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テトラ・ワールド  作者: シンG
第1章 建国~砂漠の国~
76/96

幕間その1 ビッケルの奇妙な一日

すみません、ちょっと仕事が立て込んでいて大分遅くなりました(´Д`;)

期間が空いてしまい、申し訳ありませんm( _ _ )m

世の中、理性から生まれる「正論」と本能から生まれる「感情」が反発し合う事象が多々存在する。



例えば、兵士Aさんがいるとしよう。


訓練は終わり、一日の残り時間は自由時間として過ごすはずだったAさんだが、Aさんを探してやってきた兵士Bさんに「隊長がお呼びだ。早急に、とのことだからすぐに兵舎に向かうように」と言われてしまう。

上役である隊長に呼ばれれば、当然有無を言わさず向かうべき。兵士であれば誰もがそう思う常識だろう。

しかもこの隊長は時間に厳しく、常日頃から「時間は効率よく、考えて使うこと」と兵士たちに言い聞かせている人物でもあった。


Aさんは急いで兵舎に向かうわけだが、その道中でお腹を抱えて苦しそうに蹲る給仕係のCさんがいたとしよう。


周りには誰もいない。

自分は急いでいる。

隊長が早急に来るように言っている。

Cさんは非常に苦しそうで、一人では動けそうになかった。


Aさんは限られた選択肢と状況から、Cさんを助けることにした。

人として素晴らしいことだが、同時に、この時点で隊長の要望を裏切ったことになる。

どちらかを切り捨て、どちらかを救う。

Aさんはその天秤を前に、Cさんの方に重しを乗せて傾かせたわけだ。

Aさんは医務室につれて行ってもらったCさんから感謝の言葉を受け、自分は正しいことをしたんだという想いを胸に急いで隊長の元へと向かった。


しかし隊長は「普通に向かえば着くだろう時間」から遅れたことに激怒し、Aさんが来るや否や強く怒鳴りつけた。

人は一度沸点を超えると、自身の主張を言い終えるまで落ち着かないものだ。Aさんは弁明をする機会すら得られず、一方的に叱りつけられ、謝罪を繰り返すことしかできなくなってしまった。


隊長の視点からすれば、どう考えても寄り道をしてきたとしか思えない遅刻を目の当たりにすれば、部下を叱咤するのも致し方ないだろう。これは指導という役目も担っている隊長として「正論」とも言えることだ。

だが単純に自己都合で遅刻したのならまだしも、腹部を痛めていたCさんを救助した結果遅刻してしまったAさんとしては腑に落ちない結果と言えるだろう。この「感情」もまた人として正しい反応と言える。


隊長の言い分も理解できるし、落ち着いて考えれば、近くに人がいなくとも少し道を戻れば言伝を伝えてきたBさんに出会うことだってできたのだ。BさんにCさんの救助をお願いして、AさんはAさんの都合を優先する。そういう可能性だって存在していたことを考えると、Aさんの選択肢が本当に「最良の手」だったのかと疑問を呈してしまう。もし隊長の呼び出しが誰かの生死にかかわり、Aさんの到着が遅れて誰かが命を落としたら? 隊長は今この限りの話ではなく、幅広い可能性を考慮して日々、部下たちを指導しているのだ。そういった可能性や考え方、立場も含めて、隊長の言い分は「正論」なのだ。


――しかし、目の前で苦しむ人を前にして、冷静に物事を考えられる人間は少ない。


善性が強ければ強いほど、目前の人に意識が集中し、冷静な行動は難しくなっていくだろう。

Aさんの「感情」も正しく、隊長の「正論」も正しい。

ただ正しさだけで上手く紐づくほど、人間という生き物は完璧に出来ていない。

その曖昧さを埋めるために「情状酌量の余地」という言葉などが生まれるわけだが、その釈明の時間を得られるケースが無いことも多い。


今回の例で言えば、隊長は怒り心頭で聞く耳を持たず、部下であるAさんは叱りの言葉を不満を持ちながらも受け止め、心からではない謝罪の言葉を建前上、口にすることで終わってしまうだろう。

何故なら冷静ではない隊長に一対一の場で、事情を説明しようとしたところで、全て「言い訳」に聞こえてしまうからだ。


故に対等でない人間の間で起こる「正論」と「感情」のすれ違いは、大概が弱者が堪える形で決着を迎えるのだ。



という例のように、感情で生きる人間が、犯罪を犯さないように自らが敷いたルールの上に転がる「正論」との間に生じる闇にジレンマを感じ、苦しむことが多々起こるのであった。


そして、今、パリアーという名の一人の女性も同じ苦しみを味わっているのであった。

もっとも先の例に挙げたAさんに比較すると、彼女のケースはどちらかというと彼女の分の方が悪い。

Aさんは「正しい」と思った行動の結果から理不尽に思ったわけだが、彼女の場合は「極度の気恥ずかしさ」から理不尽に思ってしまっているわけなのだからだ。



************************************



「・・・・・・」


「・・・・・・」


両者は木製の長机を挟み、にらみ合いの姿勢を続けていた。

二人の間には今日の朝食であるパンが二つ、加えて肉団子と大豆、根菜が混ぜられたお椀が置いてあった。


一人は茶髪の中に赤い髪が紛れ込む変わった髪質をしている女性、パリアー。

もう一人は両腕を三角巾で固定され、自分自身では自由に手を動かせないビッケルだった。


パリアーは複雑な表情で手に持つフォークと、お椀の中の肉団子を見比べる。


「おい・・・」


「な、なんッスか!?」


対面のビッケルに声をかけられ、パリアーは酷く大げさに反応を返す。


「いい加減、こーして向かい合ったままじゃなくて、飯を食わせて欲しいんだけどなぁ~」


「う、うっさい! あ、あああ、あたしに『あ~ん』させろっとか、ビ、ビッケル、いったい何様のつもりッスか!」


「そ、そこまで言ってねーだろ! 普通に食べさせろや、普通に!」


「ぐぬぬ・・・」


分かっている。

海よりも深く分かっているつもりだ。海という存在を知らないパリアーだが、多分、海より深い。

今回の件は圧倒的に自分が悪いことだと。


サリー・ウィーパの一件で、鋼液に鎧ごと固められたビッケルを何とかしようと肩の関節外しを試みたパリアーだが、結果として未熟な技能による関節技は限度を超えて、骨折という結末を迎えてしまった。

全治二か月。

兵士にとっては、日々、筋力の衰えや体の動き・感覚を劣化させないための訓練が必要だ。

そんな兵士の一人であるビッケルにとって、二か月の安静は大きなマイナス要素になることだろう。


(うう・・・けど、けど! あたしが悪いのは分かってるけど!)


