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第12話 レッツ洞窟! にゃん

『ブンブン丸』を倒したあと、アイテム回収を終えて一息入れる。「疲れた」と地べたに座ると、どっと疲労感がやってきた。リオンも隣に座り、回復薬を飲んでいる。


「さっきの……」

「ん? さっきのって、さっきの『ブンブン丸』のことか?」

「そう。すごいね? 空を飛んでいるし、あんなにたくさんいたのに、対応しただけでなく、女王まで倒しちゃうなんて。まだ、二日目でしょ?」


「あぁ」と、言ったものの、俺はそれ以上は言葉を濁す。シラタマのせいで、初ログイン直後のステータスとは違うため、言い出しにくい。

 少し考える。俺のステータスをリオンに教えたところで、同じパーティーの一員となったリオンにとって、何のデメリットもないと判断し、ログインの日の出来事を言葉にした。


「俺、ここに来る前に、変な猫のチュートリアルを受けたんだよ」

「あっ、ナビゲーターの子は、猫ちゃんだったの?」

「モフっとした、すっごい高級そうでぬいぐるみみたいな猫だった」

「そっかぁ……、可愛いな。でも、見た目に反して、とっても強いよね? 私も、チュートリアルを受けて、ナビゲーターの子と戦ったんだけど、全然勝てなかった」

「リオンでも?」


 こちらを見てクスッと笑うリオン。チュートリアルで勝つ勝たないはないため、白黒つけないものだ。こちらも、ナビゲーターから冒険へ出るための戦い方のレクチャーなので、レベルなんていう概念もなく戦っているのだから、勝ち目はないだろう。


 ……確か、シラタマの先輩が、リオンのナビゲーターだった気がする。


「どうだった? ナビゲーターとの訓練」

「んー、ためになったよ! 戦ったおかげで、『格闘家』ももらえたしね。クズイくんはどうだったの?」

「……俺? ……思い出したくもない」


「どうして?」と聞くので、調子に乗ったシラタマの話をすると、クスクス笑っていた。大鬼の話をしたころから、リオンは腹を抱えて笑い出した。目尻に涙を溜めて笑っていたので、リオンはさっと拭いて大きく息をして整えている。

 あのスクショからは考えられないほど、感情が豊かで、自然体のリオンに俺の方が呆気にとられてしまう。


「笑った笑った! クズイくんのナビゲーターは、すごい猫ちゃんだね?」

「すごいか? もう、散々だった……。おかげで、いろいろオマケギフトはもらったけど、次あったら、同じようにチュートリアルをするかって聞かれたら、もう御免だよ」

「チュートリアルで、レベル上げてくれるって、なかなかないよね? 私はしてもらえなかったもの」

「なかなかじゃなくて、たぶん、前代未聞だと思う。どうせ、今頃、あのモフ猫は、こっぴどく上司に叱られているんじゃないか? くしゃみしてたら、おもしろいけどな」


 もうひと笑い終わったころ、リオンは立ち上がる。時間のころは、ちょうど19時だ。「一旦、飯休憩にしよう」と、お互いログアウトすることになった。



「……ん。もう、19時か。ココミの紹介があったとはいえ、3時間なんてあっという間だな」


 階下から、夕飯のいい匂いがする。それに釣られるように部屋を出て食卓についた。今日も仕事で遅いであろう父と兄の夕飯を横目に、母と学校での話をしながら夕飯をとった。


「ゲームに夢中なのもいいけど……」

「わーってるって。でもさ、今回のゲームを始めてみて、改めて思ったけど、俺、やっぱりあっち側になりたいわ」

「あっち側って、作る方?」


 コクンと頷くと、苦笑いをしながらも「頑張りなさい」と言ってくれる母。否定はしないけど、努力は人一倍しろという視線に俺は頷いた。


「将来の仕事のため、ちょっくら行ってくる」

「全く……、ほどほどにね。夜はちゃんと寝るのよ?」


「おう」と応え、また、自室に籠る。ベッドに寝転び、スリープになっていたのを叩き起こした。視界が開けたとき、いきなり目の前に、目をぱちくりさせたリオンがこちらを覗き込んでいた。


「うっ、わおっ、な、なんだよ!」

「あっ、戻ってきた」


 約束の時間より早く帰ってきたはずなのに、リオンはすでに待っていてくれたようだ。


「早かったんだな?」

「そうだね? クズイくんとこは、家族で夕飯を食べる感じ?」

「そうだけど?」


 眉をハの字にして「どうかした?」と問えば、あはははとリオンは急に笑いだした。さらに、眉を寄せる。言葉では何を言ったらいいのかわからなかったからだ。


「いいね、家族とご飯。私、ここ何年も、そんな時間なんてなかったから、少し羨ましい」

「一人で食うのか?」

「そっ、一人で食べるの。ゲームにハマる前は、毎日、友だちと外へ食べに行ってたから、家族で食卓を囲むなんて、今更ね?」


 弟がいるとは聞いていたが、それほど仲がいいというわけではないのか?


 自身の兄との関係を考えながら首をかしげた。


「あっ、家族と仲が悪いとかではないの。私が、ただ、お年頃だから、親とも弟とも壁みたいなのがあって、話し辛くてっていうのかな? 家族とは、少し距離を置いてる感じかなぁ?」


 リオンは、少し俯いたあと、ぺろっと舌を出してはにかんだ。「リオン」と呼びかけようとしたところだったが、余計なことは言わないでよかっただろう。


「じゃあ、お腹も満たされたことだし、今日のメインの狩場へ行こうか!」

「おう、それで、ここは何が出るんだ?」

「ここは、確か……『トカゲ』とか『蝙蝠』とか。あとは、経験値ヤバいうえに逃げ足の超早い猫とか出るよ」


 リオン、モンスターの名前覚えるの苦手なのかな? 『芋虫くん』とか『ブンブン丸』とか……あぁ、『うさぴょん』もいた。だいたい、どんなモンスターとかは、そのネーミングでも想像できるけど。

 それにしても、いつもキリッとしているのに、そういう少し抜けているところが可愛いよなぁ……。


 大太刀スタイルのリオンは、魔剣士の装備に変えた。洞窟の中では、きっと『大蛇の大太刀』を振り回すには狭いのだろう。


「魔剣士になると、急に雰囲気が変わるな?」

「そうだね? ログインしてから、ずっとこのスタイルだから、こっちの方がしっくりするかな。大太刀のときの衣装も好きなんだけど、洞窟ってあんまりヒラヒラしたのは、向いてないから」

「大太刀が、振りにくいから、装備を変えたのかと思ってた」

「違うよ! どっちかというと、防具のほうかな?」


 少し歩いていくと、何かが這うような音が聞こえてきた。きっと、リオンが言うところの『トカゲ』なのだろう。戦うギラついた目に変わる。


「私はあくまで後方支援だから、クズイくん、行って!」


 コクンと頷くと、『トカゲ』の前に出た。弱点は火であるが、まだ、練習をしていないから、魔法なんて使えない。後ろのリオンを頼るのもいいかもしれないが、自身の力を見極めるには、一人で戦かったほうがいい。一歩目を大きく、走り出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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