表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/28

第23話 イベントの準備にゃあ

 三層まで到達したとき、すでに午前2時を少し回っていた。ココミの店で休憩はしていたが、そろそろ俺本体の睡魔が襲ってくる。


「グズにゃん、そろそろ限界っぽいね。私らも一度、ログアウトしようか?」


 コクリコクリと頭を揺らしていた俺を見て女性陣が笑っている。明日は……もう、今日というべきだろう、初のイベント開催日。もう少しレベル上げをしたい気持ちもあるが、睡魔には勝てず、俺だけ先にログアウトさせてもらった。


 現実世界に戻った俺は、目もほぼ開かず、頭もほとんど動いていない睡眠モード。残り少ない気力だけを頼りに目覚まし時計だけセットして、そのまま逆らうことなく夢の中へと落ちていった。


 今週は、いろいろとあった。普段、絡みのない連中たちに嫌味を言われたり、リオンとエンカウントしたりと、なんだか、気持ちだけが上がったり下がったのジェットコースターのようであった。

 俺は、ゲームに夢中で、すっかり疲れを忘れていたつもりだったが、体は休みを所望していたようだ。

 夢も見ず、ぐっすりと眠りについた。


 けたたましく鳴る目覚ましの音で目を覚ますと、母の「ご飯できたよ!」の声が聞こえてくる。寝起きでぼんやりしながら、目を擦り、大欠伸をして階段を降りて行く。まだ、頭が覚醒していないため、途中、階段から滑り落ちそうになり、やっとの思いで、リビングまできた。


 ……寝ぼけすぎて、落ちるところだった。気を付けないと、今日のイベントに参加できないところだった。


 階段から落ちそうになったことで、少しだけ頭が起きたようだ。それでも、食卓へ向かいながら、大欠伸をしていたので、俺をチラッと見た母はため息をついていた。


「また、夜中まで、ゲームしてたの?」

「んーそう。今日は休みだからいいだろ?」


 仕方ないと諦めた表情を向けてくる母に、にへらと笑い自分の席につく。今日は父も兄も休日で家にいるので、少し遅めの朝食だ。兄の隣に座り、用意された焼きたてのトーストを齧った。


「何? また、ゲームしてんの?」

「そうだよ? ずっと待っていた新作が、出たんだ。ずっと、止められてたんだけどさ」


 母の方をチラッと見て、訳知り顔で兄は頷いた。兄も同じ境遇になったことがあるらしく、経験による頷きのようだ。


「兄貴は、もう、ゲームはしていからな。俺の気持ちはわからないんじゃない?」

「何言ってんだか。誰が泰弘にゲームを一から教えたと思ってるんだ?」


 軽い口調で、久しぶりに兄と話した。兄が社会人になってからは、仕事で遅くなる日が多く、すれ違う日ばかりだ。好きだったゲームをしている時間が取れないでいる兄の精一杯の俺への嫌味だったのかもしれない。

 

「旧作の話は、また今度ね。兄貴じゃ、今のVRの魅力がわかんないんだよ」

「わかんない? それは、ないと思うけど……そういえば、今って、ゲームもVRが主流なんだよな?」

「そう。兄貴がやってた頃より、ずっと自由だ」

「いいな。久々にゲームしたいな。スマホのゲームだけじゃ、やっぱり物足りないんんだよ」


 兄の話に「社会人にもなって、何を言ってるの?」といち早く反応したのは他でもない母だった。「社会人にもなって」と、言われたことにむっとした兄は、母の話を先に遮ってしまった。実は、兄もVRゲームは体験している世代だ。ただ、今よりもっと不自由で、動きもそこまで思い描くほどではなかった。この数年で格段にVR技術が革新的に進化していき、昨今のゲームは、リアルとほぼ変わらないほどで、現実より優れたアバターに魅了されている者は多くいる。

 社会現象とまで言われることもあり、『VR廃人』という弊害になっていることもあるにはあるが、それでも、この現実にはなり自由さに手を伸ばす者は多い。


「かぁさんもしてみたら? 昔みたいに、コントローラーを使うものじゃないんだ。オンラインにコネクトで繋いで横たわるだけだしさ」

「そんなの無理よ!」

「無理じゃない。仮想空間ていうのはスゴいんだ。まぁ、俺も、今のVR世代に変わってからは、まだ数えるくらいしか入ったことがないんだけどさ。泰弘に借りて一度入ってみるといいよ。世界観がぶっ飛ぶから。そうだろう? 泰弘」