プルプルと震えるフォークで肉団子を何度も突っつきながら、苦悶する。

対するビッケルは目の前で、繰り返されるフォークの刺突で徐々にぐずぐずに崩れていく肉団子の様子を驚愕の表情で見下ろしていた。


ビッケルの介助。

それが彼の両肩を見事に粉砕したパリアーに課せられた、マイアーからの罰であった。


無用な怪我を、しかも長期間不自由を与えたにも関わらず、この程度で済んでいるのは、ひとえにパリアーとビッケルの仲の良さも手伝っているのだろう。マイアーも最初は「皆の前で公開!生尻1000叩きの刑」という恐ろしい罰を画策していたが、泣いて許しを請うパリアーと「そこまでしなくても」とフォローしたビッケルのおかげで、現状の「ビッケルが両腕を動かせるまでの日常生活介助」という形に収まっていた。


因みに昨日のヒザキとミリティアの決闘中に「明日が憂鬱」と言っていたのは、老医師の許可を得てビッケルの介助が始まるのが、まさに今日からだったためだ。


「お、おい・・・肉団子が既に団子の状態を維持してねーんだが・・・」


「・・・・・・」


「おーい、パリアーっ?」


「うっさし! 黙って喰えッス!」


「おごっ!?」


ボロボロな姿になった肉団子の欠片を口に突っ込まれ、問答無用でビッケルは黙らされた。

相変わらずの汁っ気ゼロの肉団子だが、パリアーのフォークによって無残に分解されたことにより、更に乾燥した食感になったような気がした。


食べ物を粗末にするつもりはない。

だから喰う。

喰うのだが・・・もう少し、落ち着いて食したいものだ。


「ほら・・・次入れるッスよ」


「あ、ああ」


次も勢いで入れてくるのかと思えば、先刻の自分の行動にやや反省したのか、今度はきちんと意志確認を挟んでからフォークに刺した肉団子――の欠片を口元に運んでくる。


「あ、あーん・・・」


「いや・・・手ぇ震えるほど恥ずかしいなら、やんなよ。てか、やらなくていいって言っただろうに」


「うぐ、・・・サ、サービスよ、サービス! 豊かな国じゃ、こーいうサービスっていう風潮が店とかで流行ってるんでしょっ? あ、あたしはホラ・・・流行に乗る女ッスから」


「・・・」


目を逸らしながら、やけくそ気味に言葉を吐く姿から見て、パリアーが恥ずかしいのをおして無理をしているのは良く分かる。

普段の気の強い彼女からは想像できない、その姿にビッケルは少々の悪戯心が芽生え始めてきた。


(・・・ほぅほぅ、随分と甲斐甲斐しくやってくれるじゃないの。今後あるかどうかも分からない機会だし、いっちょ日頃の生意気さの仕返しでもしてやるかな)


こういうタイプは、一度意固地になると思いがけないところまで突っ走ることが多い。

さすがに常識の範疇を大きく超過することはないにしても、ビッケルの好奇心を埋める程度には充分だった。


そうと決まれば、とビッケルは心の中でニヤリと笑い、口を大きく開けた。


「そうか? そんじゃ遠慮なく貰おうかな・・・ほれ、あーん」


「っ!?」


まさか乗ってくるとは思わなかったのか、パリアーは目を見開いて、フォークから肉団子を落としそうになるが、そこは自前の反射神経で何とかお椀に戻して事なきを得た。


しかし彼女の精神状態は依然として混乱状態にあり、ビッケルの誘いに乗るべきか、断るべきかの葛藤に目を回していた。俯き気味だが、耳まで赤くなっていることから、彼女にとっては余程恥ずかしい行為と認識されていることが分かる。


同じく食堂を共にしていた周囲の第三部隊の兵士たちも、行く末を見守るように遠目にその様子を窺う。


「・・・ぅ、ぐぅ・・・ぅ~・・・!」


(いやいや、それにしてもそこまで恥ずかしがることか・・・? 周りの連中だって事情を知ってんだから、別に誤解されるってわけじゃねーだろうに・・・)


「あ・・・あ~ん・・・」


少し涙目になりつつも、再度、お椀から肉団子をフォークで突き刺し、ビッケルへと差し出してくる。


「お、おう」


妙な空気に肌がざわざわとした感覚を覚えながらも、ビッケルとパリアーのぎこちない食事風景は流れていった。


『なんだか妙な雰囲気じゃねーか?』


『なんであいつ等、あんなに照れてんの?』


『初々しくて、こっちまで食べづらいんだが・・・』


隠す気のない小声が食堂内で木霊し、ビッケルは思わず顔を引き攣った。

パリアーに至ってはもう何も耳に届いていないようだ。


(き、聞こえてんだよ・・・! 畜生、なんか俺まで妙な気分になってきたじゃねーか・・・)


汁物などがあると食べるのにも時間がかかっただろうが、ここは慢性的な水分不足の国。固形物だけで揃えられた朝食のため、急いで噛み砕けばそれだけ時間短縮が可能な食事内容だ。


「あ、あ~――」


「ん!」


パリアーが相も変わらず、何故か「あーん」をやり遂げようと差し出してくる食事を、ビッケルは全力で口の中に送り込み、高速で咀嚼して行く。


「つ、次だ、次!」


「え、う、うん」


ビッケルの勢いに押されたのか、パリアーは以降「あーん」と口にする時間を与えてもらえず、無言で食べ物を口に運んでは咀嚼するという繰り返しを両者は行っていった。


この時はビッケルも意識しなかったが――パンを女性に千切ってもらい、それを手で口に運んでもらう、という行為は何気に恥ずかしいものだった。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


ようやく朝食を終えたビッケルはようやく一息ついた。

椅子の背もたれに体重を預け、両足を脱力して伸ばす。


何故だろう。

ただ食事をするだけだというのに、非常に体力を使う時間だった。

ちょっとパリアーにからかうつもりだったのが、自分にも倍増して返ってきた感じだ。

無論、パリアーにも中々のダメージがいったようで、今はビッケルの食事が終わった後の自分の食事を対面でしている最中だ。彼女にしては珍しく沈んだ顔で黙々と箸を進めていた。


(やっぱ駄目だな。慣れねぇことはするもんじゃないってことだ・・・反省しよう)


普段なら対等な立ち位置で会話をするため、その延長線上の悪戯や冗談などは笑って終わることが多い。だが今回に限ってはパリアーが「負い目」を感じている上でのやり取りなため、下手にいつもと同じようなノリで走ってしまうと、今のような気まずい状況になってしまう、ということだ。


ビッケルは深くため息をついて自省した。


「ん?」


ふと視線を上げると、細々と食事を進めるパリアーの向こう側に、廊下を歩く隊長の姿があった。

隊長、というのは言うまでもなく第三部隊のマイアー隊長だ。


どうやら朝から仕事のようで、鎧こそつけていないが、衣服を整えている姿が遠目に見えた。

早朝から例の兵舎崩壊の騒ぎがあった関係だろうか。

何処かに向かおうとしている途中で、こちらと目が合った。


「・・・」


マイアーはパリアーの落ち込む背中と、気まずそうなビッケルの顔を交互に眺め、最後には謎のウインクを残して去っていった。何処となく愉しそうな雰囲気でもある。


(な、なんなんだ・・・)


