第21話 イベント会議とレッツ階層主!にゃー
街へ戻り、イベントと階層主討伐の作戦会議のためにココミの店へと向かう。扉を開ければ、さっきも言われた「いらっしゃいませにゃ!」と、シラタマが愛想よく挨拶をしてくれた。俺たちが帰ってきたと目を輝かせるシラタマ。三人揃っているのが、嬉しかったようだ。
「おかえりにゃ!」
「ただいまぁ~、お店はどうだった?」
「普通にゃ。今、お客が途切れたにゃ」
ココミとのやり取りを見ても、今のところドジなくシラタマは店番が出来ているようだ。そういえば……と、ゴソゴソとシラタマがカウンターのところで何やら始めた。悪い予感とまではいかないが、余計な何かをしたのだろうという感じはひしひしと伝わってくる。
「マントに、付与しといたにゃ」
「な、何を? それ、リオンのマントだぞ?」
「そうにゃ? リオンなら、にゃーの付与でも使いこなせるにゃ」
マントをリオンに渡す。白い猫耳のマントを羽織るリオン。今日は魔剣士のいで立ちのためか、渡されたマントがよく似合っていた。
「いいね、猫耳が可愛い」
「よく似合うにゃ! ほら、クズイも褒めるにゃ!」
「……先に言われたら、言いにくいだろ?」
シラタマを睨みながらリオンへと視線を移す。「どうかな?」とリオンが聞いてくるので、「とても可愛い」と褒めた。嬉しそうにしているリオン。それを横目でニヤニヤしているココミとシラタマがなんともいえない。
「そういえば、何を付けたんだ?」
「夜目がきくようにしたにゃ。冒険者は暗い場所にもいくから、モンスターによっては、明かりがつけられない場合もあるにゃ」
「確かにそうだね? 明かりをつけたことで、モンスターに狙われることもあるからなぁ……」
「えっ? シラタマは、そんな高度な技術を持っているの? あたいは、レベルも足りないし、素材もないから、それは付与できなかったんだよ」
悔しがっているココミではあったが、考え方をすぐに切り替えたようだ。すでに着ていたココミもシラタマにお願いして、夜目がきくように付与してもらうことにしたらしい。
「これだけでも、本当に助かるな。あたいでは付加できないからさ」
「確かに。そういう素材はあるんだろうけど、まだ、このあたりにはいないからね」
「ココミのお手伝いするにゃ。何か、にゃーにお手伝いできることがあったら、何でもいうにゃ。できることなら、何でもするにゃ! 居候させてもらうお駄賃がわりにゃ。実験ならクズイの防具に付与して試せるにゃ! 任せてにゃ!」
「はぁ? シラタマ……、俺の武具をなんだと思ってんだよ!」
にゃっといい笑顔のシラタマを小突いてやる。シラタマはその状況でも、『お役に立てた』ことを喜んで、親指を立てているのだろうが、ピンクの肉球しか見えない。「あぁ、ふにふにしたい」と思ったのは俺だけではなく、リオンもココミも心なしかソワソワしていた。
「シラタマ、もう少し一人で店番をしていてくれる?」
「いいにゃ? 任せるにゃ! 何か相談事するにゃ?」
「うん、今からイベントの相談」
「もう、そんな時期にゃ。にゃーは応援しかできないけど、クズイたちを精一杯応援するにゃ!」
「あたいも応援だから、明日は一緒に中継を見てよう」
ココミの提案に嬉しそうに尻尾を振っているシラタマ。ココミが、明日は店に残ってくれることが嬉しかったようだ。奥の部屋に入り、三人がそれぞれ定位置になりつつある場所へと座る。ココミが飲み物を用意してくれ、明日のイベントについて話し合いが始まる。
「DM見たけど、明日の13時からだったよね? イベントの開始」
「そうそう。それで、リオンのいないあいだに、クズにゃんと話してたんだけど」
俺の方をチラッと見て頷いたココミ。さっき、湖の桟橋で話してたことをリオンにも言ってくれるようだ。
「クズにゃんとあたいを第三層まで連れていってくれないか? イベント中は、プレイヤーの攻略階層が表示されるってなっていたから、階層が高い方が狙われないんじゃないかって話になったんだよ」
「なるほど……それは一理あるね。それなら、階層主を倒しにいこうか。二人は、今日は、何時まで大丈夫?」
「あたいは、いつものとおり何時まででも。クズにゃんは?」
「俺は、そろそろ1回ログアウトだな。飯の時間」
「おっ? 何々?」
ココミがこちらを窺うように、意味深な感じで絡んでくる。
「ココミの期待するようなことは、何もないから。俺、高校生だし。陰キャだし。親に言われてるんだよ。飯の時間は、必ず来るようにって。あと平日は23時までって。明日は、休みだから、今日は寝落ちしない限り、何時まででもいいよ」
「クズイくんのお母さんは、しっかりしてるよね。うちの親と大違い。学業を疎かにしないってことなんだろうね?」
「まぁ、私ら、勉強が学生の本分だからね? それをないがしろにしてちゃ、親が泣くし。じゃあ、あたいらも一度落ちて、ご飯行っとく?」
「私は食べてきたからいいよ!」
「……そっか。まぁ、いいんだけどさ。リオン、昨日も遅かったんだろ? あたいも人のことはいえないけど、廃ゲーマーにだけはなるなよ?」
苦笑いするだけで、リオンは返事をしなかった。余程、このゲームが気に入っていることがわかる。それか、現実から逃げたいのか。どっちだろう? とリオンの表情を伺ったが、俺にはわからなかった。
友達もいるってことだから、リアルも充実しているんだよな?
