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テトラ・ワールド  作者: シンG
第1章 建国~砂漠の国~
14/96

第14話 ミリティアの事情聴取 その1

情報収集において、1対1で話を聞くのが有効であり、セオリーとされていた。

そうすることで情報の矛盾点の洗い出しや、情報の確度を上げることができるからだ。

よってミリティアは、リーテシア・ヒザキ・ベルモンド・セルフィ・ヴェインにそれぞれ個別に話を聞くことを説明し、話を聞いている間、他の者には孤児院の奥の部屋に待機してもらうようお願いした。


聴取はこの孤児院の食卓を借りることにした。

ちょうど正面で見合う形に椅子を位置取らせ、ミリティアは順番に話を聞いていった。



************************************



情報源その1:リーテシア=アロンソ



「先ほどは申し訳ありませんでした。そして、改めて言わせていただきます。魔獣に襲われるという事態に直面しながらも、よく無事にお戻りになりました。貴女と、そして一緒にいた男の子の健勝(けんしょう)に感謝を」


「え、えっと・・・あのその、そ、そんなことを言わないでくださいっ。わ、私は何もしてないので・・・ヒザキさんたちが助けてくれなかったら、私もたぶん・・・死んでいたと、思います」


「ふふ、貴女は将来、良い女性になりそうですね」


「ぁ、ぅ・・・」


「あまり思い出しくない内容だと思います。少しでも気分が悪くなるようであれば、遠慮なく言ってください」


「あ、はい・・・」


「それでは――、貴女は何故、国を出て山岳地帯にいたのですか?」


「ぅ・・・す、すみません。ラミーとサジ、あっ・・・一緒にいた男の子なんですけど。その二人と一緒に行商に会いに行こうという話になりまして・・・」


「行商に。その話はどこで聞いたのですか? 行商とは旅をする商人たち。彼らの動向は彼らのみ知ることの方が多いものです。その情報を先に入手するのは困難だと思われますが」


「あ、えっと・・・確か水牽き役の――クラシスさん、という人とラミーが知り合いで・・・、その人から教えてもらったみたいなんです」


(クラシス? ・・・あの道化め、子供に何て情報を流している。奴にも後で説教も込めて話を聞くか)


「なるほど、そうでしたか。貴女はクラシスとは知り合いではないのですか?」


「はい・・・会ったこともないです」


「わかりました。では次の質問ですが、貴女はヒザキ様たちとは昨日初めてお会いしたのですか?」


「はい」


「国外が危険な地域だということはご存知のはず。それをおして出たのは何故でしょうか?」


「っ・・・、すみません・・・興味本位、です」


「申し訳ありません、叱っているわけではないのです。本音を言えば、もう二度としてほしくはありませんが、今は純粋に話を聞きたいだけですので、もう少しリラックスして話してくれればと思います」


「はぃ・・・」


「では続けます。行商の方々が来る時間、というのもクラシスからの情報ですか?」


「だと、思います・・・あ、でも・・・ベルモンドさんたちは本当はここに来るつもりはなかったみたいなんです」


「・・・? つまり、クラシスの情報にあった行商とは別、ということですか?」


「た、たぶん・・・そうだと思います」


(クラシスの情報は誤情報だった? もし仮に本当であれば、その情報源となった行商はどこに行ったのか・・・。誤情報、という答えであれば丸く話も通るが・・・これもクラシスに聞く必要がありそうだな)


「なるほど。その辺りはベルモンド様たちにお伺いする方が良さそうですね。では、次に・・・魔獣に関してです」


「は、はい・・・っ」


「辛かったら仰ってくださいね? 貴女から見て、魔獣の特徴を教えてください」


「ええっと・・・大きかったです。あと素早くて・・・岩も簡単に砕いてしまうほど強かったです・・・」


「魔獣は複数いたと思いますが、そんな相手に立ち回っていたのですか?」


「あ、最初は一体だけだったんです。そういえば・・・ヒザキさんたちを追ってきた、みたいです」


「追って・・・? その理由はご存知ですか?」


「あの魔獣が・・・最初に襲ってきたのは、あの山ではないみたいです。山の向こう側でベルモンドさんたちが襲われたみたいで・・・、そこをヒザキさんが助けた、と聞いています。だから追ってきた最初の魔獣は、ヒザキさんの剣の傷跡を負っていました」


