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テトラ・ワールド  作者: シンG
第1章 建国~砂漠の国~
37/96

第37話 長い長い一日の終わり

急いで東門に来てはみたものの、正直ヒザキは手持無沙汰感を否めなかった。


彼は東門の頂上に腰を掛け、目下の戦況を確認していた。

「以前」見た時よりも統率がとれ、個々の戦力も上回っているように見える。

魔法が使えない者が殆どのはずだが、それを物ともしない剣技と隊員同士のコミュニケーションで乗り切っているようだ。


「・・・」


特筆すべきは髪の長いククリつかい。


獲物が短剣とククリということから、おそらく腰を据えての戦いより、相手からつかず離れずのヒットアンドアウェイの戦闘方法を得意としていると分析できる。現に目の前で繰り広げられているサリー・ウィーパとの戦いにおいて、相手の鎌のような前足を巧みに前後の動きで捌き、隙を見て正確に急所部分にククリを投げ込んでいる。


また視野も広く冷静な性格なのか、隊員各自の戦力バランスを考慮した位置に常に立ち回るようにしており、誰かが敵に押され気味であれば即座にフォローに入れる態勢を取っていた。細かい指示を常に飛ばしているわけではないが、彼女が全体の戦力バランスをならすことで隊員たちも気兼ねなく戦いに集中しているようだ。大した信頼関係だと思う。


しかしそんな彼女も気になる点がある。

一見無駄が無さそうに戦場を支配しているように見えるが、一つだけ無駄に「フォロー」が過ぎる場所がある。正直、その場所で戦っているもう一人の女性もそれなりの力を持っているようで、サリー・ウィーパ複数体にでも囲まれない限り、放っておいても大丈夫そうに見えるのだが・・・そこに執拗にフォローに入る彼女の姿に首を傾げる。


何か理由があるのだろうか。

剣と魔獣が交錯する音が鳴る戦場の中、耳を澄ませば、彼女たちの会話がわずかながら聞こえてきた。


「だぁーっ!! あと一体だっていうのに、また邪魔された!!」


思わず手に持ったショートソードを砂に叩き付けたくなる様が見れたが、ここは戦場だということを思い返し、何とか思いとどまったようだ。

茶髪に赤髪が混ざった少女――というより子供のような風貌だが、彼女はしきりに対峙する魔獣が遠くから飛来するククリにトドメを刺されることに対し、苦情を上げていた。


「ふふふ、惜しかったね、パリっち」


「いやいや、何でんな余裕かましてるんですか! あたしの邪魔ばっかしてないで、他の隊員の支援に向かってくださいよ!」


「んー? ちゃんとやってるさ」


「分かってますよ、分かってるから腹立たしいんッス! ちょっと戦いの場で『遊び』を入れるのは、うちの隊の信条に反してるんじゃないですか!? 真面目にしてください!」


「真面目さ。だから一切の油断はしてないよ? ただ――」


背後から他の隊員が交戦していたサリー・ウィーパが、目の前の隊員を押しのけ、傷ついた体を軋ませながらもその前足を長髪の女性に振り下ろす。


「相手が期待していたより強くなかった。ってだけさねぇ」


素早く納刀帯から抜き取ったククリを振り返りもせず投擲し、サリー・ウィーパの右目に突き刺した。

痛みを感じているか不明だが、サリー・ウィーパは突然の片目の損失に驚き、鳴き声を上げながら蛇行する。

その隙を逃すわけもなく、彼女はククリではなく短刀の刃を甲殻の隙間に滑り込ませ、魔獣の息の根を何の苦労もなく絶った。


(・・・相性もあるだろうが、リカルド辺りが苦手にしそうな相手だな)


彼女の戦闘スタイルは相手から見れば、まさに「油断」しているように見えるのだろう。

しかし、その実、隙は一切見当たらない。

格下相手にはこれが彼女の標準スタイルなのだろう。相手の油断を誘い、効率よく敵を沈めていく何とも恐ろしい才覚の持ち主に思えた。同等かそれ以上の相手であれば「見せかけの油断」など見抜けられてしまうため、今とは違う戦闘スタイルを見せるのかもしれない。そこは興味が惹かれるところであるが、今日の場合は見ることもなく終わりそうだ。


