第13話 今日のところは、これで勘弁してやる にゃぁぁぁぁぁ!
対峙したトカゲは、難なく倒すことができた。後ろでリオンが、「二日目、二日目……」と、俺の動きを見て何度も呟いているのは聞こえないふりをする。
「クズイくんって、今、レベルいくつ? あっ、言ってもよかったら……その、教えてくれたらいいから」
「パーティー組んでるんだから、リオンからも俺のステータスが見えるはずだけど……今、13かな?」
「……13? 昨日、始めたばかりだよね? それに、昨日、経験値が3千って言ってなかった? それとも、昨日、あれから、レベル上げをしていたの?」
「説明するのが難しいんだけど」と、前置きをしたうえで、リオンには白状することにした。シラタマがくれたギフトは、くれたシラタマはともかく、かなり優秀だったのだ。
俺のステイタスが見れるようにして、リオンの隣に並ぶ。俺のステイタスを見て、リオンはとても驚いている。
「……これ、たぶんね? 私の知る限りでは、今、三層にいる最前線のプレイヤーの大半と、然程変わらないと思うよ? これからも、どんどん、レベルアップするんでしょ?」
はぁ……と大きなため息をついたあと、リオンのステイタスも見せてくれる。リオンのレベルは24。それぞれのパラメーターは、バランスよく振り分けられていた。
「リオンは、ゲーム初心者って聞いたけど、パラメーターがバランスよく振り分けられていて、凄くきれいだ。偏ってないっていうか」
「それね? 初めてゲームをするなら、アバターはバランスよく育てたほうがいいって、弟に言われて。慣れてこれば、好きにしたらいいし、戦っていくうちに、自分の最適解を見つけられるからって。いろいろと考えながら、経験値は振り分けているつもりだよ」
「なるほどね。それが良いと思うよ。自分のスタイルが確立するまでは、バランス重視でアバターを育てるのが1番だと俺も思う」
「そうだよね。極振りっていうの? 少しだけ、攻撃重視に経験値を振り分けたことがあったんだけど、私は向いてないなって思ったの」
「そっか。これからも、模索していくといいよ。そういえば……、弟さんは、かなりのゲーマー?」
「ゲーマーか……。そうともいうかなぁ? 学校にも行かないで、引きこもって、配信とかしてるからね? このゲームは合わなかったらしくて、やってないけど、他のゲームでは、トッププレイヤーだって教えてもらったよ」
「へぇ、すごいな。俺は、ゲームが好きでやってるけど、さすがに……トップは取ったことないなぁ。まぁ、いつかはあっち側に行きたいから、今は勉強も兼ねて、いろんなゲームをやってるとこあるけど」
俺の話を聞いて小首を傾げている。リオンには、俺のいう『あっち側』のイメージがつきにくかったのだろう。ゲームを作る側になりたいということが。説明をすると、目をぱちくりとさせている。
「俺の夢は、現実的じゃないって、思ってる?」
「いや、えっと……、驚いただけ。高校生で、もう、将来、何がしたいのかわかっているって……」
「俺は、たまたま、好きが夢になっただけだから。将来なりたいものなんて、まだ、決まってなくてもいいと思う。それを見つけるために、大学へ行ったり、いろんな場所へ出かけたり、寄り道したりしながら、見つけていけばいいんだし。ここも、その寄り道の一つだし」
「そう、だね。私、今まで、周りに流されて、合わせて、漠然と生きてきたから、クズイくんが、すごく眩しく見えるよ」
「そう? こんなふうに将来の話をしているけど、俺だってゲーム制作会社に受かるとは限らないわけだし、ゲームを作れる環境に身を置けるとは決まってないしさ……」
リオンの方を見て笑えば、「そうね」と戸惑いながら微笑む。目指したいものがあるだけで、手が届いているかと言えば、まだまだだ。そのためのインプットの時間という理由で、今はただたんにこの世界を楽しんでいる。将来、リオンのようなプレイヤーが、長く楽しみたいと思ってもらえるよう1作を作りたいから。
「俺、このゲームのβ版の抽選に外れてさ……、実力テストが赤点スレスレで、親にゲームを禁止されてたんだ。やっと、昨日、期末テストが終わって、ログインできたんだ。どれだけ、楽しみにしていたか……将来云々は言ったけど、今はプレイヤーとして、思いっきり楽しみたいんだ。リオンと一緒なら、それも……」
リオンがこちらを見上げて、目を見開いていた。何故か頬が少し赤いような気がするが、洞窟の中は薄暗い。発光している植物のおかげで、ぼんやりとリオンが見えてはいるが、はっきりしないこともある。
「な、な……」
「無限大に楽しいだろうな!」
ニィっと笑うと、あわあわしているリオン。何がなんだかわからないが、リオンは焦っていたはずなのに、次の瞬間には「そうね」とニッコリ笑っていた。
「そろそろ、他のモンスターも出てくると思うから、少し索敵しましょうか?」
「あぁ、お願いできるか?」
「……クズイくんも、使えるようになった方がいいよ?」
「……それって、買えるスキル?」
頬を掻きながら「欲しいんだけどな」と呟いたら、「帰ったら、買いに行きましょ!」と背中をバンっと叩かれた。
……いてて。リオン、今、わりと本気で叩かなかったか? HPが減ってる。
雑談をしていれば、黒い影のようなものが動いた。
「あれっ! 経験値猫! クズイくん、いっけぇー!」
リオンに言われた瞬間には駆け出し、逃げ足の早い猫を追いかける。
……まぢで早くない? 足自慢の俺でもきついか? あのシラタマと同じ猫とは思えない!
