第1話 スクショの彼女は白銀髪(プラチナシルバー)の美人剣士にゃ!
「なぁ、ヤス」
「んぁ? どうした?」
「気になってたんだけど、さっきからずっと何見てんだ?」
ようやく中間テスト期間が終わり、開放感がクラス全体からにじみ出ている今週最後のホームルームだけが残る。親友の翔也が、スマホに釘付けになっている俺に話しかけてきた。
「何って、ゲームのスクショ見てんだよ」
「あぁ、この前のテスト結果が悪くて、かぁちゃんに止められてたヤツ?」
「……そうだけど」
明からに呆れた顔をしている翔也には、この長い長い長すぎるゲーム禁止期間の辛さはわからないだろう。俺にとって、この試練は、富士山……いや、エベレストより高く険しいものだった。首を長くながーくして、このスクショだけを支えに、ゲーム解禁日を待ち望むしかなかったのだから。
ことは、三ヶ月前まで遡る。
新しく出たVRMMORPG、『ニューワールドヒーローズ』のβテスト版の抽選にハズれたことが、全ての発端だった。人気作の新作ではあったが、ネットで検索をする限りでは、前評判はあまりよくないようだったので、βテスト版の当選確実と高を括り、軽い気持ちで抽選に応募した。そう、必ず、当たると考えていたのだ。
抽選応募後は、もちろん、前情報を参考に脳内シュミレーションを何度も何度もした。βテスト版でゲーム内の感触を確かめ、正規版発売と同時に、たくさんの仲間を集めてオープンワールドへ! と、夢を膨らませ楽しむ予定だった。学校からの帰り道、俺のスマホへ運命のメールが届いたのだ。
『誠に残念ながら、ご応募いただきましたβテスト版の抽選はハズレとなりました。正規版が発売になりましたら、ご購入をしていだけ……』
……えっ? ……ハズれた? 当選確実じゃなかったっけ? あぁ、そっか。β版は人数をかなり限定させたんだな。そうだ。そうじゃないと、ハズレるわけがない!
帰路の途中、スマホの画面が滲んで見えなくなった。こんなことで、涙が溢れるとは思ってもみなかったが、現実を受け入れられない。開発発表から、すでにかなりの年数が経っていた。何年も何年も発売を待ち続けたゲーム。『現代技術を全て使い果たしたと言っても過言ではない』と開発者が豪語するくらい、長い年月、発売を待ち続けていたのだ。βテスト版があると知ったその日には申し込みをし、楽しみにしていた。
思いもよらない結果に、俺の頭の中は真っ白になった。
それから、家に着くまでの間、着いた後のこと、約一週間ほどの記憶が曖昧だった。その間にあった実力テストで五教科全てにおいて、見事に赤点を叩き出してしまい、学校に呼び出された母は怒り、すべてのゲームを禁止されてしまった。
「父ちゃんなら、普通、息子の味方だろ? ゲームくらい、息抜きにさせてくれたっていいじゃない?」
「そうはいってもなぁ……学校に、母さんが呼び出されたんだろう?」
「そうだけどさ!」
「今まで、心配させるようなことはなかったんだ。よほど、母さんは、ショックだったみたいだぞ?」
何度も父に訴えてみたにも関わらず、「母さんが機嫌良くないと困るからなっ! 勉学は学生の本分だからな。頑張れっ!」の一点張りであった。
本分だと父は言ったが、自身の飲み会のために、息子を犠牲にしたのだと、このとき悟った。
父にまで裏切られ、俺は母が許可が下りるまで、勉強をするしかなくなった。普通にしていれば、平均点以上の点数が取れるのだから、記憶のない実力テストのことは忘れてしまうことにする。
父からの悪い提案により、期末テストで悪い点を取れば、ゲーム禁止どころか、据え置き型だけでなく携帯からPC、アプリなど、かなりの時間を費やした全てのゲームデータ削除もしくは没収されることになり、母の悪魔のような宣告により、今まで必死に勉強をせざるえなくなった。
すでに正規版も発売され、発売日当日に家に届いた。もちろん、母からの許可が下りるわけもなく、ひと月以上、勉強机の上にパッケージ版が大切に祀ってある。あとは、期末テストを終えるまでの我慢だと、毎晩、枕を涙で濡らしながら、すでにゲームをスタートさせたプレイヤーが撮ったゲーム内スクショや共有されている攻略方法や考察を見ながら眠りについた。
期末テストが終わった今、俺を止めるものは、何もない。今見ていたのは、『ニューワールドヒーローズ』で、有名な廃プレイヤーのスクショ。いろいろな情報源を見たが、βテスト版にはいなかったらしい。今、最強の一角にいると噂の彼女だ。
けして他のプレイヤーとは群れず、見た目からも気高く、瞬く間に最強となった彼女を崇拝しているプレイヤーはかなり多い。
プラチナシルバーのロングストレートに濃いピンクのレイヤーが入り、スラっと手足の長く、顔の造形はエルフと見間違うかのような完璧なアバターの仕上がりに感服すらした。
今、解放されている階層は三層目まで。この見目麗しい廃プレイヤーは、どの層も最速で踏破したという噂まで流れているのだ。
憧れない理由は、何一つない!