半目でその後姿を見送っていると、不意に尿意に襲われてしまい、ビッケルはおもむろに席を立った。


「え、も、もう行くッスか?」


「ばっか、便所だよ、便所。また戻ってくるから、ゆっくり食っとけ」


「ぅ・・・そこも介助するッスか・・・?」


「せんでいい!」


とんでもないことを言い始めたパリアーに頭を悩ませつつ、ビッケルはトイレに向かって歩き出した。

基本的にあまり水分を摂取することが少ないアイリ王国の者は、トイレに行く回数も少ない。だが人の生理現象は生きている限り、無くなることはない。少ないとはいえ、今のビッケルのように尿意を催すことはある。


因みに砂漠に面したアイリ王国のトイレ事情は、通常の山や森、川に囲まれた国とは異なる。

昔、オアシスが存在し、水事情にも余裕があったころは周辺各国と同様に水洗式だったが、今は飲み水の分すらも不足している状況だ。当然、水洗式など贅沢な水の使い方はできないのが実情だ。

となれば、まだオアシスを国土としていなかった数百年前のアイリ王国で使用されていたトイレ方式を採用するしかなかった。


ビッケルは王城の城壁横にある扉に向かい、扉脇に控えていた兵士に扉を開けてもらい、城の外に出る。

そして城の敷地から国を覆う外壁の方へと向かい、外壁に隣接された小屋の中に入っていった。

小屋に入ると、外壁側に向かって幾つかの仕切りと便座が並んでいる。


「・・・相変わらず此処はくっせぇな」


慣れているはずのビッケルですら、そう言いたくなるほどの悪臭。

どうにも王城と外壁の間、小屋の構造上、臭いが留まりやすい造りのようだが、数百年前の施設をここ半世紀前から使い始めたのだから、それも仕方がないのかもしれない。


ビッケルは両腕が塞がっている状態で何とか身じろぎしたり、周辺のやや破損して突起している壁の木片などを利用してズボンを降ろし、漏らさなかったことに安堵しつつ用を達した。


医師の計らいで脱ぎやすいゴムバンド製のズボンと、ビッケルの体型でも余裕のある大き目の服装を着させてもらっているため、両肩が動かせない現状でも何とかこのぐらいの動きは出来ていた。もっとも不自由なことには変わりないが。


「ふぅ・・・」


一通り済むと、ビッケルは便座横にあるレバーを足で踏み下ろす。

すると、便座横の容器の蓋が外れ、そこから大量の砂が流れ込んできた。

水洗式ならぬ砂洗させん式、といったところか。

因みにこの便座の穴の先は外壁の向こう側の空洞に繋がっているらしく、空気の通り穴が開いた空洞内で時間と共に汚物が風化していく――という造りらしい。


ただ、管理せずに自然と風化が循環していくかと言われれば、実はそうではないらしく、この先の汚物だらけの空洞も放っておけば砂で埋まって使い物にならなくなるらしいのだ。

つまり一定期間ごとに――この先の空洞内の砂&汚物を掃除する者が必須になってくるのだが・・・その掃除当番は何かしらの罰であったり、当番制で回っているらしく、当番にあたった者は絶望と共に膝を床についてしまうほど嫌なものだった。


このトイレ事情については、あのミリティアでさえ「もう少しちゃんとした設備が欲しい・・・」と思ってしまうほど、古代的な造りと言えた。いや、むしろ国政で他国の整備されたトイレを経験している彼女たちにとっては、なおさらキツく感じてしまうのだろう。


脱ぐときと同様に壁や出っ張りなど、使える物を駆使してビッケルはズボンを履き、その際に視界に入ったトイレットペーパーを見て、ため息を吐いた。


(そーいや、これ・・・大便の時、俺どーすんだ・・・?)


さすがにズボンを脱ぐことはできても、大便後の尻を拭く所作までは不可能だ。

誰かの手を借りなくては難しいだろう。

アイリ王国では医療施設が無く、老いた常勤医師二名しか滞在していない。医療設備や人材が整った国では、看護師が入院施設の規模に合わせて揃っているため、こういった際も手伝ってくれるものだが、アイリ王国ではそんなサポートは誰もしていないし、できない。最悪、同僚に頼む形になるが・・・さすがに生理現象の世話までお願いするのは気が引ける――というよりビッケル自身も嫌な話だ。


一瞬、パリアーの顔も浮かんだが、慌てて首を振って、その想像を掻き消した。


(・・・まぁ、逃げようのない話だし、その時になったら根性で何とかしよう)


最悪、両肩に激痛が走ろうと何だろうと、動かない両手に鞭を打って尻を拭くことに全力を掛けよう。そう決心してビッケルは便所を後にした。



************************************



人間とは慣れる生き物である。

慣れることで、行動は円滑になり、無意識により最短の工程で行えるようになる。

その行為に対して意識することも薄れていくため、行動を繰り返し行うことに「考える」ことも少なくなっていく。


しかし大抵の人間は「慣れ」まで時間がかかるものである。

短時間で特定の物事に慣れる人間は、そういった思考に長けた性質の人間か、もしくは「吹っ切れた」人間かである。


「ビッケル、はいッス」


「お、おう・・・」


昼すぎ、無事な両足まで鈍らせるわけにはいかないため、ビッケルは訓練場でランニングを行っていた。

両肩が固定されているため、非常に走りにくいが、走れないわけではない。

おそらく一か月かそれ以上後に両肩の固定を外した時、両腕の筋力は想像以上に低下していることだろう。となればその時期は両腕の筋力を戻すために注力せざるを得ない。その時に腕以外の部位も衰えていては、一般兵への復帰が遅れてしまうため、こうして出来ることをするようにしていた。


マイアーは「いい機会だから、ゆっくり休めばいいのにねぇ」と怠け者には嬉しい言葉をかけてもらったが、復帰後、周囲から置いて行かれる想像をすると、とてもじゃないが休む気にはなれなかった。


訓練場の外周を5週もすると、当然、大量の汗が出る。

汗が出ると、タオルで拭きたくなるのは当然の理。

しかし両腕は使わえない。

とくれば、介助役のパリアーの出番なのだが――何故だかこのは、キャパシティを超える羞恥心に耐え切れなくなったのか、吹っ切れてしまい、昼少し前あたりから驚くほど献身的な子になっていた。


「拭き忘れがあったら、ちゃんと言うッスよ」


「・・・」


おかしい。

つい数時間前まで、圧倒的にパリアーの方が恥ずかしがっていたというのに、今となってはビッケルの方が気恥ずかしさに参ってしまいそうだ。


しまいには第三部隊ほど事情を知らない、他部隊の連中が遠目にこちらを見て、ぼそぼそと何かを囁き合っている。

非常に気まずかった。


また、早朝の件のため、瓦礫撤去に大量の兵力を費やしている最中で、ビッケルとパリアーはその任から免除されているものの、周囲から見て「イチャイチャしている」風なこの状況はちょっと引け目を感じてしまうものだった。もちろんそのつもりは一切ないのだが、第三者の気持ちで見てみると、そう見えてしまうのだから、一度気にしたら気にしないと言うのは難しいものだった。


(なぜこうなった・・・これはパリアーの罰じゃなかったのか!?)


