第9話 なんちゃってドワーフ、ココミちゃん にゃ!
「ごめん、遅れちゃった!」
白銀の髪を揺らし、慌てて駆けて僕の前までやってきたリオン。まるで、デートの約束をして、遅れてきた彼女を待ち、優しく微笑んでいるような気持ちになる。もちろん、リアルで彼女なんていたこともないんだけど、そういうシュチュエーションは何度も夢見たことがあったので、完璧すぎる夢に思わずニヤつきそうになった。
「待ったよね?」
「さっききたばかりだよ」
「本当に?」と疑うように覗き込んでくる美人で完璧な彼女。コクっと頷くと、はぁあ……と大きなため息をついたので、もしかしたら信じてもらえていないのかもしれない。
「髪、乾かすのに手間取っちゃって……ごめんね?」
「いいよ。こうして、会えたんだし」
「うん、そうだね。クズイくん、待っていてくれてありがとう」
「お礼言われるようなことはしてないよ。それに、これからリオンお勧めの武具屋へ装備を買いにいくのに」
「そうだった。クズイくんは、どんなのがいいかな?」
いろいろ考えてはみたが、お金も溜まっていないからとお店だけ紹介してもらうことにした。実際の手持ちは結構あるのだが、普通のプレイヤーなら、ログイン二日目で持てる大金ではないので黙っておく。
「お金や素材が集まったらって感じか。確かに……いいものは値段もするし、素材もランクが良かったりするもんね」
「あぁ、まだ二日目で、流石にそれは難しいだろ?」
「確かに! じゃあ、お店の場所と友人を紹介するわ」
リオンと並んで商業区へと向かう。武具だけじゃなく、食べ物屋や魔法書の店など、いろいろなお店が並び、その中でも、一軒家のような店の中へ入っていく。
「クズイくん! こっちこっち」
キョロキョロと、街を見て歩いていたので、ゆっくりと歩いていた。先行していたリオンが店の前で手を振っている。俺は、小走りで、リオンのいる方へ向かう。
「待ってくれ!」
「先に中にいるね!」
「あっ、中に入ってった……待ってって言ったのに」
リオンは、俺が追い付くよりさきに、店に入っていく。後を追うように、扉を開くと、親しげに店主の女の子と話をしていた。
店の中は、武具だけでなく、回復などのアイテムも取り扱っているようだ。客は、今の時間、まだ、まばらであった。
「いらっしゃい!」
女の子に元気よく挨拶されれば、多少のコミュ障である俺は引いてしまう。昨日、リオンに話しかけれたのは、奇跡的である。今は、それが嘘だったかのように、動揺した。
「はぁ……ども……」
「クズイくん、こっちこっち! 紹介するね!」
手招きするリオンの隣に向かう。先ほど、声をかけてくれた女の子が、ニヤっとするのが見えた。
「何々? リオンちゃんのコレか?」
「ココ……親父くさい。もぅ、そういうのじゃないから! 昨日、メッセージ送ったでしょ?」
親指を立てる店主に向かって、リオンの一言を聞けば、仲がいいのがわかる。
「聞いていたけど、ふむふむ。なるほどね」
店主の女の子に、上から下まで嘗め回すように見られて。なんだかとても恥ずかしい。リオンが連れてきた客が珍しいのだろうか。
「どうも、初めまして……クズイです」
「どうもっ! クズイくんね。私、この店の店主のなんちゃってドワーフ、ココミちゃんです! リオンからは、昨日、少しだけ聞いたよ。よろしく」
ココミが手を出してきて、握手を求められた。差し出された手を握ると、女の子という見た目に相反して、ドワーフというだけあって、ガシッと掴まれぶんぶん振り回す。
……て、て、手加減っ!