追いに追うと、モンスターの塊に入って行く。猫の方も休憩をしたかったのだろうか? あの程度のモンスターなら易々と倒せるだろう。と、思っていたら、後ろから叫び声が聞こえてきた。
「大火球、れんっだんっ! クズイくん避けて!」
リオンが、魔法をぶっ放したようだ。メリメリと洞窟を燃やしながら近づいてくる大火球は、一つや二つではなく、どれほど魔法を練りこんだのだろう? と思うほどの大きさであった。俺は、壁際へとひらっと避けた。
そのまま、トカゲたちへと大火球たちは飛び込んで行く。爆炎とともに火球は消え、その場には大量のアイテムや魔石が転がっていた。どうやら、猫も一緒に燃えてしまったようで、経験値がグワンと入ってくる。無機質な声が聞こえてきて、レベルが上がったことを知らせてくれた。
「いやー、すごかったね?」
「……リオンが仕留めるなら、俺、追わなくても良かったんじゃ」
「クズイくんが追いかけてくれなかったら、猫はあのトカゲたちのところに合流しなかったでしょ?」
「……俺、囮てきな?」
「囮ではないと思うけど……まぁ、経験値もいっぱい入ったしいいじゃない」
そういう問題では……と思う反面、やはり、リオンは凄いなと強さにも憧れる。俺もと思いつつも、まだ、二日目。焦ることはないと、双剣を握り直した。
「今日のところは、これで勘弁してやるよ」
さっきのでレベルが上がったことを伝えたら、「えっ?」と驚いた。レベルって、そんなに早く上がるものではないことは、俺自身わかっているつもりでも、シラタマのおかげで瞬く間に15になった。
「……すぐに追い抜かれてしまいそうだよ」
へにゃへにゃ……となるリオンに、にぃっと笑いかける。微妙な表情をこちらに向け「あぁあ」と投げやりだ。
「まぁ、そういうなって。リオンがいてくれるから、レベル上げも順調なんだし、ここも、ほら、ボス部屋までこれた」
「……なんか、私、納得いかないけど。クズイくんなんて、ボス部屋で叩かれてくればいいわ。パーティーはここまで。ここからは、一人で行ってよね?」
「……怒ってません?」
「怒ってない! ここで、ネームドの武器が取れるかもしれないから、私とパーティーは、一旦、解除しておいて。じゃないと、私の武具になってしまうこともあるから」
「わかった。行ってくるから、待っていてくれるか?」
「もちろんだよ。ここら辺のモンスターがいなくならないうちに帰ってきてね。まぁ、モンスターなんて、すぐにポップアップするようになるけど」
「いってらっしゃい」と、リオンは手持ちの回復薬を渡してくれた。それだけで勝てそうな気がしてくる。収納袋に回復薬を押し込む。
「あぁ、忘れてた。ここのボス、毒攻撃もあるからこれも」
毒消しも同じだけもらって、アイテムでパンパンになった袋に詰め込んで、「行ってくる!」と駆けだした。大きな扉を押せば、ぎぃーっと音がする。たった二日間のダイブで、リオンのいない戦場は初めてだと気付いたとき、少しだけ、寂しいような不安なような気持ちで後ろを振り返った。変わらず、リオンは微笑み「頑張って!」と声をかけてくれる。優しさに頷き、一人、扉の中へ滑り込んだ。へ滑り込んだ。
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