「あ、あと一体!」


何かしらのノルマを課せられたのか、少女が残りのサリー・ウィーパを求めて周囲を見渡すが、既に魔獣の残骸のみがあるだけ。新たに襲い掛かる敵の姿は見受けられなかった。


「あと・・・いったい・・・」


項垂れる彼女に、長髪の女性が肩に手を置く。


「明日もきちんと兵舎に出ておいでね」


「ぐぬぬ・・・」


まだまだ余裕のある第三部隊の面々の姿を見て、ヒザキは視界に広がる東門外の状況を門の上から確認する。

討伐されたサリー・ウィーパの数はざっと見て40ぐらいだろうか。

一つのコロニーに存在する数に比較すれば少ない数ではあるが・・・偶然この辺り出没したという話は通らない多さでもある。アヴェールガーデンでルケニアの魔導機械で見た地中の穴は、コロニーから伸びてくるように近づいていた。つまり、偶然群れから逸れたというより、何かしらの理由があって此処まで進軍してきたという見解の方が有力である。


一個体の兵の能力はアイリ王国の軍配が上がるだろうが、如何せん最大数に差がありすぎる。サリー・ウィーパが総出で物量で攻めてくれば、一夜にして落城する可能性もあるだろう。また仮に一斉に攻めてこないにしても、持久戦となっても不利は変わらない。絶え間なくこの数のサリー・ウィーパが攻めてくれば、前者と同様の理由でやはり落城するのも時間の問題だ。


(明日中にでも女王蟻を倒す必要があるな)


しかし不思議なものだ。


現状としてサリー・ウィーパが出現したことで一般兵や近衛兵のミリティアが対応しているわけだが、このアイリ王国の立地を考えれば、今回が初めてとは考えづらい。近年出来たての国というわけでもあるまいし、何かしらの対策が日々の運用として機能するものがあってもおかしくない。むしろ無いとおかしい。


だというのに、後手に回っている現状はヒザキにとって疑問を感じずにいられない。


ワーム等の巨大な魔獣が襲いかかってくるならば後手に回るのも分かる。

しかしサリー・ウィーパ程度の魔獣にこれだけ手数を取られるのは符に落ちない。

考えられる理由があるとすれば、当時の対策を記した文献を失ってしまったか、そもそもそれを実行するだけの力が国に残っていないか、といったところだろうか。


「・・・・・・」


どちらにせよ女王蟻が健在である以上、騒動が収まる可能性は低いだろう。理由や原因がどうであれサリー・ウィーパが女王蟻の命令に沿って動いているのであれば、女王蟻を討伐することが現状を打開する最善策と言える。


疑問や不明点などは考えれば考えるほどかさを増すが、結局のところ、最優先でやるべきことは決まっているのだ。原因分析はその後に、変化していく展開を吟味しつつ考えればいい。


(と言っても気にし始めると気になるのが人間のさがだな。これ以上、首を突っ込む気はないが・・・国を出るまでの間ぐらいは気にかけてみるか)


第三部隊はもう問題ないだろう。

多少の疲弊はあるようだが、ここから無理に自分が合流して何かする必要もなさそうだ。


ヒザキは一つ息を吐いて、東門の頭頂部から王国内側に降りて行った。




「・・・・・・」


そんなヒザキの様子を下から見上げる存在――マイアーは呆けたように門の上から消えた彼を見つめていた。彼が背中を向けたと同時にその姿を視認したため、彼と目が合うということは無かった。


「どうしました、隊長?」


パリアーは刀身についた魔獣の血を払うように何度か素振りし、それでも刃の随所にこびりついた汚れが取れないことに嘆息しつつ鞘に納めて、彼女の傍に近づいてくる。


「んーん、なんでもないさ」


長い髪を払ってパリアーに笑いかける。


「見たところ、欠員は出ていなさそうさね。満足満足」


「まぁ、途中に置いてきた奴らはまだ確認できてないッスけどね。戻るんッスか?」


「そうだねぇ。この近くにいたサリー・ウィーパの掃討は終わったと思うけど・・・後続が来ないとも限らない。なんせ地中を移動する魔獣だからねぇ? 外壁の下を潜って侵入されたらって考えると、警備に誰も置かないのも危険かねぇ」


