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たとえ我が願いで世界が滅びようとも  作者: pu-
第十四章 力が解き放たれる時、代償は誰が払うか
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2.怪力乱神

 ――詠唱の終わり。


 光が宗太の右腕に纏わる。瞬間、弾け飛んだような感覚を抱く。それとほぼ同時だった。『バグンッ!』と、まるで怪物が口を大きく開くかのような音が、宗太の鼓膜を叩いたのは。

 音の出所が自身の右腕からだと分かったのは、掌の真ん中から前腕の半ばまで裂け、その内から銀黄色の腕が生えていたから。

 元の腕よりも太く長く。宗太の指であった部分は長さを伸ばし、うねる触手と化した。


(ひとまずは想像の範囲内の形にはなったかな……?)


 巨大化した腕に、一定速度を超えて自身に迫るものを敵と認識させる自動防御触手。それは宗太が構成したもの。触手は不可視の腕を触手で迎撃に努めさせるが、どこまで通じるかは未知数だが。

 五本の防御触手すぐさま動き、宙を掻き毟るように暴れ始めた。衝突音が聴こえることから、構成そのものは成功しているようだ。


 だが、宗太の腹部と両肩甲骨の間、左肩に強い衝撃を受けた。この殴打は試し()()と言ったところか。


「そりゃ五本じゃ足んねぇわな!」


 術図式を次の術図式と繋ぎ合わせ、一つの術図式として継続維持させる術法――後続詠唱。それを応用させ、さらなるイメージの補填と増強。月星隷シンナバグハクに敵を明確化させる。目の前の〝魔手〟が滅ぼすべき対象であると誤認させる。


 すると銀黄色が宗太の右腕へと侵蝕を始めた。肩口まで包まれ、さらにそこから背中の右半分。腰の辺りまで広がる。


(変化を見せている内は、そう安々と手が出せないだろ?)


 ただでさえ『魔物』の星隷擬体の解放なのだ。加えて、もし仮にその大元が月星隷シンナバグハクであるという情報が()()()()()()()()()、何かをしているというだけで牽制になる。ただし、効果を見せ続けるのが最低条件だが。


 故に宗太は肥大化した肩から触手を数本構成し、〝魔手〟へと伸ばした。あとはシンナバグハクが勝手に攻撃してくれる。

 さらに宗太は踏み込み、〝魔手〟の懐へと潜らんと駆けた。


 宗太と〝魔手〟の距離が一気に縮まる!――ことなく、ビタリと足が止まったのは宗太の腰に目視不可の何かが巻きついたから。警戒しているのだから、不用意に近づけさせないのは当然だ。


(オーケー! 俺が今必要以上に振り被られている以外、想定の範囲内!)


 投げ飛ばされるか。どこかに叩きつけられるか。

 全身で風を切る感覚を味わうが、銀黄色が瞬く間に宗太の身体を這い、掴んでいた〝魔手〟の腕を次々包んでへし潰した。

 それは結果として、宙に投げ出される形となる。が、背中まで侵蝕していた月星隷から無数の触手が飛び出し、地面に突き刺して止まった。ビィィィンと馬鹿っぽく反動を得ながら。


 一方、離れる時に垣間見たゴリラの顔に、渋面の類は浮かんではいない。少なからず痛覚はないのか。 

 触手を駆使して宗太が地に足をつける頃、今度は〝魔手〟から近づいて来た。

 その事実の認知から刹那、〝魔手〟はもう手を伸ばせば簡単に届くほど間合いを詰める。

 不可視の触手を駆使し、一気に距離を失くしたのだろうか――という、宗太の疑問が脳内で形となるよりも早く、銃口が眼球を。()()()()()()()ナイフが口腔を狙っていた。


「《鋭鋼座(エサウオ)》」


〝魔手〟の一言は、理解よりも先に宗太に起こり得る最悪を知らせる。

 避けることはできない。強化されているとはいえ、物理概念の一部を無視して疑似的に鋭利化させるという、未だによく分からない力――


(――耐えられるのか!?)


