表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/28

第24話 レッツイベントにゃ!

「本体の腹ごしらえも充分、レベルもかなりあげた。あとはココミの店に行くだけだ」


 再ログインしてから、ココミの店まで真っすぐに向かう。広場は、イベントに参加するであろう猛者たちで、すでに溢れかえっていた。中には応援や観客も混ざっているだろう。露店らしきものまで出ていて、お祭り騒ぎになっている。

 今は、ちょうど、昼の12時。30分もすれば、イベント開始直前で、今より一層、この会場は、ソワソワとした空気になるだろう。


 用意されている大型スクリーンに、期待のプレイヤーの名前とアバターが出ていた。注目選手の中には、もちろん、我らの『剣姫』リオンの姿も映し出されていた。リオンの映像が流れた瞬間、アイドルの撮影かのように、シャッター音が鳴っている。このゲーム内でも、写真機能があるので、みなが、大型スクリーンに映し出されているリオンを撮っているのだ。


 ……当然といえば当然だけど、俺の名前はないんだよな。期待はされていないけど、順位は確実に上位に食い込んでいく。リオンと1、2フィニッシュなんて考えるのもおこがましいくらい、今、映し出されたプレイヤーたちは強そうだ。


 大型スクリーンを立ち止まって確認をする。フードを被っているおかげか、誰からも声を掛けられることもない。

 しばらく、スクリーンを見ていたが、ココミの店に行くことを思い出し、広場を横切っていく。店に向かっていると、見慣れた白い猫耳マントの人物が、少し前を歩いていた。集まった人々から自身を隠しているのだろう、足早にココミの店に入って行く。その後ろを追うように、俺も扉を開いた。


『本日臨時休業』の看板のおかげか、店には誰もいない。奥の部屋に向かうと、もうリオンもココミも揃っていた。


「遅かったね?」

「本体の腹ごしらえとか、まぁいろいろな?」

「準備万端ってことだね」

「あぁ、そうだな。さっき、スクリーン見たけど、注目プレイヤーになってたよ」

「リオンでしょ? さすがだよね! あたいは、店でシラタマとみる予定で、今、映像を繋いだところだったんだ」


 ココミが、少し大きめのテレビを指さしている。朝、店にはなかったものだったので、「どうしたの?」と聞くと、朝から作ったらしい。


 ……知らない間に、テレビができてるとか、ヤバいな。


「ココミが作ったんだよな?」

「んー、それは、乙女のヒ・ミ・ツ。ねぇ? シラタマ」

「そうにゃ! にゃーが作ったなんて、しらにゃいにゃ」

「……それ、白状しちゃってるから」


 ダメ猫シラタマに、ダメ出しをしたら、慌てて口元を両手で押さえていたが、聞かなかったことにはできない。ただ、どういうわけか、シラタマの趣味は、俺たちに恩恵が与えられることが多い。迷惑料だと、シラタマ本人は言うので、ありがたく受け取ることにしているのだが、このまま、ナビゲーターに戻れる日は、永遠に来ないんじゃないかとイベントが楽しみすぎて尻尾を揺らしているモフ猫を残念な目で見つめる。


「クズイは、何か作戦はあるにゃ?」

「んーないかな? 作戦を立てたところでって感じだから、来たものを倒すって感じかな。もし、プレイヤーが、自由にフィールドが選べるなら密林系がいいよな。隠れる場所があるのは、めちゃくちゃありがたいんだよ。逆に、リオンは、密林とか市街地みたいなフィールドは嫌なんじゃないか?」


 リオンに視線を向けると、「クズイくんと同じで、来たものを倒すから、どこでもいいかな?」と、戦略も何もない感じである。俺がいうのもなんだが、結構、大雑把な言葉に、俺とココミはため息をついた。ただ、それもリオンは、どこふく風だった。圧倒的な強者であるリオンにとって、フィールドはさほど問題にはならないようだ。集中的に狙われることも考えられるが、スクリーンに映し出されていたリオンを見て、挑むものは、ほとんどいないのではないだろうかとも考えた。

