番外編 2〇〇〇年 天野宗助展 第一章 戦国一の職人の始まり
番外編です。
2〇〇〇年 某月 東京のある博物館。
天野宗助の作品が集まるこの展示は話題を呼び、人がすごく多い。
あの天野宗助の作品が一堂に会するのだから、作品は国宝名品のオンパレードでそれだけで見る価値はあるが何より彼自身が人気だ。
何故なら大河ドラマでは必ず彼の作品が登場し、天野宗助自身も聖宋天皇との繋がりや人気武将である月ヶ原義晴との親交が厚いことからも知名度も高く、様々な漫画やアニメ、ゲームに登場する職人だ。
これだけでも人が集まるのは無理ないが今回の展示は今までの天野宗助の展示会の中で最大規模であり、展示数は過去最多、中々お披露目されないものまで展示されると来たらこれは歴史好きでなくても見たいと思うものだろう。
そんな展示会に来た自分は長い待ち列をようやく並び終え、博物館の中に入る。まず目に入るのがこの展示会のポスターを大きく引き伸ばされて天井に吊るされた看板が五つ並ぶ。
右端にあるポスターは星刀剣シリーズの三振、星海宗助、流星宗助、昴星が写されたもので白い筆の書体に天野宗助展と大きく書かれたもの。
その隣にあるポスターは天野宗助の名刀として名高い金獅子、白百合の薙刀、海切宗助、蛇ノ御子が並びその下に同じように天野宗助展と書かれたもの。
左端のポスターには花簪の四季姫シリーズが手鏡の葵姫を囲うように配置され、葵姫の上に天野宗助展と大きく書かれている。
その隣のポスターには四神像とその作品達の上に天野宗助展と書かれたものがある。
そして堂々と中央にあるのは天野宗助とされる後姿が描かれ、その下に天野宗助展と書かれたものだ。
五枚もポスターが作られるのは異例だろうがこの展示への力を入れた博物館の熱意が感じられるためこのポスターのポストカードセットは必ず欲しい。
今回の展示は音声ガイドのチケットを購入し楽しむことにした。この音声ガイドはある人気ゲームの天野宗助役の声優が担当し、天野宗助としてこの展示会を案内してくれるのだ。
歴史好きだし、そのゲームを知る自分にとってはこれは楽しみにしていたものの一つだ。
この特別スペースに立てられたゲームでの天野宗助のキャラの立ち絵とは後で写真を撮るとして、まずは楽しむために最初の展示室へ足を進め、音声ガイドのスイッチを入れた。
まず聞こえるのは和風なBGMと共に金槌を打つ音、そして若い男の声だ。
≪よう、よく来たな!俺は天野宗助…まぁこの展示会のもんを作った職人ってやつさ≫
ゲームで知る推しの声、声優さんのいい声にゾクゾクとし、興奮してしまうのはオタクの性だ。
この天野宗助のキャラはぶっきらぼうだが面倒見のいい青年で、ほかのキャラに比べれば若い見た目ではあるが程よい低い声で話すキャラだ。
そして唯我独尊で超俺様キャラな月ヶ原義晴に気に入られ、唯一彼が物凄く世話焼く程に可愛がる存在という設定だ。
≪俺の展示を作った本人の俺が案内ってのも変な話だが、まぁ楽しんでくれ…さてまずは俺の始まりから語ろうか≫
展示スペースの始まりは天野宗助が唯一描かれたとされる後ろ姿の絵だ。
金槌を振り上げ、刀の元である鉄の板に振り下ろさんとしている所を描写されている紺色の作業着を着た少し細身の男性の絵。
【これは作者は不明であるが月ヶ原家に厳重に保管されていたため月ヶ原義晴か家臣の作ではないかという説がある】と説明文が書かれている。
≪俺は小さい頃の記憶なんざ無く楚那村の者に拾われ村長のところで世話になってたのさ…でも俺は戦なんざ大嫌いでね、無理言って山の中に住まわせてもらったのよ
まぁそこで好きに物作ったり、村のもんが住みやすい様に知識はやったのだが…ある日、義晴のやつに見つかって俺の平穏なスローライフは終わったってわけさ≫
はぁやれやれとため息をつく天野宗助の声。
スローライフという単語が出てきたが天野宗助がオランダ語が話せたことからゲームの中で唯一横文字を駆使するキャラでもあった。それ故のセリフだ。
≪で、義晴のやつなぜか俺の作った刀を気に入ったらしくてな、そいつを持って帰ったことで義晴とのながーい付き合いが始まったわけだ…あぁ、あと太郎は村で暮らしてた幼馴染ってやつさ≫
この天野宗助と月ヶ原義晴の付き合いは本当にとても長く互いの孫の七五三の祝いを送るほどに長いのだ。しかも天野宗助は相当に月ヶ原義晴に好かれていたらしく、彼が天下人になってもわざわざ天野宗助のいる山まで通い詰めるほどであったという。
そして太郎は清条の国一番の槍使いである地守 太郎助のことだ。