「誰か置いたって意味なくないッスか? 地中移動されたら、地上にいるあたしたちに出来ることなんてないッスよ? ていうか・・・こいつら、なんであたしたちのいる此処に出てきたんですかね。わざわざ待ち構えている相手の真ん前に顔を出す理由がわかんないッスねー」


「ま、たまたま行く先に私たちがいただけなのか、近くの獲物に群がる習性なのか、魔獣の気持ちなんて分かんないことだらけさねぇ。でも――これだけ門の近くで戦っていたのに、門の向こう側に出た気配がないっていうのは確かに引っかかる話だねぇ」


「んー・・・難しいことは後にしません? そろそろ・・・風もまた強くなってきましたし」


顔を上げると、砂が風に乗ってパリアーたちの頬を軽く叩いてくる。今は「軽く」程度の感覚だが、いずれ西門から出てきた時のように強い風へと発達して、前も見れないほどの砂嵐になるだろう。二人は外套を被り直し、あまり口を大きく開けないようにして会話を続ける。


「国のすぐ外で迷子になりましたっていうのは情けない話だからねぇ。一度戻って、上からの指示を仰ぐことにしようかねぇ」


「ふぅー・・・やっと帰れるんッスね! んじゃ、あたしは皆に号令かけてくるッス!」


「うん、よろしく」


隊員全員に撤退の指示をするパリアーを見送った後、マイアーはサリー・ウィーパの死骸から順に刺さったままのククリを抜き取り、軽く外套の端で血を拭いながら納刀帯に納めていく。


「・・・魔獣の気持ちは分からないけど」


ククリをまた一本抜き取り、光を失った魔獣の昏い瞳をのぞき込む。


「どうにも余裕がなさそうだったよね、君たち。怯え? それとも焦り?」


その呟きに返す者は当然おらず、徐々に圧を増していく風に飛ばされないよう、フードの端を掴んで深くかぶる。


「なにがなんだか、ねぇ」


苦笑しつつ、最後のククリを納めた。

後ろを振り返れば、パリアーと他の隊員たちも帰路につく準備はできているようだ。準備と言っても、怪我人がいれば肩を貸し、戦闘中に取りこぼした武器等を拾い上げるだけの作業だが。


その様子に頷き、腰を左右に回して、体中に僅かに残っていた緊張をほぐす。



「それじゃ戻りますかねぇ」



第三部隊、多少の負傷者はいるものの誰一人欠けることなく、アイリ王国内へと戻ることとなった。



*************************************



城に戻れば、ミリティアは深刻な表情で考え込んでいる模様。話しかけても「ああ・・・」とか「そうだな・・・」などと虚ろな返事しか返ってこないため「また明日な」とだけ言葉を残し、彼女と別れることにした。


ルケニアは怪我人の前処置が終わるや否や、探し物があると言って何処かへ行ってしまったらしい。

というか部屋に籠ってもらう話だったのでは? とも思ったが、何かしらの事情があったのだろうと勝手に察することにした。


ギリシアは姿が見えなかった。

一応、上長に当たるため「第三部隊は問題なかった」と報告すべきかと思っていたが、いない者はいないので早々に報告は諦めることにした。あと城内の一部を破壊した件も謝罪しておきたかったが致し方ない。別の機会にすることとしよう。


リカルドは非常に機嫌が悪い。

主観的には変化ないものだが、周囲に対してもその苛立ちが伝播しているところを見ると、大分頭に血が上ることがあったのだろう。話しかけても藪から蛇なのは目に見えているため、見なかったことにしてそっとしておくことにした。


さて。


こうなると、特に城内に話しかける相手がいなくなってしまった。

濃密な一日を過ごしたはずなのだが、その実、顔見知りになれた相手は存外に少なかったらしい。


一応、ミリティアに「また明日な」と声をかけたので、それが帰宅を意味するものと解釈してもらえればよいのだが。


(非常に手持無沙汰だ。帰りたい)


