好きなの」

「廃人がリアルを聞きたいって……どんなだよ?」

「ふふっ、聞いて驚け、クズにゃん!」


「なんだよ」とたじろぐと、さらに、ココミはニヤッとしている。その笑顔が怖くて仕方がないが、観念するしかないとリオンは諦めていた。それなら、もう倣うしかない。


「なんですか? ココミは、廃人に変わりないでしょ?」

「まぁ、1日のほとんどがこっちにいるなぁ。煩わしいリアルは好きじゃないから。おかげで、おもしろい話がガンガンに書けるからいいんだけどね」

「はっ? 話って」

「web小説を書いているのだよ! ちなみに、あたいは商業作家だ。そこそこ売れてる。重版もガンガンしてるぞぉ?」

「……聞いてない。聞いてない! 聞いてないって!!! 俺って、ネタにされる系?」


 めっちゃいい笑顔で、親指立ててこられても困るんだけど……。


 リオンの方を見てみると、顔が赤い上にこっちを見ていない。何かあるぞ? と思い、リオンに話しかけた。


「なぁ、リオン?」

「な、何かなぁ?」

「もしかしなくても、俺のこと……」


 こちらをチラリとも見ないあたり、ココミには話していたのだろう。俺がリオンのスクショをロック画面にしていたことも、メッチャすごいプレイヤーだって熱を込めて翔也に語っていたことも。そして、そして……ココミにネタにされていたということだ。


「あぁ、ちなみ、君らの話。リオンから聞いて、展開的にこういうふうになったらおもしろいよなぁーって思って書いたとおりになるってね? リアルって、おもしろいなぁ~実に愉快」

「こ、ココミ!」

「何かな? クズにゃん」

「読ませてくれ! それを俺に!」

「お買い上げ、ありがとうにゃ!」


 シラタマの声が後ろからして一冊の本を持ってきた。明らかにこのゲームとは関係なさそうなそれは……何なのだろうと冷や汗を流す。


「シラタマの権限でちょっとね。課金だと思って、お買い上げください! クズにゃん!」

「……あぁ、そうする」

「データはスマホに送れるからね! リアルでも読めるよ? 感想ヨロ~!」


 ホクホクしているココミがハッとしたようになった。さっきのお買い上げで忘れてくれていたら、よかったのに……と思ってもそうはいかないらしい。


「で? クズにゃん。リオンって、可愛い? ねぇ、可愛い?」


 机の向こうにいるのに、こちらにズイッと乗り出して近寄ってくるココミ。


「……ココ、近いよ!」

「リオン、クズにゃんって、カッコいい?」


 二人ともに詰め寄るココミの目は爛々としていて、どうやら逃げられそうにない。答えないわけにはいかないが、本人を前にどういっていいのかわからず、言葉を探す。


「……リ、リオンは、とても可愛いです」

「おぁー! そういうの、もっと! クラス同じなんでしょ? どんな感じ? 大人しい系? やんちゃ系?」

「……清楚系ギャルっていったらいいのかな? 男子からは、もちろんだけど、女子からも人気だよ。あぁ、俺のことは聞かないで?」

「なんとなくクズにゃんのことは、その纏っている雰囲気で、だいたいわかるよ。ラブコメ最強ペアだなぁ……」


 俺の話したこと、まずくなかったよな?


 黙ってしまったリオンをそっと盗み見る。俯いているうえに長い髪が顔にかかって表情は見えない。こっそりシラタマが覗き込んでいた。


「リオン、顔真っ赤にゃ!」

「シラタマ!」

「クズイは、いい男にゃ! リアルは知らないけど、気はいいヤツにゃ」


 ピョンピョンと飛び跳ねながらシラタマは、俺を褒めるので、すごく恥ずかしい。同級生が聞いていると思うと、リアルとゲーム内の差が気にもなった。


「リオンは、クズにゃんのことをどう思っているの?」

「……クズイくんは、このゲーム内のまんまだよ。とても優しいし、おもしろいし、ちょっと、教室では、静かだけど……」

「根暗って、言ってくれていいよ?」

「そんなことないよ! それに、カッコいいし……」


「おぉ?」とココミの耳が大きくなったのではないかと思った。聞き間違いでなければ、俺とはかけ離れている形容詞使われた。『カッコいい』とは……脳内で辞書を引いたが、自分に当てはまるものはなかったが、リオンが言ってくれると嬉しかった。