言葉にすることもできず、俺はココミに振り回されているので、リオンが慌てて止めてくれる。
「ココに振り回されたら、クズイくんのHPが削れちゃうって。まだ、ログイン二日目なんだから!」
「えっ? そうだったの? そんなふうには見えないけど?」
「リオンのいうとおり……まだ、二日目ですから、お手柔らかに」
「ごっめーん」と軽い感じでココミは謝ってくれるが、ペロッと舌を出す。軽いご挨拶だろうことは、身をもって分かったが、悪びれることはない。
……この感じ、ココミもかなり強そうだな。
握られた手の痛みを確認しながら、ココミに苦笑いする。パッと手を離してくれたが、握られた手は痺れているうえに、痛いように感じる。痛覚が鈍感なこの世界で、痛みを感じるのは、大ダメージをくらったときくらいのはずなのにと、内心ため息をついた。
「HP、減ってない?」
「大丈夫そう。多少、手先が痺れてる気がするけど……」
「ココっ!」
俺の申し出に、リオンがココミに抗議しているが、「痺れたくらいで」と取り合っていない。
「それより、本気で握ったのに、痺れたくらいってことは、相当レベルが上がってるとみた。私と同等か、それ以上」
ジッとこっちを見られてたじろいだが、体の中まで見られるようで気持ち悪い。
「ほうほう。ログイン二日目って言ったよね?」
「あぁ、それが?」
「リオンに昨日、相当しごかれたか……あるいは、ギフターズか……。私の鑑定が、阻害を受けてるんだけど、どういうことかしら?」
「鑑定って!」
ふっふっーんと意味ありげに笑うココミは、鑑定眼を持っているようで、俺のステータスを見たらしい。
……ジッとみられていると思ったけど、俺、丸裸にされたってことか? いや、阻害されてるって言ってたから、あるのか? 俺にもそんなスキルが。
思い当たらないスキルを考えながら、勝手に覗き見されたことを抗議してやることにした。
「減るもんじゃないんだからいいじゃない。それに、ここへは、武器や防具を作りに来たんだろ? 武具を作るには、その人にあったものを作る。これが、あたいの信条なの。カッコいいからと、分相応なものを持っていたって、使いこなせないからね。それじゃあ、武具が泣きをみる」
「なるほど。俺の力量にあった武器をということだな」
「そうだよ。武具に使われている冒険者なんて、見ているこっちが恥ずかしい。何事にも適正っていうものがあって、武具が冒険者の成長を妨げるようなことをしてはいけない。冒険者とともに成長できる武具がいい武具だと思っているんだよ」
「鍛冶師のプライドってやつか?」
ココミが頷く。今まで、鍛冶師とうジョブを選んだことがなかったから、ココミの信条が、俺の胸を打った。
武具は、見た目と使い勝手、あとレア度だけで、今まで選んでいたから、恥ずかしい気持ちになる。
「それで?」
「あっ、そうそう。私から紹介って形で、今は、クズイくんにお金の余裕がないから、今後、作るときに顔馴染みになっておいたほうがいいかなって。素材集めも、手伝ってくれそうじゃない?」
「素材採集も?」
「あぁ、それなら、俺ができる範囲で手伝わせてもらえるかな? 買取もしてくれると、助かる」
「それは、構わないよ。素材はいくつあっても困らない」
リオンが割ってはいり話を進める。今後の話を聞いて、ココミも俺も頷いた。頷いて思ったことが一つ。
リオン、どういうつもりなんだ?
チラリと隣に並ぶリオンが、ココミと楽しそうにして、これから向かうダンジョンの話をしている。欲しい素材があるらしく、ココミがメモをリオンに渡しているのを見て、やはり疑問は解消しておくに限ると頷いた。
「リオン?」
「どうかした? クズイくん」
「いや、さっきからの話を聞くとだな?」
リオンは、きょとんとこちらを見て、さも当然のように言葉にした。
「クズイくんと一緒に冒険を楽しむ予定だよ?」
「……えっ? 孤高のリオンが、もう一度俺とパーティを組むというのか?」
「何それ?」
「…………」
リオンはコテンと首を傾げ、ココミはそんな俺たちを見て、大笑いを始めた。わかっていなかったのは、俺だけのようで、居心地の悪いこと、このうえない。
「……はぅ、笑った、笑った! クズイくんも、リオンにかかったら……」
笑っていたココミを睨んでいるリオンだったが、こちらに向き直る。ココミも俺を見て、ふっと笑う。
「リオンは、別に孤高って訳じゃないさ。ダイブ時間が長いから、単独行動が多い。そうこうしているうちに、パーティーを組んで、一緒に回ってた奴らとレベルが違いすぎて、パーティーから切り離される。優秀すぎるがゆえに、パーティーから追い出されるんだよ」
「ちょ、ちょっと! ココ!」
ココミの説明を聞き納得した。まだ、ゲームの開始も2ヶ月足らずである。他のゲームから移行しているベテラン廃人勢がいるのに、それに匹敵するほどの時間をかけてダイブしている。高校生だというリオンは、どこにそんな時間があるのだろうか? とリオンを見つめれば、「行こうか?」とニコリと笑った。
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