無言で帰っても良いのだが、礼儀として誰かしらにキチンとした言葉を残して去りたいものだ。

通常であれば、それがギリシアへの報告という形になるのだが、通路を歩く給仕係に尋ねても首を横に振るばかり。どうしたものかと悩みつつ、通路の壁に背を預けていると、誰かがこちらに歩いてくるのが見えた。


気配からして戦闘に長けた者ではないようだ。

しかしその足取りに違和感を覚える。

ふらついているのか、常人と異なって変則的なリズムを刻んでいる。


「――大丈夫か?」


非戦闘員ということもあり、全力を以って優しく問いかけたつもりなのだが、やはりそういう身振りは向いていないのだろうか。廊下を歩いてきた女性は肩を大きく震わせて、こちらの姿を驚いたように見つめていた。


「いや、・・・体調が悪そうに見えたから声をかけただけだ。驚かせるつもりはない」


「・・・っ・・・」


すっかり陽が傾いてきたせいか、廊下の陰影が濃くなり、相手の顔が見えづらい。

固唾を飲んで徐々に相手が近づいてきて、その輪郭がようやくハッキリとしたものとなる。


見たことのない女性だ。

服装は給仕のそれではなく、一般兵に近いものだった。

応接室で最初にギリシアやリカルドと会った際にいた、確か――ミレーと呼ばれていた女性と同じような立場なのかもしれない。


「あ、あのっ・・・」


「なんだ、誰か呼んだ方がいいか? あいにく俺は医務室の場所が分からないんだ」


「ぁ、い・・・いえ・・・」


顔を背けた女性は正直、素人目でも明確に分かるほどの土気色だった。

体調を壊しているのは明白だ。

職務中かもしれないが、不調を訴える者に強制労働を強いるほど、この王城内は悪辣な環境ではないだろう。誰かに言えば、快く彼女を介抱してくれるだろう。


そう思い、ヒザキは背中を壁から放して彼女と向き合う。


「本当に具合が悪そうだな。ここで待っていろ、誰か呼んでこよう」


「ま、待ってください!」


ヒザキの言葉に強い拒絶を含んだ声が返ってくる。

さすがにそれを無視して足を進めることは出来なかった。


女性は腹部を両手で強く抑えながら、猫背でこちらを見つめてくる。


何かを訴えたい、そういう想いがその表情から流れ込んでくる。


「何か、あるのか?」


「っ、・・・た、す・・・っ」


俯き、徐々に声が小さくなる女性。

必死に言葉にしようと口を開くが、そこから漏れる音は言葉にならない空気音だけだった。


「ごめ、ん・・・なさい」


そして女性は踵を返し、走り出す。


「おい――!」


ヒザキは慌てて追いかける。

追いかける理由はないし、逆に相手にとって迷惑になる行為かもしれないが、何故だかこのまま行かせるのはマズイ気がして、ヒザキは足を動かした。


幸い、彼女の走る速度は遅い。

数秒で彼女に追いつける自信があった。


廊下の途中の曲がり角を曲がったようだ。

その後ろ姿を追いかけて、角を曲がろうとして初めて、そこに人の気配があることに気づいた。

ヒザキとしては実に迂闊だった。まさか女性を追いかけるのに集中し、それ以外の気配を読むのに遅れが生じるとは・・・。


「うわあっ!?」


曲がり角から姿を現した男がヒザキに驚いた声を上げる。

ヒザキは瞬時に重心の向きを変えて、彼と正面から衝突しないように真横に避けた。


ぶつかりそうになった彼に詫びの言葉をかけて、彼女を追いかけようと思ったが、顔を上げたヒザキは足を止めて怪訝そうに眉をひそめた。


(なに・・・? 気配が、無い・・・?)