天野宗助と地守太郎助は同年代であり同じ村で暮らしていたことから大変仲が良かったとされ、頻繁に山に篭る天野宗助の顔をよく見に行ったりしていたという話がある。
また彼の槍こそがメイン展示の一つ星刀剣シリーズの一振 昴星である。
地守太郎助が義晴に武士としての才を見出されたことの切っ掛けである相撲大会にて優勝した際に天野宗助が記念にと昴星を作ったとされる槍。この槍が友人の相撲大会の優勝を祝って作ったものとはいえ貴重な隕石を使ってしまうという身内に甘い天野宗助のぶっ飛んだ逸話の一つだ。
ちなみにゲームの設定では普段は穏やかだが親しい者を傷つけられるとバーサーカーのように敵を屠るというギャップ持ちで天野宗助にすごく過保護という設定である。
≪で、この山で好き勝手作ってたら俺の作ったもんがなんかしてたらしい…まぁ俺の作ったもんが大事にされた証だろうさ…さぁ!これからお前さんが見るのはその色々やらかしたやつらってわけさ!いっぱいあるから楽しんでいけよ!≫
一つ目の説明が終わり次へ進む。
そこには天野宗助の来歴や実際に使っていたとされる道具や日常から作られた作品が並んでいた。
その中にある壺に音声ガイドの表示があったのでボタンを押して再生する。
すると先ほどの鍛冶場の音ではなく水音が聞こえてきた。
≪こいつは『龍雲』、俺の作品のひとつであり元は俺の家で水を入れる壺として使ってたんだが…他所の村が水不足になった時に壺毎水をあげたら壺から龍が出たっていう不思議な壺さ≫
壺の傍には『陶器 龍雲』と作品名と説明文が書かれた紙があった。
『陶器 龍雲』
天野宗助が自身が使う壺として作った作品だが水不足で悩む登尾村に援助する際に天野宗助が贈ったもの。
白い龍が棲む壺で、雨を降らせ池に水を湧きあがらせたという伝説がある。
また今でも所持者の龍守氏の一族を守護、日常的に交流している。
龍の悪戯が過ぎると『刃龍』の元へ送り反省させるという習わしがある。
おい最後。
龍とかやばい、かっこいいとなってたのに最後に全部持っていかれたぞ。
隣のお姉さんも悪戯っ子とか笑ってるじゃないか。
隣のものも龍の関係の木像だが今にも飛び出さんとしてきそうな程精巧で天野宗助の技術のすごさがよくわかる。
…ん?この像にだけ二つ紙がある。
『龍雲の龍が悪戯しないように彼が見張っているのでガラスを叩くなどして邪魔しないであげてください』
…そのためにここに置かれてるのか、確か木像の展示スペースもあったはずだから本来はそこに置かれるはずだったんだよな…。
隣のおじさん、苦労人っていうのやめてあげて。
≪こいつ悪戯するから必ず龍の作品が隣にいないと大人しくしねぇらしい…なんでそんなやんちゃするのかねぇ…≫
すごいやんちゃ坊主を推すんだこの作品…すごい逸話持ってるのに全部やんちゃ坊主な龍ってところしか残らないよ…。
≪本来は一番上の刃龍に任せるのが一番いいらしいが…あいつは刀連中の頭領的な立ち位置として人々に認識されてるからなあいつは刀のところにいるんだ、悪いが木龍に頑張ってもらうしかねぇな≫
頑張れ木の龍…。
思わず哀れみの目でみてしまいそうだがやめてあげよう…。
ここは天野宗助の初期の作品が多く正に始まりの展示だ。
有名な水精酒は説明の紙と当時使われたという酒樽が展示されている。
この酒は以前この国でサミットが行われた際に出され全世界の首相や大統領に美味さと美しい精霊を見せたことで話題になった酒だ。いつかお目にかかりたいものだなぁ。
他にも鍛冶道具や鉱石が並ぶ中で次に音声展示されているのは三つの掛け軸。
始まりの三作、天野宗助が初めて描き世に出した掛け軸である。
≪この掛け軸達は俺が初めて世に出した掛け軸だ、そのせいか始まりの三作と呼ばれている。右から月兎、慈愛の母、渓谷の窓と名がついた…実は俺は花衣屋に卸す際に絵師として新米だから最低価格で売ってもらったんだが…後々掛け軸を買った人等が安すぎると俺に団子やら反物やらを渡して来たんだ…変な話だろ?≫
音声ガイドの説明の話が始まりの三作の説明文にも書かれている。
こちらには買った人物達はこの掛け軸から人生を大きく変えてくれた掛け軸の値段が安すぎるからと理由をつけて天野宗助へ贈り物をしたという説明がされている。
またそれぞれの説明文がどのように変えられたのか書いてある。
『掛け軸 月兎』
すすきの野原に浮かぶ月と二羽の兎が餅つきをする姿が描かれている作品。
老舗和菓子屋の月ノ茶屋の二代目店主の奥方に買われたこの掛け軸は未熟であった店主に団子の極意を教え店を繁盛させたという。