 このゲーム内最強の戦士は「心配いらないよ! クズイくん以外は、全部倒すから!」と、大物感を発揮している。

 リオンに感心していると、シラタマが何やらゴソゴソとしている。


「これをみんなに渡すにゃ!」と、机の上に置かれたのはイヤーカフだ。コロンとしていて、シルバーブラック系のカッコいいやつだった。ただ、シラタマ製であることがわかるネコのマーク付きである。


「これは?」

「可愛いアクセサリーだね!」

「リオン、これは、アクセサリーじゃないにゃ。着けると、にゃーたちで、通信できるようになるにゃ。イベントのフィールドは、とっても広いにゃ。位置確認もできるにゃ。メッセージで、やり取りは、とても時間かかるにゃ!」


 昨日の階層主との戦いのとき、俺たちが声を掛け合っていたのを見て、シラタマはこういうのがあったらいいのにと思いついたらしい。みながログアウトしているうちに、作っていたらしい。材料とかは、シラタマのポケットマネーならぬ、ポケット材料で作られている。かなり、後半でしか取れないような素材が使われているそうで、ココミはおでこに手をあてて、軽く首を振っていた。


「イベント前に、また、やらかしたな」

「にゃーやらかしたにゃー! また、叱られるにゃ?」

「叱ったりしねぇよ。こんな便利なもの、初期に段階では作れない代物だろう?」

「……初期だけじゃなくて、後半でも難しいにゃ。それに似たアイテムは存在するけど、すごく高かったり、かなりレアなモンスターしかもってないにゃ。だから、すごいにゃ! 優れものにゃ!」


 褒めて褒めてと、シラタマの尻尾が、主張しているので、俺は、シラタマの下あごを撫でてやる。ゴロゴロと喉を鳴らして、目を細めていた。

 リオンが最初にイヤーカフに手を伸ばす。ココミが続き、俺も手を伸ばした。最後にシラタマは専用のものを自分のポケットから取り出して、それぞれ耳につける。


「効果範囲とかある?」

「ないにゃ! ここにいる限り、どこでも聞こえるにゃ! イベント中も、リオンだけじゃなくて、ココミとも話せるにゃ」

「なんだか、ズルしてるみたいだね?」


 リオンがクスクス笑うと、「確かに」とみなで笑い合った。ココミからも、回復薬等の供給をしてもらい出陣のときだ。


「クズイくん、上位目指して、頑張ろうね!」


 コツンと拳をぶつけ、リオンと二人、静かに闘志を燃やす。


「そろそろ時間だね。話は、またあとで……。行きましょうか?」

「二人とも頑張ってよ! あぁ、あと……これを付けておいて」

「何、これ……ココミの店の宣伝……?」

「宣伝は大事だよね? あたいたち、パーティーなんだから」

「わかったよ」


 ココミの店の宣伝ロゴを腕に張り付け、俺とリオンは笑った。


 ……スポーツとかでよくある、スポンサー契約した企業のロゴを付けるやつだよな。なんか、有名人になった気になる。


 苦笑いをしながら店の扉を出れば、広場近くは、先ほどよりも、さらに熱く、熱気に包まれていた。


「じゃあ、クズイくん。健闘を祈るわ!」


 リオンが白の猫耳マントを揺らして、広場へと去っていく。リオンの背中を見送り、俺も反対方向に歩き出した。


「クズイ、頑張るにゃ!」


 店先でぴょんぴょこ跳んで応援してくれるシラタマに拳をを上げて返事をした。


 ……絶対、上位入賞してやる!


 広場に集まる参加者の中へと紛れていく。リオンと同じフィールドにならないように距離を取っておいた。


 イベントの簡単な説明のあと、目を開けると、だだっ広い開けた草原の真ん中にいた。俺はどうやらここから開始らしい。そよ風が気持ちいい草原フィールドで、草は芝生くらいしかなく、隠れられる木は一本もない。こちらが視認できれば、相手からも必ず視認できる……いわば、デススポットのような場所だ。足が遅いココミなら……と考えると、ぶるっと体を震わせる。


 ……隠れる場所は、一切なしか。不意打ち狙いは難しく、不利……とまでは行かないけど、それなりにめんどくさいな。


 俺は、半径1キロ以内に氷柱の応用で壁を作る。鳥かご状の壁は、シラタマ特性アイテムのおかげで、MPもさほど使わずに魔法が使えるのでまずまずだろう。大きな氷の鳥籠の中を索敵をし、「せーのっ!」で氷柱を地中からプレイヤーにお見舞いした。


 ……結構、減ったんじゃないか?