「ビッケル、屈まないと顔が拭けないッス!」


「お、おう・・・いや待て! ちょっと近づきすぎ! お前、吹っ切れすぎて距離感麻痺してんぞ!」


「近づかないと拭けないじゃないッスか!」


「だからって体をくっつける必要はねーだろ! 思い出せ! お前のどっかに置き忘れてきた羞恥心を取り戻して来いっ!」


ギャーギャーと騒ぐ様子は、真面目に働いている兵士たちから見れば、さぞかし「羨ましい光景」に見えたことだろう。

血の涙を流しながら、無機質で冷たい瓦礫を一つ一つ撤去していく兵士たちの視線を一心に受けながら、ビッケルは心の中で「隊長、助けてー!」と叫びながら早く時間が過ぎることを祈った。


今までは「正常な距離」を保って、仲間として接してきたのだが、こう距離感を誤って近づかれると、思いのほかパリアーが「女性」だということを意識させられた。

小柄で明朗な小動物のような存在だったはずが、男女間の遠慮というフィルターを通して接した途端、これだ。また服装が軽装だというのも良くないのだろう。互いに今は一般兵としての訓練ではないため、パリアーは私服に身を包んでいた。薄いTシャツに短パンの姿は、正直、目のやりどころに困る。

本来、炎天下の下を行動するのであれば火傷を避けるために長袖に着込むのが常識だが、今日に関してはビッケルのサポートに徹するつもりなのか、日陰で待機しているため、上着を脱いでいる状態だった。


「とりあえず・・・あと5週は回ってくるわ・・・」


汗を拭くだけでランニング以上に疲労感が溜まった気がしたが、それを理由にサボるわけにもいかない。

ビッケルはパリアーにそう告げて、再び走り始めた。


ああ、何も考えずに走るのがこんなに楽だとは思わなかった。

現実から目を逸らして、無心で受ける風は何とも気持ちが良かった。



************************************



夜。

陽が沈み、砂漠特有の冷え込みが周囲に広がる時間だ。

元々、砂漠の夜が冷えるのは、遮蔽物がほぼ無い地域のため、地熱が大気中へと逃げて行ってしまい、結果的に気温が低下することが原因なのだが、この地域は遮蔽物がある国内でも冷える。


場所は再び食堂。

夕食の時間帯だが、誰も彼も瓦礫撤去作業の疲れが尾を引いているせいか、いつもなら賑わう時間帯でも、人が少なかった。おそらく崩壊した兵舎に住んでいた兵士たちの引っ越し先を配備したり、瓦礫の下から運び出された私物や荷物の整理などもあるのだろう。部屋数が圧倒的に足りないらしく、他の一人部屋を相部屋に替える話も出ているらしく、迎える側も引っ越す側もそれなりに準備が必要な状態だった。


因みにマイアーやパリアーも崩壊した兵舎の住民であり、パリアーは瓦礫から引き揚げられた物品に、自分のものがないか確認しに行っている最中だった。その待ち時間も含めて、ビッケルは夕食が出来るまで食堂で待機しているところだった。


「やぁ、どんな具合だい?」


ふと背後からかけられた何処となく愉しげな声に、ビッケルは小さく息を吐いた。


「なんか楽しんでません、隊長」


「そんなことないさ。重いおもーい会議がようやく終わって、私は身も心も疲れ切っているさねぇ」


「いやむしろ・・・身も心も潤っているように見えてるんですが。会議で何かいいことでもあったんすか?」


「んー、まあ、そうさね。しばらくぶりに恩人に出会えて、ってことぐらいさねぇ」


「恩人・・・?」


「ま、そんなことはどうだっていいさ」


キョロキョロと辺りを見回し、目当ての人物がいないことを確認する。


「おや、パリっちは不在かな?」


「おやって・・・そのタイミングを計って来たように見えたんですが」


ビッケルのジト目に臆さないで、マイアーは大仰に肩を竦めた。


「そんなことないさー。二人三脚、怪我人と介護人がちゃんと上手くやれてるかを心配してきたんだから、ちゃーんと二人に会いにきたのさ」


何を思ったのか、ウインクなんてしてくるものだから、なおさら胡散臭く感じてしまう。


(・・・ぜってぇ面白がってんな、この人)


(ふふふ、さすがビッケルさ。私が楽しんでいることは薄々感づいているみたいねぇ)


何故だか口に出さずとも、心が通い合った気がした。


「とりあえず、隊長。今回の件はパリアーも十分に反省しただろうし、この辺でいーんじゃないですかね?」


「おや、パリっちと共に過ごす時間は嫌なのかい?」


「いや、そういう意味じゃなくてですね・・・」


「それとも周囲の妬み・そねみの重圧に耐えられなくなったのかな?」


「なっ・・・!」


そういう視線はありそうだと思ったが、実際に言葉にされて他人から投げかけられると、心がざわついてしまった。

口を開けて驚くビッケルの様子に「むふふ」と口元に手を当ててマイアーが微笑む。


「いやぁ会議が終わってからというものの、色んな話が耳に飛び込んできてねぇ。もう、ビッケルとパリっちが目を覆いたくなるほど引っ付き合ってると噂だったのさぁ」


「ちょ、それは誤解ですって!」


「そうなのかい?」


「そうですよ! アイツがここまで尽くす格好になるのは予想外でしたが、不純な思いは一切ないですよ。むしろ、落ち着いたときに今日一日の出来事を思い出した時の反動が怖いというか・・・」


「あはは、恥ずかしくてビッケルに今以上の傷を負わせちゃいそうだね」


「笑いごとじゃないっすよ・・・」


「まあ・・・その時は、またパリっちを横につけるから安心しなよ」


「む、無限ループですか・・・」


冗談なのだろうが、舞い上がった時のパリアーは正直、我を失った行動を行いそうで恐ろしい。


「あ、ところで本題は別なんだけどねぇ」


「なんです?」


マイアーは指を一本立てて、話題を変えてきた。


「私たちの部屋、クラシスの馬鹿のせいで崩れちゃったじゃない」


「ええ・・・今さらっと一般の兵には伝えられてない機密情報があった気がしましたが、まあ・・・そうですね」


クラシスのことは耳にはしていたが、確定的な情報としては公表されていない。

ビッケルを信頼していることと、声の届く範囲に人がいないことを踏まえての軽口なのだろうが、聞いている身としては無用なプレッシャーが圧し掛かってくるので、控えてもらえると有り難いというのが本音だが・・・とりあえず聞かなかったことにした。


「でねぇ、実は泊まるところが今無い状態なのさ。どこもかしこも部屋が埋まっちゃってねぇ」


嫌な予感。


「は、はぁ・・・そ、それで?」


「それでー、ビッケルのところに泊まらせてもらおうかなって思うのさ」


「なぜ!?」


「だってうら若き乙女の私やパリっちが、禁欲にも等しい兵役生活に全うする男の部屋なんかに寝泊まりしちゃったら、襲われるかもしれないじゃない。だったら、両腕が使えないビッケルのところが一番安全かなと思ったわけさ」