この掛け軸を手にした月ノ茶屋の夫婦はこの掛け軸のおかげで「美味さで人を幸せに出来る喜び」を手に入れたと残している。
『掛け軸 慈愛の母』
日の当たる縁側で優しく微笑む老婆の姿が描かれている作品。
清浄国の武家である轟山家当主である轟山 導十郎の母に買われたこの作品は持ち主や周囲の人物に夢の中で語り掛け、正に母や祖母の様に優しく接し頑な心や凍てついた心等を解きほぐし、安らぎを与えたという。
この掛け軸について轟山 導十郎はこの掛け軸のおかげで「人の温かさを知ること、信じる心」を手に入れたと書に残している。
『掛け軸 渓谷の窓』
新緑の美しい渓谷が描かれている作品。
清浄国の武家である雲江家当主である雲江 卯景の妻 由利の世話係に買われた作品は当時家同士の約束で幼い頃から嫁いできたことから姑問題や由利に対し無関心な卯景から辛辣な言葉を受ける日々に長年心労に参っていたとされる由利の心を救ったいう。
若草色の袴を着た美しい男が由利の前に現れ、彼女に世界は広く美しいことを説き、また雲江卯景には愛を教えたという逸話がある。
この掛け軸について由利はこの掛け軸のおかげで「美しい世界を歩む強い心」を手に入れたと言葉を残している。
…この掛け軸の持ち主達はきっと歴史には描かれていないけれども凄く大きな出来事があったんだ。
そしてそれを手に入れる切っ掛けをくれたこの掛け軸に心から感謝しているのが分かる。
だから口実をつけてでも天野宗助という掛け軸を生み出した絵師にお礼をしたかったんだろう。
こんな風に不思議な力をもつ作品達が人生が変わる切っ掛けを多くの人に作りだしたのが天野宗助の作品だ。
だからこそ人々はこの作品達を作り出した天野宗助を仙人や天の国の者と思っていたのかもしれない。
そして天下人の月ヶ原義晴はこの天野宗助という職人の作品に惹かれ、魅了されたのだろう。
始まりの掛け軸の次は使われていた茶道具の展示がされていた。
しかし当時の茶道具にしては洋風なものが多い。
確か天野宗助は紅茶も嗜めるらしくオランダのアラン提督がその腕の高さに驚いたという日記が残されている。
どうやら白い陶器の茶器はアラン提督が天野宗助に送ったもので時々飲んでいたと記録があるらしい。
が、義晴はあまり好まなかったようでよく抹茶やほうじ茶を土産に持ってきて飲ませないようにしていたらしい。
またマグカップのような取っ手がついた湯呑もあり、その説明文には作業の最中に好んで使っており最近の研究でどうやらこれで蒲公英コーヒーらしきものを作って飲んでいたと判明した、とある。
それを二日酔いした義晴に飲ませていたという記録もあるらしい。
…戦国時代ってコーヒーないよね?とスマホで調べたがやはり無く、しかも蒲公英コーヒーはコーヒーという名ではあるがカフェインがなくてコーヒー風のお茶らしく二日酔いに効くらしい。
スマホで見たサイトでは作り方も書いてあったが結構手間がかかる…まさか戦国時代の日本で蒲公英コーヒ-を飲んでいたなんてアメリカ人も驚きだな。
…本当に何者だったんだろうか。天野宗助という人は。
あとは使われていたという鍜治道具や裁縫道具、絵の筆が展示されていたがよく残っていたものだと感心した。
天野宗助の子孫が残していたのだろうがこのように完全な状態で一欠片も欠けてないのはそうそうないからな。
これでこの始まりの展示は終わりだ。
次は花の間…女性との逸話のある作品達の展示の間に向かおう。
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天野宗助展
2○○○年×月△日~2○○○年□月△日まで開催。
天野宗助の没後〇50年を記念して開催された天野宗助の作品のみで行われた展示では過去最大規模の展示会。
様々な博物館や個人所有の作品をかき集めたとされ普段はお目にかかれない作品を見れる事や昨今の大河ドラマやアニメ、ゲームにも登場したことからもかなりの注目を集めた。
ゲーム≪戦国天下≫にて登場する天野宗助の声優による音声ガイドや星刀剣シリーズの擬人化ゲームや四季姫の擬人化が登場したアニメ等のコラボも行ったりと広報に力を入れたことも話題を集めた。
今回から番外編で序章にあった宗助の作品展示を見て回ってるような話を書いていきます。
こちらは本編にまだ出てきていない作品や登場人物等も多く登場しますが、その時は本編に出た時にこの話だったのか、あれはここで出てくるのかくらいに思っていただけると嬉しいです。




