第73話 アイリ王国で過ごす最後の夜
次か次々回ぐらいで一章は終わりになりそうです!
たくさんの方に見ていただき大変感謝です(*´д`*)
まだまだ稚拙な文章で申し訳ありませんが、今後も趣味でまったりと書いていきますので、末永く宜しくお願いします~
ヒザキが孤児院に戻るころにはすっかり陽は地平の下に潜り込み、夜の闇が世界を覆っていた。
孤児院の窓から漏れる蝋燭の灯りを確認し、ヒザキは扉をノックした。
すぐに音に反応して足音が近づいてくる。
そしてゆっくりと開かれた扉から顔を出したのはリーテシアだった。
「あ、ヒザキさんっ・・・と、ミリティアさん?」
ヒザキのことはある程度予想していたのだろうが、その後ろに控える姿は頭になかったようだ。
キョトンとして、リーテシアは小さな頭を傾げた。
鎧を脱いで私服状態のミリティアは一度咳払いをした後、意を決したようにヒザキの前に出て、バッと片膝をついてリーテシアの前に跪いた。
突然の行動にリーテシアが「えっ?」と状況についてこれない表情を浮かべる。
「この度、誠に勝手ながら貴女様の国家に列席させていただくことになりました、ミリティア=アーク――」
「待て待て、堅い。いきなり堅すぎる挨拶は止めてくれ。リーテシアが困ってるぞ」
いち会議の場とはいえ、既に締結された約定の元にミリティアのアイリ王国から新国家への移住が決定した。
その事実を国主たるリーテシアが知らずとも、本人がその意志を示したことで成立してしまうのが今の約定でもある。これについてはもう少し国として動き始めた後に、改めて「両国代表者が立ち合いの元、移住を認めるかを決議する」などの細かい条件を追加していく――見直しをする必要はあるだろう。時間が無かったとはいえ、簡潔すぎる約定の文面も考え物だと言える。だが一つの「目的」を達成した意味では有意義な約定であったのも事実であった。
何にせよ、何も知らないリーテシアはミリティアの急な態度にあたふたと反応に困っている様子。
ヒザキの言葉にミリティアはパッと顔を上げて、自分の気持ちが先走っていたことに気づき、慌てて立ち上がって弁明した。
「す、すみません・・・その、色々と良くしていただいた負い目と言いますか・・・、まだ何も返すことができない身なので、せめて最初の挨拶ぐらいはキチンと筋を通したいと思いまして・・・」
「あ、あの・・・ミリティアさん? その、状況が良く分からないんですが・・・」
ミリティアはケルヴィン国王陛下からの眷顧に対し、リーテシアの新国家と結ばれた約定により移住を希望することで、自身が歩きたい道を選択することができた。それもケルヴィン個人はともかく、アイリ王国を裏切ることなく、祖国のために働きをかけられる立ち位置を維持して、だ。王政国家において、安易に口にしたものであっても王の言葉に背く形になったのだから、移住は認めても「王国を裏切った」と言われておかしくないはずなのだが、誰もそこに懸念を抱かないあたり、ケルヴィンの人望が計り知れるところである。
何はともあれ、結果としてミリティアは深い傷跡を残さずして、自身が望む未来を掴むための「切符」を手にしたのだ。その切符をタダも同然に与えてくれたリーテシアの新国家という存在は、感謝してもしきれないほど彼女の中で大きなものとなっていた。
故に義理深い彼女は、感謝の気持ちを伝えたい想いが先走る結果となり、今のように空回りすることになってしまった。
ヒザキが止めずにあのまま好きにさせていたら、孤児院の玄関口で王と謁見する時と同様に、堅苦しい長い口上を垂れていたに違いない。言うまでもなく、リーテシアは嫌な顔はしないだろうが、意味が解らず困り果てて為すがままになっていただろう。
「簡潔に言うと、ミリティアは俺と同様、君の国に在籍することになった、ということだ」
ヒザキが要点だけをリーテシアに伝えると、リーテシアは驚いたように目を見開いた。
約定に関するやり取りはベルモンドが請け負ったのだろうが、最終的な文書内容は彼女も目を通していたらしい。「在籍」という単語がどういうことなのかを聞き返さずに、その意味を理解している様子だった。
「えっ、で、でも・・・ミリティアさんはそれでいいんです、か?」
期待に一瞬喜びを露わにしかけたリーテシアだが、サリー・ウィーパの時に行動を共にし、彼女がアイリ王国をどれほど想っているかを知っている彼女は、理性で感情を抑え込んで、まずは事情を聞こうとした。
(この子、本当に12歳の子供なのか・・・?)
