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フランチェスカ 十六歳



 私には夢がありました。


 王都に出て一発当ててやるという夢です。


 私は冴えない小さな田舎町の雇われのお針子ですが、結婚して大金持ちになったらこんな場所はすぐに出て行くつもりなのです。


 必要なものは王子様の隣を歩くための素敵な靴。

 それと、ええ、やはり。大人しくて控えめな毛の長い猫も要るでしょう。犬はダメです。あれはよくワンワンと吠えますから、うるさくて私は苦手です。



「フランチェスカ、貴女に電話よ」


 お針子仲間のベラが身振りで私を呼びます。

 今日は日曜の昼過ぎ。本来ならば休日であるこの日に私が労働を強いられているのは、ひとえに我が家が貧乏であるからです。王様が再来週のパレードで着るという晴れ着を、私たちはせっせと縫っているのです。たった一回しか着られない服を、何時間という時間を掛けて。


「すみません。すぐに行きます」


 私はパッと席を立って廊下へ出ました。

 この店の電話はよりによって冷たい廊下の端の端にあるのです。隙間風が吹き込む真冬なんかは、手足がかじかんでまともにダイヤルも回せやしません。


「………お電話代わりました、フランチェスカです」


 電話口に出て二言ほど会話をしたら、私はすべてを察することが出来ました。手足がワナワナと震えて、気が遠くなるような感覚がありました。


 なんとか返事をして、電話を切ります。

 何事かと心配するベラに「早上がりしたいので店長に伝えてほしい」とお願いしました。ベラは知りたがりの顔で尚もこちらを見ます。


 私はその二つの目を真っ向から見据えました。


「お母様とお父様が亡くなったの。だから私は家に帰らなければいけないの、ごめんなさい」


「あっ………」


 こうしたとき、相手の頭の良さが会話に出ます。気が利く返しを出来るか出来ないか。ベラはおそらく後者なのでしょう。急足で店から出て行く私の背中には、なんの慰めの言葉もありませんでした。




 父と母の死因は、車に轢かれたことによる事故死でした。


 親戚だという叔母は嘆かわしい顔で「子を置いて先に逝くなんて」と何度も繰り返していました。しかし、大人とは恐ろしいもので、そんな風に同情を示してくれた彼女も、両親が遺したわずかな遺産の存在が明らかになると目の色を変えました。


 我が家は手一杯だからと言っていた叔母が「うちに来たら不自由はしないわ」と私を誘いました。肩に乗った分厚い手のひらからは無言のプレッシャーが伝わって来ました。


 だから、私は言ってやったのです。



「王都にお世話になった父の友人が居ます。何かあったらそちらに行くように言われていますので」


 あの時の叔母の顔は忘れられません。

 子供相手に見せる表情ではなかったと思います。


 かくして、私は少ない両親の遺産を持って王都アグリムへ向かう始発に飛び乗りました。


 素敵な靴ではなくて、服だっていつものボロです。

 だけども私は、何か自分の人生が今までとは違った素晴らしいものに変わるのではないかと期待していました。


 忘れもしない、十六の晩秋のことです。



小説家になろうに未転載のファンタジー小説の中に登場する演劇の話を小説にしたものです。単にヒューマンドラマとして読んでいただければ幸いです。

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