それ以上は、リアルのことを詳しく聞くことになりそうで、御法度だ。集合時間を20時に約束して、俺は一度ログアウトをした。
◆
ゲーム内に戻ってきたとき、シラタマと一緒にリオンが店番をしていた。いつの間にか仲良くなっているようで、一人と一匹は話をしているようだ。
「ただいま」
「クズイにゃ。おかえりにゃ」
すっかり俺にも懐いているシラタマの頭を撫でると、嬉しそうに目を細めている。くしゃくしゃに撫でると非難がましい目でこちらを見ながら、短い前足でさっと毛を整えていた。
「おかえりークズイくん」
「ん。リオンは、あれから、ずっといたのか?」
「うん、いたよ。シラタマと遊んでた。お客さんも、今は、いないからさ。まだ、ココミは帰ってきてないんだけど、せっかくだから、話でもする?」
「そうだな」
店のカウンターに寄りかかる。穏やかな時間は客もこず、とても静かだ。話す内容は、決まっているので、俺たちはイベント情報の共有をすることにした。
「そういえば、イベントなんだけど……」
「個人戦だよな。俺、思うに……俺たち、」
「「戦わないほうがいい」」
俺も頷いた。リオンもイベントの概要を見ながら考えていたようで、結論付けたようだ。何やら上位になれば、特別報酬がもらえると書いてあったのだ。それなら、シラタマのことを考えて、家を買う前提で、同じパーティーであるリオンとは戦わない方がいいだろう。
……戦ってみたい気持ちはあるんだけどな。やっぱり、最前線の攻略組の一人でもあるリオンとの対戦は、自分の力量を見定めるにも、必要なことなんだけどな。
パーティーを組んだ以上、この大会の他でも、リオンと対戦できるタイミングはあるだろう。それまでのお預けと思えば、このゲームを長く続ける楽しみが増える。
「家を買うにはお金が必要だしね。いつまでもシラタマをここにおいておくわけにもいかないし」
「……にゃあ」
寂しそうにしているシラタマの頭を優しく撫でる。シラタマなりに、ナビゲーターに戻れないことに落ち込んでいたようだ。シラタマ本人には、ナビゲーターに戻りたいという気持ちはあるようだが、一日以上経った今でもお呼びがかかっていない。現状、それはシラタマの願いは叶っていないので、俺たちを頼るしかなかった。
「ごめん、遅れた!」
ココミが勢いよく扉を開けた。お風呂でイベントのことなどの考え事をしていたら、約束の時間が過ぎてしまっていたらしい。気にすることないというと、申し訳なさそうにココミは笑った。
「じゃあ、行きますか。三層まで踏破ってなると、結構な時間がかかると思うの。レベルもあげながらじゃないと、きついしね。」
「そうだね。あたい、二層の攻略も大変だったから……」
「クズイくんは、今回初めての階層主だしね! 死なない程度に頑張ろう」
「了解です。先輩方。でも、俺の持ち味は速さだから……それを生かした戦い方をするな?」
「わかった。ココにも見せ場を作るからね!」
「ありがとう! 回復アイテムとかは、あたいが大量に用意しておいたから、明日の分も含めて、任せておいて!」
どーんと胸を叩くココミにお礼をいう俺とリオン。俺たち三人は、階層主攻略のため、また、店を出ようとした。ふと振り返って、シラタマを見る。「留守を頼む」と言ったら、「お手伝い頑張るにゃ」と見送ってくれてはいるが、尻尾を見れば、置いていかれることに、どこか寂しそうだった。
「なぁ、ココミ」
「何?」
「シラタマを一緒に連れていきたいんだけど、店……」
「いいよ! 常に開いてる店じゃないから。シラタマ、一緒に行こう!」
「にゃん!」
声をかけると、カウンターから飛び出してきた。嬉しそうに俺とリオンの間に入って歩く。
「さっきから、留守番ばっかりだったもんね。ごめんね、配慮が足りなくて」
「いいにゃ。ココミには、とても、お世話になっているにゃ、我儘は……、言えないにゃ」
「いいよ。我儘くらい言ってくれて。あたいらは、もう仲間なんだから」
ココミがニィっと笑うと、シラタマが嬉しそうに飛び跳ねる。小さな子どものようにはしゃいでいる。
ただ、今から行くところは階層主の部屋。危ないことに変わりないので、大人しくしているようにシラタマに言い聞かせる。そうすると、どこからか出してきたシラタマ専用の軽防具を身に纏って、一丁前に冒険者気取りになった。
「これなら、多少の攻撃の余波は避けられるにゃ!」
リオンとココミに揃えて、猫耳マントまであるので、俺たちがいないあいだに、こっそり趣味で軽防具を作っていたようだ。三人が顔を合わせて笑ってしまう。
「用意周到だな?」とシラタマの頭を撫でると、「抜かりはないにゃ!」とぴょんぴょん跳ね回った。余程、嬉しいようだ。
シラタマがマントについたフードをかぶったため、俺たちもそれぞれのフードをかぶる。明らかに俺だけ黒ではあるのだが、この猫耳がみなに知れ渡るのは、そう遠い未来のことではなかった。
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