ヒザキがそう思ってしまうほど、リーテシアという子は聡く、周囲を常に慮る傾向が強い。
もっとも天下泰平と称しても良い「あの時代」に比べれば、この世界は魔獣という外敵がいる上に、魔法という特性を除けば文明水準は低いほうだ。人は環境に適応して進化する生き物だ。こうして年少時代から思考が発達するのも、今が「そういう時代」だからなのかもしれない。
同じくミリティアやルケニアだって、年齢から考えれば十分に完成された存在と言えるのだから。
「はい・・・とある事情より、私がこの国に残っていた場合・・・私が私で在れる道が閉ざされてしまうことになってしまいまして。それも一つの結果だと諦めもしていたのですが、多くの方々の支えのおかげで、リーテシア様の新国家に移住する、という選択を選ばせていただいたのです」
「会議の後に宰相から聞いたんだが、あの一文を約定に織り交ぜたのはミリティアに逃げ道を用意する意味も込めていたそうだ」
「あ、あぁ~・・・そ、それで」
ミリティア、ヒザキの言葉を聞いて、リーテシアが何かを思い浮かべるように目を逸らした。
「何かあったのか?」
「あ、いえ・・・その、やけにベルモンドさんが筆を取られる際に、やる気に満ち溢れてたなぁって思ってたので・・・あはは。ミリティアさん、美人さんですもんね」
「?」
ミリティアには伝わらなかったようだが、要は美人のミリティアがリーテシアの国に移住することを想像して、モチベーションが上がっていたのだろう。そういえば孤児院の裏手で話をした時も「金髪碧眼の美女様」なんて表現をしていたぐらいだから、美人の上に好みのタイプだったのかもしれない。
ミリティアは知識はあるものの、その知識と現実が上手く結びつかない――云わば「天然」のような態度を取ることがしばしばある。ベルモンドが下衆な真似を取るとは到底思えないが、悪ノリが過ぎてしまうこともあるかもしれないので、少し心配なところだ。ベルモンドに限らず、見知った者が「二人きりで話したい」と誘いをかければ、何も疑わずに笑顔で後をついていってしまいそうだ。いや、間違いなくついていく。
ヒザキは若干の心配を抱えながらも、ここで変な口を挟むのも微妙な空気になりそうだと判断し、二人の会話を見守ることにした。
「で、でもっ! 嬉しいです!」
リーテシアは大体の事情を理解して、ミリティアが自分の建てた国に来てくれることを喜び、思わず彼女の胸に抱き付いた。
「わっ、リ、リーテシア様?」
「さ、様は止めてください・・・。私、あのっ、洞窟で色々とお話させてもらった時、お姉ちゃんがいたらこんな感じなのかなって思って・・・一緒にいて本当に安心したんです。だから、ヒザキさんがいてくれるだけでも凄く心強いのに、ミリティアさんまで来てくれるなら――もう百人力ですっ!」
「・・・ふふ、敵わないですね」
熱意を言葉で受け、ミリティアは思わず微笑んだ。
ミリティアも胸元の小さな体を抱き寄せ、その温もりを実感する。
リーテシアがミリティアを姉のように思うのと同様に、ミリティアもリーテシアを妹のように感じているのかもしれない。
「また一緒にお風呂、入りましょうねっ」
「ええ、そういたしましょう」
リーテシアはミリティアから離れ、孤児院の中に入るよう手で促す。
確かに扉を開けっ放しで話し込むわけにもいかないので、ミリティア、ヒザキは頷いて孤児院の中に入ることにした。
敷居を跨ぐと、まだ子供たちは元気に孤児院の中を走り回っている足音が聞こえてきた。
奥の部屋から賑やかな声が響いている。
いつも通りの孤児院の光景――と思いきや、ここ数日で見かけた風景とは異なる部分があった。
ベルモンドが持参していた大き目のリュックが壁にもたれるように置いてあり、その周辺に大中小の麻袋や木箱が並んでいた。少なくとも昨日、砂漠から帰った時には見なかったものだ。
「おや、帰ったのかい」
奥で子供の相手をしていたレジンが、簾を手で避けながら、こちらに向かって歩いてきた。
ベルモンドも一緒のようだ。
「ああ」
ヒザキは普通に返事をし、ミリティアは小さくお辞儀をした。
