第18話 イベント告知にゃ
「でっけーあくびだな? おい」
「……昨日、寝るのが遅かったから」
昼休み、弁当をつつきながら、俺は大あくびをした。4限の授業中、ずっとあくびがとまらず、いつ寝てもおかしくなかった状況で、寝なかったことを褒めてほしいくらいだ。とはいえ、胃に溜まる昼食が、さらに睡魔を加速させていく……そんな気分だった。
「何? 例のゲーム、イイ感じなの?」
「……まぁな。昨日で二日目だったんだけど、1層にある洞窟ダンジョンでボスを倒したんだ。あれは、気持ちいいな」
「へぇ、ボスを倒すって……ヤスってば、結構、やるじゃん? そういや、あの美人剣士さんと回ってるんだっけ?」
「リオンな。やっぱり、かなり強いよ。それに比べて、俺なんて、まだまだ……。ゲームには結構な自信もあったし、それなりに強いって思ってたけど、リオンは別格な気がする」
翔也は俺の話を聞きながら、焼きそばパンを口に運んでいる。口いっぱいに入れて、モゴモゴ。
「ふぉのふぁぁ、」
「食ってからしゃべれよ?」
「……、そのさ、リオンってどんなヤツなの?」
「見た目は、クールな感じかなぁ? 『剣姫』って呼ばれるくらいだから、凛としている。でも、実際は、負けず嫌いで、努力家で、ものすごくゲームを楽しんでいる感じかなぁ? 初心者だって言ってたけど、その動きは、もうプロ顔負けだし。あぁ、そういえば、昨日、ゲーム内のカフェで……」
「ゲーム内のカフェで? 何、そのリア充な響き。女の子とカフェでデートですか?」
「いや、デートじゃなくて……」
「デートじゃなかったら何があるんだよ!」
むっとしている翔也に「俺らの本分があるだろ?」と言うと、「女の子とデート以外で、何がある」と言い返されてしまった。
……俺らって、本分は学生だから、いろいろあるだろ? 数学の宿題とか。
「……カフェで話をしたには訳があって、洞窟へ向かう途中で知ったんだけど、リオンって、俺と同じ高1なんだって。それで、昨日、カフェで一緒に宿題やっただけだよ」
「はっ? ……宿題って、あぁ……忘れてた。まだ、出してないや。ヤス、うつさせて」
「もう出したよ。昨日」
「ま?」
「ま」と返事をしたところで、弁当は空になったので片付ける。焦る翔也にスマホから宿題のデータを出してきて「ほらよ」と渡すと、自身の机からタブレットを持ってきた。
宿題を移しながら話もできる翔也は器用だなぁ……と感心していた。もっぱら、リオンの話ばかりをしていたのだが、少し、ゲームに興味を持ってきているのかもしれない。
「そういえば、今度イベントがあるんだよ。対人戦なんだけど、ネットでも、リアルタイムで対戦状況が映像で流れるから見てみたら?」
「おぉー、見てみる」
「あとな、」
「なんだよ、もったいぶって」
言っていいか少し悩んだが、もし、興味を持ちつつある翔也が、同じくゲームをすることになったら、きっと、同じパーティーになるに違いない。せわしなく動かす指を眺めながら、なるべく小さな声で呟くように言った。
「俺、正式にリオンとパーティーを組むことになった」
「…………へぇー、リオンと」
反応、薄いな。そんなもんか。
苦笑いをしていたら、翔也がタブレットからゆっくり顔を上げこちらを見た。ビックリ顔をして、次の瞬間にはタブレットを落とす。
「はぁー??? リオンと正式にパーティー組んだって? そんなこと、あ・る・の・かよっ!」
教室に響き渡った翔也の声に、教室に残っていたクラスメイトが一斉にこちらを見て注目を浴びる。里緒やマナたちも、学校内にあるカフェテラスから帰ってきたようで、教室に入ってきたところだ。翔也の叫び声に、マナの氷のような冷たい視線が突き刺さった。
「また、オタクどもが騒いでるの? 信じらんない。マナ、危うくフラぺ落としかけたじゃん!」
睨まれたカエルたちは、大人しく「すみませんでした」と謝り、サッと気配を消す。落としたタブレットを翔也は拾い、また、宿題を移し始めた。
「……マナ、こえぇーな。最近、里緒に構ってもらえなくて荒れてるって聞いてるぜ?」
「とばっちりだな」
ヒソヒソと里緒のご機嫌取りをしているマナの話したあと、さっきの話を続けることにした。リオンからの提案で、他にもう一人メンバーがいること、マスコット的なモフネコがいること、イベント後に実装される家を買って、本格的に冒険を始めることなど、願望も含めながら話をしていく。翔也は最初こそ驚いていたが、だんだん羨ましそうに聞いている。
「いいな……美女二人と一緒って羨ましい」
「……そうでもないけどな。しっかり、レベル上げも作戦たてたりもしないと、俺は置いて行かれそうでちょっと怖いよ。一人は『剣姫』と言われるくらい有名プレイヤーだし、もう一人はかなり腕のいい鍛冶師らしいから。俺は、まだ、何者でもないからさ」
「なるほどな。そう考えると、始めて二日目のヤスは大変だな?」
「まぁな。でも、二人の目標が高いおかげで、俺も向上心が湧くし、その分、戦い方に創意工夫も楽しいけどな」
「明日は、1日休みだから、ずっとか?」
「あぁ、今日もあと1限で終わりだから、このあとは、たぶん、イベントに向けて、レベル上げもする予定だから、ずっとだな」
「よくやるな……」とため息とともに、翔也はタブレットを閉じた。翔也も、無事に宿題は終わり、送信できたようだ。
「俺もやってみようかな?」
「いいと思うぞ?」
「まぁ、まずは、機材からだな……」
「イベントが終わったら、本格的に隠しイベントとか、フィールド攻略とかを進めて行くと思うから、やってみろよ? おもしろいから」
「わかった。俺は、とりあえず、勧めてもらったイベント観戦からだ」
イベント情報が流れてきたのは、その数分後。運営からのメールだった。それを読むと、個人での対人戦。上位3名には、特別報酬に金貨が配られるらしい。その他にも、上位10名にもいろいろな特典はあるようで、今まで培ったゲームの知識をフルに使って、上位を目指そうと考えた。
「……日曜に早速イベントがあるらしい。この時間からなら見れるか?」
「その時間なら、いけるわ。見てみるよ。そういや、キャラ名は何?」
「『クズイ』だ」
「あぁ、ヤスの苗字ね。なんか、『クズイ』だけ見ると、ヤバイやつみたいな名だな? その由来を知らないと」
「まぁな」と言ったところで予鈴がなる。「戻るよ」と席に戻っていった翔也と、入れ替わるように、里緒が隣の席についた。なんだか、思いつめたようなその表情が何を意味しているのかは分からなかったが、スマホをしまう瞬間に口元が上がったように見えた。
何か楽しみになことが近づいている。里緒がそんな雰囲気を纏ったところで、本日最後の授業が始まった。
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