第17話 宿無し金なし野良シラタマをどうするにゃ?
宿題が終わり、そのまま談笑をしていると、午前0時を知らせるアラームがなった。ゲーム内でも現実世界の時間がわかるような設定があるため、俺はアラームを使っている。ゲームは基本的に日を超えないまでとの約束を母としているため、楽しい時間を過ごしていたが、リオンの方を見た。
「そろそろ落ちないと」
「もぅこんな時間なんだね? ついつい長居しちゃった」
「いや、俺の方こそ、宿題も捗ったし、かなり助かった」
「私も。誰かとこうやって宿題をしたのなんて、小学生以来かな?」
クスクス笑い、持ってきていた宿題をお互い学校へ提出する。オンラインでの提出のため、送信時間で、何時までやっていたとかバレるのだが、こうやってきちんと提出できるのは気分がいい。
「さて、俺は……」
そう思ったとき、俺の隣で寝ていたはずのシラタマが、物珍しそうに二人の宿題提出を見ていた。
……宿題に夢中で忘れてた。
視線を感じたのか、こちらを窺うように見上げてくるシラタマ。リオンもハッとしたように、シラタマを見ていた。
「……なぁ、シラタマ?」
「何にゃ?」
「このあと、どこか、行く宛てはあるのか?」
俺に言われたことが理解できていなかったのか、首を傾げるシラタマ。一拍したのち、自身が宿無し金なし野良だったことを思い出したようだ。
「にゃあぁあぁあぁー!」
「やっと、気が付いたか。俺もすっかりお前の存在を忘れてたんだが、で、どうするんだ?」
「……どうしたらいいにゃ? クズイたちがいなくなったあと、みゃーは……」
さっきまで、尻尾をぶんぶん振っていたのに、今は見る影もない。それほど、ヤバい状況になっていることは、縋るような視線で理解はした。理解はしたが、打開策は思いつかない。
「……俺らは現実に帰るだけだけど、シラタマはナビゲーターだろ? このフィールドのどっかに、家とか避難場所とか」
「そんなの、あるわけないにゃ?」
トーンが落ちた声で、シラタマは「どうするにゃ……」と呟いた。俺にもどうすることもできないので、困り果てた。
……ログアウトするにしても、コイツ一匹、こんな場所においていくわけにもいかないし。リオンももちろん学校があるから、そのうちログアウトするだろうし、他に迷惑かけてしまうだろ?
ペットホテルなどの預かり場所みたいなところがあるわけでもないこのゲームの中で、拠点となる家でもあれば別だが、まだ、それは実装されていない。それに、始めて数日の俺に買う金もないし、拠点の家なんて、買うのはずっと先のことだろう。
「シラタマくん」
「にゃ?」
困っていた俺とシラタマに微笑む女神が目の前にいた。リオンがどうやら何か考えてくれたようだ。
「鍛冶師のジョブ? は、持っている?」
「……鍛冶師のジョブはないにゃ。クズイのこれは趣味で作ったものだし、ナビゲーターには、そもそも、ジョブという概念はないにゃ」
「そう。今すぐにはわからないんだけど、あてがあるかもしれないわ」
「本当にゃ! リオン、それは、本当にゃ?」
目を輝かせて、俺の隣から机をてけてけと歩いて、リオンの手を握っている。俺とシラタマでは、導き出せなかった希望が少しだけ見えたことに、かなりの期待をよせている。
「期待に沿えないこともあるかもしれないし、了承を得られないかもしれないんだけど……ココにも相談してみようかと」
「ココミに? いいのか?」
「まだ、わからないけど……ココも、学生だから、ずっと、オンラインってことはないと思うし」
「そっか……そうだよな?」
苦笑いをしたあと、リオンはココミに連絡を取ってくれた。店じまいをしようとしていたらしく、カフェに来てくれた。
「どうかした?」
「ココ、お願いがあって……」
「お願い? 珍しいね、リオンからって」
「んー、そのね? 私たちがログアウトしている間、店で預かってくれないかなぁ? この子」
さっきから気にはなっていたであろうシラタマを見て、まじまじと観察するココミ。ハーフドワーフのココミは、鑑定が使えるので、ステイタスをじっくり見ているのだろう。ただ、ナビゲーターなので、何も鑑定はできないはずだ。それは、俺も試してある。
