第10話 はい? or いいえ? もちろん! にゃ!
ココミの店を出るとき、声をかけられた。俺に何か言いたげなココミではあったが、「ひとつだけ」と近寄ってくる。
「せっかくだから、あたいともフレンド登録しておいてよ。どんな武器や防具が欲しいかいつでも相談に乗るし、作りたい武具ができたときの材料もわかるからさ」
「いいのか? 俺にそんなことしても」
「まぁ……、普通は、お客に対して、そんなサービスはしないかもしれないけど、リオンとの繋がりだから。こちらからも、今後、何かと頼むことも、あるかもしれないだろ?」
「ねっ?」と肩を組み、登録画面を出してきたので、断る理由がない俺は頷いた。すぐに登録は完了され、やっと二人目の連絡先を交換したのだ。
「そういえば、クズにゃんは、どんな武器使っているのか聞いていなかった。どんなの? 見せて」
「双剣だ。今は、初期装備のを使っているんだけど……」
「なるほど。それで、新しい装備が欲しいんだ! 今日は、どこへ行くって決まっているようだから、また次の機会にでも、ここへ行っておいでよ。なんか、いいスキルが取れるとか聞いたからさ」
マップを出し、印をつけてくれる。マップを持っていない俺は、ココミにコピーさせてもらった。
……リオンとの共闘が終わったら、行ってみるか。どんなものなんだろな?
「もういい?」と、リオンがこちらを窺うので頷いた。見送ってくれるココミは、知り合った記念の選別だと、お手製の回復薬をくれる。
「何をもらったの?」
「回復薬」
「そっか。ココがくれるって……気に入られた証拠だね。しばらく、私が一緒に行動することになるから、それ、使わなくてもいいと思うけど……」
少し拗ねたようなリオンに首を傾げ、昨日の予定通りにリオンお薦めの場所へ向かうことになった。
その場所へは、歩いて向かうらしい。その間に、今回の注意点や他の狩場の話などをしてくれるらしい。
「クズイくんってさ、どれくらい潜れるの?」
「ゲーム?」
「そう。私、学校が終わったら、走って帰って……だいたい夜中の2時ぐらいまでしてるんだよね」
「……すごいな。俺は、もう少し早く落ちるだろうし、宿題があるからなぁ……」
「あぁ、宿題。それなら、ここでしてしまうっていうのもひとつだよね。クズイくんの学校って、紙提出?」
「ほとんどが、データかな」
「じゃあ、ここで宿題も終わらせちゃお! 同じ学年だったら、教えあいっこもできるし、ねっ? そうしよう!」
今は町娘風の可愛らしい服装をしているリオンに、いままでの経験上なかったであろう『女の子と一緒に勉強』を誘われたら、断るわけにもいかない。
二つ返事で、明日からは狩りに出る前に一緒に勉強をする約束をした。
「……あのさ」
「ん?」
「今の約束、本当にいいのか? その、これからずっと、一緒に……その……」
「パーティーを組むんじゃないかって、話?」
「そうっ! その、俺なんかで、いいのかな? って……」
「んー」と言いながら、白いワンピースを揺らして前を歩く。軽装ではあるが、その軽装に見える格好すら、すごい装備であることを俺は知っていた。
「いいよ。正式にパーティー組もうよ! これもなんかの縁だし。一人で動きたいこともあるから、ずっと一緒ってわけじゃないかもだけど、それでもいいなら! クズイくんって、今までの人たちと違って、パーティーを組んでもいいような気がして」
……いいのか? いいのかっ! いいのかぁぁぁぁぁ! あの、あのぉ、あのぉぉぉぉぉ、リオンとパーティーなんて! 俺、もう、人生、終わってない?