あっはっは、と笑うマイアーだが、間違いなく本心は違う。

パリアーの困るところや、ビッケルの慌てふためくところを見て、普段では得られない日常の刺激を楽しもうとする魂胆が見え見えである。


「第三部隊は確かに女性陣はお二人だけですけど、他の部隊にも女性はいるじゃないですか・・・。その人たちのところにお邪魔したらどうですか? あと・・・俺の部屋は一人部屋でしたが、今日から隊長たちと同じ理由で二人ほど入れる予定なんで、寝る場所は無いっすよ」


「大丈夫さ! その二人は既に他の部屋に行ってもらうよう手配したから!」


「ぅおい!? んなこと出来るなら、アンタら二人分の部屋を都合つけることぐらい楽勝でしょう!」


「それだと、つまら――んん、いやなに、男女とは相性というのも必要なのさね」


「だから男女以前に、女同士の部屋に行けと・・・」


「もー、いいじゃないさ! 男が細かいことばっかり言っていると、禿げるぞっ」


軽く肩を叩かれ、ビッケルは「あ、これはもう駄目だ・・・」と諦めのため息を吐いた。


数年共に第三部隊に在籍して分かったことだが、このマイアーという女性は退屈な日々の繰り返しに多少の不満を抱えている。サリー・ウィーパの一件の時に実戦と言うスパイスを得た彼女は、まさに水を得た魚のように生き生きとしていた。そして一度水の居心地を思い出した魚は、二度と乾いた地上には戻りたくないと思うことだろう。

まさにマイアーもその状態であり、不謹慎な話でもあるが、サリー・ウィーパやクラシスの件が立て続けにあって日常から逸脱した時間を過ごしたがために、少し気持ちが高揚してしまっているのかもしれない。そんな中で住んでいた部屋が無くなってしまった事象の延長線上に、パリアーとビッケルの普段は見れない顔を見れる機会があるとすれば、高揚感そのままに突っ切ってしまうのも無理はないのかもしれない――と片付けるのは聊か不服だが、諦める他ないだろう。


「はぁ・・・間違いが起こっても俺の所為にしないでくださいね?」


せめてもの抵抗に、そう発言してみたが、マイアーは不敵に笑みを浮かべ、


「へぇ~、そいつは楽しみなのさ」


と、いつの間にか腰の帯刀袋から抜き取ったククリを指先で器用に回しながら言った。

まあ言わずもがな、彼女に手を出そうなどと命知らずな行動をするつもりはないのだが、何ともやりきれない気持ちである。


「ふふふー、それじゃ夕食はパリっちと私で『あ~ん』ってしてあげようさね~」


「もう勘弁してください・・・」


マイアーは身だしなみを整えれば美女だし、パリアーもしおらしくしていれば可愛い部類の女性だ。

そんな二人が身を寄せてくれるというのであれば、男として嬉しいことこの上無いのだが・・・それに勝る緊張感と周囲からの視線の方が正直気になる。


「はぁ・・・」


どうやら気疲れする時間は今日一日続くようだ。

さすがに毎日続くとは思わないが、可能な限り早く終わってほしいと切実に思うところだ。


「ため息してると幸せが逃げちゃうぞ~」


「・・・」


全く似合わないぶりっ子のようなセリフと共に、マイアーに頬を指で突っつかれる。

死を覚悟して本気で間違いを犯してやろうかと、少しだけ思ったビッケルであった。



************************************



「な、何故こんなことになるッスか!」


「事情は夕食の時に話したじゃないさ」


「俺も反対派だぞー・・・」


夕食を弄られる前に可能な限り速攻で済ませ、ビッケルの自室に戻った三人。

パリアーは瓦礫の下から運び出された私物を入れた袋を部屋の隅に置き、引き攣った顔で現状を憂いていた。文句を言いつつ、部屋の中まで来たということは、納得は全然していないが、それでもこの決定を拒否する気はないのだろう。

それもパリアーがビッケルの怪我に「負い目」を感じている証拠であった。


「先に言っときますけど、隊長が思っているような面白いハプニングは起こんないっすからね」


「えー・・・」


「えー、じゃないっすよ、まったく!」


「あはは、まあまあ今日だけだから、そんなに怒らないでさ」


「・・・本当に今日だけなんですか?」


「ああ、本当さ。明日の日中に物置化していた部屋が幾つか整理がつく予定だからねぇ。だから明日以降はパリっちとそっちで寝ることにするよ」


「そ、そうっすか・・・」


もう少しからかうために話を引っ張ってくるかと思ったが、案外すっきりとした回答を得られ、ビッケルは安堵の息をついた。


「う~・・・」


対するパリアーもマイアーの言葉に少し緊張を解いたが、それでも男の部屋にいるのは落ち着かないのか、枕を胸元に抱き絞める格好で唸っている。


「見て見て、ビッケル。パリっちが何だか可愛いのさ」


「・・・そういう話を振らんでください」


どう答えろというのだ。

確かにいつもは過剰なぐらい動き回る彼女が、今は部屋の壁際で小さくなっている。

その姿は容姿も相まって可愛く見えるのは確かだが、それを口にするのは憚られた。


しかし怪我をして、弄られて、気疲れしたまま今日という一日を終えるのは何だか悔しい。

パリアーはともかく、マイアーの思うがままに終えるのはちょっと納得がいかないのだ。

パリアーを可愛がっているマイアーとしては、ビッケルの介助役として右往左往する様を見るだけで眼福なのだろうが、当の施しを受ける側のビッケルとしては勝ち逃げされるようで面白くない。


(・・・そうだ)


日常化されたためにもう「気にならなくなった」ことだが、初めてこの部屋で寝る二人には新鮮な話題があったことにビッケルは思い当たった。

朝、パリアーに軽い悪戯をしたことを後悔したビッケルだが、吹っ切れたパリアーに振り回され、マイアーにからかわれた身としては、最後にもう一度だけ悪戯をしようと決心する。


「あれ、そーいや隊長。何だか悪臭が消えたッスね」


「あ、悪臭って・・・」


ダイレクトな発言に、先ほどまでほっこりしていたマイアーは一転して涙目になる。

嫌なら普段から気を付けていればいいのだが、いつも結果的に反省しない結果につながるのは、彼女が本質的にずぼらな性格だからなのだろう。

何はともあれ、マイアーは咳払いを挟んで、理由を話した。


「・・・まあ、一応今日の会議はうちの国のトップの連中が一同に会する場だからねぇ。見知った仲とはいえ、礼儀は必要だろう? だから朝っぱらから騒動でたたき起こされたついでに、セーレンス川で体を洗ってきたのさ」