 索敵したとき、鳥籠の中には31人がいた。今、16人まで索敵に引っかかっているので、半数を削れたことになる。


 ……結構、魔力を練りこんだ氷柱で死なないってことは、しぶといのもいるってことだよなぁ。あとは、しらみつぶしに狩っていくだけだ。


 頭の中で、何度もシュミレーションをした甲斐があったようで、スタートダッシュは上場。会場を沸かせていることは、プレイヤーである俺は知らない。


 朝から牛とぶつかり稽古してたからなぁ。防御も結構上がったし、何より、これはありがたいな。あとこれな!


 二層の草原を牛と戯れていたとき、たまたま、チーターのようなモンスターに出くわした。さすがというべきか、とてつもなく足が早い。ステータス的には、チーターにだって負けてはいないと思ったが、実際は、俺の方の反応がかなり遅れていた。

 足では敵わなかったため、作戦変更をして、待ち伏せをした。一ヶ所に留まっていれば、勝手にモンスターが飛びついてくるので、ジッとしたのち、双剣の餌食となったのだ。

 このチーターは、スキル持ちだったらしい。『加速ブースター』のスキルが手に入った。本来、モンスターの固有スキルのようで、プレイヤーが習得できるスキルではなかったようだが、ネコネコシリーズで身を固めている俺のスキル欄に入ってきてスッと馴染んでしまった。


 走り出したら、加速とまらねー! あと、忍足もあるから、誰にも気づかれねぇ!


 風が吹いたと思ったら、プレイヤーはすでにエフェクトを撒き散らして死んでしまう。そんなふうに誰にも悟られないうちに静かに狩りをしていったので、会場で一部始終を見ていた者たちに『サイレントキラー』と異名をつけられたらしい。


「さてと、あとここには一人かな? 油断はしないほうがいいな。さっき見た感じ、ヤバそうだ」


 通り様に最後の一人を見た。ガタイのいいおじさんで、デッカい戦斧を軽々持っていた。


 当たったら、ひとたまりもないよな。あんなに存在感があって目立つんだから、紹介映像にいた人かもしれない。


 少し離れた後ろから、ジッと見て観察をしていた。視線を感じたのか、おじさんプレイヤーはこちらに振り返る。全身筋肉の鎧に、軽い俺の攻撃は通るのか……? と疑問を抱えながら、大鬼を倒したことを思い出した。


 やれる! 大鬼も強かったんだ。


 気合十分、最初の一歩目から、最速ギアを上げ、大男に真正面から突っ込んでいく。

 ガキーンと金属音とともに双剣が弾かれた。


 見抜かれていたか。なら……。


 左足を軸にすぐさま反転し、再度切り掛かる。俊敏にはほど遠い大男はわざと切られたのかもしれないと思うと後ろにひく。


 刃を当てただけじゃ、斬れない。なら、奥の手を使うしかない。


 双剣を前でクロスした。「エンチャント」と呪文を唱えると、黒い刀身が水色がかる。昼前の時間でいろいろ試したうちの一つだ。目を見張る大男は防御に入った。


「攻撃は最大の防御だっていうじゃんね!」


 加速とともに、魔法で氷を纏わせて威力を上げた双剣で切り掛かった。大鬼を倒したときより手応えがあった。真っ二つになった大男は、その場でパクパクと口をしたあと、エフェクトと一緒に消えていった。


「これでこの辺りは終わりかな? 誰か鳥籠に入ってくるまで待っていよう」


 そこからは、鳥籠にワザワザ自分から入ってきてくれたプレイヤーを狩っていく。今日1番のプレイヤーは、やはり、さっき倒した大男だっただろう。


 現実時間3時間。ゲーム内時間1日が過ぎていった。ラストは、上位5人のプレイヤーを集中砲火すべく、運営側が画策したらしいが、俺もリオンも関係なく、最後までフィールドに立ち続けていたのである。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よかったよと思っていただけた読者様。

ブクマ、いいね!下方にあるポイントをポチっとお願いします。(o*。_。)oペコッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