「なるほど」


(となると、魔獣はフールによる脅威を知っていたが、それでも激情に駆られて山を越えてきた可能性もある。新種の可能性があるからと言って、奴らがこの地帯の気候に対して無知であったと決めつけるのは早計だな。無論、知らずに来た可能性も十二分にある。この辺りは研究室の調査を待って、魔獣の生態を確認するまでは保留だな)


「魔獣は強いイメージを受けましたが、それをヒザキ様お一人で対処していたのですか?」


「あ、はい! とても強かったです!」


「ヒザキ様が?」


「はっ、はい! その・・・あんな大きな魔獣なのに、剣一つで・・・上手く表現できないのですけど、凄かったです!」


「そう・・・」


(この子は彼に懐いているのか? ヒザキさんの情報を聞き出すときは、聞き方を気を付けるか)


「先ほど魔獣は最初、一体だけという話でしたが、現場では少なくとも三体はいたであろう痕跡がありました。他の魔獣はどういったタイミングで乱入してきたのでしょう」


「えっと・・・数は五体、いたと思います。あっ、その最初のも含めると六体、でしょうか。最初の一体がヒザキさんに倒されそうになったところに、山の向こうからやってきました」


(六体・・・!? 目視で三体と判断した、その倍の数・・・。つまりあの火の魔法は、魔獣そのものを消し飛ばすほどの威力を誇っていた、ということか・・・それが本当なら恐ろしい威力だ)


「その、追加で来た魔獣も全て、ヒザキ様が対処されたのですか?」


「はい」


「なるほど、分かりました。詳しい戦闘についてはヒザキ様にお伺いしたいと思います。とりあえずリーテシアさんからお話を聞くのは以上としたいと思います。お辛い記憶を掘り起こすような形となり、申し訳ございません。もしかしたら、他の方々のお話も伺った上で、追加で聞きたいことも出るかもしれません。その時はまたお力をお借りしても宜しいですか?」


「は、はい! あ、あの・・・それと、さっきのこと、なんですけど・・・」


「さっきの? ヒザキ様との一件でしょうか?」


「はい・・・、ヒザキさんはぶ、不器用なんだと思います。表情に出にくいので、誤解されやすいんだと思うんですけど・・・で、でも、優しい人なんだと思います。さっきも・・・私のために怒ってくれたみたいですし・・・」


「・・・ふふ、リーテシアさんはヒザキ様がお好きなのですね」


「ぇえっ!? い、いえ! そ、そんなつもりは・・・!」


「大丈夫です。私もその辺りは理解しています。先ほどは私の未熟さ故に、あのような形になってしまいましたことを反省しています」


「あ、そ、それも、そんなつもりじゃ・・・・・・す、すみません」


「謝る必要はありませんよ、リーテシアさん。正しいことは正しく。失敗は反省し、糧に。人はそうやって常に前進するのです。だから私は感謝こそすれ、憎んだりはいたしません。だから安心してください」


「ぁ・・・ありがとうございます」


「ふふ、それでは次の――、そうですね。セルフィ様を呼んできていただいても宜しいでしょうか?」


「あ、はい! し、失礼します!」


リーテシアが去っていった後を視線で追う。

彼女からは純粋な感情ばかりが流れ込んできた。

少し羨ましくもある。

何故なら、その感情は大人になるにつれ、自分の足かせになるがために切り捨てた感情だからだ。

思わずミリティアは小さく笑ってしまった。


(願わくば、彼女はあのままに――、変な(しがらみ)に囚われないで成長してほしいものだ)