「あぁ、そうだな。兄貴の言う通り。今回のは、さらにすごいんだ。パッケージで俺は買ったけど、ビル建設中みたく、未だ開発が進んで、少しずつ階層を公開している感じだから、今後もこのゲームは拡大していくんだ。貸すのはいつでもいいけど、今日だけは、ダメ。これからイベントなんだ」


 イベントという言葉に、兄がいち早く反応した。元ゲーマーの兄には、甘美な響きに聞こえただろう。


「出るのか?」

「出るよ! 今回が初イベント」

「始めて間もないだろう?」

「んー、そうだけど……まぁ、いろいろとあってさ。俺、わりと強いと思う。今回のイベントには、仲間も出るけど、俺よりさらに強いんだ!」

「へぇー、仲間ねぇ? 泰弘はオンラインだと社交的だな」


 クスクス笑う兄を睨んでおく。俺の性格を知り尽くしている兄は、現実の俺のことももちろん知っている。クラスでの立ち位置とかも含めてだ。これ以上、兄に何か言ったとしても、社交上手な兄に適うわけもないので、早々に降参と両手をあげておいた。

 賑やかな食卓は久しぶりだったので、両親もなんだか嬉しそうに俺らの会話を楽しんでいた。


「それじゃあ、今日は、優勝した泰弘の祝勝会か?」

「もぅ、父さんも……茶化さないでくれよ!」

「ゲームの実況はオンラインでやるのか?」


 兄も興味があるのか、「13時からだ」と伝えると、ニヤリと笑った。「しっかり準備しておけよ?」という兄に頷き、昼は少し早いめに食べたいことを母に伝える。

 渋々ではあったが、了承をしてくれた母と応援してくれる父と兄に頷き、ゲームへと戻った。


 ……そういえば、兄貴に何も教えなかったけど、俺だってわかるのかな? まぁ、兄貴のことだから、俺の考えそうなことは、お見通しだろうな。


 ふと疑問に思ったが、ゲームの師匠とも呼べる兄が、ゲーム内のことであっても、俺のことで知らないことはないだろうと勝手に結論付けた。一緒にゲームをしていたこともあって、イベント後にキャラ名まで当てられ、ダメ出しされたことは、後のことだ。


 ……今から少しでもレベルを上げないと。まだ、時間は十分にあるしな。上位入賞を目指すなら、いろいろと試したいこともあるし。


 勝つことは、俺自身のためであると同時に、あのヘンテコなパーティーのためでもある。しっかりお金を稼ぎ、自分たちの拠点となる家のためにと、三層に降り立った。


 ログインすると10時だった。まだ、少し時間があるので、ココミの店にいるシラタマに顔を見せてから、二層のフィールドを少し回ろうかと思っていた。


「クズイにゃん」

「シラタマ、二人は?」

「リオンは三層でレベリングしてるにゃ。ココミは二人に持たせたいって回復薬とかアイテムを作ってくれてるにゃ」

「そっか……ココミはイベントにでないんだもんな」


「にゃあ」と返事をするシラタマの頭を撫でて、「俺もレベリングへ行ってくる」と伝えた。モフモフの手を振って応援してくれるので、頷いて店を出る。


 ……少しでも高い順位にいないといけないからな。


 二層への移動をするために、広場の転移を使う。一瞬で二層に到着し、フードを被って気配を消し、早々に街を出た。二層は、草原のフィールドで、見渡す限り、草がゆらゆらと揺れている。遠くにある岩山を見て、俺はその方向へ向かうことにした。拳をギュっと握って狩場となるフィールドへ駆けた。今までは、リオンが常に隣にいて、変な解説をしてくれていたおかげで、どんなモンスターが、どのフィールドに出てくるのか分かったが、いざ一人、草原に出ると右も左もわからない初心者だということを嫌というほど知らされる。


「さて……、一人になると、こんなにも心細く感じるのか。初めてのおつかいの気持ちってこんな感じなのか? リオンが牛の話してたけど、こいつだよな。見た目にも、攻撃力は強そうだ」