廊下の先に誰かがいる気配を感じない。

少なくともこの程度の時間差なら、まだ彼女の背中を捉えられる範囲だったはず。

それなのに廊下の先には静寂だけがたたずんでいた。


「び、びっくりしたぁ~・・・」


僅かな動揺を感じているヒザキを他所に、ぶつかりそうになった男が首元を掻きながら苦笑している。


「――すまない。ぶつかりそうになったところで申し訳ないのだが・・・こちらの方へ女性が走ってきたと思うのだが見ていないか?」


「女性? いやぁ見てないですね・・・こっちに来たんですか?」


「ああ・・・そのはず、だが」


再度、女性が曲がっていった先となる通路に視線を送る。

変わらず静寂を保つ暗い廊下にヒザキは何かしらの変化を見出そうとするが、数秒待てど何も起こらず。


「いや・・・気のせいだったのかも、しれないな。君は――見たところ武装はしているものの兵士ではないようだが・・・」


ヒザキはこれ以上彼女の行方を探ることは意味が無いと判断し、首を振って衝突しそうになった男に話しかける。


「あ、俺ですか? ええっと・・・水牽き役ってご存知ですかね、お客人。他国ではあんまし馴染みのない職務だと思うんですけど」


「知っている。君が?」


「へぇ、他国でも知名度が上がってきたってことですかね? いやぁっはっは、特に外交に関わるでも無し。地味ぃーな役柄なもんで、こうやってうち以外の人に知られてるってのも嬉しいもんですね~。あ、俺は水牽き役のクラシスって言います。一つお見知りおきを」


「ああ」


「で、俺に何か?」


「いや・・・君にこんなことを頼んでいいか判断に迷うところなのだが――」


水牽き役と言えば、アイリ王国内では重要な役割を義務付けられている基幹部門の一つだ。もし彼が伝令も兼ねた、言っては悪いが「下級兵士」なのであれば、ギリシアへの伝言をお願いしようと思っていたのだが、彼が水牽き役と言うのであれば考え直すべきかもしれない、とヒザキは口に指を当てて考えた。


「あー、俺って今日暇してるんで、何かあるんでしたら聞きますよ?」


と、嬉しい申し出を彼がしてくれる。

甘えるべきか礼儀を通すべきか悩んだが、折角の厚意だ。ヒザキは彼の提案に甘えることにした。



「ではすまないが――」



ヒザキはクラシスに第三部隊の状況と、これから仮宿としている孤児院に戻ることの報告。そして先ほど出会った女性の特徴と様子を覚えている範囲で伝え、もし該当する人間がいれば気にかけて欲しい旨を伝えた。


クラシスが快く伝言を受けてくれたため、ヒザキも胸のつっかえが取れた気分でホッと撫で下ろす。


本来であれば成り行きであれど、一般兵に在籍扱いになっている以上、上への報告は自分自身で行うのが当然のことなのは理解しているのだが、結局どこの部隊に配属になったか等、一般兵としての立ち位置が明確になっていないことと、ヒザキ自身がやはりどこか納得のいかない措置であったという心理も働き、何が何でも自分で報告するという気概までは沸かなかった。


報告はともかくとして、先ほどの女性については気がかりであったが、見失ってしまった以上仕方が無い。

城内に明るくない自分があれこれと首を突っ込んでも邪魔になるだけだろう。そう考えて、後は城の者に任せることにした。


「すまない、助かった」


「いえいえ~、お役に立てれば幸いってね。気にしないでください」


「ああ・・・」


クラシスに礼を言い、ヒザキは彼に背を向けて城を後にした。

今度はきちんと門兵に言葉を交わして城外に出る。


空を見上げれば満天の夜空が――無く、強風に煽られた砂が闇夜を汚く彩り、ヒザキは盛大にため息をついた。


(・・・疲れた)


積み残しの懸念は多々あるが、今は何も考えたくない。

時計を見ていないため、現時刻がどの程度か不明だが、少なくともリーテシアは就寝しているかもしれない。ベルモンドが起きていたら、遠慮なく愚痴に付き合ってもらおうと心に決めた。


・・・最も自身の無頓着や流されやすさが招いたことについては、きっちり反省することも忘れてはいけない。


複雑な心中を胸にヒザキは降り積もった砂の上を歩きづらそうにしつつ、帰路へと着いた。


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