「お、隊長さんがいるってことは、例の話はついたってことかな。っと、ヒザキはまだその辺の話って知らなかったりするのか?」
「いや、宰相から聞いた」
「そっか。ま、何はともあれ上手く事が運んだようで良かった良かった、ハッハッハ」
約定の内容を考えたベルモンドも、実際のところ目論見が成功するかどうかは半々だったこともあり、無事ミリティアの姿を見たことで確信して、安堵のため息をついた。
ミリティアが移住を受け入れ、アイリ王国側も承諾したことは、彼女が近衛の鎧を脱いだ姿だったことから推測したようだ。
「ベルモンド様もリーテシア様のお国へ?」
「ま、そんな感じだな。行商だの一国で一時的に仮店舗構えるだの、今までの商人としての生活も捨てがたいけど、今回の話を聞いちゃ乗っかるしかないってね。なんせ新国家誕生なんざここ数百年で聞いた試しがないからなっ! ま、アイリ王国が砂漠地帯を手放すまで、独立地帯と呼べるほどの土地が無かったから、当たり前っちゃ当たり前な話だけどな」
「そうでしたか。それでは今後は共に切磋琢磨する仲間になりますね。何卒宜しくお願いいたします」
柔和な笑みを浮かべて、ミリティアは恭しくお辞儀をした。
その態度にベルモンドは「お、おう?」と中途半端な笑みを浮かべて応え、横歩きでヒザキの傍まで近寄って行った。近寄ってくる様はまるで蟹のようだ。
「おい・・・おいっ、ヒザキ、ヒザキ! ア、アレはどういうことなんだっ?」
「アレとは?」
「アレだよ、隊長さんの態度っていうか雰囲気? なんか砕けたっていうか、物腰が柔らかくなったっていうか・・・前会った時は凛々しい印象が強かったけど、なんか今は可愛くなってね? あ、あれも外向き用の態度なのか?」
「ああ・・・どちらかと言えば、今が素の状態なんじゃないか?」
「そ、そうなんか?」
二人は少し離れた位置で、リーテシアとミリティアが仲良さ気に話し込んでいる姿を見ながら話を続けた。
「・・・何かあったのか?」
「そうだな。具体的なことは本人に聞いてくれ」
「いやいや、まだ会って数回の人間が、んなこと聞いちまったら・・・踏み込み過ぎもいいところだろ・・・。ま、見た感じ、悪い方に転んだわけじゃなさそうだし・・・いいことじゃねーかな」
「そうか」
「逆にお前はもうちっと変わらないんかい」
「・・・俺も多少は変わったぞ」
「え、何処が?」
ベルモンドに素で聞き返され、ヒザキは答えに窮した。
彼にとっての「ここ最近」で言えば、彼は他人との干渉を避けていた傾向にあり、今のように連日、同じ面々と共に行動することはあり得なかった。それがどうしたことか、先日の女王蟻討伐の件を境に今では積極的に――あろうことか、新国家の礎の一つとして協力をしようとしている。
これはヒザキにとって大きな変化ではあるが、それをベルモンドに伝えるには、どのように要点をまとめればいいかがすぐに思いつかなかった。
理解してもらうには、ヒザキの今までの人生を語るのが早道だが、それは「避けたい」のが本音だ。
故にヒザキは答えに窮する格好となり、どうしたものかと腕を組んだ。
「まっ、どっちでもいいさ」
ヒザキが言いよどんでいると判断したのか、ベルモンドはあっさり会話の流れを変えて、ヒザキと向かい合った。
「城ん方でお前が色々やってる間、俺の方もリーテシアちゃんと話したぜ。あの子の想い、望む未来ってやつをな。俺は商人だからな・・・願いや希望の前に足元をどうしても見ちまうもんさ。理想より現実、金がなくちゃ食っていけねーし、資源がなけりゃ国を維持できない。どうしても何かしらの打算が頭ん中で動いちまうんだ。人間関係も含めて、な。だから――まだ小さなあの子が手を伸ばそうとする理想とは真逆の立ち位置にいると言っても過言じゃねーかもしれない」
「ああ」
ベルモンドの言葉は至極まっとうな内容だ。
世界は夢を見るだけで生きていけるほど優しくは無い。
むしろ足元を見ずに空ばかり見上げて歩く者ほど、すぐに挫折を味わうことだろう。
だから彼が敢えて「リーテシアと逆位置にいる」と口にしたことに対し、ヒザキは何ら疑問は感じなかった。
