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第7話 入学試験3――魔術

 魔術試験の会場に向かう途中。

 ある分帰路で、俺はこんな看板を目にした。


「攻撃魔法試験↑ クリエイティブ試験→」


 そういえば、魔術試験って二つの試験方法のうち、一つを選択する方式だったな。

 それがこの看板に書いてある、攻撃魔法試験とクリエイティブ試験。

 攻撃魔法試験は的に攻撃魔法を当てる試験で、クリエイティブ試験は与えられた材料から自由に魔道具を一個作るという内容の試験だ。


 このうち無難な選択肢は……攻撃魔法試験の方だ。

 試験内容が単純で評価基準が分かりやすく、狙って高得点を取りやすいからだ。

 逆にクリエイティブ試験の方は、「どんな魔道具を作るかは自由」な反面、採点が試験官の裁量任せで狙って高得点を取るのは難しい。

 クリエイティブ試験の全受験者平均点は例年、攻撃魔法試験の全受験者平均の9割程度となってしまうくらい、その差は顕著だ。

 ゆえに、ほとんどの受験生は攻撃魔法試験の方を選択することとなる。


 当然俺も、攻撃魔法試験を選択するつもりでいた。

 わざわざセオリーから外れたことをするメリットなどないと思っていたからだ。


 だが――それも剣術試験があんな結果になるまでのこと。

 今の俺は、クリエイティブ試験の方を受ける気になっていた。


 理由は一つ。

 別にクリエイティブ試験は、単純に攻撃魔法試験に比べて不利なわけではなく……クリエイティブ試験なりのメリットも存在するのだ。

 そのメリットとは、「クリエイティブ点」という追加点制度が存在すること。

 魔術試験の配点は通常100点だが、クリエイティブ点も加味した場合、クリエイティブ試験では最大130点を得ることができるのである。


 剣術試験の試験官、表向きは「気にするな」と言ってくれたが……内心苦い思いをしたのは間違いないだろうからな。

 採点は芳しくないと思っておいた方がいいだろう。

 それでも試験に合格しようと思えば……魔術試験で、剣術試験の分を挽回するほどの点を取る必要がある。


 別に魔道具作成が得意というわけではないが、今の俺に無難な選択肢を取っている余裕はないのだ。

 無難な点数を取って合格点に届かず落とされるか、無難じゃないけど上手く行けば合格点を超えられるかもしれない方法に賭けるか。

 0%と1%を比較すれば後者を選ぶ、というのは当たり前のことだろう。


 というわけで、俺はクリエイティブ試験の会場がある右方向へと進んだ。

 噂通りこちらの試験は不人気で、剣術試験に並んでいた人はどこへやらというくらい閑散としていた。



 ◇



 会場でしばらく待っていると、全受験者に一個ずつ魔石が配られた。

 この試験のルールは簡単。

 制限時間一時間の間に、決められた材料で作れる魔道具を、何かしら一個作るだけだ。


 材料は、魔石に関しては配られた一個のみの使用が許されている。

 それ以外の材料、例えば金属や木材に関しては、共用の資材置場から好きなだけ取って使っていいとのことだ。


 配られた魔石を確認すると……早速俺は、何を作るか考え始めた。


 正直、魔石の質はあまりよくない。

 これで作れるものは、かなり限られてくるだろう。


 だが逆に言えば、魔石の質による制限は、「その中で可能な限り高度な魔道具を作れば高得点をあげますよ」というヒントとも捉えられる。


 つまり俺が作るべきは……この魔石を材料に作れる魔道具の中では難易度の高い部類である、重力操作装置とかになってくるだろう。


 まあ難易度が高いとは言っても、それはあくまで「与えられた条件の中では」の話であって、重力操作装置なんか10分もあれば完成する程度のものなんだが。

 それくらいしか思いつかないので、しょうがないな。


 などと考えていると、試験官が「始め!」と合図を出した。

 早速俺は、魔石に魔法陣を刻み始める。

 その作業は6分で終わった。


 次に俺は、資材置き場から鉄を持ち出し、加工を始めた。

 これでツマミ付きの台座を作り、ツマミを回して効果半径や重力の倍率を操作できるようにするのだ。


 二つのツマミを作り、それぞれのツマミの上に目盛りをつける。

 一個目のツマミの目盛りの数値は0.1~3、もう一つのツマミの目盛りの数値は0~10だ。

 一個目のツマミは重力の倍率を決定するもので、下限は0.1倍、上限は3倍に設定することができる。

 魔石の質がもう少し良ければ無重力とか重力100倍とかにできたりもするのだが、この装置の性能だとこんなところが限界だ。

 二個目のツマミは効果半径を示すもので、最大半径10メートルの空間の重力を変えられることを示している。


 魔石を台座にセットすると完成だ。

 予想どおり、10分ちょっとで完成してしまった。


 完成した後は、効果半径を30センチくらいにして試運転し、魔道具が正常に動作することを確認した。


 ルール上、できた人から提出していいことになっているはずなので……時間はダダ余りだが、もう提出するか。

 俺は重力操作装置を試験官のところへ持っていった。


「は、早いな……。もう完成したのか?」


「はい」


 困惑気味の試験官に、重力操作装置を手渡す。


「どういう魔道具か説明してくれ」


「重力操作装置です。右のツマミで効果半径を、左のツマミで重力の倍率を設定できます」


 試験官に説明を求められたので、簡潔に説明すると……試験官はなぜか、ガッカリしたように大きくため息をついた。


「馬鹿なことを言うな。重力操作装置など机上の空論だ。そんなもん、神話か御伽噺にしか出てこんよ……」


 どうやら呆れられてしまったようだ。

 まずい、魔道具のチョイスをミスったか。

 でも気になるのは、試験官の物言いが、あたかもこれを架空の魔道具かなんかみたいに言っていることなんだよな。

 机上の空論どころか、一応ちゃんと動作チェックまで済ませてあるのだが。


「まあ試験官として、一応挙動は見てみるとするよ。どれどれ……ここに合わせれば、重力が10分の1になるんだな?」


 試験官はそんなことを言いつつ、ツマミを回す。

 次の瞬間……試験官の目の色が変わった。


「……!? 身体が……軽い……?」


 試しに軽くジャンプする試験官。

 軽く蹴っただけなのに、その身体は10メートルほど宙に浮き……とても自由落下とは思えないほど、ゆっくりゆっくりと地面に降りてきた。


「こ、これは……こんなことが……!」


 顎が外れんばかりに口をあんぐりと開けたまま、試験官は完全に硬直してしまった。

 そのまま一分ほど、試験官は唖然とし続けたままだった。


「これ……は……夢……か……?」


 うわ言のように、試験官はそう呟く。


 何してんだろうこの人。

 不思議に思っていると、ようやく試験官は我に帰った。


「む……すまんすまん。疑って悪かった」


 まず試験官は、そう言って俺に深く頭を下げる。

 まさかこの人……本当に重力操作装置を御伽噺の存在だと思ってた、なんて言わないよな?


「にしても……困ったな。こんな代物、いったいどう採点すればいいやら……」


 そして試験官は俺に魔道具を返却しつつ、頭を抱えてしまう。


 謝るくらいならクリエイティブ点ください。

 あわよくば、上限の30点分。


 などと心の中で祈ってみる。

 まあこの祈りが通じる可能性は低いだろうが……人事は尽くしたので、あとは天命を待つしかないな。


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― 新着の感想 ―
[一言] これから先がとても気になります。 すぐに続きを読むのだけどね。
[良い点] やっぱこのくらい振り切ってくれるのが一番読みやすくて面白い [一言] 一日100話連載してくれ
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