3.『剣の神子』
【千星騎士団】星将、ノーグ・チェリオが率いる一〇人から構成される小隊は騎士団専用列車に乗り、目的地である星地ニェク村へと向かっている。
その中には当然、宗太とソラノア。それにテッジエッタとジンクの姿も。
「ヘイヘイ♪ ごっずり♪ ごずっごり♪」
そして、『ラヴリーなリーリカネットちゃん』ことリーリカネット・イオも、また。彼女は隊の魔偽甲の整備のため付き添っている。
五車両からなるこの列車は、どの車両も座席と簡易的な武器保管庫が一緒になっている。緊急事態に於いてどこからでも、戦闘態勢に入れるという仕組みだ。
なので、少々狭さを覚える。
リーリカネットが歌い、踊りまくっているのでなおさら。
(なんというか、これって【凶星王の末裔】としての任務ってよりも、完全に【千星騎士団】への奉仕だよな)
第二車両にいるリーリカネットと正面に座るソラノア、各々の休息を取る二人の仲間、それに自分の服装に宗太はそう感じる。
黒を基調とした、男性は牧師のような。女性は修道服のような恰好をしている。そして星形の胸章――隣に座り、テーブルに資料を広げるソラノアは一応、修道服の下に宗太が上げた勲章をつけている。
「べんべら♪ まどるま♪ ぐでっぶず♪」
今作戦の表向きは、【テーブルスナッチ】を名乗る略奪集団の掃滅。
〝魔剣〟ビロゥガタイドは、その【テーブルスナッチ】が所持している。
情報源は【凶星王の末裔】の首領たるジャック・リスフルーバだ。彼の独自のネットワークによって、割り出したという。
「意~味がさっぱり分からない♪ だ~れか勝手に作ってろ♪ 作れよ、そ~この陰気臭♪ 特徴な~し♪ 無能~確約♪ 機能不全~チキン~や~ろ~う~♪ でゅ~わ~♪」
一部特定の人間にしか分からない名指しをされたが特に気にすることなく、宗太は思考を進める。
彼ら【テーブルスナッチ】は主に星都領で活動し、列車や集落の襲撃を行い、金品や人間。時には車両や集落ごと奪い取る。
その悪行から【千星騎士団】の討伐対象候補には数度と挙がっていた。ただ、今まで決が下されなかったのは、そのスポンサーと噂される【連星会】――大陸北部を牛耳る、商人連合国の存在があったから。
そして、【テーブルスナッチ】の首魁たるアイロギィ・スタンフクは普段こそ、その居場所を晦ませている。が、昨日から数えて四日間は目的の地、ニェク村に事実上の拘束をされる。
「あぁ……人の肌が恋しい♪ 冬の~岬~♪」
なんか演歌調になったが、気にせず宗太は状況を整理する。
彼らのニェク村に古くから伝わる説話。『剣の神子』の祭事に参加しなければいけないからだ。『剣の神子』として、六年前に覚醒してしまったのだから。
それを行うのは果たして、村に対する恩義なのか。はたまた裏があるのか……
「ヘイヘイ♪ ごっずり♪ ごずっごり♪」
「二番に行くのか?」
思わず宗太が突っ込むが、リーリカネットは構わず口ずさむ。
それからリーリカネットの歌がラップ調になったが、口を挟むのは無意味だろう。
(で、小さな村の奇祭が、その六年前からさらにおかしくなった)
資料によれば六年前に『剣の神子』が現れ、伝承通りの魔偽術では説明できない超常を起こしたという。
それに村人達は熱狂し、『剣の神子』を祀り上げて外資を得ようとしている。奇祭も伝統を変容させ、外から来る者達の目を奪うような奇怪なものとなった。
「魂解放の体験、ね……」
精神が肉体と離脱するような感覚を得られるその奇術は、外から来た者から数人を選別し、体験させる。もちろん、命が失われるような事故は一件もない――ただ、小さな村での出来事なので、どうとでもなかったことにできそうではあるが。
宗太は資料の一つとして用意された、市販の小さなガイドブックを手に取る。
そこにある小さな記事にライターの体験談が書かれている。
曰く『白装束に包まれ、顔さえも見せない『剣の神子』の手を取られながら、九十九鳥居と呼ばれる道を進む。すると、時に精神が肉体を置き去りにし、また逆に遅れを取る。それこそ魂が肉体から離れたような、不思議で神秘的な経験をした』とある。
『魂の解放』――一〇体の『魔物』それぞれに特殊能力があるのか分からないが、もしそうなら〝魔剣〟の力が魂に干渉するということなのか。
(それとも俺にもできんのか……?)