「先に言っとくぜ。商人としての俺は、アイリ王国とあの子の国、双方が協力し合い、安定した国営をできるようにするっていう『夢』には、正直俺の目は向いていない。興味の大半は彼女の国、そこにあるオアシスや固有資産だ。そいつらをどうやって維持し、商品として生産し、安定した流通ルートを確立させて市場を支配するか――そんだけさ」
「リーテシアにも伝えたのか?」
「ちっとだけなー。けど、あの子・・・『あ、でしたら資源に関してはベルモンドさんにお任せするので、自由に扱ってください』って言っちゃうもんだから、俺、もう心配で仕方ないぞ・・・。他の商人の奴らに同じ事言おうものなら、ものの数か月で資源の利権から何まで奪われてもおかしくない問題発言だ。根本的に人を疑うってことをしねーんだろうなぁ。信頼してくれるのは素直に嬉しいんだけど、当たり前な話・・・国主としちゃ未熟もいいところだ」
「ふっ、そのために目の前の男を囲い込んでいるんだろう?」
「・・・ま、俺がいりゃ欲にまみれた奴の好き勝手にはさせねーけど・・・。って、違う・・・そーいう話をしようとしてたんじゃないっつーの! ともかく、俺が優先的に着手したいのは、オアシスやそれに関わる資源の有効活用ってことだ! だから・・・お前らの思い通りに動かないことも多々あるかもしれない。それでも・・・・・・いいのか?」
随分と遠まわしな言い方だが、ベルモンドはつまるところ、こう言いたいのだろう。
夢を追いかけようとする国主と、現実を見つめて資産運用を目論む商人。
時には意見も割れ、対立することもあるだろう。
彼はそういった展開になった時、自分は折れないだろうし、互いに主張を覆さないのであれば関係が決裂する可能性も示唆しているのだろう。
だから彼は律儀にも国興しを始める前に宣言してきたのだ。
思想が違う人間が同じ場所にいれば、いつかは折り合いがつかない事案が発生し、衝突するぞ、と。
何て事は無い。
国とはあらゆる思想を持った人間の集合体であり、全てが国を構成するうえで「必要な存在」なのだ。
国主が大旗を掲げ、夢を目指して指針を示すならば、それを現実に落とし込んでいくのが家臣の役目だ。
国主が現実も見れない根っからの夢追い人であれば愚かな王として国と共に滅ぶこともあるが、リーテシアは理想と現実、どちらも柔らかく受け入れられる人間だということは予想できる。
故に彼が危惧する未来は何ら問題はないのだ。
問題があるとすれば、それは国主の行く道先に家臣の目が向いていないことだ。
これは「商人としてのベルモンド」の目ではなく、ベルモンドという「一個人」の目が、だ。
「いいんじゃないか? 商人としてのベルモンドはともかく、アンタ自身はリーテシアの理想を否定していないんだろう?」
「なっ・・・」
「くどい言い回しだったが・・・結局は国のために動いてくれる、と言っているようなもんだ。でなければ、アンタの言う『他の商人の奴ら』と同じように、リーテシアを上手く言いくるめて利権だけ奪い取っていけばいい話だからな。それをしないで金回りや資源の生産・流通を謳うってことは、資産管理は任せてくれということだろ? その過程で衝突が起きるなら逆に万々歳だ。あの子の成長にも繋がるだろうからな」
「むぅ・・・はっきりと言われると、なんか恥ずかしいなっ」
頬を掻きながら、ベルモンドは息をついた。
そして両手を上げて「降参だよ」と苦笑した。
「正直に言えば、俺自身はあの子を後押ししてあげたい一心だ。まだ子供だし純粋すぎる子だ。綺麗事なんざ、あっという間に押し潰される人間社会で適応するにはまだまだ難しいんだろうけど・・・、だからこそどんな国に発展していくのか見てみたい気持ちも強い。だが、商人として未知の領域とも言える『オアシス』っちゅう大物を開拓していきたいのも本音だ。だから俺はあの国の資源を使って金や物資の流通経路を作り、掌握するってのが第一目的であり、その目的の先にリーテシアちゃんの夢の助けになれればいいと思ってるんだ」
「最初からそう言えばいいだろう」