 宗太の思考を置いてきぼりにし続けた一連の流れの顛末――


『――っ!?』


 ――差はあれど双方が驚く。魔偽甲(マギカ)のナイフが砕けた。いや、()()()()()()ことに。

 それは宗太の歯でもなければ意志でもない。口の右側半分近くを覆うシンナバグハクによって形成された牙によってだ。銃弾もそれによって防がれていた。

 完全に宗太の制御を外れ、解放されていく月星隷。


(星隷を調伏することはできない――星隷擬体の施術を受ける前と後、ソラノアやステファニーに散々叩き込まれていたけど、こうも思い通りにいかないとね……)


 膨大な意味を内包する星隷を変異させ、理想の文章(すがた)へと組み替える。

 そもそもがそんな無茶な技だというのに、暴走とも言えるこの変化。さらに無理な動きを休みなしで続けているせいか、全身に熱を感じる。意識が朦朧とするほどではないが、発熱した時のように吐息も普段以上に熱さを伴っていた。


 深くなる宗太の呼吸。それに加えて、一連の変化が宗太自身にも想定外だったのは、〝魔手〟も表情を読み取って気づいたはずだ。

 畳みかけるように、周囲から多種多様の発砲音が響く。不可視の腕を含め、直接攻撃しないのは消耗からの自滅狙いか。


 触手で自動防御するが、これ以上の防戦はますます月星隷に変化をもたらす危険がある。いやすでに、こめかみの辺りからは角のようなものも生えていた。

 変化の波及は続き、宗太の身体を覆う月星隷は刺々しく、禍々しく変容していく。

 体温がやや平熱に戻っていく気がすることから、役割としては放熱板に近いのかもしれない。


(気を遣ってくれたわけじゃなく、月星隷シンナバグハク()()としての機能を優先したんだろうけどな)


 まだ思った通りに五体は動く。乗っ取られたわけではない。

 イレギュラーはありつつも。不細工であろうとも。紆余曲折を経て、望む()――敵を殺し尽くす姿へと変貌させていく。


(まあ、こんな姿形を純粋に望んでいたのは六年くらい前だけどな)


 銃弾の雨を浴びながらも眺める、影に映し出された自らの現在の姿(シルエット)――棘だらけの禍々しい巨大な右腕に、触手でできた翼。右半分を覆う角の生えた怪物染みた顔。

 もしかしたら六年前の自分ですら、恥ずかし過ぎて描かないかもしれない変身姿。

 それは果たして、異世界の人間からは()()()()()()()()()に映るのか。周囲の反応を見る余裕はないが。


「穴ぼこにひび割れ。即席の技だとしても、随分とお粗末じゃな」


 鼻で笑う〝魔手〟の指摘通り、見えぬ場所から放たれる無数の銃弾によって、星隷擬体の表皮がボロボロと崩れていた。


「ご心配してくれるなら、この銃撃止めてくれねえんかな」

「それは無理な話じゃな」


 急に〝魔手〟が語りかけたのは、こちらの正気と余裕を測ったのだろうか。

 ならいっそのこと、偽った方がよかったかもしれないと後悔が過った。が、相手の方が一枚上のはずなので、したところで無意味だったと自らに言い聞かせる。


(それにこれじゃあ、埒が明かねぇわな)


 反撃のチャンスを伺ったままでは勝機は遠のく一方だ。

 自らの限度/限界を慎重に見定めながら、宗太は触れるもの全てを切り裂かんとする鋭利な右腕を突き出す。


「弾け飛べ!」


 術図式は崩れ落ちていた表皮を飛礫として、放射状に弾き飛ばす。

 触手が幾本あろうとも全て防ぎ切れるわけではないだろうし、奇跡的に銃口に飛び込んでくれれば万々歳だ。

 さらに宗太は背中の触手に叩きつけて自らを射出させた。


 銃弾の嵐を抜け、瞬きよりも早く詰まる()。星隷擬体によるショルダータックルは、一切の抵抗なく〝魔手〟の腹部に直撃する。

 吹っ飛ぶ〝魔手〟に追い打ちをかけんと、宗太は再度触手を駆使して跳んだ。意趣返しというわけではないが、超速での移動に〝魔手〟は対応し切れなかったという収穫は大きい。


 宙に浮く〝魔手〟のさらに上を取った宗太は、一気に優勢を得るために拳を固めて打ち抜く。

 その時、ゴリラの口角がつり上がるのが見えた。


「《縛霧座(メケビ)》」


〝魔手〟の詠唱により、ゴリラと宗太の拳との間に黒い封縛(ふうばく)の霧が溢れ出す。

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