「えぇ~、水浴びに行くなら誘ってくださいよぉ~!」


「ごめんごめん、そこまで頭が回らない程度には忙しかったのさ」


「うぅ・・・じゃ、じゃあ明日の朝、一緒に水浴びに行くッス! あたしも髪の毛がべた付いてきて・・・すんごく気になってたッス!」


「んー、明日も瓦礫やら宿所の整理やらで訓練どころじゃないからねぇ・・・いいよ、一緒に行こう」


「やたっ!」


「・・・」


男としては、すごく会話に入りづらい。

そもそも入浴について、男の前で会話するのは如何なものかと思いつつ、ビッケルは口をつぐんだ。

その様子に気づいたマイアーがニッと笑う。


「ふふ、ビッケルも一緒に行くかい?」


「っ、ええっ!?」


落ち着いて考えれば冗談だと分かる言葉なのに、余裕がないせいか、パリアーは顔を赤らめて過剰に反応する。


「・・・・・・お二人がいいんでしたら、お背中でも流しましょうか?」


「だっ、だだだ、駄目! 絶対に駄目ッス!」


枕をギューッと抱きしめ、全力で否定するパリアー。

予想通りの反応だが、なるほど・・・こうして見るとマイアーの気持ちも分からなくもない。純粋な反応をしてくれるほど、弄り甲斐があるというものだ。


「まあ冗談はさておき、私はこの辺で寝ようと思うのさ」


と、一人慌てるパリアーを微笑ましく見つつ、マイアーは部屋の中央に敷布団を敷いた。

不満を言いたくても上手く言葉が出てこないパリアーは「うぅ~!」と唸りつつも、マイアーの横に布団を敷き始めて、彼女の横に寝ることを無言で示す。


「ビッケルは寝間着に着替えなくてもいいのかい?」


「あー、出来れば着替えたいのも山々なんですが、この緩めの服ってのが替えが無くってですね。医務室の先生に替えの追加をお願いしてるとこなんですよ。それまで我慢ってとこですかね・・・。いつものヤツに着替えてもいーんすけど、肩の固定帯が邪魔で着づらいと思いますしね」


「そうなのかい? 予備が無いっていうのも管理体制としてどうなのかと思っちゃうところだけど・・・言っても仕方ないかねぇ。んー、その体だと水浴びどころか体を拭くのも難しいだろうし――うん、やっぱり明日は私たちとセーレンス川に行こうか」


「た、隊長っ!?」


「だーいじょうぶ、別に一緒に入ろうってわけじゃなくて・・・定期的にビッケルの体も拭いてあげないと可哀想って話だよ。それぐらいはしてあげないと、ね? 別に体を拭く分なら城に蓄えている水を使ってもいいけど、どうせ行くんだから、今回は川の水で洗った方が効率的でしょう?」


「ぅぅ・・・そ、それはそうですけど。い、いや・・・そうッスね、ビッケル、ごめん・・・」


「いや、まぁ・・・そ、それじゃありがたく・・・」


頬を掻きながら、ここは素直に礼を言う。

善意は謙遜など挟まず、素直に受け取るのが両者にとって得である。


「それじゃ、さくっと寝ようかねぇ」


「了解ッス」


マイアーが横になると、その長い髪の下に隠れるようにパリアーがすすす・・・と移動した。

ちょうどマイアーの背中にくっつくかどうかの距離だ。


「・・・パリっち、そこまで引っ付かれると、私も寝にくいのさ」


「ぅぅ・・・だって・・・やっぱり、落ち着かないッスよ・・・。ビッケルとはいえ・・・男の人の部屋ッスもん・・・」


子供のようにマイアーの寝間着の裾を掴んでくるパリアーの様子に、マイアーが電撃が奔ったかのように目を見開く。


「・・・どうしよう、ビッケル。私、恋をしちゃうかも」


「あーはいはい、好きなだけ二人でいちゃついてていいっすから、もう燭台の火、消しますよ」


「つれないなー。ビッケルの怪我が治っちゃったら、こんな大人しくて素直なパリっちともお別れなんだよー?」


「まるで俺の怪我が長引いてほしいみたいに言わないで欲しいですよ!?」


「ほらほらー、大声なんか出したらパリっちが怯えちゃうじゃないさー」


そう言ってマイアーが体の向きを反転させ、パリアーを抱えるように抱きしめた。子供扱いされたパリアーがギリギリと悔しそうに歯ぎしりする。


「くぅ・・・覚えてるッスよ・・・、この屈辱は忘れないッス・・・!」


「はいはい、良い子良い子ー」


「うぁぁぁ~、人生最大の汚点ッス! おのれビッケル!」


「俺、関係ない上に、被害もこうむってるからなっ!?」


そんな他愛のない会話をしつつ、ようやく消灯することになるのだが、蝋燭の火を次々と消していき、最後の一つ蝋燭に近づいたところで、ビッケルは所作を止めた。


「そういえば――」


「うん?」


ちょうど月が雲に隠れ、部屋を照らす灯りはビッケルの眼前にある蝋燭だけとなり、不気味にビッケルの顔が暗闇の中に浮かぶ格好となった。


「この兵舎って・・・俺らが生まれるずっと前、それこそ数百年前は墓場だったらしいんすよ」


ピクッとマイアーの腕に抱えられていたパリアーの肩が動く。


「資源こそ今とは比べ物にならないほど豊富な時代だったらしいですけど、魔獣などへの対策は逆に結構疎かだったみたいで・・・当時は相当な死人が出たって噂があるんですよ」


「う、うん・・・」


「・・・」


蝋燭の火を見つめながら、ビッケルは声のトーンを下げてゆっくりと続けた。


「で、当時は神経系の毒を獲物に注入して、ゆっくりと体液を啜る魔獣がいたらしくて・・・襲われて毒を撃ち込まれた人は、自分が食べられていく感覚を生きながら経験し、死ぬ最期の時まで・・・その恐怖を刻み続けたそうです。四肢は動かず、意識は失えず、痛覚も残ったまま、ただただ目の前で魔獣が自身を食していく・・・・・・彼らに出来ることは、その絶望を呻きとして残すことぐらいでした」


「・・・」


「・・・」


寝息は聞こえない。

どうやらちゃんと聞き耳を立ててくれているようだ。


「ァァァ・・・ァァァ・・・と、掠れながらも明確に耳に残る、死の残響。体液を隅々まで奪われた彼らの遺体は無残な姿で、なまじ皮や骨などの原型が残っている分、その絶望に歪んだ様が克明に残っていたそうです・・・。その表情からは未だに呻き声がこぼれているようで――」


ビッケルはゆっくりと二人に歩み寄り、その顔を覗き込む。

マイアーと目が合ったが、彼女は誤魔化すように目を逸らした。どうやら意外なことに、彼女はこういう話が苦手らしい。パリアーに至っては、分かりやすく掛布団の中に完全に全身を包み込んでいた。


「それ以降から、っすかねぇ・・・この下にあった墓地から、夜な夜な呻き声が聞こえてくるのは・・・」


調子が上がってきたビッケルは、二人の頭の前で膝を折り、ゆっくり、囁きかけるように小声で言葉を出す。


「苦しいよぉぉぉぉ・・・痛いよぉぉぉぉ・・・ァァァァアアァァァ・・・・・・」


まるで亡者ならそういう声を出してくるであろう、という演技で声を出し、トドメにマイアーの無防備な耳元に息を吹きかける。

ビクッとマイアーは肩を跳ねさせたが、抗議の声も態度も出さず、ひたすら同じ姿勢のまま耐えている。完全に顔を掛布団に隠すのは怖いのか、半分だけ顔を出しているのが年齢に似合わず、可愛らしい。


