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第22話 イベント開始の……前に にゃ

 突如、満場一致で決まった三層までの攻略。すでに攻略が済んでいるリオンに話を聞きながら、1階の階層主を倒す算段をつける。


「1階層は、木のモンスターだった気がする。にょきっと生えてるんだけど、ココの全力で何度も叩けば、終わるんじゃないかな?」

「そうなの? あたいが行ったときは、かなりパーティーで全体で苦労した記憶があるけど……」

「まぁ、確かに。あの木の根っこが、うねうねと動き回るから厄介なのよね。私が魔法で燃やしてしまってもいいけど、この際だから、クズイくんに全部切り落としてもらいましょう。クズイくんのレベルならいけるはずよ!」


 話し合いの末、陣形は、前衛が俺、中衛がココミ、後衛がリオンとシラタマというふうになった。

 俺が、まず、先頭でかき回し、俺が取りこぼしたものをココミが強打、リオンがさらにココミが処理しきれなかった分に対応するということだ。シラタマは人数には入っていないため、お荷物を抱えたまま階層主を倒しに行くということになるのだが、このパーティーなら不安は全くなかった。


「階層主の前にも、モンスターがでるから。ここは、そんなに強くないわ」

「……確かに強くはないけど、すばしっこい!」

「俺が対応する! 来いっ!」


 挑発してみるが、スキルではないので見向きもされない。足の遅いココミが、『トカゲ』どもに狙われた。俺の横を見向きもせずに避けて通っていくので、後ろから迫って切り刻んでいく。


「あたいばっかり、狙われてるんだけど!」

「足の早いモンスターはね……どうしても、ココを狙うわよ。でも、今のでいいんじゃない? ココは大変だったけど、クズイくんがうまく対処できた。階層主もあんな感じで、行きましょう!」


 なんども雑魚と戦いながら、階層主戦の前に練習を重ねていく。最初は、うまく連携が取れずに、ココミがダメージをくらう場面がたくさんあったが、声のかけ方や動き方がわかるようになると、俄然戦いやすくなった。もちろん、シラタマは、後衛のリオンの後ろで覗いているだけである。

 とうとう階層主がいる部屋へと入って行く。緑豊かな部屋を見渡していると、部屋の真ん中あたりに立ったときには、木の根っこが下から突き上げてきた。


「構えて!」


 次の瞬間には、ココミは遅いながらも階層主に向け走り始める。それを止めるように木の根が下からどんどん襲ってくるが、俺はそれを丁寧に刈り取っていく。次第に、木も成長して葉がナイフのようにこちらを目掛けて飛んできた。

 それも、普通なら、目で追えないほど、早いはずであるのに、難なく対応ができる。軽く跳躍で双剣を振れば、葉っぱは、無常にも散っていく。


「ココミ、こっちは任せろ!」

「オーケー! じゃあ、階層主を切り倒してあげるよ!」


「そーれー!」の掛け声とともに、木こりが木を斧で切る要領で木を大槌で叩く。どぉーんという音と共に、木のてっぺんまで震えていた。ココミが叩いた部分に、大量のエフェクトが飛ぶ。


 ……すげぇ、抉れてる。俺、あんなことできないけど。


 三分の一ほど、太い木の幹が抉られていることに驚きながら、俺はさらに早い動きで、ココミに襲い掛かろうとする木の根や葉っぱの刈り取りで援護をする。ふと、リオンたちの方を見た。なんだか、ずっと前にやり取りしたようななつかしさが、胸に広がりそうなシラタマの装備に笑ってしまう。


 ……お鍋の蓋?