「そう言うのが何か恥ずかしかったんだよ! いい歳したオッサンが年端もいかない少女に乗っかるようについて行くっつーのは・・・何て言うんだ? あー、情けないっていうか、奥歯に詰まった感じがするっていうか・・・。だーっから、ちょいと捻って格好良く言おうと思ったってのに・・・この頭でっかちめ」
格好良かったか? と返そうかと思ったが、止めた。
「あー、でも」
とベルモンドが何かに気づいたかのように顔を上げた。
「なんだ」
「いや、お前さんの変わったとこについて」
「む?」
ベルモンドはニヤリと笑い、ヒザキに指さした。
「相当な無口だと思ってたんだが、案外、けっこー喋るようになったよな」
指摘されてヒザキはここ数日の自分を思い返した。
確かに・・・喋るようになっている気はする。
他人との触れ合いが無かった時期は、他者とは必要な話しかしなかったし、話しかけられても相槌程度か可否の返事しかしていなかった。それが他人に何かを伝えようとしたり、他人のことを誰かに説明したりと自分以外の人間を考えて物事を話す機会がここ数日で圧倒的に増えていた。それが口数が多くなった原因なのだろうが、そう考えると、やはり変わった部分と言うのは「人との接点を持った」ことなのだろう。
「そうか」
短く答えると、ベルモンドは半目で「別にそこで口数戻さなくてもいーんじゃね・・・」と呆れ気味だったが、気を取り直して、彼は右手を差し出してきた。
握手を求めているのは言わずとも理解できた。
「ちょいとおかしな切り出し方で話しちまったが、別に邪魔しようだとか、他の道に行きてぇってわけじゃ無いんだ。ま、言いたいことは言わせてもらうつもりだが、結果的にいい方向に向かえるよう努力はするぜ。って感じで、まぁ宜しく頼むよ」
「ああ」
右手で握手を交わす。
砂漠から此処に戻る際に、リーテシアとも話したことだが、彼は国興しの上で鍵になり得る人物だ。
商才があるということは、物事を数字で見ることができるということ。
つまり科学的に根拠を見出し、計算し、未来を予測して物事を進められる能力が高いことになる。
そういう人物はどの国でも重宝されるべきであり、絶対に必要なポストでもある。
理想を大衆に掲げるのは、統治する者の役目だ。
だが理想とは決して想いだけで達成できるものではない。計画性が必須であり、実現に向けた人・資金・時間・土地・国を取り囲む様々な要因をどう組み立てて最大限に利用していくかが成功の分かれ道になる。
それが出来るのが、ベルモンドのような人材なのだ。
それはリーテシアは勿論、ヒザキやミリティアにも出来ないことだ。
勉強を積めば、ベルモンドの喋る内容を理解することは可能だろう。しかし、実際に考えて実行するとなると、長年商人として積んできた経験こそが必要となってくる。それがベルモンドの強みであり、固有能力と言えるだろう。
「逆に力になれることがあれば言ってくれ」
「おう! 俺自身に戦う力は無いからな、間違いなくヒザキに依頼する案件は出てくると思うぜ。その時は宜しく頼むよ」
「分かった」
両者は握手と解き、自然と笑みを交わした。
「あのー・・・お話、終わりました?」
ふと気づけば、先ほどまでミリティアと話していたリーテシアが近くで待機していたらしく、話に入るタイミングを計っていたようだ。
「おぅ、すまんすまん。ついつい話し込んじゃったぜ」
「ああ、もう大丈夫だ」
二人がそう返すと、子供らしい笑顔を浮かべて彼女は「それじゃ、そろそろ夕飯の支度をするので、奥の部屋で休んでてくださいっ」と言うものだから、ベルモンドとヒザキは目を合わせてしまった。
そして、
「私共もお手伝いいたしますよ、国主殿」
「そうだな」
と悪戯っぽく言うと、リーテシアは顔を真っ赤にした。
どうにもまだ一国の主として持ちあげられるのは恥ずかしいようだ。
「もぅっ!」
頬を膨らませて怒るリーテシアだが、頭を撫でるとすぐに萎んで大人しくなるのだから、可愛いものだ。
ベルモンドは奥の部屋で他の子供たちと戯れているセルフィとヴェインも呼びつけ、今日は大人勢総出で夕飯の支度を手伝う流れとなった。
と言っても、乾パンや日持ちのする乾物ばかりの夕飯を準備するのに、そう大層な人数は必要なかったという結果は、気にしないでおく。