『パーティー申請があります。受けますか?』
目の前にいきなり出てきたウィンドウに、俺は目をぱちくりさせた。他のゲームでもパーティーを組むこともあれば、臨時的にどこかのパーティーに参加することもあったけど、この申請だけは、何故かとても神聖なもののように感じる。
……『はい』? or 『いいえ』? もちろん! 『はい』一択だ。
「嫌だった? 私、他の冒険者たちと、少し頑張る速度が違うから……その……」
「ぜんぜん。むしろ、本当に俺でいいのかって、恐縮してるくらい」
「恐縮だなんて……お願いしてもいいかなぁ?」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ウィンドウにある『はい』のボタンを押し、ペコリと頭を下げた。「大袈裟だよ!」とクスクス笑うリオンと共に目的地まで、ゲーム内で起こったこれまでの話を聞く。楽しいばかりの話ではなく、ココミが言っていたように、パーティーに入っては、クビになったことを悲しげに話すリオン。よほど、この世界が好きなのだろう。ずっと、この世界にいたいくらいだというリオンに、俺は同意を込めて頷いた。
このゲームは出来て3ヶ月を過ぎた。そろそろ、何かイベントがありそうだと話していると、目的地まであっという間であった。
今回の目的地は洞窟の最奥である。そこに行くまでには森があり、その森を抜けることが、今日の目標だ。
「そういえば、さっき、ココミと何を話していたんだ?」
「ココに採集を頼まれたの。この森に出るモンスターの『芋虫くん』の粘着糸と『ブンブン丸』の羽根と針と蜂蜜をね」
……『芋虫くん』と『ブンブン丸』ね。なんとなく、どんなモンスターなのか想像は出来るけど、虫系のモンスターか。リオンらしいネーミングだな。
この森の概要を聞きながら、ココミに頼まれた採集もするとリオンが説明してくれる。頼まれた採集自体は、それほど難しいことではないらしい。
採集した素材は、ココミが買い取ってくれるらしい。お願いされた素材はそこそこの量があるようで、一緒に狩る約束をした。
……一緒にいるのがリオンなら、ほぼ無敵じゃないかなぁ? この階層だと、俺の出番なんて、ない気がする。
チラリと隣を見れば、町娘のワンピースではなく、戦闘用に、いつの間にか武具が変わっている。今日も『大蛇の大刀』を腰に佩き、俺の後ろを歩いていた。
「俺が、見ていたサイトのスクショがあるんだけど……」
「スクショ?」
「あぁ。他の冒険者が隠し撮りしたんだろうな」
「……そんなのがあるんだ? 知らなかった」
「えっと……」
「あぁ、隠し撮りが気持ち悪いとか思わないのか? ってこと?」
素直にうなずくと、「ゲームの中の私だから、大丈夫」と笑っている。これだけの美少女なのだから、注目度もかなり高いことをわかっているらしい。その煩わしさを弟さんは、感じたらしいのだが、リオン自体は、気にならないらしく、好きに撮っても何も言わないと笑っていた。
「そうなんだ。俺もそのまま持っていてもいいかな?」
「クズイくんなら、いいよ! それで?」
「あぁ、それで、なんだか、そのスクショとも雰囲気が違うから、やっぱり変な感じがする」
「クズイくんは、前の方が好き?」
「どっちも! リオンはかっこいいし、可愛いと思うよ!」
「本当?」と喜ぶリオンは、年相応な反応をしている。
「あっ、そういえば、同じクラスの子もね、スマホに私のスクショを入れてた。リア友はありえないって、言ってたけど……私は嬉しかったな、こんな身近に私のことを知ってくれている人がいるって」
「……俺もそのうちの一人だけど?」
「ふふっ、でも、この世界だけの繋がりの人とは、なんていうか……」
「……わかる気がする。でも、俺は昨日から思っていたことなんだけど」
「なぁにぃ?」と、にぃっと嬉しそうに笑いかけてくるリオン。今日は上機嫌のようで、こちらが振り回されている感じがする。
「リオンとなら、リア友だっとしても、きっと楽しい時間を過ごせるんじゃないかなぁ? って思ってる」
「あっ、それは私も感じてた。クズイくんとなら、リアルでも仲良くなれそうだね。でも、その場合……」
「「ずっと、ゲーム攻略の話をしてそう」だ」
声が重なりクスクスと笑うリオン。想像していたらしく、同じ答えにたどり着いたらしい。気が合うなと思っていたら、草陰からカサカサと音がした。
どうやら、本日の狩りの時間が始まったようだ。リオンの纏う空気が一瞬で変わる。今日の狩りも俺のレベリングでもあるため、リオンの前で双剣を抜いて敵に構えた。。
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