 確か、初期設定のときの武器を選ぶときに、選択のひとつとして出ていたもので、それを使って防御をしている。なんだか、可愛らしくて笑ってしまう。


「クズイ、今、にゃーを見て笑ったにゃ!」


 見えていたのか、シラタマに怒られてしまった。無視をして、ココミを守るために駆け回る。


 シラタマは、リオンが守ってくれているから大丈夫だろう。


「もう一丁! これで最後だよ!」


 どぉーんと鈍い音が部屋に響いたとき、大きな木のモンスターは、大量のエフェクトと共に消えてしまった。


「やったね! 倒せた」

「おめでとう、ココ」

「ココ、めちゃくちゃ強いな?」

「へへっ、クズにゃんもすごいじゃん。ノーダメージでしょ?」


 お互いを称え合っていると、二層に続く道が開いた。ここでドロップするものはないらしく、三人と一匹は、開いた扉の先にある階段を上っていく。


「うわー、草原!」

「すごいにゃ! 広いにゃ! 食べるにゃ!」」

「……おい、コラ。シラタマ。食うなって!」

「……にゃあ?」


 時すでに遅く、シラタマは葉っぱを咥えてこちらを見ている。猫掴みをしているので、だらっと垂れ下がっているが、葉っぱは離さないようだ。


 ……食い意地はりすぎじゃね?


 俺は、シラタマを自分の目線にまで引き上げると、「にゃあ」と葉っぱを落とした。何が言いたいのか、理解したようだ。そもそも、ナビゲーターであるシラタマに食べるという概念はあるのだろうか……と、頭が痛くなる。マタタビを所望してたくらいだから、食べなくてよくても食べたいのだろうと、俺はシラタマの首根っこから手を離し、地面に置いてやる。


「ココは、2階層は来たことあるんだよね?」

「あるよー、店も2階層までは出てる」

「店ってさ、1階層だけじゃないの?」

「階層ごとにリンクしてるんだよ。まぁ、出店には結構なお金が必要なんだけどね。階層ごとではなくて……。階層ごとにおける品もあるから、そっちも充実させてるけどね」


 俺は、店については、全然知識がなかったため、ココミのなんちゃって講座はとても勉強になった。1階層で店を出したのち、階層ごとにお金を払って、その店の所有権を買うらしい。今のところ、1階層と2階層に店があるということだ。今は、3階層までの資金を前払い済みで、ココミが3階層に到達すれば、開店するらしい。


「何かあったら街に行きな。同じ場所に店があるから」

「わかった。そうさせてもらうよ!」


 頷いたあと、このまま2階層の階層主の場所まで行くことになった。次は、リオンがいうに『にょろにょろ』らしい。ということは、蛇が階層主なのだろう。


「陣形は、さっきと同じでいいと思う。ただ、次は、クズイくんメインで戦ったほうがいいかなぁ?」

「……あたいはどうする?」

「ちっさなにょろにょろがいっぱい出てくるんだよ。それの退治かな? 今度は私も手伝うよ。さすがに気持ち悪いし」


 それぞれのレベルの確認をすれば、俺が1番低いくらいだった。ただ、それでも行けると判断したリオンについていくしかない。


「大丈夫。いざとなったら、私が全部燃やすから」


 ニッコリ笑うリオン。美人が悪い顔をして笑うと、妙に迫力があった。

 二層のモンスターは、さすがに一振りでは、まだ倒せない。レベルだけは、早く上がっていっているはずなのに、攻撃に対する経験値の振り分けが意外と難しい。


「草原っていいよね。たまに牛のモンスターとか出るんだけど……いいよ」

「何がいいのか、さっぱりわからないんだけど?」

「ドロップアイテムが肉! それをこんな草原のど真ん中でやいたりできるの、最高だよ!」

「……それ、匂いにつられた肉食獣とかに、襲われそうじゃない?」


「そこはほら!」とかいうあたり、リオンなら、焼きながら、戦っているのかもしれない。常識の外れた話をしているリオンと視線を合わせないようにしながら、俺たちは階層主の元へと急いだ。


「さっきまでとは、雰囲気違うな?」

「そうだね。ピクニックできそうなくらいさわやかな草原だったもんね。お弁当、持ってこればよかったね」


 暢気なことを言っているリオンは、「みんなでピクニックができなくて残念」と肩を落としている。階層主の部屋まで続く道は、今度は洞窟だ。開けた場所ではないから、いいかな? と油断すれば、既に蛇が襲ってくる。