「んで? そのスクショのおねぇーちゃんは、何なわけ?」
「よくぞ、きいてくた。この方が、『ニューワールドヒーローズ』で1番有名な『孤高の魔剣姫リ……』」
「オタクくん、ちょっとうるさいよ? 何? おねぇーちゃんとか、黙って? キモイよ?」
「こらっ、マナ。そんな言い方!」
「だって、里緒。本当のことでしょ? ゲーム? 高校生にもなって、ピコピコしてるとかヤバいでしょ?」
意気揚々と翔也に話そうとしていた俺は、「……ごめん」と小さく呟く。三河マナの一言で、その場に集まっていたやつらは、俺を見てゲラゲラ笑っている。逆らったところで、敵う相手ではない。今、俺に話しかけてきているのは、クラスヒエラルキーのトップにいるギャルのマナなのだから。
陰キャの俺は、黙る以外に選択肢はなかった。
先週、席替えがあり、マナの友人で同じくギャルの一条里緒が隣になったため、里緒の机を囲むように必然的にこの場へ陽キャが集まっていた。
「葛井くんが謝ることじゃないよ。こっちこそ、ごめんね」
里緒からの言葉に慌てて何かを言おうとしたとき、マナが被せてきたので、それ以上、里緒に対して何も言えなかった。
「で……」
「オタクはほっといて! りーおっ! テストも終わったんだし、出かけようよ! 最近、誘っても全然遊んでくれないじゃん。カラオケでもいいし、駅前に新しいスイーツのお店ができたからー」
「ごめんね、マナ。今日も用事があるから……、その、また今度ね?」
「最近、里緒は、誘ってもそればっか! 何? 私より優先することあるわけ? もしかして、彼氏? 彼氏ができたの?」
マナが大騒ぎしたので、遠巻きにしていた男子までこちらに来て、先程より人が集まってきた。男女問わず人気のある里緒の周りは、あっというまに囲まれてしまう。時折、「違うよ!」と否定しながらなも、里緒の彼氏有無の追求は進んでいるようだ。
「スゴいな、一条さん。まぁ、俺らには関係のない人だけど……。それより、その彼女! もう一回見せて!」
隣の騒動に呆気に取られていたら、翔也の願いどおりにスマホを渡した。
里緒の周りには、未だ人が集まっていて、誰かの手が翔也の肘に当たったようだ。俺のスマホが、里緒を中心に人だかりとなっている中へと飛んでいく。
「悪いっ!」
俺のスマホは集まった奴らに当たり、里緒の机の上落ちた。翔也が見ていたから、『孤高の魔剣姫リオン』のスクショ画面が開いている。
「うわっ、さすがオタクだね? ゲーム画面のスクショするとか……ありえない!」
マナの言葉が、俺の胸に突き刺さる。他の奴らも似たようにヒソヒソと話す中、「ごめん」と集まった人を退け、里緒がスマホを返してくれる。その様子をみなが見守る中、聞き違いじゃないかと思うほど、小さな声で「ありがとう」と里緒は言いスマホを渡してくれた。
すぐにチャイムが鳴り、ホームルームが始まる。
『ありがとう』の意味を考えながら、スマホの画面を見る。『孤高の魔剣姫リオン』が、画面越しに微笑んでいた。
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