そしてヒザキが言った通り、彼女に対して疑念の眼差しを一時でも向けてしまったことに、心から内省した。



************************************



情報源その2:セルフィ=アーノンヴェルマーク



「宜しくお願いいたします」


「こちらこそ、お手間をいただき申し訳ございません。宜しくお願いいたします」


「はい、何でもお聞きください」


「それでは。失礼ながらご年齢と生まれ故郷をお伺いしてもよろしいですか?」


「年は今年で22歳になります。生まれはティーレット公国の西南にあるヴィルーゼンです」


「ああ、ティーレット公国のヴィルーゼンと言えば、葡萄酒の名産地でも有名ですね」


「あら、ふふ・・・自分の故郷を知っていただいているのは嬉しいことですわ」


「私は飲んだことがないのですが、その味は口の中で何層もの深みを体感できるとか。是非とも一度、体験したいものです」


「本当は今回の旅の積み荷にも葡萄酒を積んでいたのですが・・・先日の件があって、荷物の大半が駄目になってしまったので、今ここには無いのです。是非、ミリティア様にも味わっていただきたかったのですが・・・残念です」


「先日の件、それは魔獣に襲われた、という一件ですね」


「はい、今より三日前でしょうか。私とヴェイン、そしてベルモンドは一緒に行動を共にしている仲ですが、それ以外にも複数のグループと共に行商として行動していました。旅の途中でセーレンス川付近で馬を休めていたのですが・・・そこで例の魔獣が姿を現したのです」


「話を少し戻してしまい申し訳ないのですが・・・、ヒザキ様はその時は一緒ではなかったのですね?」


「そうですね。その時は行商全体の護衛として、数名の傭兵が同行していました」


「その傭兵では太刀打ちできなかったのですか?」


「はい・・・その、・・・っ」


「・・・もしその光景を思い出すのがお辛かったら、無理をしなくても結構ですよ」


「いえ、大丈夫です・・・ありがとうございます。その、傭兵の方々は真っ先に魔獣に立ち向かっていかれたのですが・・・成す術もなく・・・」


「そうですか・・・。失礼を承知で伺いますが、その傭兵たちは正規の傭兵でしょうか?」


「はい、レディナス王国より派遣いただいた傭兵です。私たちの行商はレディナス王国で集合し、そこを出発地点としてこの近辺まで来たのです。彼らはそこまでの道中、私たちを守ってくれていました」


「レディナス・・・傭兵派遣において右に出るものはいないといわれた傭兵国家ですね。なるほど、そこの傭兵ともあれば、それなりの実力者だったのでしょう。あなた方をセーレンス川まで無事守ってきたのも頷けます。しかし・・・」


(その実力者数人を倒してしまうほどの魔獣・・・決して弱くない部類だ。むしろ強い部類に入ると言ってもいいだろう。それがたった一人の男にあしらわれたことになる。それも複数体をだ。ますますヒザキさんには注意をすべきかもしれないな)


「しかし?」


「あ、いえ・・・それで、その時はどのように逃げ(おお)せたのですか?」


「その時は・・・最初に襲われたのが遠い位置にいた商人だったこともあり、私たちは慌てて荷袋に詰められる商品を詰め、そのまま逃げようとしたのです。ですが、その行動がまずかったのか、魔獣は私たちを追いかけてきました」


「なるほど、獣は逃げるものに敏感なのも多いですからね。知識があれば、逃げるものよりも足を竦めているものを襲う方が効率は良いのでしょうが・・・本能的に逃げるものを『弱者』と判断し、そちらを追いかけたのでしょうね」


「そ、そうですね・・・」


「・・・失礼いたしました。今のは失言でした」


「あ、いえ・・・それで丁度、セーレンス川で私たちと同じように休息をとっていたヒザキさんが助けに入ってくれたのです。どうも騒ぎを聞きつけてくれていたようで、本当に・・・ヒザキさんがあの場にいなかったと思うとゾッとします・・・」


「彼もセーレンス川に? 一人で? 何の用で来ていたか聞いていますか?」


「はい、一人で旅をされているようで・・・セーレンス川には魚を釣りに寄っていたそうです」


「魚を釣りに? ・・・随分と古風な趣味をお持ちなのですね、ヒザキ様は」


「ふふ、そうですね。魔導が発達したため、釣りによる漁法など、とうに廃れてしまったこともあり、私も新鮮に感じました」


「すみません、少し脱線しましたね。話を嫌な方に戻してしまい恐縮ですが、相対した魔獣に関して感じたことはありますか? 印象、強さ、貴女が見て感じたこと、なんでも構いません」


