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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十四章 力が解き放たれる時、代償は誰が払うか
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エピローグ 一力当先

 仲間を守る。そんな大義名分を抱いているわけではない。

 ただ一人。ジンク・セダーが愛する者――ソラノア・リスフルーバが愛する世界(にちじょう)を守るための力が欲しい。

 ジンクが星隷擬体を求めたのは安易に、即座に人外の力が得られるからではない。

 ここから先の戦争はもはや、人間の範疇で得られる力を越えている。『魔物』以外にも、多くの力が投入されるはずだ。世界の裏側。表には現れない影の中では、日々、新技術の研鑽がされているのだから。


(その()()()を、テッジエッタに見透かされた……)


 人を超えるには。超大な力を得るには代償が必要となり、自分にはその覚悟ができている。

 そんな()()()()ではどうにもならないステージに、もはやソラノアは立っているのだ。

 まだ陽が落ちてはいないというに、宿舎への帰路が酷く暗く感じられる。

 絶望――というほど大げさではないが、それでも修練では達することのできない領域に立つ方法が見えない。


「ういーっす。ジンク。背中から『憐れな僕ちゃんを落ち込まないで程度に慰めて(しゅう)』滲み出てるけど。腐った魚、床一面に敷き詰めて転がり続けた? くっせぇから部屋でイジけてな?」


 場所や周囲の人間などお構いなしのそれ。

 振り向くまでもなく、なんだったら声質で察しなくても誰が声をかけたのか分かる。

 ()()()()も、また。


「リーリカネット、お前、事情知ってて話しかけたな?」


 そのまま無視して進むが、小走りでリーリカネットが回り込んで来る。

 後ろ向きで歩いたまま、リーリカネットがジンクに問う。


「ジンクさ。一度、人間やめようと思ったって話。アレ、マジ?」

「ほんと、どこで訊いたんだよ」

「盗み聞き」


 真顔で返答したところから、一切の嘘はついていないのだろう。

 どうして、あの場にいたのか。偶然か、それともテッジエッタの仕業か。

 答えを知ったところで、スパイの技術が身に着くわけでもないだろう。そもそも興味がない。


 自覚すると余計に陥るが、気落ちしているところに一番会いたくない人間こそが、このデリカシーの欠片もないリーリカネットだ。

 そそくさと離れようとすると、彼女の嗜虐心をさらに炊きつけることになるが、それ以上に関わりたくない気持ちがジンクの中で勝つ。

 少し早足になり、彼女を抜こうとした瞬間だった。


「人間はやめられないけど、超人と嘯くくらいはできる代物。あるって言ったらどうする?」


 その横顔は歪んでいる。

 口角が攣り上がったリーリカネットの顔は小馬鹿にしているのではなく、どちらかといえば悪だくみに近い。


「……代償を聞いてからだ」


 ――故に、無視はできなかった。

 とはいえ、数十分前までの自分だったら飛びついていたが、散々説教を食らった今は嫌が応荷も慎重になる。情けない話ではあるが。


「えー? それ訊く必要ある?」

「訊く必要しかないと思うけどな」

「その名も、初期実験型複合魔偽甲(マギカ)〔源氏八領〕」

「代償を言え」


 興味を持ったのを確信したからだろう。話が完全にリーリカネットのペースになることを覚悟した――元からといえばそうだが。


「言っとくけど相当の()()()()()だよ?」

「だからそこら辺を教えてくれって。念押しされると怖気づきそうだから……」

「マジで!? ビビるの!? ちびられても困るから言うの止めよっかなー?」

「いいから」

「へーへい。まーなんでも。元の伝説では活躍しなかったけど、工匠が名前が気に入ったから作ったっていう代物なのさ」

「いわくって、そういった類か……」


 安堵とも肩すかしとも言えない微妙な気分に襲われる。が、むしろ丁度いいのかもしれない。今の自分にとって、過去なんてどうでもいい。

 未来を見据えるには、そのいわくを払拭するという気概も必要だろう。


「まあ、あと複数の魔偽甲(マギカ)を制御しながら戦うわけだから、使用者によっては精神がイカレるとかあるかな? マジでこれ使って活躍したっていう逸話ないし」

「ついで扱いで言うことか?」


 尻込みしそうになる内容であるが、これもまた肚を括る後押しになる。

 結局のところ、逃げ道を断たないと前に進めないのだ。


「それで、他にその〔源氏八領〕を俺に託せる条件はあるのか?」

「んまあ、ここまで言ってやる気あるだから資格は充分でしょ? ただほんと、扱うのは至難の業だから覚悟した方がいいよ。調整こそするけど複合魔偽甲(マギカ)なんてまだまともに作られてない最初期に実験的に作られたやつだから、結構無茶苦茶だよ?」

「それくらいしなきゃ、人間のまま化物どもに太刀打ちできないだろ?」

「加えて一騎当千なんかは程遠い。超頑張って二個小隊くらい? しかも味方サポート寄りかなって感じだけど……」

「ユキシロは超えられなくとも、あいつが守りたいものを守る手助けができるなら、俺は戦う。仲間を守れるなら、なおさら持って来いだ――というか、本当に薦めてるのか?」


 騙しているというわけではないだろう。

 ただ、リーリカネットにしては珍しく嫌というほど念を押す様に、ジンクは真意が測れなくなりつつあった。


「しつこいってか。まあ、あともう一個いわくあったけど、んなこと瑣末なことよね?」

「もう好きなだけ言ってくれ。どうでもいい……」

「あー、ほんと? まー確かに、シツソン・メナノレルの『闇の遺産』の一つとかどうでもいい話よね?」


 あっけらかんとアルトリエ大陸最大級の曰くを告白したリーリカネットに、ジンクはただただ目を丸くして固まるしかなかった。

 そして、同時に理解する。

 リーリカネットが最後まで慎重だった意味を。

 ()()()――活躍できた者が現れなかった意味を。

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