「なんだっけ、上半身女性の蛇っているじゃん?」

「ラミアだっけ?」

「そう。階層主あれなんだよね?」

「……にょろにょろっていうから、ニシキヘビとかあっちのほう想像してたんだけど?」


「そうだった?」といいながらテヘッと舌を出して笑うリオン。だんだん『戦姫』という冷たいイメージより、年相応の可愛らしさが出てきている。その様子を見れば、なんとなく、背中を預けても構わない仲間だと思われているようで、俺は嬉しかった。

 洞窟の奥まで辿り着いたとき、リオンが「ここが、二層の階層主の部屋だよ!」と軽い感じで、コンコンと扉を叩く。それぞれが装備を確認して、みなが頷きあったところで扉を開いた。


 リオンが言った通り、洞窟の奥深くにラミアが眠っていた。部屋に入ってきた俺らの気配で起きたのかのそのそと状態を上げてきた。睨むように赤い目が光っている。『にょろにょろ』には違いないが、なんか、ちょっと……リオンさん? と、思わなくもない。


 完全に目を覚ました階層主のラミア。リオンの指示の元、戦えば、ものの10分もかからず倒すことができた。


「ここは、毒の効果を落とすアイテムあるから、持っておくといいかも!」

「俺、今、毒半減だからココミが持ったら?」

「そう? もらってもいいの?」


 すでに持っているリオンとスキルで軽減されている俺は、ココミにアイテムを譲る。その奥に階段が現れたので、三層まで階段を上っていった。


 三層は空の上のようだ。雲の上を歩いているようで、歩くたびに、足裏がふわふわした感じで浮き上がるようだった。


「いいところでしょ?」

「三層は、初めてだからなぁ……、なんか、重力が半減した気持ちになるよ。二人とも店による?」

「そうだね、行こうか!」


 三人は、街まで歩き、店のある場所までいく。一番後ろで静かにしているシラタマは疲れたのだろうか? 俯き加減でトボトボ歩いている。


「どうかした?」

「不思議な感じがするにゃ。ケーキの上を歩いているみたいにゃ」

「ケーキって……相変わらず、食い意地はってるな。おいしそうだけど、そのへんの綿菓子みたいなの齧るなよ?」

「クズイ、にゃーは、そんなことしないにゃ」

「二層で草に齧りついていたのは、どこの誰だよ?」


 大きなため息をつくシラタマにバカにされたような俺は、心配をして損した気持ちだ。

 シラタマに話しかけていたので、二人から少し離れていたので、シラタマを抱き上げ、二人に追いついた。


「どうしたの?」

「クズイがにゃーが拾い食いすると思ってたにゃ。失礼にゃ」

「ふふっ、さっき、草を齧っていたから、シラタマのことを心配してくれたんじゃない?」

「そうにゃ?」


 リオンに指摘され、抱き上げていたシラタマが俺の方を見て来るので、知らん顔をしておく。俺に無視をされたシラタマは、両手の肉球を俺の頬に当てて、むぎゅうっとしている。その様子をリオンとココミが見て微笑んでいた。


「やめろって……」

「クズイが悪いにゃ! にゃーを虐めるから」

「虐めてないだろ? 変なもん食わないように、こうやって抱き上げてるんだから。ほら、屋台が見えてきたから、なんか買ってやるよ」

「クズイが、優しいにゃ!」

「俺は、常に優しいぞ?」


 ジトっとした目で、シラタマから見られたが、『雲肉の串焼き』の看板を見て、シラタマに渡してやると、嬉しそうに齧り付いている。「クズイ」と呼んでくるので、シラタマの方をみると、残った雲肉を口に押し込んできた。


「うっまいな!」

「にゃ!」


 シラタマと同じように騒いでしまう。後ろで同じように『雲肉の串焼き』を買っていたリオンとココミもシラタマと同じように最後のひとつを口に押し込んで、二人と一匹で笑っていた。俺は、複雑な思いをしながらも、絆が深まり仲間感がより一層出たことに、嬉しく思った。


 一層では、木の家であったココミの店は、三層では雲のレンガで出来た店に変わっていた。ココミはそれを見て大興奮。店の前から動かなくなった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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