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第0話      にゃ

「リオン、スイッチ!」

「任せて! クズイくんは、ココたち後衛のフォローをお願い」


 俺がリオンの名を呼んだ瞬間には、中衛でラミアの眷属である小さな蛇を倒していたリオンが、プラチナシルバーの髪を揺らし、一陣の風となって横を通りすぎた。


「了解!」


 俺はリオンの背中を見て、後ろに下がり、息を整える。双剣……『黒猫の肉球』とか、ちょっとわけのわからないネーミングがされたユニーク武器である双剣をしっかり握り直し、パーティの全体を見渡した。


 ラミア本体のHPはだいぶ削ったと思うけど……、腐っても階層主か。俺の攻撃は、あの硬い鱗と相性があんまりよくないみたいだな。ココミの方は大技の準備が整ったみたいだし、ここら一体の小蛇は、リオンが大方片付けてくれたから……よしっ!


 大蛇の体から艶めかしい女体が生えているラミア。二階層の階層主にリオンは使い慣れた『クリスタルソード』で切りかかる。蛇の鱗がはがれ、エフェクトが散っていく。軽そうに見えるリオンの攻撃は、レベルに比重してかなり重い。このVRMMOのトップに君臨する廃人プレイヤーのリオンは、二階層の階層主くらいなら結構なダメージを与えたはずだ。その証拠に、ラミアが傾いた。


「……さすがだなぁ、リオンは。それでも、リオンの力をもってしてでも、一撃では倒せないようになっている仕様は、運営側も褒めるべきところだな。レベル制限は今のところないって話だけど、プレイヤーとしては、一撃で階層主がさよならバイバイしちゃクソだし。公開階層が、まだ、低層の今、それじゃあ、つまんないだろうし?」

「クズにゃん、何グダグダ言ってるの?」

「なんでもない!」

「ココ、そろそろ何か攻撃がくるから用心して!」


 リオンがココミに注意を促した直後のことだ。召喚した眷属の数も減り、さすがのラミアもリオンのヤバさが分かったのか、『魅了』をパーティー全体にかけてくる。ステータスの高いリオンはもちろん、俺もふざけた装備のおかげで大丈夫そうだが、ココミが多少ふらついている。『鍋の蓋』を持っていたアイツは…………、もう完全にラミアの術中だ。


「リオン、そのまま前衛を任せる! ココミとシラタマが、魅了にかかってヤバい!」

「わかった! クズイくん、行って!」


 最後方で『お鍋の蓋』を構えていたはずのシラタマは、フラフラと酒に……いや、マタタビに酔った猫のごとく、千鳥足でラミアに近寄っている。


 あぁ、まったく。……目がハートとかになっているんじゃないだろうな? 出会ったときから、本当に世話の焼けるヤツだ!


「おっ・きっ・ろっ!」


 中衛から後方へ駆けるトップスピードのまま、容赦なくシラタマをぶん殴ってやると、ハッとしたように、もふもふの尻尾をピーンと立てている。この様子を見れば、ラミアの『魅了』も覚めただろう。まだ、夢うつつのような表情だが、「にゃあ」と俺を恨みがましく睨んでいるので大丈夫のようだ。

 ココミの方をみれば、首を振って『魅了』に抗ってはいるが、どうやらまだ抜け出せていない。ラミアはそんなココミに、毒のある攻撃を仕掛けてきた。俺は間に合いそうになく、ココミは避けることすらできず、まともに食らってしまう。HPは減ったようだが、アクセサリーのおかげで、毒効果は無効化されたようだ。


「大丈夫か? ココミ」

「……うん、だぶん。回復アイテムなら腐るほど持ってきたから。クズにゃん、ちょこっと、叩いてみて」


 そういって後ろを向くココミ。あまり強く叩くと、俺とのレベル差に、ココミのHPはかなり減るだろう。シラタマには、元々HPという概念がないから容赦なくいけたが、プレイヤーであるココミは違う。ココミの背中を叩かず、そっと背中を撫でると、「もう大丈夫!」と力強く返事をした。


「クズにゃんって、何気に紳士?」

「そうだといいけどなぁ?」

「わぁ! 陰キャのフリして、実は狼だったりする?」


 自作アイテムで、HP回復も済ませたココミは余裕ができたのか、「襲わないでね?」なんて胸の前で手を交差している。こんな状況下でも、俺をからかってくる根性に呆れた。小さくため息をついて、双剣であっちと指すと、てへっとココミは舌を出していた。

 どうやら、戦いの最中だということを少々忘れていたらしい。目つきが変わり、再度、足を踏ん張り腰を落とす。ハーフドワーフである小さなココミがさらに小さくなり、俺の腰ぐらいまで屈んだ。


「リオン! いつでも、いけるよ!」

「わかった! クズイくん、陽動をお願い! ココにとびっきり重いのを行ってもらおう!」

「了解! 行くぞ、ココミ!」

「オーライ! クズにゃん。リオン、離れてて!」


 次の瞬間、ココミは大きなハンマーをブンブン振り回す。小柄なココミの腕が二回りほど太くなる。攻撃特化のため、足は遅く、ラミアの格好の餌食となり狙われやすい。俺がラミアの気をひくよう、正面から駆けあがる。

 直後には、反対側にいるココミのハンマーが燃えるように赤くなった。

 俺がラミアと対峙している間に真後ろに近寄り、「いっくよぉー!」の声がかかったときには、地鳴りの音とラミアが全てエフェクトに変わって散っていくのを見ていた。

 その向こう側では、「やったねぇー! ココ」と声を弾ませているリオンと、「任せておきなさい!」と得意げにしているココミが見えた。遅れて「倒したにゃー!」とげんきんにも最奥から二人の元へ走ってくるシラタマを見て、俺は苦笑いをする。

 階層主であるラミアを倒せたようなので、「次の階層に行こうか?」と開いた扉を指さした。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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