まずい。

ちょっとテンション上がってきちゃった。

内心スキップしたくなる気持ちを抑えて、ビッケルは冷静を装って言葉を続けた。


「ちょうど――こうやって月明かりが隠れてしまう夜、でしょうかね・・・。絶望に目が曇ってしまった死者たちは、こういった光の無い夜に決まって訴えてくるんです・・・」


膝を折りたたんで、正座のような恰好をすると、パキッと膝関節が音を鳴ってしまった。

その音に反応して掛布団が揺れ動くものだから、ビッケルは無意識に暗闇の中で笑みを浮かべた。


「生者をね・・・妬む声が――およそ人のものとは思えない音として地の底から響いてくるんですよ・・・」


「・・・っ」


「・・・~~」


どうしようか。

マイアーの「パリっちの普段見れない表情を見るのが楽しい」という感情が、今なら全力で同意してもいい気分だ。日頃から強者として胸を張って生きている二人が、今は身を寄せ合って縮まっている。ましてやそうさせている権利が、我が手中にあるのだ。これは中々に心躍るものである。


やばい、楽しい。

ビッケルは今度は頭から足の方へと移動していき、掛布団から少しだけはみ出していたパリアーの素足に息を吹きかけた。

驚くほどの速度でその足は布団の中にひっこめられ、布団の中から「やぁっ」と小さな悲鳴が上がった。


心臓が高鳴る。

パリアーの仕草でまさかここまで胸が躍るとは思わなかった。

それとも自身では気づいていないだけで、嗜虐傾向が強い人間だったのだろうか。


「ほら・・・聞こえてきませんかね?」


静寂がビッケルの部屋に広がる。

その静寂の中――僅かに何かが聞こえてきた。


地中から響いてくるような重低音。何層もの壁を越えて僅かに鼓膜を震わす声があった。


――ォォォォォォォォォォ・・・・。


『――っ!?』


耳を澄ませば分かる。

これは自然な音ではなく、人工的な何か。

音自体は微かなものでも、芯に響いてくる確かな感覚。


掛布団の山がプルプルと震えはじめる。

これはもうひと押しだな、とビッケルは心意気新たに、立ち上がって蝋燭に息をかけて火を消した。

完全な暗闇が部屋を埋め尽くす。


――コォォォォォォォォォォ・・・・。


今なら何をしても許される気がする。

ビッケルはここであえて無言となり、音を立てないようにしてその場で待機した。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


数分経ったあたりで、無言の空気に耐え切れなくなって痺れを切らした声がした。


「ビ、ビッケル・・・? ね、寝ちゃったのさ・・・?」


「・・・」


怖い物知らずの第三部隊隊長の声が、やや震えたものになっていたことがすごく新鮮なものに感じる。

まさかこんな短い導入で怖がってくれるのは嬉しいかぎりだが、ここまで来ると逆に「種明かし」がし辛くなってきた。


このまま布団に入ることもできるが、二人を怖がらせたまま放置、というのはさすがに申し訳ない気持ちが強い。何処かでオチをつけるべきなのだが・・・恐怖の反動で彼女たちがどういう行動を取るかが不安になってきた。


「・・・」


(待てよ・・・なんか楽しくなってきて、結構調子に乗って話を語ったけど、これってマズくないか?)


もぞもぞと布団が動いて「ビッケル~・・・」という声が聞こえる。続いて消え入りそうな声で「た、たいちょぉ・・・」という声もあった。


実を言うと、今の昔話は嘘だ。

噓、というか、今パッと思いついた作り話である。

そして床から響いてくる、呻きのような音は――階下に部屋があるリカルドのイビキが原因であったりする。

最初はビッケルも不気味な印象を受けていたが、蓋を開けてみると何てことのない話だった、というオチだ。


今日いろいろとネタにされたお返しに怖がらせる話をしてみたが、最終的には「音の原因はリカルドのイビキ」とバラし、少しばかりふくれっ面をさせるつもりだったが――予想以上に二人がこういった話に弱かったため、引き返すことに躊躇するレベルの状況になっていた。


(・・・今、本当のことを言ったら絶対に俺は殺される・・・! ど、どうする・・・まさかここまで怖がるだなんて想像だにしてなかったぞ・・・)


このまま走り抜けるか、立ち止まるか。


悩みながらその場で小さな輪を描くように、ぐるぐると歩いていると、不意に足首を掴まれる感触があった。


「っ?」


暗闇で全く見えないが、確かに足首を細い手が掴んでいる。

まるで人の温かみを感じない、氷点下のような冷たさにビッケルは背筋に嫌なものが通った気がした。


「ちょ、・・・た、隊長?」


「・・・」


その手が隊長のものかを確認するために声をかけたが、返事はなかった。


(まずい、ついに嘘だってのがバレて怒らせちまったか・・・!?)


足首の血管が冷えて、痛みに近い感覚が這い上がってくる。


「・・・」


妙だ。

この部屋はこんなに冷えていただろうか。

全身の毛穴という毛穴に冷風を注ぎ込まれているような――。


「あ、あのー・・・隊長、ですよね? それとも・・・パリアー、か?」


右足だけでなく、両足に幾つかの手が巻き付くように掴みかかってくる感覚に、ビッケルは思わず表情を歪めた。

おかしい。肉感というより、堅い枝に絡まっているような感触はとてもではないが人間のそれとは思えない。足を動かせば、骨と皮だけの指が信じられない力で食い込んでくるのが分かった。