「・・・あの時は逃げることで頭が一杯だったので・・・、あの銀色の体毛から何とかして逃げる、その一心でそれ以外のことはあまり・・・申し訳ありません」


「いえ、謝ることではありません。状況を考えれば当然のことです。では、その翌日、この孤児院の子供たちと会った時のことを教えてください」


「ええ、ベルモンドが魔獣の攻撃で破壊された馬車の破片に当たって怪我をしていましたので・・・一番近いアイリ王国に治療のため寄ろうと思いました。その道中であの子たちに会ったのですが・・・」


「・・・」


「やっぱり子供っていいですよねぇ」


「はい?」


「いえ、私、実は大の子供好きでして・・・もし子供ができるとしたらリーテシアちゃんみたいな子が理想だなぁ~って。ちょっとラミーくんやサジくんはワンパクが過ぎるけど、男の子ってあんな感じが普通なのかしら。それはそれで、育てがいがありますよね!」


「さ、さあ・・・私には何とも・・・。まあ確かに他の男の子二人は存じ上げませんが、リーテシアさんは将来は良い女性になるのではないかと私も思います。今回は規律を破ってしまいましたが、今回の反省を生かして、より一層、規律正しい子に育ってくれると信じています」


「わかります! リーテシアちゃん、可愛いですよね!」


「は、はぁ」


(雲行きが怪しくなってきたな・・・セルフィさんはお淑やかな方だと思っていただが・・・「子供」というキーワードは性癖を引きずり出すスイッチだったが・・・。この1対1の形式もまずかったかもしれない。周囲の目もあれば自粛するだろうが、この状況は返って話しやすい場を作ってしまったのかもな。しかし、この話題、私と話しやすいか? 参った・・・これだと情報を聞き出しにくくなるな。あと、やりづらい・・・)


「ちょっと髪や肌のお手入れが行き届いていないのが私の不安なのです・・・環境的に仕方がないのかもしれませんが」


「あの、セルフィ様?」


「え! 何か改善策がお有りで!?」


「いえ! 話が脱線しております! 私がお伺いしたいのは、もっと客観的な視点で見た事実です。私的な話に移っては困ります」


「あ・・・、そ、そうですね・・・。ミリティアさん、申し訳ございません」


(ふぅ・・・何とか正気に戻ってくれたようだ)


「そうですね・・・客観的に見て、リーテシアちゃんはもっとお肉を食べたほうがいいと思います。国の食糧事情は存じていますが、あの手足の細さは・・・まさに栄養不足! 私の見解ですと・・・あ、すみません、また私的な考えに走るところでした。調合師を目指している私としては心配で心配で・・・。話を戻すとですね――」


(話は戻らなさそうだな。仕方ない、切り上げるか)


「セルフィ様」


「あ、はい?」


「確かここ数日は、ベルモンド様やヴェイン様とほぼ行動を共にされてましたね」


「はい、そうですね」


「実は急ぎ、ヴェイン様に確認する点ができましたので、入れ替わりでヴェイン様をお呼びいただいても宜しいでしょうか?」


「あっ、はい・・・そ、その・・・」


「何か?」


「わ、私・・・暴走しちゃってました、よね・・・?」


「お気になさらないでください」


「も、申し訳ありません・・・ヴェインさんとはあまりこういう話題は合わなくて・・・。年も近そうなので、ついミリティアさんに色々と話してしまいました・・・」


(・・・私の年齢は二十歳だ。確かに姉妹と言える年齢差かもしれないな。なんにせよ、人には誰かと共有したい話題の一つや二つあるものだ。私にだって――)


「気にしないでほしい、というのは言葉面ではなく私の本心ですよ。ちょうど休憩を挟むにも良い時間です。ベルモンド様やヴェイン様にお話をお伺いした後、もしかしたら追加で確認したい点が出るかもしれません。その時は是非、もう一度お付き合いいただけますと助かります」


「あ、はい! あ、ありがとうございました」


セルフィが部屋を後にする。

姉がいると、あんな感じになるのだろうか。

普段は静かに淑やかにしているのに、子供の話になると自身が子供のように会話が止まらなくなる。

どちらかというと、姉役は自分のような気がしてきた。


だがしかし、


(こういう世間話を気軽にされるというのは・・・まあ悪くはない、かな)


と、状況が状況でなければ、また話に乗ってもよいかな、とミリティアは思った。



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