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第21話 クライアント・ファースト

 聖女の願いは……魔法のコンサルティングだったようだ。

 他人に魔法を教えるなんてやったことないから、どうすれば効率的かイマイチよく分からないが……まあできることをやってみよう。


「わ、分かりました。じゃあとりあえず……まずは一回俺がアブソリュートヒールを放つんで、それを見て真似してみてください」


 とりあえず、お互いにお互いの発動方法を観察することで何か見えてくるのではと思い、そう提案する。

 そして昨日やったように、アブソリュートヒールを発動して見せた。


「凄くスムーズですね……。これでも私、国内最高の治癒師と自負しておりましたのに……まさかこんなにも上がいらっしゃるとは」


「……とりあえずモルデナさんもやってみてください」


 本来の目的を忘れて俺の魔法に見入りかけているモルデナさんに、やることを思い出してもらうべくそう促す。

 彼女がアブソリュートヒールを発動しようとすると……その問題点は、一発で分かった。


 魔法陣の動力充填部分の構築が、異様に遅いのだ。

 魔法陣には、起こしたい魔法現象をコントロールするための術式制御部分と、魔法発動のためのエネルギー、すなわち魔力を注入するための動力充填部分が存在する。

 そのうち、術式制御部分は比較的パパッと完成するのだが……動力充填部分に入った途端、構築速度が100分の1くらいまで落ちるのだ。

 すなわち、魔法陣に必要な魔力を補充するのに時間がかかっているのが、魔法発動の遅さのネックとなっているということだ。


 これが意味するのは……これを解決する方法は、総魔力量を増やす鍛錬を地道にするしかないということだ。

 術式制御部分の構築スピードなら、コツを掴むことである程度の高速化は可能。

 だが魔力の充填速度を上げるには、魔力の出力を上げるより他ない。

 そしてその出力は、総魔力量と強い相関があるのだ。


「これは……自身の総魔力量をひたすら高めるしかなさそうですね」


 モルデナさんによる魔法の発動はまだ途中だが、結論は出たので、俺はそう伝えた。


「ああー、そ、そうなんですか……」


 それを聞くと……モルデナさんは、目に見えて落ち込んでしまった。

 一朝一夕でどうにかなるものではないと悟ったからだろう。


「それは……だいぶ先になりそうですね」


 彼女はそう続け、ため息をつく。


「すみません、なんか無茶な相談をしてしまって……」


 それでも彼女は、何も解決していないにも拘わらず、お礼を口にして深々とお辞儀をした。


 なんか……でもせっかく呼んでくれたのに、ここで終わらせてしまうのはどうも悔しいな。

 何かできることはないものか。


 そう考えた時……ふと俺の脳内に、お母さんが前言っていたあるフレーズがよぎった。

 それはお母さんが、就活のための業界研究について教えてくれていた時のことだ。


『コンサル業の本質は、クライアントの”本当の悩み”を見つけて解決策を提示すること。クライアントが最初に相談した悩みの裏にある、真の目的に向かわせてあげることだ』


 この場合……聖女の”本当の悩み”とは一体何か。

 高度な魔法の発動に時間がかかる、とかいうのは表面的な悩みに過ぎないだろう。


 そして本質はおそらく……「より多くの患者を治してあげたい」とか、「より治せる病気や怪我の種類を増やしたい」といったところだろう。


 であれば、だ。


「モルデナさん。つかぬことを聞きますが……アブソリュートヒールで治そうとしているの、たとえばどんな症例でしょうか?」


「それは……魔力性免疫疾患とか、呪詛臓器不全とか……」


 質問すると、モルデナさんは数多の症例を列挙した。

 それを聞いて……俺は確信した。


「それ、八割方の症例は別にアブソリュートヒールじゃなくても治せますよね?」


「……へ?」


「たとえば……今おっしゃった物の大半は、収束度を上げたパーフェクトヒールで十分効きます」


 そう。今の聖女で連発できる、代替治療法を提案すればいいのだ。

 身体全体に作用するパーフェクトヒールの効能を一か所に集約すれば、患部には通常のパーフェクトヒールとは比較にならない治癒効果がかかることになる。

 つまり、今までアブソリュートヒールでしか治せなかった患者のうち大部分が治せるようになるのだ。


 たとえアブソリュートヒールが連発できるようにならずとも……これでモルデナさんの”本当の悩み”の解決には、だいぶ近づくだろう。


「パーフェクトヒールの収束度を上げる……そんなことが可能なんですか?」


「これを見てください」


 説明のため、俺はパーフェクトヒールの魔法陣を光魔法でホログラム投影した。

 術式の効果範囲制御部分を赤、それ以外の部分を黄色で光らせて、だ。


「この赤色の部分を変形させることで……効果範囲を調整できます。たとえばこうすれば……パーフェクトヒールの効果は、直径5センチ以内に集約されます」


 赤色の部分の模様を変化させつつ、俺はそう説明する。


「高密度のパーフェクトヒールには、通常のパーフェクトヒールにはないレベルの治癒効果がありますから。例外もありますが、先ほどおっしゃった症状のうちほとんどは、これで効くことでしょう」


 そう言って、俺は説明を締めくくった。


「パーフェクトヒールなら、もっと簡単に発動できますよね?」


「はい! 簡単にとは言えずとも……少なくともアブソリュートヒールに比べれば圧倒的にやりやすいです」


 猛烈な勢いでメモを取るモルデナさんのために、しばらく魔法陣のホログラム投影を続けておく。

 よし、なんとか一件落着だな。


 30分ほど魔法陣を表示しっぱなしにしていると……ようやくモルデナさんは、メモを取り終えたようだ。


「ありがとうございました。不甲斐ない私に代替案まで提案してくださって、本当に助かりました!」


 本日二回目の、しかし今回は満面の笑みでお辞儀をした彼女は……机の上に置いてあったベルを鳴らし、係員を呼んだ。

 そして、こんな指示を出した。


「予算は国から出しますので、この方に魔法使用料12億クルルを支払うように。あと、治癒師会の理事のポストも渡すので、その手続きをお願いします」


「しょ、承知いたしました!」


 係員はモルデナさんに深々と頭を下げ、去っていった。

 マジか。魔法使用料はともかく理事のポストって。

 聖女って意外と裁量権持ってるんだな。


「治癒師会の理事は、世界各国どの国でも少なくとも男爵並みの扱いとなる肩書ですから。ご自由にお役立てください。あ、定例の理事会への出席は特別に任意参加としますので、そこはご安心ください!」


 あ、そんなワールドワイドな肩書きなのね。さすが教会。

 貴族とかめんどくさそうだし、あんま関わりたくないけど、まあひょんなところで役立つかもだし一応ありがたくもらっとくか。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] JJ入れるなら、、いやなんでもない
[良い点] 周りが良い人ばかり
[良い点] おももももしろい!!!
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