「お、おいっ!? ふ、二人とも・・・お、起きろ!」


「・・・」


「・・・」


返事どころか、気配があるかどうかすら怪しい。

つい先ほどまで、普通に話をしていたはずの二人が――その存在そのものが消失してしまったことが脳裏に過り、ビッケルは底知れない恐怖感を覚えた。


物理的にあり得ない、超常現象。


「くっ、おおおお! は、離せっ!」


力の限り右足を振り上げようとするが、返ってくるのは掴まれた部位の肉が抉れる痛みだけ。右足はピクリとも動かせなかった。


人が情報の八割を視覚で得ると言われているが、この暗闇の中では視覚は何の情報も得られない。

となれば、残る五感で情報を得なくてはならないわけだが、次に情報量の多い聴覚に変化が起こった。


――コォォォォォォォォォォ・・・・。


音が聞こえる。

床をひっかく音、這いずる音、そして深い空洞から漏れ出る掠れた声のような音。


「・・・・・・・・・」


ビッケルは大量の汗をかきながら、音の方角へと視線を向けた。

依然として暗闇ではあるが、確かに「何か」の気配を感じたように思える。


――ォォォ。


「・・・はぁっ、・・・はぁっ、はぁ――・・・」


気付けば呼吸は荒くなり、手足の感覚が麻痺していた。

何故こんなことになったのか見当もつかないが、今は何よりも先ほどまで同じ空間にいた二人の顔を見たいと心から思った。


「はぁ――、くそっ・・・」


悪態は暗闇の中へ溶け、代わりに地面を這いずる何かが近づいてきた。

両足の感覚は既になく、どうなっているのか想像もしたくない。


仮に、これが亡霊や幽霊の類でなく、魔獣やクラシスのような悪意を持った人間の仕業であれば――正直、一国が傾くレベルでまずいと感じた。


『――ッ・・・――』


声が聞こえる。

どうやら声の主は徐々に近づき、その悍ましい声をこの耳に届けようとしているようだ。


『・・・――ッケル・・・』


何処となくマイアーやパリアーの声に似ていることに、ビッケルは苛立ちを覚えた。

このまま命を落とすにしても、何か国のために残さなくては。

彼はそう考え、痛みに耐えて両腕を動かそうとする。


「ぐっ――!」


意味がないことは分かっている。

だが生きることを諦めて、死を甘受することは――意味がないこと以上に愚かだと思った。

だから意味がなくとも足掻こう。

みっともなくても、恐怖心に打ち克って軌跡を残そう。


「・・・、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


声を張り上げ、暗闇に向かって拳を繰り出す。

言うまでもなく手応えは返ってこない。

まるで無様に拳を振るうビッケルを嘲笑うかのように、暗闇は静寂を保っていた。


「ぅ、ぉ!?」


足の感覚がないとは思っていたが、ついに腰から下が消えてしまったのか、ビッケルは大きく態勢を崩して、歩くことを忘れてしまったかのように、床にうつ伏せになって倒れ込んだ。


「・・・・・・、・・・・・・」


全身に枝のような指が絡みつく。

肉を裂き、血を浴び、骨を砕き、内臓を食す。

そんな悍ましい存在だ。


意識が遠のく。

全身を襲う激痛と失血が原因か、それとも精神が先に参ってしまったのか。

理由はどうあれ、ビッケルは闇の中に沈み込んでいくように引きずり込まれていった。


薄れていく視界の中、僅かに光が見えた。


「・・・・・・・・・・・・ぁ・・・・・・」


あれは――景色だ。

だが場所に見覚えもなく、それが何処なのかも分からない。

いや――そもそも、これは「場所」なのか?


彼の知識には無い、縦長の箱のような建物が所狭しと並び、信じられないほど綺麗に舗装された道を人が入った箱のような物が高速で走っていく。

道を歩く人々の服装も馴染みのないものであるし、魔導機械のような未知の道具がいたるところで稼働していた。


ビッケルは素直に「機械的な光景」と感じた。


「――・・・・・・」


(駄目だ・・・い、しきを、たもって・・・いられねぇ・・・)


沈む意識に引っ張られ、視界は加速度的に薄れていった。

そんな中、ビッケルは確かに見たのだ。



――明らかに今の文明を凌駕したその世界が、突如、全てを焼き尽くす炎に飲み込まれていくのを。



泣いている。

鳴いている。

哭いている。


この闇の海は、何かを恐れ、嘆き、怒り、憎み、そして――全ての結果に涙を流している。


(・・・ん、だよ・・・いみ、わかんね、ぇ・・・)


嘆きの声の海に飲み込まれ、ビッケルはそこで意識を手放した。



************************************



「ビッケル!」


「・・・・・・・・・へ?」


意識が落ちたと思ったら、ビッケルはマイアーの声に目を覚ましていた。

目の前にマイアーの顔があったことに驚いたが、何より辺りを見回すと見覚えのある自室の光景が広がっていた。

燭台の蝋燭に火をつけていたのか、壁際にいたパリアーも心配そうにこちらを見ていた。


「・・・・・・は、はい?」


何が起こったのか、さっぱり理解が追い付かない。

分かるのはマイアーの膝枕の上で横になっていることと、彼女たちがやけに心配そうにこちらを覗き込んでいることだ。


「ふぅ・・・良かったのさ」


「あ、あの~・・・隊長、い、いったい何が・・・?」


ビッケルの問いにマイアーはふぅと息を吐いて、彼の後頭部を撫でた。

微妙に触れられた部分に痛みを感じた。


「まったく・・・アンタが最後の燭台の火を消そうとしたところで、足をもつれさせて転んだんだよ。その拍子に後頭部を壁にぶつけて気を失っていたのさ。吐き気や眩暈はないのかい?」


「だ、大丈夫っす・・・あ、ありがとうございます」


最後の燭台の火、となると、怪談話を始めた後あたりの話だった気がする。


「はぁ・・・さすがに肝が冷えたのさ。ねぇ、パリっち」


「え!? あ、え~っと、そうッスね! ビッケルはもうちょっと慎重に動くべきッス!」


何故か慌てた風のパリアーに疑問を覚えつつも、ビッケルは突然戻ってきた現実世界にほっと息を吐いた。


「あー・・・俺、生きてるんっすよねー」


「馬鹿言わないのさ、まったく」


「いやぁ、ほんとすみません」


こうして膝枕のお世話になっているのは居心地が良かったが、さすがに気恥ずかしさもあった。ビッケルは「よっと」と声を出して、上体を起こした。


「・・・ん?」


不意に右足に痛みを感じて、足首を確認する。

くるぶしの辺りに若干の赤い痣があり、関節を動かすと若干痛い。


(・・・・・・夢、だよな? 勘弁してくれよ・・・あんな目はもう御免だぜ)


嫌な汗をかきつつも、ビッケルは自分で立ち上がって寝床に戻った。

自分から話しておいて何なのだが、もう怪談話のようなことは止めておこうと強く心に誓う。


『・・・』


さて、妙な展開になったものの、まだ夜のとばりは降りたばかりの時間。

当然、この後は就寝するわけだが・・・誰も布団を被ろうとはしなかった。


「・・・えーっと・・・、まぁアレですよね。せっかく火をつけてもらったんで、今日は灯りをつけたまま寝ますか・・・」


「さ、賛成!」


「そ、そうさねぇ。そうしようか」


何処から何処までが夢で現実か、ビッケルの中ではあやふやだったが、今の反応から「二人は怖いものが苦手」というのは妄想ではなく、真実だったようだ。


おずおずと三人は掛布団を被り、横になる。


『・・・』


ビッケルは恐怖を感じた夢から、安心できる仲間の元へと帰れた安堵感からか、眠気が一気に襲い掛かってきて、そのまま本当の夢の世界へと沈んでいった。


対する女性二人は――、


(ね、寝れないのさ・・・ビッケルが余計な話をするから・・・)


(・・・うぅ、やっぱり床から妙な音というか声みたいのが聞こえるッス~。こ、怖いっすよぅ・・・)


と眠気からは完全に開放され、何とも言えない雰囲気のまま長い夜の時間を過ごす羽目となった。



こうしてビッケルの奇妙な一日は過ぎていった。



ビッケルは結局原因を知ることは無かったが、右足に残った痣は、恐怖を振り払うためにパリアーが足をばたつかせた拍子に足払いのような恰好で蹴り飛ばしてしまった跡であった。

不幸中の幸いといっていいかどうか微妙なところではあるが、マイアーも心中冷静でなかったこともあり、パリアーの足払いは二人にはバレていない状況だった。

両肩に続き、足払いから気絶まで持って行ってしまったパリアーは、何度も謝ろうとするが上手く言い出せず、結局はビッケルの介助を全力で行うことで謝罪を全うしていくことになるのであった。


彼が怪我を完治まで行かずとも、両肩を動かせる状態になる一か月間の献身を経た後。

パリアーは、若干周囲に対して「優しくなった」と評判を得るのであった。


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