疑問に思うが、肝心のオルクエンデはこういった時には反応がない。
何か理由があってか。それとも企てがあってか。
分からないが、少なからず利害が一致している今は足を引っ張ることはしないだろう。まだ、一〇体の内の一体目を倒すという序盤の段階では。
「ソウタさん、何か飲みます?」
正面のソラノアが立ち上がり、訊ねる。
「あぁ。コーヒーとかってある? ブラックの。冷えてる方ね」
「はい。持ってきますね」
「お願いね」
そして再びニェク村の関する資料に目を通すが、宗太はこれとは別のことを考える。
(この世界は妙に俺のいた世界に似ているんだよな)
ソラノアは今、別車両にある自動販売機に向かっている。
自動販売機の概念は宗太の世界でも紀元前にあったというのだから、歴史が変われば存在していても無理はないかもしれない。
また、エネルギーは電気を中心にガスや熱蒸気など様々あるという。少なからず、よっぽどの貧困に見舞われていない限りは、安定したエネルギー供給がされている。と、ソラノアに教えてもらった。
その中で、魔偽術には人の意志が常時必要であり、常備エネルギーには不向きであるとのことも教わった。
それでも書物によれば遥か昔、奴隷達を使って魔偽術によるエネルギー供給(というよりも搾取か)を行っていた。しかし、その国は結局、奴隷達の魔偽術による暴動によって崩壊した。
(だけど問題が、その書物が信用できないことだよな)
七〇年以上前に目覚めたとされるこの世界だ。
人々が忘却に気づく前に、誰かが歴史を改竄した可能性も否定はできない。
なら、その目的は?
自らの都合のいいように歴史を変えることは、宗太のいた世界でもあったことだ。が、このアルトリエ大陸を取り巻く政治を詳しくは知らないとはいえ、書物に綴られる歴史に誰かの意図は見えてこない。
誠実さと史実だけが顔を覗かせる。
(ただ、この世界の歴史はどこか曖昧なんだよな……それに歴史に魔偽術を無理矢理当て嵌めている。そんな感じがする)
しかしそれは、魔偽術という異能の力による、歴史への影響を測ることのできない世界から来た人間の基準かもしれないが。
「お待たせしました」
「ありがとう」
手渡される缶コーヒーを受け取り、プルタブを開ける――取り外すタイプだ。
(缶を大量製造するのだって、かなりの技術がいるんじゃないのか?)
元の世界にいた頃は、それがあることが当たり前で、どういった歴史を経て現在の形に完成したのかなんてまるで考えたことがなかった。
ましてや、生まれる前に作られたものならなおさら。
(七〇年以上前の空白だって、そういったもんなのかな?)
それから宗太は持ち物の最終確認をし、ソラノアと軽く話した。
窓を見れば日が沈み、夕刻を迎えようとしている。そこからさらに時間が経ち、うっすらと夜闇が顔を覗かせ始めた時間になる。
《チェリオ隊の皆様、あと十五分ほどでニェク村の最接近駅に到着します》
車内アナウンスに、宗太の心臓が少し痛む。緊張に心臓が跳ねたのだ。
これから戦うのは『魔物』とい人智を超えた怪物だ。
自分と同等かそれ以上の力を持っているかもしれない敵と、これから戦う。
命を落とす危険と真正面から向き合うのは怖い。
だがそれでも、やらなければならない。果たさなければならない。
元の世界に帰るために。
恐怖に脚を竦ませている暇などない。
宗太は小さく震える脚を誰にも見られないように、硬く握った拳で叩き、自らを奮い立たせた。