「小さくって、聞こえなかったな? ねぇ、クズにゃんもそうでしょ? もう一回、なんて言ったか聞いていいかな? リオン」


 意地の悪い顔をしながらココミはニヤついている。もう一度、リオンの口から『カッコいい』というのが聞こえてくる。嘘じゃないことがとても嬉しかった。


「あっ、俺、そろそろ時間だ」

「もう? せっかく、いいところだったのに!」

「学生の本分は、勉強だから仕方ないだろ? ココミ、あんまりリオンに詰め寄るなよ?」

「おっ? ナイト様。それは聞けぬ話ですな」

「いいよ! クズイくんがログアウトしたら、私、外にでるから!」


 ニコッと笑うリオンが怖いけど、遠慮なしに「また、明日」と言葉を残してログアウトした。



「はよー! ヤス」

「はよー、翔也」


 席に座っていると、来たばかりの翔也が鞄を置いてこちらにやってくる。前の席にどかっと座り、いつものように話しかけてきた。まだ、隣の席は空席のままだったが、そちらを見ることは出来ない。


「昨日は、大丈夫だったか?」

「うん、まぁ、口の中を切ったくらいだから、たいしたことはないな」

「それより、一条さんとは、その……」

「昨日も向こうで会ったよ。もう一人、仲間がいるんだ。昨日のことを話した」

「よかったのか? 普通、リアルのことって……」

「言わなくても、これから長い時間一緒にいれば、なんとなくわかるだろうから、その前にってな。それより、翔也は、この本見たことある?」


 昨日、ココミに買わされた本をみせると、「メッチャおもしろいよな、確か今5巻まで出てて」と知っているようで、翔也は熱く語りだした。そのあと少し考えるように遠くを見たあと、ガタっと椅子から飛び上がった。


「こ、こ、これ! お前らのことか?」


 何かが繋がったのか、翔也が突然大声を出して教室にいた同級生からの視線が痛い。最近、この席の回りは、トラブル続きだからかクラスの視線が厳しいのだ。


「……昨日、ココミから聞いた。読んでみて驚いた」


 肩を落とす俺に目を輝かせる翔也。


 わかる、求めているものが……。


「サインもらってくれ!」

「自分で言えば? 繋がれば、普通に20時間くらいダイブしてるから」

「20時間? ほとんどじゃねぇーか!」

「隣も似たような時間もぐっているけどな」


 はぁ……とため息をつき、ココミの本の1冊目のラストを思い出す。まるで、俺とリオンのリアルを見てきたかのような描写、昨日の出来事まで予測されていて、正直ココミの脳内御花畑が怖いとさえ思った。


 ……才能ってすごいな。俺にもほしいくらいだ。


「おはよう、葛井くん」


 里緒が来たらしく、寝癖をちょっと押さえながら、にこやかに朝の挨拶をしてくれた。いつか話したようなリアルで友人だったら……の仮定が、まさに現実になっている。


「おはよう、一条さん」

「里緒でいいよ。いつも呼んでるんだし」

「……さすがに向こうと一緒ってわけにはいかないだろ?」

「そうかな? じゃあヤスくん」


 そうきたか……と思った瞬間、もう、目の前にいる翔也のニヤニヤが止まらない。名は違っても、俺をモチーフにされた主人公と一条里緒をヒロインとした本が日本中……いや、世界中のどこかで読まれているのだから、同じ展開になったことに翔也は悶えている。


「この教室にさ、この本読んだヤツって、どれくらいいるかな?」


 深いため息とともに、翔也に問うたが、返事はない。ただ、書かれていた言葉通りに、「じゃあ、これからは里緒って呼ぶよ」と返事をした。花が咲くように笑う里緒。


「これからもよろしくね! ヤスくん!」


 生暖かい視線や鋭い視線、人が殺せるんじゃないかという殺気が周りから一斉に俺に集まる。こんな人生初めてだ……と、なんとも言えない気持ちになったが、笑う里緒を見れば、先日のイベントのときのようで悪くないなと俺も笑いかけた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よかったよと思っていただけた読者様。

ブクマ、いいね!下方にあるポイントをポチっとお願いします。(o*。_。)oペコッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)ゲームは世間的にあまりイイものでないと言われ続けるものでしたが、ときに夢と青春を与えてくれるもの。そんな僕の持論に勇気を持たせてくれる作品でありました。 [気になる点] ∀・)シラタ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