「変な子を連れていると思っていたけど、預かるの?」
「うん、頼めないかなぁ? 帰る家がないし、この子、そのログアウトができないから……」
「ログアウトできない? バグか何か?」
「……違うにゃ。みゃーは……」
咄嗟にシラタマの口を塞いだ。信じてくれるとは思うけど、ココミに本当のことを言っていいものか悩んだからだ。
「……まぁ、いいよ? 預かるだけなら」
「でも、ずっとって、わけにはいかないだろ?」
「確かに」
「じゃあ、こうしましょう。もうすぐ、イベントがあるよね?」
「あぁ、確か、対人戦」
「そう。それが終わったら、ホームを買えるようになるらしいの」
「俺、まだ、読んでないけど、確か、そんなメッセージが着てたな。それまでってことか?」
コクンと頷くリオン。ただ、家を買うにしても、相当な金額がいるはずなので、手持ちを確認する。
……ギリ、いけるかな? 家って、いくらくらいするんだろう。
「提案があるんだけど?」と意を決したように、リオンが切り出した。俺もココミもリオンがからの提案が何なのか想像はしていた。共同でお金を出さないか程度には。俺とココミが頷きあったところで、リオンは話し始める。
「パーティーをこの三人で組まない?」
「パーティーを?」
「俺はすでにリオンと組んでるから、ココミさえよければいいよ」
「私はもちろん、言い出しっぺだから。ココミとも冒険してみたいし」
「みゃーは……」
「シラタマは黙ってろ。発言権はない」
「しょんにゃあ……」としょんぼりしている頭を撫でてやる。と、リオンの提案後、少し俯いていたココミが豪快に笑いだした。ギョッとしてそっちを見れば、腹を抱えて本格的に笑っている。
「リオンがあたいとパーティーを組みたいって? 何それ、笑える。あたいと冒険行きたいって? 何、その冗談。かなりウケる。リオンは知ってるだろ? あたいの役立たずぶりを」
「知らないわ。ココの能力が生かされた場所で戦うならまだしも、そうじゃない場面で、面倒ごとを押し付けられただけのところしかみたことないもの!」
リオンがココミをジッと見つめる。ココミは、ばつの悪そうな表情をしたあと、大きなため息とともに「負けたよ」と呟く。
「リオンには負けた。ずっと、こんな役立たずと一緒に冒険に行きたいって言ってくれてたんだ」
「今度はクズイくんもいるから、お互いをフォローすることは可能だと思うの。クズイくんのプレイスタイルは速さだし、ココは攻撃特化で、私はバランス重視だから」
「あぁ、そうだと嬉しい。パーティーの話、乗らせてくれ。ただ、あたいは、鈍足の攻撃極振りだ。ドンカメに戦えるような戦略を二人が立ててくれよ?」
「頼んだよ! クズにゃん」と席を立ったあと、背中をバシンと叩かれた。思わず咽こみ苦しむことになった。
「こりゃ、幸先どうなることやら」
「……それは、ココミが悪い」
ゴホゴホしながら抗議すると、「悪かったよ」とココミは微笑んだ。席に戻り、元の話に戻る。シラタマの件をどうするかだ。
「シラタマだっけ?」
「えぇ、そうよ」
「店で預かるよ。あたいらのホームができるまで。それで、できれば、店を手伝ってほしい」
「……コイツに頼むのはどうかと」
「みゃーはなんでもやるにゃ! 見捨てないでほしいにゃ!」
「わかったわかった。責任はクズにゃんに取らせて店番を頼む。あたいがログアウトしているあいだも、稼いでくれると助かる。回復薬とか常備のものは大量に作っておくからさ」
「わかったにゃ! 任せるにゃ!」
やる気に満ちたシラタマに不安しかないと俺がみると、シラタマは目を輝かせていた。「お役にたってみせるにゃ!」と言いたげな目を信用していいものか……、大きなため息をついたあと、ココミに一任して先にログアウトさせてもらうことになった。
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