 闘牛士を思わせる黒毛牛のモンスターは、俺を目掛けて突っ込んでくる。その頭には、二本の太い角があるが、それより……大きな巨体に当たれば、トラックで引かれるほどの衝撃とダメージをくらうに違いない。


 ……防御に経験値は振り分けてないからなぁ。当たれば、最悪死に戻りか。


 牛を避けるために足を移動させていくが、じりっじりっとそのスピードもだんだん上がっていくので、氷魔法をためしに使ってみることにした。深い青の石がはまった腕輪から、冷気が立ち込め、『氷柱』と唱え狙った場所にその柱は立つ。ツララを逆にしたような形状の先端には、先程まで暴走特急のように荒々しい息遣いで、こちらに迫ってきていた牛が、無残に刺されてエフェクトをまき散らしていた。その牛は、必死に抵抗して動いているからか、花吹雪のようなエフェクトを俺は眺めていた。


「ふぅ……やっと一頭。かなり強いな、このモンスター」


 そのあとは、氷柱の使い方を確認しながら、牛との戦い方を確認していく。愚直に真っすぐ突っ込んでくるだけかと思えば、酸入りの唾を吐かれたりと……結構、厄介なモンスターだった。

 草原の暴れ牛を10頭倒したところで、11時半になった。


「そろそろ、頃合いかな。ご飯も食べる時間が欲しいし」


 二層の街へ戻り、その足でギルドへ向かった。昨日のうちにギルドで、重複可能な何件かの案件を登録しておいたのだ。依頼中の素材の提出で冒険者ライセンスが上がり、レアアイテムのドロップ数が増えると昨日ココミに聞いたので、早速試してみることにした。

 ギルドに入って行くと、中は一階層と同じ作り。奥のカウンターを見れば、見知った人物がいた。


「エレンさん!」


 名を呼んだ受付嬢がこちらを見て訝しむ。近づいていきニッコリ笑った。


「リオンに連れてきてもらった初心者です」


 そういえば、初ログインをしてから、初めて一人でギルドに来たことを思い出す。


「……あぁ、思い出したわ! 今日は何の相談かしら?」

「相談と言うか」

「買い取り? それとも依頼を受けるかしら?」

「えっと、この依頼をお願いします」


 エレンは、依頼内容をサッと確認し、依頼を受けたように書き換える。


「依頼なんだけど、達成しているから出してもいい? これ以外にもあるんだけど……」


 さっき狩ったばかりの、闘牛士の角を10対見せれば依頼完了だった。他にも薬草などの採集ものの依頼も同時に提出したので、エレンは昨日の依頼書も確認していく。


「一人で、討伐に向かわれたのですか?」

「あぁーっと、そう。今日のイベントに参加するまでにレベル上げしたくて。まだ、ログインしたてで日も浅いからさ、ちょっと練習も兼ねて」


 傷ひとつない俺をジッと見つめるエレン。何を言っても無駄と思ったらしく、「お疲れさまでした」とだけ、冷たい言葉で労ってくれた。


「では、依頼の内容と達成条件も揃っていますので、これらの依頼は完了となります。報酬をご用意しましたので、こちらを」

「ありがとう。こんなにもらえるとは思ってもいなかったよ」

「イベントがあり、大量の薬草の在庫が底をついていましたので助かりました。それでは、また、何かありましたら、お声がけください」


 ぺこりと頭を下げ、俺をあしらうエレンに再度お礼をいい、ギルドを出る。

 ギルドの報酬で、多少、手持ちの懐も温かくなったところで、再度ログアウトする。13時開始のイベントに向け、本体の方の腹ごしらえをしないといけないからだ。


 ……レベルも25まで上がったから、とりあえず、どんな強敵が来ても戦えるだろう。リオンに聞いた奥の手もあるから、死にはしないだろうし……。シラタマにもらった状態異常無効の装備も終わってる。

 後は……ココミの店でアイテム補給をするだけだな。


 やらないといけないことはすべてやった。あとは、その場での対応だけだ。久しぶりのPKに少しだけ心躍った。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

よかったよと思っていただけた読者様。

ブクマ、いいね!下方にあるポイントをポチっとお願いします。(o*。_。)oペコッ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